表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
それでも女神は続けたい。  作者: ikaru_sakae
2/18

チャプター4~5

≪ 絶対放すな! 手ぇ、握ってろ!≫

  ≪ 大丈夫。よかった。これで自分は南にかえれる―― ≫

    ≪ 動くわ! ほら、動きます!! ≫



 聖堂の鐘が鳴ったのは、たしかにあたしも覚えてる。夜明けの狼時を知らせる鐘が。

 けど―― あたしの目を覚ましたのは、その鐘じゃない。

 光だ。

「なにこれ! すごい。まぶしい!」

 青の光が、あふれる。ほとばしる。

「ちっ。なんだ、この光」

 あっちのベッドで、そいつも起きたみたい。

 そっちでも光ってる。そいつが首につけてる、それが。宝石のペンダント。「星の護り」ってやつ? ふたつの光で、部屋の中が青く染まった。光はあふれて、目にしみて。

 そして光が、いきなり、散った。

 そのあとそれが、線になる。光の線が。まっすぐ青く、壁にむかって。

「え? なにこれなにこれ?」「む、」

 そいつが手のひらの上に、宝石をのせた。見つめてじっと、考えている。厳しい視線で。しばらく無言で。そのあとそいつが、小声で言った。

「方位を示してる、感じか」

「え?」

「二つとも、同じ方位を指している。ほぼ真北の方角だな」

「ああ。そういえば、そだね。方位かぁ。これでも、まぶしい。迷惑。もっと長く、寝てたかったのに」


  『 時は来たりました 』


 そのとき声が響いた。でっかい氷の結晶が、いきなりパンとはじけたみたいに。


  『 星選の時が近づいています。

    さあ、世界より集いし五千余の資格者たちよ、

    星の門へ来たれ。そこでおまえたちを待っています 』


 部屋に響くその声に―― あたしもそいつも、戸惑うしかない。

 というか、え? 誰? ほんとに、何?


  『 我が名はフィルデアーデ。〈星の女神〉の名で呼ばれる者。

    我こそが、この大地を創りし創造者。

    おまえたちを、世界の各地より呼び寄せし者。

    さあ、資格者たちよ。今こそ、集え、星の門へ。

    青き光の導きに従い、来たれ、星の門へと   』


 それきり、声は消えた。そのあとはもう、音はしない。

 窓の外でふりしきる、止むことのない雪の音以外は。

「…ちっ。女神か。あれが、その――」

「でも、でも。なんかすごかった。女神様の声とか、はじめて聞いたよ! ほんとにいるんだね、女神様!」

「『さま』はいい。ただの女神だ。迷惑なやつめ」

「あ~、あんたそれ、女神様の悪口言った。バシッと罰あたるよ??」

「ばかめ。罰とか、どうでもいい。それよりも――」

 そいつが窓のそばに立つ。顔ちかづけて、外を見た。

「見ろ。動きがある。けっこうな人数だ。おそらくあれがすべて、星選候補―― ってわけか」

 あたしもそいつの横で、窓の外を見た。ん。ほんとだ。まだ暗い雪の路地。人がいっぱい出てきた。で、なんかみんな、ひとつの方に歩いてく。

 ひとつの方へ。それはたぶん、北の方。通りを歩く、その―― 誰だか知らない大勢の。その全員が、つけている。青の宝石。「星の護り」。だれもが首から、それを下げて。青の光が差す方に。一直線に。足並みそろえて、雪の中を――

「くそ。強制移動の時間、か。ったく、気に入らねぇ」

 そしつがバシッと、窓ガラスを叩く。

「ねえねえ、あたしたちも、行かなきゃダメ? もう出発?」

「…らしいな。いささか面倒だが」

「でも、でも。あたし朝ごはん、まだ食べてない」

「なら食え。いま、短時間で」

「でも。先に朝のお風呂、入りたい。昨日、入らずそのまま寝ちゃったし」

「ばかめ。風呂? どうでもいいだろ、そんなもん」

「どうでもよくない。タウーウェル族は、キレイ好きなんだよ?」

「知らねーよ! 入りたきゃ、風呂、入ってろよ。一生こもってろ。んでから星選式に、たっぷり遅れて行け。おれは止めん。」

「え。やだよ。遅れるとか。女神様に、なんか、罰とか受けそうじゃん??」

「なら、さっさと準備しろ。ぐだぐだ言ってる時間は、どうやらあまりなさそうだぞ?」




 北行きの街道。街を出てから、ひたすら荒れ地の中を続いてく。深い雪をふんで、北に向かう大勢の列。何百人もの人ごみ。だいたいみんな、おそろしく厚着だ。あたしと同じで、アタマからフードかぶって。

 でも―― それがみんな、「星選候補者」だってことは。見てすぐわかる。誰にでも。

 みんなが首から、かけているから。あの、青の宝石ペンダント。誰もがそれを、首につけてる。青の石が、まっすぐ北に、青の光を投げかけて。白い雪の荒れ地が、導きの光で、青にうっすらひたされて。なんかちょっと、夢の中の景色みたい。

 その青の光と、雪と氷に包まれて。あたしも歩く。あたしも、そいつも。サクサク、ザクザク、雪の地面を踏みしめて。ひたすら北へ。足並みそろえて。

 でもなんか、暗いし。まわりの人らの、ムードが暗いよ?

 まるでみんな―― まるでこれから、お葬式にでも向かうみたい。

 あ、けど。『みたい』じゃなくて。わりとホントに、そうなのか。

 このあと。ここの、この中の。誰かひとりが連れていかれる。その「誰かひとり」が、誰になるのか。今は誰にもわからない。うん。まあそりゃ、暗くもなるよ。そりゃ、足取りも重くなる。雪が横から吹きつけて。風は―― もうこれ、とんでもない冷たさだ。冷気で肌、切れるよこれ。冗談じゃなく。

 あたしはグルファの毛織りのコート、がっちり着こんで。首までぜんぶ、トグルをとめて。フードもかぶって。ラシャ牛の毛皮の手袋も、ばっちり手にはめているけど。ぜんぜん寒さは、防げてない。寒ッ! 鼻水でるでる。んでまたそれが、凍る凍る! 


 でも――

 暗い空の下、雪の荒れ地を進むにつれて。

 雪は、とつぜん弱くなった。風も、ちょっぴりやわらいで。

 ひたすら空を覆ってた雲が、とつぜん晴れた。広がる星空。

「ねえ、なにあれ? なにあれ? あそこのやつ?」

「なんだ? 何のこと言ってる?」

 そいつが足を止めて。メンドクサそうに、不機嫌そうに。黒い瞳でこっちをにらんだ。

 宿から一緒に歩いてきた、そいつ。浅黒い肌の、男の子。今のそいつは、宿のときと違って。ここではちゃんと、厚着をしてる。黒い布地に、濃い緑色の―― へんてこ模様の飾りがついた、厚ぼったい、重そうなコート。

「ほらほら、あれよ! あの、ゆらゆら、光ってるやつ!」

 あたしは、空をまっすぐ指さした。

 光が見える。なんか白とか、緑とか。たまに赤とか。ゆらゆら揺れて光ってる。色はすこし虹っぽいけど。けど、虹じゃない。形がへんだ。布みたいな。カーテンみたいな。

「おまえオーロラ、初めて見るのか?」

「え? 知らない知らない。オーロラっていうの、あれ?」

「…北極光、とも言うな。北の地方では、晴れた夜にはよく見える。おれの住んでいた土地でも、この季節には、わりと普通に見えている。なんでもあれは、この世界の外から降る―― なにかの波動と、外気層の地場とが共鳴してるって。前に、本で読んだな。見た目以上に、はるかな天空の高位置で発光しているもの、らしい」

「へえ~。あんたってば、見かけによらず、物知りだねぇ。ハドーとかジバとか、言われても。それが何かすら、あたしにはさっぱりだよ」

「おい。いいけど。足、止めんな。うしろが渋滞してる」

「あ、だね。ごめんごめん。なんかきれいで、うっかりみとれちゃったよ」


 そして。

 最後に、あたしたちが足を止めた場所。

 荒涼とした雪原と、氷に閉ざされた岩山と。あとはそこには、空しかなかった。

 その、おそろしく澄んだ、しずかな氷点下の空気の底に。

 いま、あたしたちは、立っている。世界から集まった、何千人ものヒトたちが。いまいっせいに足を止め、みんなが見てる。その荒野の先。雪と氷の、その先にあるもの。


 門。


 そこにいきなり―― でっかい門がそびえてる。

 両側の壁もない。普通なら門の先にあるはずの、なにかの建物も見えてない。

 門だけ。ほかにはほんとに何もない。ただ雪原に、門がある。

 それは青くかすかに光をはなつ、銀色の門だ。大きさはもう、ちょっとこれ、わからない。門ひとつだけで、岩山ひとつの高さある。そもそもあれは、誰が通る門…? いったい誰がどうやって―― こんなとんでもないモノを、ここにドーンと建てたのだろう。って、まあ、答えはすぐにわかったけれど。

 女神様、か。星の女神。創造主さま。

 でもなぜ、ここに。わざわざこんな、大きなものを――


「おい、見ろ!」「おおっ?」

「すごいな、本当に――」「…女神、さま?」


 いきなりみんなが、口々、叫んだ。

 あたしは声は、出さなかったけど。でも。あたしもやっぱり、叫びそうだった。

 だってほら、空に。オーロラとか星とかを、ぜんぶ消し去る勢いで――

 巨大な人影が、そこにひとつ浮かんだから。

 見えてる空の、半分くらいを埋めてしまう大きさで。

 瞬きながら。揺らめきながら。

 黒と銀と、うっすらした青と。いくつもの光に包まれて。


 でも―― 女神…? あれがそうなの? ほんとうに?

 それは女性の、姿をしていた。銀と黒の髪が、空いっぱいに流れて、波うち――

 二つの瞳は、透き通る青。体の部分は、ゆらゆらしててわからない。でもたぶん―― 古代の巫女の、ドレスみたいな? 

 いかにも高貴な、神聖な―― 感じは、たしかにしたけれど。

 けど。そこであたしが、いちばん素直に感じた気持ちは――

 恐怖、だった。恐れ、だった。

 世界を冷たく支配する―― 理解をこえた―― 

 あまりに温度が、なさすぎる。とてもあたしは、近づけない……


  『 よくぞ来てくれました。世界の諸族を代表する、星選候補たち。

    小さきものたちよ。あらためて言いましょう。ようこそ、我が聖地へ。

    星選式への皆の参列、わたくしからも、深く感謝します。小さきものたちよ―― 』


 広がりながら、波打ちながら。空で女神が、青くきらきら輝いた。

「…ちっ。つまらん余興だな。安い魔法だ」

 横のそいつが。そんなこと言って、舌打ちした。

「あれって、魔法なの…?」

「ああ。幻視魔法の一種だ。あそこまでの大きな像を結ばせるには、かなりの魔力を消費する。 だが、おれにでもあれは、できなくはない」

「何? あんたできるの、あんなのが??」

「ああ。あれよりサイズを落として―― だが、似たようなものなら。作れなくはない。あいつ、女神を名乗るわりに、案外、しょぼい。やってることが」


 『 では、ここに星選式を始めましょう。世界より集いし、我が子たち。

   今これより、おまえたちの中から、ただ1名を。ここに選んで、栄誉を授けましょう。

   その選ばれし者は、これより我が星の聖門をくぐり抜け、

   そこからわが地へと、旅に出る。

   この星の門は、わたくしの統べる天界と、この地をつなぐ特別な門。

   ここをくぐりし、女神に選ばれし、ただひとりのその者は。

   わたくしとともに、我が天界で、千年の命を生きるでしょう――  』


 ざわざわ、と。あっちこっちで、みんながささやきあっている。雪原の上で。

 本当なのか? いまの言葉は、真実なのか? 

 本当に? 死ぬんじゃないの? 千年の、命を…?


「ふん。詭弁、だな」

 あたしの横で、そいつがひとこと、ささやいた。まっすぐ空を、にらみつけて。


 『 さあ、では今こそ、見るのです。星選は、今ここに、始まりました。

   おおいなる星の光よ。示せ。今こそ。その、選ばれし者を――  』


 巨大な女神の両腕が、ゆっくりと上に持ち上げられて――


「あ??」「おお??」

「なんだ??」「光??」


 激しく青い―― なにあれ?? 稲妻?? いや、違う?

 天から、一本の光が。青い光が落ちてきた。

 目に痛いほどの、ほとばしる青。光の柱が、いま、天と地を結んだ。


「え?? マジ?? あ、あたし?? あたしなの??」


 青の光が、あたしをぜんぶ、包み込み――

 圧倒的な光の柱に中に、あたしはまるごと、ひたされて――

 …という。まあでも。それはちょっぴり勘違い。

 あたしの、となり、だ。

 立ってるあたしの、左側。距離はもう、手をのばしたらふれる距離。


 光の渦の中にいるのは、女の子だ。

 光の風にまきあげられて、灰色のフードがとれて。その下に隠れてた、真っ白な髪が。

 光の中で、踊って。踊って。巻き上げられて。

 青の光にからめとられて、その子が何かを叫んだけれど――

 声はここまで、届かない。口がぱくぱく、動いただけで。

 その目は大きく見開かれ―― おどろきの表情で、空を見上げて。

 その子の首にかかった、青い輝石のペンダント。そこから湧き出る光の線が。

 その子の体を、光の線でからめとり。体の自由を、奪っているみたい――


 『 いま星選は、下されました! 喜びなさい娘。

   そなたはこれより、星の門のかなた、

   わたくしとともに、新たな千年を生きましょう。さあ、今こそ―― 』


「おい、見ろ!」「開いて…??」


 雪原の向こう。巨大なゲートが。いま。こちらに向かって。

 二つの扉が、ゆっくり動いて。開いてゆく。開いてくる。

 ゆっくり、ゆっくりと。ゲートが。ゲートが!

 そして。

 二つの扉のあいだに、ひらけたのは――


 何あれ? 真っ暗?? 青の光と、銀の輝きに、ふちどられているけど。

 ゲートの中央に広がる、吸い込まれるような、あれもう――

 圧倒的な、暗闇だ。


「さあ、来るのだ、星選の栄誉者よ」


 すぐそばで声がして。ふりむく。そこには、派手派手しい銀の服を着こんだ、四人の――

 …男たち。あるいは、おっさんたち? 若めの男がひとりと、若くないのが二人と、あとひとりは、爺さんだ。これたぶん、ぜんぶ北星庁の役人だ。その役人たちが――

 いま、無理やりに。青の光にからめとられた、その女の子を。四人がかりで、持ち上げて。

 まるでなにか、村祭りの「みこし」みたいに。それとも、それとも――

 村の葬式で運ぶ、「棺桶」みたいに。その女の子を、四人で肩でかつぎあげ――

 …って、え? なにこれ?

 『星選』とか、『聖なる』とか。『千年を生きる』とか。

 言ってること、きれいだったけど。でもこれって明らかに――

 単なる「誘拐」「人さらい」。

 まったく一緒じゃん? どこがどう違うの…? 


 そのときその女の子が、最後のせめてもの抵抗で――

 ほんのちょっと、体をよじった。

 距離は少し、あったのだけど。まっすぐその目が、あたしを見つめた。

 その子の、透き通るようなきれいな瞳が。

 怯えた瞳が、まっすぐあたしに訴えた言葉。

 あるいは感情? 言葉にならない、ほんとのコトバ。


『 助けて! 死にたくない! 』


『 ねえ、助けて! 』


 たぶん、偶然にも―― いま、その距離に居合わせて。

 そこでその子と、目を合わせ。まっすぐコトバを、受け止めてしまった、あたしの心は―― 

 あたしの心の、緊急評議会は――


― いいじゃん、ササカ。よかったじゃん。あんたは助かったのよ。

― そうそう。命拾いしてるよ?

― 気の毒だけど、今年はこの子で決定。あんたは無事に、故郷に戻れる。

― このあとゆっくり、何の心配もせずに、ゆっくり南へ。

― まったり、ゆっくり、燻製肉たべて、お風呂もはいって。そのあと南へ。

― そうそう。南へ、


『バカ! あんたら、なに言ってんの!! 助けるよ!!』


 そのひとことで、評議会に決着つけた。

 あたしは一瞬で、全力で、


 とぶ!


 瞬発力と柔軟性が何よりも売りの、あたしの種族の特性発揮。

 二つ数えるより早く、あたしはその距離をとびきった。


「ぐあっ??」

「なッ…??」


 噛みつく。引っかく。そいつらの顔、バリバリ引っかいて。ついでにまたぐら、蹴とばしてやったよ。んでから――


 奪うよ!


 青い光にからまった、その子の体。

 あたしはその子を、抱きとめて。抱きあげて。

 んでから、走った! それからとんだ! んでから、また走る!

 そして―― 走りながら、あたしは―― 

 いまなおギラギラ青光りしてる、その子をしばる、青の光のペンダントを。

 それの鎖を。バシッと牙で噛みきった。

 そしたら急に光は消えて。ちょっぴり視界が良くなった。


「動く! 動きます、体!」


 その女の子が自由を取り戻す。光のしばりが、解けたっぽい。

「そりゃよかった。けど、一緒に走るよ! 足を止めちゃダメ!」

 あたしはジグザグ、追手をまきながら。

 その子の左手、あたしの右手で握りしめ。

 ぜったい放さない。放さないよ! 腕をぐいぐい、引っ張って。

 ふたりで固い雪の中。駆ける、駆ける、駆け抜ける!!


  『 我が聖なる祭典を冒涜する愚かなる者たちよ。

    何を見ているのだ、おまえたち! そこに集う、五千余の民たちよ!

    傍観せずに、追え! 取り戻すのだ、あの、選ばれし者を!

    早く! なにをぐずぐず、ただ見ているのか! 』


 空から声がふってきた。女神の怒りが、雪の地面にまるごとぶつかる。そりゃもう、耳をつんざく大音響。大迫力だよ! あたしも相当、ビビったけれど。けど。なんかもう、始まっちゃったこの流れ。今さらここで、止めるわけにはいかないし! もうこれ、今は、逃げるのみだよ! でもでも、どっちに? どっちに逃げればいいの、これ??


「ったく。無茶しやがって。しかも計画性なさすぎだ。来い!」


 声がして。いきなり腕をつかまれた。ぐいぐい、そっちにひっぱられてく。

「は、はなして!! 誰よ、あんた??」

「つべこべ言うな。味方だ! 抵抗すんな! 来い!」

 やたらと細い、その腕に似合わない怪力で。

 すごい力で、そいつがあたしを、引っ張って。

 そいつは、だけど、そいつだった。

 あいつだ。あの、今朝まで同じ宿で、同部屋だった、小柄な――

 そいつだ。男の子。浅黒い肌。目つき悪くて、口も悪くて――

「…イ・スガルヴ・アトゥワヴィーダ!!」

 いきなりそいつが、そう言った。

 直後に視界がぼやけて。なんか不思議に、黒一色。

 その黒の中に、なにか見たこともない図形とか、文字とか、

 謎々みたいな、きらめく模様が、わしゃわしゃ、ざわざわ、はげしく入り乱れて。

 なんか体重、消えたっぽい?? 急に重さもなくなった。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ