4章:仮死451(第17話)
「本星崎は…来ない…か…」
「ふん。確定と判断して間違いなかろう。本星崎が俺たちと合流しないという事は、神宮前ひとりがターゲットとなる事はあるまい。今日、俺たち全員、自衛隊あるいはそれに類する組織部隊によって、襲撃を受ける。これは神宮前だけの問題じゃない」
「まんまと、罠にひっかかったのは、僕たちだった、って訳か…」
「鳴海よ。お前の寿命を縮めるのは正直気が引けるが、お前が自分の命を夏休み以内と想定している限り、必要な局面では遠慮せずに使わせてもらう」
「豊橋に言われるまでもないさ。分単位で確認している。悪いが…死ぬ順番まで解る。25分後に堀田さん、その2分後に豊橋、その5分後に僕だな。ゴブリンは減ってない。うまく逃げられるのか? 神宮前は相変わらず年単位で451。桜は…やっぱり表示できない。君たち2人が特殊なのか?」
「アタシが一番か…。それも、たったの25分後…」
「堀田さん、ごめんなさい…。あたしがコスプレをやりたいなんて言ったばっかりに…」
「ううん。桜ちゃんの責任じゃないよ。それにアタシだって、もとから殺害対象になっていた筈だから」
「堀田よ。残念だが、俺がそうはさせん」
「豊橋くん…ありがと。でも、どうやってこの状況を切り抜ければいいのかしら…?」
「襲撃を止める方法があるとすれば、奴らにとって利用価値のある、殺すべきではない人間を人質にとることが最良だと判断して問題なかろう。まだ25分ある。本星崎を探す」
「なるほどね…だけれど、そもそも本星崎は今日、登校してきているだろうか? 文藝部の集合日に、神宮前が登校してくるように細工をしてきたくらいだ。本人が近くにいるとは限らない」
「鳴海よ。お前のスキルの最大範囲はどのくらいか試したか? 同時に何人の寿命を表示できる? あるいは、寿命以外でもいい。本星崎を特定するパラメータを表示できればな」
「そうか、その手があったか…」
「もっとも、お前の寿命をどのくらい消費するか分からんがな。国府は思いの外あっという間だった」
「とは言え、ここでスキルを使わなければ、僕の命はあと30分足らずだ。であれば間違いなく使ったほうが良い」
「うむ。任せる」
「鳴海くん…」
「大丈夫だよ、桜。僕は桜が思っているよりも、もうちょっとだけ慎重だからさ」
「鳴海先輩…。ボクより先に死んじゃ、嫌だよ…」
「ありがとう。とは言え、今は僕ひとりの命よりも、全員の命だ。さて…まずは校舎全体にスキル範囲を広げて、生徒全員の寿命を確認する…。本星崎の寿命はこの前の集合時に確認してるから…」
「どうだ。何かわかったか」
「これは…。これはなんだ? 本星崎ではないんだけれど…。明らかに生徒とは寿命が異なる個体が、複数散在している」
「寿命が異なる個体か。それは、生徒よりも寿命が長いのか。あるいは短いのか」
「平均して10年くらい短い。分散も少ない。偏差していない。つまり、高校生よりも年齢の高い個体が校舎内に散在している」
「教師ではないのか」
「先生たちならわかりやすいんだ。職員室に集まっているか、部活動をしていれば常に移動している。だけど、この個体は校舎のいたるところで静止している。まるで待機しているみたいだ…」
「なるほど。つまり、奴らは本気という事だ」
「豊橋くん、どういう事? アタシたちにもわかるように教えてくれる?」
「単純な話だ。自衛隊の連中が、突入指示を待っているという事だ」
「それも、20分以内にね…」
「やむを得まい。俺たちの残り寿命から逆算すれば、ある意味奴らの待機は既知の事実だ。それよりも、本星崎はどうだ」
「…僕たち以外に寿命が極端に短い生徒を探しているんだけれど…3年の教室だろうか。2人固まっている。1人は…これは左京山か? もう1人は…」
「左京山と一緒にいるのであれば、本星崎と考えて間違いなかろう」
「…これは…本星崎なんだろうか」
「どうしたの? 鳴海くんが確認した本星崎さんの寿命と、違ってるの?」
「ああ…違ってる。もう一人の寿命は、あと20分しかない」
「なんだと…? 俺たちとほぼ同じという事か」
「ここから、何が考えられる…? 僕たちが本星崎の元に行くことで、巻き込まれて死ぬのか? それとも…まさか、本星崎も奴らの殺害対象になっているのか…? いや、それはない。奴らが本星崎のスキルを手放す理由がない」
「鳴海よ。どのみちだ。俺たちの判断は、本星崎の元へ行く、しかあるまい。少なくとも左京山は今日死なんのだろう。であれば、活路はある」
「そうだな…。よし、みんな、急いで3年の教室に向かおう」




