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間隙のヒポクライシス  作者: ぼを
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5章:ある少女に花束を(第23話)

「金山です。ええ、どうも。はい。ええ、予定通りです。へっ、いきなりその話ですか。どうでしょうな。ザンギエフ? それはあなたのセンスを疑いますな。私とは似ても似つかない…。ええ。はは、まあ、どのみち私もなんらかのコスプレをする事にはなりそうですがね。ええ、その通りです。2089番を使う予定です。あなたを安心させようと思いましてね。はい、はい。そうです。自然発現の連中と同じ方法で発現させたスキルの、ええ、あれです。ええ。はい。いえ、延命させるつもりはありませんな。さすがに危険すぎる。はい。はい。ああ、そういう意味ではありませんな。スキル自体の危険度もそうですが、それよりも、年齢の方です。まあ、スキルの有効範囲はかなり狭いですが。はは。前頭葉が充分に発達するのは20歳から30歳頃だって言いますぜ。ええ。はい。はいはい。だから私が直接手を下そうって言うわけです。いざという時は私の命で償おうって算段で…はは笑えませんな。まあ、目隠しをさせますよ。幸い、コスプレをしますからな。ええ、2216番も同行させます。ええ、2173番の…。ほう、あなたがそれを私に言いますか。まあ、見ものだという事は否定しないでおきましょうか。どちらにしろ、趣味のいい話じゃない。はい? ああ、もちろんです。計画書はとっくにお読みになったでしょうに。ええ、民間のヘリを使う予定です。まあ、全く注目度の高いイベントではないですが、猛暑特集にでもしておけばよいでしょう。なんなら、コスプレ要因で熱中症の死人を用意する事だって…ほらまた、あなたはオタクの命を軽んじておられる。ははは。まあそこには、これ以上つっこむのは野暮でしょうな。ええ、2089番のスキルで先に対象の番号は始末します。それも計画書に…。なるほど、それを心配されていますか。そうか、あなたはご覧になった事がありませんでしたな。ははは。その規模の核融合は2089番では不可能です。ただ、外傷なしに一瞬で命を奪う事には長けていますよ。はい。はい? ああ、2117番は、当日に崩壊するように調整してあります。ええ。ええ。そうです。犠牲者を出さずに崩壊フェイズをパスする瞬間を確認できれば…。ええ。はは。本人にキツく言い聞かせていますからな。当日以前に崩壊する事は本人も怖いはずです。まあ、監視は万全ですから、あらゆるパターンにおいて問題はありませんがね。ぬかりありません。あなたはふんぞり返ってアニメでも観ながら、いい報告をお待ち下さい」


「なんだと!? 桜の作品の入稿を忘れただって?」

「え…えへへ…。あ、あたしとした事が…」

「文藝部の同人誌に、部長の作品が掲載されていないとか、ちょっと笑えないぞ…」

「ごめんなさ~い。てへ」

「てへ、じゃないよ…。まあ、桜が中心で動いてくれたからできた冊子だし、桜がそれでいいならいいけどさ…」

「やれやれだ。薄い本が、更に薄くなったという訳だ」

「あら豊橋くん、その言い方は、アタシ、感心しないな」

「堀田よ。俺は特定のジャンルを指して呼称した訳では無い。物理的な薄さの話をしている」

「はいはい、わかりました。とにかく、ダンボールから冊子を出して、ブースを作りましょう。開場までにコスプレもしなきゃいけないんだから。豊橋くん、カッターナイフとってくれる? うん。ありがと」

「鳴海くん、豊橋さん、堀田さんデザインの冊子なんですからね! 刮目しなきゃだめだからね」

「そうか、桜は先にサンプルを見ているのか」

「桜ちゃん、開封前に妙なプレッシャーかけないでくれる? …よっ…と! はい、どうぞ」

「おお~! これは…これは想像していた表紙と違う…」

「うむ。まさに耽美的と言うべきだ。不要なものを捨象してシンプルに仕上げる事は、本質を抽象する」

「堀田さん、これは…これはカッコイイですね…。イラスト、みたいな言い方をしていたし、コスプレの話もあったから、てっきりアニメ調の絵かと思ったんですが、これはレイアウトの妙味ですね」

「ふふふ。ありがと」

「ふん。同人誌の名称は『白い壁』か。桜よ。どういう意味がある」

「意味? さあ…。ずっと前から、文藝部の冊子名は『白い壁』だったから」

「白い壁…白い壁…。何にも染まっていない少年少女の無垢な創作心を表しているのか。ふむ。これから何色にも染まりうるという予告ともとれる。壁…壁…。乗り越えられない壁、乗り越えるべき壁…」

「豊橋…それは考え過ぎだよ。そうじゃなくて、多分、その冊子名の由来は、学校の地名…」

「地名だと? …ふん。俺としたことが」

「あ~、そういう事でしたか。気づかなかった」

「いや、桜、普通気づくだろ。少なくとも部長なんだから…」

「だって、あたし、まだ1年生だもん」

「まあ、1年生で部長にならなければならないくらい弱小部なのは理解するけどさ…」

「えへへ。でも今は、沢山部員のいる部活なんですからね」

「今は、というか、今日までは、だろ…」

「さて…鳴海よ。ここから先は、一瞬たりとも気を抜く訳にはいかん」

「わかってる。コスプレをした後は、豊橋とは別々か。これが今生の別れにならなければいいけどね」

「ふむ。お互い、その覚悟でいたほうがよかろう。では、チーム編成について確認だ」

「ああ。まず、今日は全員が集まる事は絶対にしない。チームに分かれて、売り子当番を時間割で交代しながら、会場内をできるだけ回遊する。チームは3つだ。スキル発現しておらずリスクが少ない堀田さんと桜とゴブリンで1チーム。それから、今回狙われる対象だと思われる上小田井くんと神宮前を中心に1チームずつ」

「よかろう。上小田井チームは、上小田井、呼続、伊奈、俺の4人だ。スキル鑑定で周囲のスキル者を探知できる呼続、俺たちの中で唯一、攻撃ができるスキルを持った伊奈で上小田井を防衛する」

「神宮前チームは、神宮前、本星崎、左京山さん、そして僕だ。上小田井チームのメンバと比較すると攻撃力はないけれど…本星崎と僕のスキルでスキル者を広範囲に探知できるから、なんとかなるよ」

「そっか。豊橋くんと神宮前さんは、チームが別々になるのよね。アタシ、豊橋くんの神父と、神宮前さんのシスターが並ぶところ、見てみたかったけどな」

「その感情に共感はできるが、今日は諦めてもらおう。希望的観測に従うのは俺の流儀ではないが、全員が無事に生き残れば、後日いくらでも見る機会は作れる」

「…そうね。全員、無事に今日を生き残れればね」

「豊橋、堀田さん、生き残るだけではダメなんだ。スキルを消滅させるなり、犠牲者を出さずに崩壊フェイズをパスする方法に関する情報を取得できなければ、全員3ヶ月以内に死ぬ。お互いに崩壊フェイズをパスしあっても、おそらく半年には及ばない」

「…そうだな。今日を除いて防衛省に交渉力を持ってアクセスできる機会は望めまい。全員が無事に生き残り、かつ情報を取得した場合以外に、今日のゴールは存在しない」

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