4章:仮死451(第20話)
「だめか…。だめなのか…くそっ…」
「…これ以上は無理ね。頭を撃ち抜かれているものね…」
「神宮ちゃん…神宮ちゃあぁあああん…死んじゃったなんて…」
「神宮前…なんで僕を助けた…。なんで…。僕は…僕は…」
「ふん。結局、神宮前に発動したスキルは不明で終わったか。鳴海よ。泣いている余裕があったら、全員の寿命を確認しろ。それ次第では、次の襲撃に備えなければならんからな」
「そ…そうか。悪い。まだ終わった訳じゃないんだった…。えっと…。うん。大丈夫だ。とりあえず、全員の寿命が元に戻ってる。とはいえ…スキル発現しているメンバーの寿命の心配はあるけどね」
「なるほど、めでたい。では、本星崎から崩壊フェイズのパスの方法を聞き出すとするか。防衛省に使われるだけ使われて、捨てられたお前を不憫に思うがな」
「ほ、ほ、ほう、崩壊フェイズのパス…」
「あれ? 豊橋、待ってくれ。…おかしい」
「どうした鳴海」
「…神宮前…お前、本当に死んだのか…?」
「鳴海よ。何の数値を確認している」
「神宮前の寿命なんだけど…。表示されている…」
「なんだと」
「なんだこれは…。いや…どう考えても、おかしい…。神宮前の寿命、さっき確認した時は451だった。国府と同様のバグだと思っていた。いや、やっぱりバグなのかもしれない…」
「鳴海くん、どうしたの? 神宮ちゃんの寿命、どうなったの…?」
「今の神宮前の寿命表示…。年単位で表示させているんだけど…間違いでなければ…」
「鳴海よ。間違いでなければなんだ」
「2,543年…」
「なんだと?」
「神宮前の寿命…。2,543年だ…。かなり増えてる…。どういう事だ? 意味が解らない。寿命だけを見ると、神宮前は死んでいない事になる。むしろ、寿命が伸びている…これは一体…。そうだ、本星崎…キミは、神宮前のスキルを鑑定しているんだろう…? これは、神宮前のスキルが関わっているのか?」
「…ざ、ざ、残念だけど…わ、わた、私のスキル鑑定は、ば、ば、万能じゃない…。す、す、全てのスキルを鑑定できる訳では、ないの…」
「という事は、神宮前のスキルはわからなかった、という事か…」
「鳴海くん…もしかして、神宮前さんのスキルって…」
「堀田さん…。僕、あまり信じたくないんですけれど…」
「ふん。なるほど。神宮前の寿命自体が、スキルという訳だ。『死なないスキル』あるいは『死に直面すると際限なく寿命が伸びるスキル』といったところか」
「鳴海くん、それってどういうこと? 神宮ちゃんのスキルって?」
「桜…。信じがたいけれど…でも、もしかすると…神宮前は、まだ死んでいないかもしれない。今は、呼吸も脈もないし…ひどい傷を負っているけれど…」
「鳴海くん、それって、神宮ちゃん、生き返るかもしれないってこと? ホント? 信じていいの?」
「鳴海よ。神宮前が生き返るまでの時間を数値表示できるか。その条件で表示されれば、死んでいないと判断できるだろう」
「ああ…やってみるよ。えっと…。あ、表示できた…。という事は、やはり死んでないんだ。傷が癒えて通常に戻るまで…3日間…だそうだ…」
「神宮前さん…アナタ、本当に生き返るんだ…。本当に…生き返るのね…。よかった…よかったわね…」
「神宮ちゃぁあああん。えぇえええええん。よかったよぉおおお」
「…よかったわね、桜。でも…まあ、本当に2,500年も生きなければならないとしたら、そっちの方が地獄かもしれないわね」
「鳴海よ。3日間で傷が癒える、と言ったな。つまり、恐ろしく短時間において細胞が再生され、心拍と呼吸が戻り、意識が回復するという訳だ。実に興味深い。是非、観察したいところだ」
「観察…されるのは、神宮前はいい気がしないだろうけどな。でも…体を洗って、損傷した部分をガーゼや包帯で覆って、ゆったりした服を着せてやりたいな。病院に入院させられるといいんだけど…」
「びょ、びょ、病院は、ど、ど、ど、どこも無理だと思う。ス、ス、スキル発現者のリストが、ひ、ひみ、秘密裏に共有されていると思うから…」
「そうか…。そういえば、とこちゃんも、病院で診てもらえなかったんだっけ…。じゃあ、神宮前の自宅か…。両親になんと説明したものか」
「自宅は避けるべきだろう。密室を作りやすく、殺害すべき人数も最小限となる。無防備な状態で放置はできまい。であれば、選択肢は、比較的人間の出入りが多い学校の保健室か、あるいは逆に人気のないどこかのビジネスホテルか、くらいだろう」
「夏休みとは言え、生徒や先生たちが常にいる事を考えると保健室が最適か…。でも、先生たちは…当然、僕たちの事を知っているよな…。でなければ、自衛隊の突入など許す筈がない」
「さあな。存外に、知らないかもしれんぞ。実環境を使った訓練だとか、うまく言いくるめられている可能性もある。でなければ、事前にもっと、無関係な生徒たちを退避させていただろう」
「いや、だとしても、一部の教師だけでも、知らされていないとは思えない。今回の作戦が失敗したのなら、たとえ学校だとしても、より僕たちに対する監視の目は強化されるだろうな…」
「ふん。では、どうする。神宮前をビジネスホテルにでも閉じ込めるか」
「ねえ、鳴海くん…。国府ちゃんの時に使った、あのホテル、使えないかな…?」
「あのホテルって…。あ、そうか。あのラブホテルか。確かに神宮前の面倒をみたり、身を潜めたりするには最適だ…。料金もかなり安かったし…」
「でも、どうやって移動すればいいかしら…? ここからだと、かなり距離があると思うけれど」
「堀田よ。神宮前は、俺のチームの人間だ。残念ながら、コイツは締め切り間近だというのに作品を完成させていない。であれば、連帯責任は俺にあろう。俺のマグナ(原付)に乗せて移動させる」
「そっか…。豊橋くんには、その手があったわね。わかった。神宮前さんのご両親には、アタシからうまく説明しておくわ…。大丈夫。死んじゃったわけじゃないんだもの」
「すまんな。こういう時、俺が頼れるのは、堀田、お前しかいない」
「ううん。…アタシ、タオルとか体操着とか持ってくるわね。まずは神宮ちゃんをキレイにしないと…」
「校内はまだ安全とは言い切れん。身の安全は常に確保しておけ」
「ええ、わかってる。大丈夫。鳴海くんが調べてくれた寿命を信じるわ」
「ふん」
「…豊橋。そろそろ、種明かしをしてくれてもいいんじゃないのかしら。さっき、私に打たせたメッセージ…」




