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間隙のヒポクライシス  作者: ぼを
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0章:衛星からの物体X(第4話)

「なるみせんぱ~い!」

「ん? あ、なんだ。国府こうか。おはよう」

「おはようございます! 今日から学校再開ですね」

「国府はいつも、元気だよなあ…」

「それだけが取り柄みたいなものですからね、私は。そういう鳴海せんぱいは元気じゃないんですか?」

「まあ、元気いっぱい、という訳にはいかないかな…」

「あっ、そうか…! ごめんなさい、私ったら…」

「いや、気にしないでいいよ。それに、国府にとっても、桜はクラスメイトだろ?」

「はい。もう、この数日間、すっごく泣きましたよ、私は」

「桜とは仲が良いんだよね」

「もちろんです。さっちんは、大切なお友達の一人でしたよ」

「そうか…。国府も、桜の消息については、何も知らないのか?」

「残念ですけど…。私のところにも、さっちんからは何も連絡がないんです。メッセンジャーを送っても既読がつかないし、電話をしても電源が入ってないし…」

「情報量に関しては、僕と大差ない、って感じか…」

「ねえ、せんぱい。さっちんと鳴海せんぱいって、付き合ってたんですか?」

「え?」

「だから、恋人同士だったんですか?」

「この話の流れで、いきなり過去形かよ」

「あ、いや…その、えと…」

「ははは。いいよ、気にしなくても。国府くらい、いつもの天然キャラでいてくれたほうが、周りの人間も気持ちが和むと思うよ」

「そ、そうですよね! ありがとうございます。で? 付き合っているんですか?」

「付き合って…かあ…。どうなんだろうな。どちらかが告白して、みたいな関係じゃないから…」

「え~!? じゃあ、キスもまだしてないんですか?」

「えっと…。キ、キスどころか、手もつないでないかな…って、なんでこんな事を朝っぱらから国府に答えなきゃならないんだろう…」

「ええ~! そんなの、さっちんが可愛そうですよ」

「そ、そうなのか…」

「そりゃあ、そうですよ! さっちん、いつも鳴海せんぱいの話ばかりしてたんですよ? だから、私、ちゃんとお付き合いをしているものだと…」

「そうか…僕は、本当に、桜に何もしてあげられなかったんだな…」

「あ、え~っと…あの…ごめんなさい。なんか、ちょっと私、踏み込みすぎちゃったみたい…」

「いや、いいんだ。とにかく、心配してくれてありがとう」

「ねえ、鳴海せんぱい。よかったら、この後、私のクラスに来ませんか? さっちんの席、多分、最後に登校したままになってると思いますよ」

「桜の席か…。そうだな。なにかヒントがあるかもれないし…」

「ね? そうですよね?」

「わかった。教室に荷物を置いたら、国府のクラスルームに顔を出すよ」


「あ、鳴海せんぱい、こっちです。さっちんの席は、ここですよ」

「…よかった。冗談抜きで、花瓶とか置かれていたらどうしようかと思ったよ」

「荷物とかはそのままになってますよ。ほら、持ち帰る必要のない教科書とかノートとか」

「本当だ…。このノート、確かに、桜の字だな…。なんだ? この数式、途中から間違ってるじゃないか。はは、桜らしいや」

「こっちのノートはどうですか? ほら、小説用メモって書いてありますよ」

「…ああ、そうか。これは桜が小説を書くために、アイデアを書き溜めているノートだよ」

「あ~そっか。さっちんは文藝部でしたね。でも、あれ? 鳴海せんぱいもですよね?」

「僕は兼部だから。僕自身は書いてないし」

「そうなんですね。で、そのノートも開いて見てみますか?」

「う~ん、それは悩むなあ。僕には絶対に中身を見せようとしてくれなかったノートだからな…」

「さっちんの秘密のノート、ってことですね~…」

「これは、桜の消息が判明してからにするよ」

「たしかに、それがいいかもしれませんね~。ん? あれ? みんなどうしたんでしょうね? 急に騒ぎだしたりし…て…?」

「ん? 何かあったのかな?」

「鳴海せんぱい…あれって、ほら、教室の入口のほう見てください…もしかして…」

「…そんな…まさか…」

「ええ~!? やっぱりそうだ! さささ、さっちん!?」

「あ~! なんで鳴海くんが、あたしのクラスにいるの? ここ、1年生のクラスだよ! しかもそこは、あたしの席だよ! それに…ちょっとお! 勝手に漁らないでよね」

「それはこっちのセリフだよ! な、なんで桜がここにいるんだ…? い、生きていたのか…」

「生きていたって…この通り、あたし、死んでないよ? お、大げさだよ、鳴海くん…」

「よかった…。よかった……。本当に、よかった…」

「ちょ、ちょっと、こんなところで泣かないでよ…」

「うるさい…。他の生徒にだって、泣いてるやつがいるじゃないか…」

「う…うん。ありがとう…あたしの事、心配してくれて…。落ち着いたら、お昼休みにでも、お話しましょ?」


「風が気持ちいいね」

「津波の時は、この屋上に逃げてきた人も沢山いたんだろうな」

「そうかもしれないね。でも、全然ここまでは波は来なかったみたいだよ?」

「大震災とは違うからね。とは言え、誰だって津波と聞いたら高いところに逃げたくなるよ」

「それはそうだね」

「で? 桜は、なんでメッセンジャーにも、電話にも反応してくれなかったんだよ」

「だって、仕方ないじゃない。あたし、波に飲み込まれて、流されちゃったんだもん。今頃スマホは、海の底だと思うよ」

「桜のご両親にも、挨拶にいったんだぜ? 僕」

「うん、その話は、両親から聞いたよ。まるで死にそうな顔をしてやってきたから、びっくりした、って言ってたよ」

「そりゃあ…そうだよ。だって、僕のせいで桜が死ぬところだったんだぜ?」

「あら? あたしの意志で、鳴海くんをバイクに乗せたんだよ? 何も、責任なんか感じる必要ないのに」

「そうはいかないよ。桜が、いなくなって、僕がどれだけ悔しかったか…。哀しかったか…」

「ふふ…。鳴海くん、あの時、言ってくれたよね? あたしがいなくなった地球なんて、滅亡してしまえばいいのに、って」

「いや、そこまでは言ってない」

「いいの! だって、あたしだって同じ気持ちだったんだもの。鳴海くんがいなくなったら、あたしはすっごく悲しい…」

「…そうか…。ありがとう」

「えへへ。どういたしまして」

「僕と桜、同じ気持ちなんだったら…もし、次に同じような事があったら、2人とも同じ行動をとろうよ」

「同じ行動?」

「2人とも生き残る選択肢をとる」

「ふふふ…。いいよ。じゃあ、もう助からない、っていう時は、2人で一緒に死ぬ、ってことでいいよね?」

「それは…そうかもしれないけれど…。でも、できる限り2人とも助かる方向でいきたいところだね」

「はいはい、わかった。そうしよ」

「ところでさ、教えてほしいことがあるんだけれど…」

「あら、欲しがりますなあ」

「重要な事だよ」

「なあに?」

「いや、僕も豊橋も堀田さんも、桜が波に向かって走っていった時、もう桜は絶対に助からないものだと思ったよ、正直」

「ふむふむ」

「で、桜は一体、どうやって生き残ったのさ?」

「あ~なるほど。うん、それは確かに、知りたいよね」

「知りたいよ」

「でも…どうでしょう。本当はあたし、もう死んでるかもよ?」

「は?」

「あたし、実は幽霊なのかもしれないよ。うらめしや~」

「うらめしや、は古いな。それに、僕は桜に恨みを買うような事は…したよね…確かに」

「あはは、ごめんごめん。また話を蒸し返しちゃった。だから、責任を感じないでって。ほら、あたし、ピンピンしてるでしょ? この通り」

「…冗談はさておいて、教えて欲しいな」

「ええっとねえ…教えてあげるね。でも、正直、あたし自身、あんまり記憶にないのよね」

「波にさらわれて、岩にでも頭をぶつけて忘れちゃった?」

「おいおい。ちがいます。本当のところはね、何が起こったのかは、あたしにも良くわからないの」

「波の衝撃で、気を失ってしまったのかな」

「う~ん、そうかもね。波に飲み込まれる直前くらいから、記憶がないんだ。そしてね、気づいたら、穏やかな海岸線を一人で歩いていたんだよね…」

「海岸線を歩いていた…」

「そうなの。あたりはすっかり夜だったよ。あたしひとり、とぼとぼと…。でも不思議と怖くなかったな…」

「怪我は? あれだけの波に飲まれたんだから、どこか、怪我があるんじゃないのか?」

「ううん。それが、全然大丈夫だったの。全くの、無傷」

「無傷だって…? それはよかったけれど…あの状況で、ほとんど奇跡だよね」

「それで、海岸線で、おかしな物を見つけたんだよね」

「おかしな物? それは、どんな?」

「夜だったし、よくは解らなかったんだけれど…。うすぼんやりする意識の中で、何か光がチカチカしていたような…」

「光が?」

「なんだか温かい光のように思えて、引き寄せられるように、その光の方に歩いていったの」

「うんうん。…それで?」

「そこで、また意識を失っちゃったんだと思うの。気づいたら、あたしの家の玄関の前に立っていた」

「…ふう…。そうだったんだ。ありがとう、教えてくれて」

「えへへ。でも、何も面白くなかったでしょ? だって、あたし自身、本当にほとんど覚えていないんだもん」

「記憶が曖昧で、かえって良かったのかもね。命を脅かすほどの恐怖体験は、できるだけ忘れておいた方が、その後の人生が楽になるよ。きっとね」

「そうかもね…。でも、あの光はなんだったんだろうな~」

「光…か。そう言えば、僕と豊橋であの海岸線に、桜を探しに行ったことがあるんだけれど…」

「あら、嬉しい。探しに来てくれたんだね」

「その時に、変な物体を見つけたんだよね」

「変な…? それって、隕石のカケラとか?」

「いや、隕石というより…人工衛星みたいだったんだよね」

「へえ、人工衛星。いいんだあ。それって、面白いね」

「もしかして、桜が見た光って、その人工衛星の光じゃないかな、って思って」

「ええ~…。温かい光だと思ったものが人工衛星だなんて、ロマンのカケラもないね」

「ロマンはないかもしれないけれど…桜も、その衛星を見れば、何か思い出すかもしれないよ?」

「それは一理ありますなあ」

「放課後、行ってみようか? もしかすると、回収されずにそのままかもしれないよ。豊橋も誘ってさ」

「うん、わかった!」

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