表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
間隙のヒポクライシス  作者: ぼを
80/141

5章:ある少女に花束を(第21話)

「神宮前の回復完了まで、あと5分くらいだ。そろそろ目を覚ますと思うけど…。毎回、この瞬間は不安になるな」

「やれやれだ。今回は13日間だったが、次は可能な限り短い事を祈るしかあるまい」

「…恐らく、次に神宮前が命を落とした場合、回復までの時間は20日を超えるんじゃないかと思う。どちらにしろ、その日数が確定した時点で、次の命の選択をする事になる」

「ふん。俺たちの寿命が最長100日として、そのリミットを超えるまであと何回残されているか、という事か」

「そうだな…。でも…豊橋…ちょっと思ったんだけど、仮に、このまま神宮前が何回も死んで…」

「どうした?」

「…何回も死んで、回復にかかる時間が100年とかになったら…。そうなったら、僕たち、スキル有無に関係なく、普通に人生を送れたとしても、生きている間には、2度と神宮前には再会できないんだな…」

「ふむ。理屈ではそうなるだろう。だが、それがなんだと言うのだ」

「いや…。この場合、死んでいるのは神宮前なんだろうか…それとも、僕たちなんだろうか…」

「何が言いたい。神宮前は1万年以上の寿命があるのだろう」

「うん。まあ、それはそうなんだけどさ。100年経って目を覚まして…そこには、自分の知っている人も、自分の事を知っている人もいない。それって、どうなんだろう、って思ってさ」

「それを生きていると定義するか、死んでいると定義するかは、神宮前本人が決めればよかろう。その状況下にあれば死にたくなるかもしれんが、死ねば死ぬほど神宮前は生きなければならんからな」

「…とにかく、まずは神宮前が無事に目を覚ます事を祈ろう。そうでないと、神宮前があまりに不憫だ」

「お前は特にそう思うだろう。言ってしまえば、2回ともお前のために神宮前は死んだ」

「……ああ、そうなんだよ。だから、僕に罪悪感がない訳がないだろ? なのに、また、神宮前に頼らなければならない…」

「な、な、なる、鳴海くん。あ、あん、安心して…。じ、じ、神宮前さんの命を使わなくても、ほ、ほ、崩壊フェイズは、パ、パ、パスできる…。ほ、ほ、他のスキル者の命を使えばね…」

「…そうか。そうだった。僕は神宮前に頼ることばかり考えてしまっていたんだな。神宮前がいようといまいと、僕たちは常に命の優先順位をつけて、選択しなければならないのか…」

「おい。静かにしろ。…神宮前が目を開けた」

「う…うぅ…こ、ここは…」

「ほう、意識は無事のようだ。神宮前よ、ここは例のラブホテルだ。お前がいつもここで目を覚ます事は、不憫に思おう」

「え…と…。な…な…コホッ! コホッ! ゴホン」

「神宮前、まだ声を出さない方がいいよ…。でも、ちゃんとまた回復できてよかった…。目を覚まさなかったら、どうしようかと思った…。よかったよ。よかった、よかった…」

「な…鳴海先輩…」

「…神宮前、水を持ってきたわ」

「あ、ありがとうございます。…ゴク、ゴク、ゴク…。はぁ…。ボク…そうか…鳴海先輩が崩壊しそうになって…。ああっ! そうだ、鳴海先輩が崩壊しそうになったんだ…! 鳴海先輩は…!」

「僕はまた、神宮前に命を助けられたよ。ありがとう…そして、すまなかった…。また、神宮前を怖い目に合わせてしまった…」

「鳴海先輩…生きてる…? 生きてるんスよね…。これは夢じゃないですよね? ボク、また、鳴海先輩を助けられたんだ…。よかった…。やったぁ…」

「じ、じ、じん、神宮前さん…」

「あ、ちなみに、ボク、何日間くらい寝てたんスか? まだ同人イベント終わってないですよね…?」

「神宮前…。それが…残念だけど、同人イベントどころではないんだ。僕たちは皆、高校を卒業してしまった」

「は? ウソですよね? だって、みんな、そんなに外見、変わってないスよ? まあ、豊橋先輩は歳をとっても変わらなさそうだけど…あはは…」

「…ふふ。3年の月日は、長い様で短かったわね…神宮前さん」

「さ、左京山先輩まで…。ホントなんスか? 本当に3年も…」

「本当なんだ、神宮前…」

「あはは…はは…はは…。さ、3年も寝ていたなんて…。しばらく、ショックで立ち直れないスよ…。ん? でも…あれ? みんな、スキルはどうしたんスか? もしかして、無事に崩壊フェイズをパスできる方法が見つかったんスか? スキルを消滅させて、普通の人生を歩めるようになったんスか? それなら、よかった…」

「おい、鳴海よ。そのくらいにしてやれ。…見ていて面白いがな」

「はは。ごめんごめん。神宮前、3年も寝ていたというのはウソだよ」

「ウソ…? ウソ…だった…? ちょっ! ひどいじゃないスか! 人の気も知らないで…。みんな無事に幸せな生活を送れるようになったんだ、とか思っちゃったし、鳴海先輩と桜チャンがくっついてたらどうしよう、とかちょっと不安になっちゃったじゃないスか! この、バカバカバカ!」

「ふ、ふふ…。じ、じ、じん、じん、神宮前さん、あ、あな、あなたが寝ていたのは、13日間…」

「13日間ですか。3年に比べれば短いですけど、それでも結構寝てたんスね」

「だから、同人イベントはまだ終わってないよ。神宮前には、シスターのコスプレをして同人誌を頒布するという使命が待ってるよ」

「そ…そうですか。安心したような、逆に不安になったような…」

「神宮前よ。生き返ってすぐにこの話をするのは、さすがの俺も気が引ける。だが、言わん訳にはいかんから言おう。鳴海に任せておいたら一生言わないだろうからな」

「なんスか? 豊橋先輩」

「お前の使命はコスプレをして本を売ることだけではない」

「本を売るだけではない…。じゃあ、他に何をすればいいんスか? あれ…? どうしたんスか? 急に、みんな暗い顔になって…あはは…」

「神宮前よ。生き返って早々、申し訳ないが、また死んでもらう。1週間後にな。喜べ。少なくとも、今週末ではなくなった」

「はい?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ