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間隙のヒポクライシス  作者: ぼを
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5章:ある少女に花束を(第27話)

「…あたしだけ、なんか浮いてるわね」

「さ、さ、さきょ、左京山さん、そ、そ、そ、そんな事は、ないと思いますよ…」

「…だって、本星崎はダークエルフ、神宮前はシスター、鳴海はサキュバスでしょ。神宮前と鳴海なんか、おそろいの羽が生えているし」

「で、で、で、でも、さ、左京山さんのヘッドフォン、み、み、見ようによっては…」

「…ああ、これか。ふふ。こんなの、コスプレに見えないわよ。でも、よく考えたら、本星崎や、あなたたちと付き合うようになってから、ホワイトノイズを聴く事はなくなったわね…。そういう意味では、これはコスプレなのか…。で? なんで、神宮前は、鳴海と腕を組んで歩いているのかしら」

「お、おい神宮前…。あんまりくっつくなよ」

「いいんス! だって、女の子どうしですもん。不自然じゃないです」

「女の子どうしの方が不自然なんじゃないか?」

「いいんです。だって、次にボクが伊奈先輩を助けたら、何日間眠る事になるかわかんないんですもん」

「そ、そうか…。そうだよな…」

「目が覚めたら、本当に3年間も経っていたら、やだな…ボク」

「3年…か。たしかにな…。神宮前。もし…もしも、だけどさ」

「どうしたんスか? 鳴海先輩」

「いや、例えばもし、神宮前が目を覚ますまでに、3年とかじゃなくて、もっと永く…。100年とか、それ以上の時間がかかるとしたら…」

「100年っスか? あはは。ボクが目を覚ました時、鳴海先輩も、みんなも、死んでるじゃないスか」

「そう。100年とかの時間がかかって、目を覚ました時に、まわりに知っている人が誰もいないとしたら…」

「ああ、そういう事ですか。ボクが起きるまでに100年以上かかりそうな時は、ボクの体を遠慮なく海に放流してください」

「海に? なんで?」

「浦島太郎です」

「は?」

「目を覚ました時に、どのみちボクが完全に孤独なのだとしたら、知らない土地の方がいいですもん。だから、100年以上かかる場合は、ボクの死体を海に流して下さい。だって、どんなにしたってボク、生き返るんでしょう?」

「まあ…そうだろうけれど。でも、サメに食われたりとかするかもしれないし…目が覚めた時、太平洋のど真ん中かもしれないし…」

「その時はその時ですよ。それよりも、陸地で100年以上も放置される方がリスクがありません? 災害、戦争、地殻変動とかがあって、目を覚ました時には地中深くにいて、またすぐに死ななければならないかもしれないですし…かといって冷凍保存しておいてもらう訳にもいかないですし…」

「…そうか。長期的に考えると、陸よりも海の方がリスクが低いかもしれないのか…。へえ、神宮前にしては、考えてるんだな」

「うっぷす。い、一応ボクも、進学校の生徒なんスからね…」

「ん? じゃあ、沈丁花の苗はどうすればいいんだよ」

「あ~、それは、大阪のお墓に植えて下さい」

「大阪のお墓って…。ああ、神宮前の小学生の頃の友達のか…」

「皮肉なもんスよね。合わせて200歳まで生きようって言っていたのが、ボク、鳴海先輩が嘘つきじゃなかったら、1万年以上の寿命があるんスよね?」

「まあ、そうなるかな…」

「へへへ。1万年か…。なっがいな~」


「おっ! さっちゃん、いよいよ開場みたいだよ。え? 開場のアナウンスでみんな拍手するの? そういうものなの?」

「ゴブさん、黙って拍手して下さい」

「う、うん。パチパチパチ」

「ほら、ゴブくん、桜ちゃん、入口から一斉に、一般参加の人たちが入ってきたわよ。いよいよね」

「そういえば、リタさんはコスプレしないんですか?」

「アタシは売り子に専念。看板娘は、桜ちゃんがいるから大丈夫でしょ?」

「堀田さん、あたしじゃ、とても客引きにはなりませんよ~」

「ええ? さっちゃん、そんなに目立つ格好してるんだから、絶対に目を引くよ」

「とにかくゴブさん、声を出して客引きをして下さいね!」

「さ、さっちゃんだって一緒に頑張ってくれよな…」


「こ、こんなに人が沢山いるのに、なかなか立ち止まってくれないものなんだね…」

「ゴブリンのせいだ」

「なんだって? さっちゃん、オ、オレのせいかよ」

「うそうそ。ゴブさんのせいじゃないですよ。同人イベントなんて、こんなものですよ」

「ゴブくん、開場直後は、みんな目当てのサークルに直行するから、うちみたいな知名度のないサークルは中盤から回遊客を狙うのがセオリーよ」

「そ、そんなものなんだな…。でも、さっちゃんを撮影したいって人は、もっといてもいい気がするのに…。こんなにカワイイのにね」

「あら、ゴブさん、うれしいこと言ってくれるじゃないの。えへへ。でも、あたしはいいんだ。ひっそりと客引きできればね」

「ひっそり…って格好かよ、それ」

「あっ! ほら、ゴブくん、お客様が来たわよ。ちゃんと対応して」

「ええ? あ、いらっしゃい! 新作の文藝誌ですよ。どうぞ手にとって見て下さい」

「どうもありがとう…。…へえ、表紙がステキですね。お兄さんが書いた作品もあるんですか?」

「はい、オレのもありますよ。お菓子作りや料理に関するエッセイですけれどね」

「お菓子作りの…。面白そうですね。1冊いただこうかしら…」

「あ、ありがとうございます! ええっと、リタさん、幾らだっけ?」

「ふふふ。ゴブくん、そこに値札付けてあるでしょ」

「あ、ホントだ…」

「じゃあ、これで足りますか?」

「ありがとうございます。リタさん、おつり、おつり」

「もう、ゴブくんったら。アタシからおつりをお渡ししますね」

「あと、はい、こちら、オレたちの文藝誌です。ぜひ、楽しんでくださいよ!」

「ええ、どうもありがとうございます」

「ところで、お姉さんのコスプレは何のキャラクタなんですか? 魔法使い? オレ、気になっちゃいました」

「あたしですか? ああ、これは、弾幕ゲームに出てくる…」

「あ、アタシ知ってます、そのキャラクタ。かわいいですよね。よく似合ってますよ」

「わかります? ありがとうございます。あたしはサークル参加ではないんですけれど、コスプレで会場を回っているんです。みなさんもコスプレを?」

「アタシはしていないけれど、この2人は見ての通りね」

「2人? 他にもお仲間がいらっしゃるんですか?」

「オレたちの他にも、サークルの仲間がいますよ。コスプレをして、会場内をさまよっていると思いますけどね」

「へえ、それはステキですね。全員で、何人いらっしゃるんですか?」

「ええっとお…オレとリタさんと桜ちゃんでしょ? ナルルンにドヨバジに…11人かな? あってるか?」

「…ちょっと、ゴブくん…。不用意よ…」

「あ…ごめんなさい」

「アタシたちの他にも、何人かで来てるんです。サークル参加者も、一般参加者も、コスプレで楽しめるのがいいですよね。イベント楽しんでいってくださいね」

「はい、ありがとうございます。では、失礼します」

「うん? あの人達、友達なのかな。今のお姉さん、サングラスをした白衣のモヒカンと、目隠しした…なんのキャラクタかわからないけれど…小さい女の子と、合流したみたいだよ」

「不思議な組み合わせね…。3人とも、それぞれ歳が離れているように見えるわね…」

「お父さんと娘と姪っ子とかかな? なんにしても、コスプレに統一性がないよな~」

「それを言ってしまえば、アタシたちもだけどね」

「へへ、そう言えばそうですね」

「あ、アタシのスマホ…。メッセンジャー? 鳴海くんからだわ」

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