5章:ある少女に花束を(第19話)
「さて。まず、俺たちが持っている情報と、防衛省側が持っている情報の整理をしたい。…本星崎の知識が必要だな」
「わ、わ、わた、私の知識…」
「本星崎にとっては、思い出したくない事もあるかもしれないけれど…。でも、防衛省側の情報を一番持っているのは、本星崎だ。だから、僕たちに、知っている事を教えて欲しいんだ」
「え、え、ええ…。も、も、もちろん…」
「ありがとう。じゃあ、始めに議論したいのが、奴らがどういう機会を狙って僕たちを襲撃してくるか…についてだ。学校が襲撃された時、少なくとも本星崎は防衛省側の人間だっただろ? だから、なぜ、あの時、学校で僕たちを襲撃する計画になったのかを知りたいんだ」
「あ…ああ…そ、そうね…。あ、あ、あの時は、わた、私が防衛省の人に情報を流していたから…。ぶ、ぶ、ぶん、文藝部の活動がある日で、さ、さきょ、左京山さんも登校している日…」
「…本星崎、あの日、確かあなた…私のスキルについて、教えてくれたんだったわね…。崩壊フェイズをパスしないと、死んでしまうから…って」
「え、ええ…。で、で、でも、ご、ごめんなさい。ぶ、ぶ、文藝部の集まりと、さ、さきょ、左京山さんの登校日を一緒にしたのは、わ、わ、私が原因…。で、でも、さ、さ、左京山さんだけは生き残って欲しかったのは、じ、じ、事実…」
「…ふふ。それはわかってるわ…。本星崎を責めたりなんかしないから、安心して」
「あ、あ、あり、ありがとう…」
「でも、それで解ってきたよ。つまり、奴らはやっぱり、僕たちスキル者を同時に、かつ少ない影響範囲で殺害できるタイミングを狙ってきているんだ。だから、夏休みで人の少ない学校内というのは都合がよかった。あ…でも、小学生組はどうするつもりだったんだ?」
「しょ、しょ、しょう、小学生に対しては、わ、わ、私じゃなく、よ、よび、呼続ちゃんが動いていた…」
「そうか…。本星崎と呼続ちゃんがそれぞれ活動していて、情報を防衛省側に渡していたという訳か…」
「あ…で、で、でも、よ、よび、呼続ちゃんは、ちょ、ちょく、直接、防衛省の人とはやりとりをしていない…。わ、わ、私が経由していたから」
「ふむ。であれば、防衛省から逃げ出してきた呼続が、奴らが差し向けた罠である可能性は限りなく少ないと考えて問題あるまい」
「呼続ちゃんの寿命が短かった事を考慮しても、罠ではないと判断して間違いないだろうね。で、本星崎、次の質問なんだけれど、前回の襲撃から考えて、次に奴らが僕らの殺害を企てるとしたら、どのタイミングになるんだろうか。それとも、僕たち全員が崩壊するのを待つつもりだろうか」
「ぜ、ぜ、ぜん、全員の崩壊を待つことは、あ、あ、あり得ないと思う。ぼ、ぼ、ぼう、防衛省の人たち、ス、ス、スキル者の存在を、す、すご、凄く隠したがっていたもの…。だ、だか、だから、次に襲ってくるとしたら、や、やっぱり、どう、どう、同人イベントの日だと思う」
「同人イベントの日…か。僕と豊橋もそれは考えたんだけれど、その仮説は否定したんだ。だって、国府の時みたいに事故と見せかけるにしても、巻き添えになる一般人が多すぎる。かと言って、1人ずつ暗殺していくのもリスキーだ。だったら、現時点で既に僕たちは暗殺されているだろうしね」
「ま、まき、巻き添えの数は、あ、あ、あま、あまり気にしない人たちだと思う…。ス、ス、スキルの事は、それだけの犠牲を払っても、か、かん、管理下に置いておきたいみたい」
「そうかなのか…? 僕たちの考え方が甘かったのか…」
「鳴海よ。悲観することはあるまい。むしろ、これで対策がしやすくなったではないか。同人イベントだけを考慮すればよい」
「まあ…そうなんだろうけど…。本当に多くの人が巻き添えになるなら、僕たちは同人イベントを棄権すべきだよ」
「そ、そ、その、その場合、ほ、ほ、ほん、本当に強行手段に出てくるかもしれない…。そ、それ、それこそ、い、隕石を街に落とすとか…」
「隕石だって…? その言い方だと、まるで例の隕石も、人為的に落とされたみたいじゃないか。さすがにそれはオーバーテクノロジーだよ」
「た、た、たと、例えば、い、い、隕石と見せかけた、ミ、ミ、ミサイルなら撃てる…」
「そりゃそうかもしれないけれど…そこまでしなければならない事なんだろうか」
「ま、ま、街を消さないまでも、か、かぞ、家族を含めて、ぜ、ぜ、全員が殺されるのは間違いない…。で、でも、彼らは事件としてマスコミに取り上げられる事を、きょ、きょ、極度に恐れているみたいだった…」
「ふん。防衛省がマスコミを恐れるか。笑えん冗談だ。公権力なら好きなだけ濫用すれば良い。いくらでも握りつぶせるだろう」
「いや、豊橋。確かにマスコミはそうかもしれないけれど、事件性のある案件はSNSとかで拡散したら、なかなか消すのが難しい。人命よりも情報統制に重きを置いている、という事は、もしかすると、僕たちスキル者の存在は、特級の国家機密なのかもしれないぞ…。つまり、防衛省が秘密にしたいのは、日本国民に対してだけではない可能性もあるな…」
「やれやれだ。その国家機密である俺たちが、場末の鄙びたラブホテルで、こうして作戦会議をしているのか。ある種の風流ささえ感じる」
「ぼ、ぼ、ぼう、防衛省側には、た、た、沢山のスキル者がいる…。こ、こ、ここに私たちがいることは、た、たぶ、多分、と、と、と、とっくに知られていると思う…」
「まあ…そうだよな…。でなければ同人イベントで僕たちが集まろうなんてことも察知できないだろうからな」




