5章:ある少女に花束を(第5話)
「ん? あれ? 桜のやつ、もう話し始めてるのかな?」
「鳴海よ。得意げに話しているところに水をさすのは俺の流儀に反する。指摘してやれ」
「やれやれだよ。お~い桜、マイクがミュートになってるんじゃないか?」
「…えっ? なにっ? ちょっとやだ。あたし1人でしゃべってた感じだった? やだぁ…ちゃんと教えてよね」
「いや、だから、今、ちゃんと教えたじゃないかよ…」
「おほんっ。では、改めて。8月に入って1回目の文藝部集会を始めます。みんなそろってる? 声は聞こえてる?」
「アタシはちゃんと聞こえてるわよ。よろしくね」
「…私は、カメラが苦手だから、オフのままでいい?」
「あ、左京山さん、大丈夫ですよ~。文藝部じゃないのに、参加してもらっちゃってありがとうございます」
「…いいのよ」
「わ、わ、わた、私たちの声は聞こえてる? うぇぶ、うぇぶ、web会議なんて、は、はじ、初めてだから、ちょ、ちょっと緊張してる…」
「本星崎さんもご参加ありがとうございま~す。伊奈さんも一緒ですか?」
「……………」
「ん? 聞こえてないのかな。本星崎、伊奈は一緒にいるのか?」
「あ…な、な、なる、鳴海くん、いな、い、伊奈さんも一緒にいる…。ほ、ほ、ほ、ほら、い、伊奈さん…よ、よ、よば、呼ばれてるよ」
「あ、あたくし? うふふ。ごめんなさいね。あたくし、部外者ですけれど、本星崎サンの近くにおりましてよ。おさしつかえなければ、お話だけ近くで聞かせていただこうかと…。この会議、どなたが主催者でらっしゃるのかしら?」
「面白い話じゃないかもしれないですけれど、ぜひきいていてくださ~い」
「さ…ら…ちゃ…。オ…オ…の…え、ちゃん…て…るか…?」
「え~っと、ゴブさん、ちょっと音声が遠いみたいですよ~」
「ゴブリンよ。普段から何を言っているかわからんと思っていたが、より一層わからん」
「な…な…ドヨバ…お…え…ろよ!」
「は~い、ゴブさんが元気なのはよくわかりましたっ!」
「ねえねえ桜ちゃん、ボクの事を忘れちゃいやだよ」
「神宮ちゃん、もちろん忘れてないよ~。心配しないでね~」
「ふん。音声確認が、まるで生存確認だな」
「豊橋くん、仕方ないでしょ。それに…アタシたち、今後はますます、そうなっていくかもしれないわよね」
「そうだ、本星崎にききたいんだけれど、web会議の画面越しでも、スキルの鑑定とかってできるのかな?」
「で、で、でき、できるわけないでしょ。じ、じ、実際には、遠く離れてるんだもの。な、なる、鳴海くんだって、おな、同じでしょ?」
「やっぱりそうか…。うん。僕も同じ。画面を経由しても鑑定できるなら便利だと思ったけれど、そううまくもいかないか…。となると、残る豊橋や堀田さん、桜やゴブリンにスキル発現したかどうかを調べるためには、直接顔を合わせるしかない、ってことか」
「そ、そ、そ、その通りよ。で、でも、でも、あ、あ、会った時には、ちゃん、ちゃ、ちゃんと確認してるから、安心して。も、も、もし発現が確認できたら、し、し、し、指摘するから」
「ありがとう。僕の数値化のスキルでは寿命から予測するしかないから、スキル発現とその内容については本星崎だけが頼りだ」
「う、う、うん…。わか、わか、わかった」
「桜よ。進行を続けろ」
「はあい。じゃあ、今日の議題は大きく3つで~す」
「いいねえ。今日の桜は、部長っぽい仕切りだ」
「はい鳴海くん無駄口たたかない~」
「…失礼しました…」
「1つ目の議題は、みんなの作品の進捗についてで~す」
「そ、そ、そう、そうか…。も、も、もう締切過ぎてるんだものね…。み、みん、みんな、まに、まに、間に合ったのかしら…」
「へへへ。ボクはちゃんと間に合わせましたよ」
「そうか。めでたい。神宮前よ。お前に何か皮肉のひとつでも言ってやりたいところだが、今回に関してはよくやった」
「べ、別に豊橋先輩の監視が怖くて頑張ったわけじゃないスからね」
「ふん。過程は問わん。結果だけあれば良い」
「うっぷす…。まあ、とにかく間に合ったからいいんス。で、桜チャン。原稿は集まったの?」
「みんなの原稿はねえ…」
「桜…ここはもったいぶるところじゃないぞ…」
「じゃじゃ~ん! 全員間に合いました~!」
「「おお~。パチパチパチ」」
「ちゃんと印刷業者さんに入稿しておいたから、大丈夫だよ。イベント当日、会場のブースに直接届く予定です」
「ど、ど、ど、どんな冊子になるか、た、たの、楽しみね…。そ、そ、そういえば、そう、そう、装丁はどうしたの? さ、さ、さ、桜さんがデザインしたの?」
「えへへ~。それなんですが、同人誌の表紙のイラストは、なんと堀田さんが描いてくれました~。みんな、拍手~」
「「おお~! パチパチパチ」」
「な、なんか、恥ずかしいわね…」
「…堀田。あなた、絵なんか描けたのね。意外だわ」
「左京山よ。堀田を軽んずるな。こう見えて、美術部所属だ」
「え? 堀田先輩って、美術部だったんスか? 知らなかった~」
「あまり期待しないでおいてね。プレッシャーになるから」
「じゃあ、次の議題ね。2つ目の議題は、コスプレについてで~す。堀田さん、お任せしていいですか?」
「もちろんよ、桜ちゃん。ええっと、全員分のコスプレだけれど、材料は既に揃っていて、今、順番に作っているところよ」
「リタ…さ…オ…の…レは…の…か?」
「ゴブリンよ。心配するな。お前のコスプレはない。なぜなら、お前の存在そのものがコスプレだからだ」
「な…と…バジ…ひと…しを…は…べつ…ぞ!」
「やれやれだ」
「ゴブくん、アナタのもちゃんとあるから、安心していいわよ」
「ほ、ほ、ほり、堀田さん、わ、わ、わた、私も手伝える事があれば…」
「ええ、ありがとう、本星崎さん。是非、お願いするわね。それで、来週中には一度、実際に着てみてもらって寸法直しをしたいから、その認識と予定だけ、みんなお願いね」
「ボク、サタニズムのシスター…」
「ほう。なかなか語呂がいいではないか。イスカリオテのユダ、ガリラヤのイエスのようだ」
「豊橋…サタニズムじゃなかったのかよ…。で、僕はインキュバスだっけ…。割と鬱だ…」
「大丈夫よ、鳴海くん。アナタどちらかというと線は細いほうだし。ちょっとゆったりとしたゴスロリ系の装いのサキュバス…インキュバス?」
「堀田さん…この際、どっちでもいいです…」
「で、本星崎さんがダークエルフね。アナタはどうやっても似合いそうね。ちょっと陰りのある感じがステキだと思うわ」
「そ、そ、そ、そうでしょうか…。そ、そう、そう言われると、は、は、はず、恥ずかしいかも…」
「桜は? 桜は結局、何のコスプレをするんだ?」
「あたし? あたしはねえ…秘密っ! って前にも言ったでしょ」
「桜ちゃんは、自分で用意するのよね」
「えへへ、そうなんです」
「ひとりでできる? アタシが手伝う事があったら、言ってね」
「は~い、ありがとうございますっ」
「部長が秘密主義ってどうなんだよ…」
「コスプレについてはわかった。桜よ。議題を続けろ」
「はいは~い。3つ目の議題は、みんなでお花の種を買いに行く事で~す」
「あ、そうか。どういうメンバーで買いに行くか決めないといけないんだっけか」
「鳴海先輩、文藝部で分けたチームでいいんじゃないスか?」
「神宮前よ。それには2つ見落しがある。1つは、スキル発現している、あるいはそのリスクがある者は、文藝部員に限らない。堀田や左京山や伊奈のようにな。2つには、スキルが既に発現しており、かつ寿命が短い者に関しては、神宮前よ、お前と行動をともにさせたい」
「ボクと? あ…あ~そうでしたね。ボクのスキルで、崩壊を避けられるかもしれないんでしたね」
「その通りだ。鳴海と伊奈がそれに該当する」
「豊橋くん、アタシも、お花の種を一緒に買いに行っていいかしら? アタシもいつスキルが発現するかわからないんでしょう?」
「無論だ。左京山と伊奈はどうする」
「…私も寿命は3ヶ月ないわけだから。一緒に行く」
「あたくしも…ご一緒しますわ…。おっしゃる通り、あたくしの寿命はあまり残っていないかもしれませんもの。でも、あたくし、受け入れるつもりでおりましてよ…」
「桜よ。全員参加だ」
「みんなありがとう。じゃあ、買いに行く日とメンバーを決めようと思います。あ、あと、買いに行く日までに、何の種を買うか、ちゃんと決めておいてくださいね~」
「チーム編成は悩ましいな…。本星崎と伊奈はセットのほうがいいかな、と思うけど、そうすると僕と神宮前も一緒になるか…。そうすると桜もつれていったほうがいいかな…」
「桜ちゃん、アタシは、どっちの日も参加するわね。集合場所を学校にすれば、行く前にコスプレの寸法合わせができるもの」
「さっすが、堀田さん冴えてる!」
「であれば、堀田が両日参加として、次の編成で問題あるまい。1つめのチームが、堀田、神宮前、鳴海、本星崎、伊奈。2つ目のチームが、堀田、桜、ゴブリン、左京山、俺」
「うん。それでいいんじゃないかな。伊奈の寿命を直接確認することもできるし」
「なる、な、鳴海くん。か、か、かみ、上小田井くんにも声をかけて、い、い、いいかしら…。あ、あ、あの子も、スキルが発現している筈だから…」
「そうか。そうだったな…。もちろんだよ。上小田井くんのスキルを鑑定する必要もあるし、とこちゃんや有松くんの近況も聞けるかもしれない。呼続ちゃんの事も…」




