4章:仮死451(第10話)
「な、なんなの、この組み合わせ。それに、2人とも小説は大丈夫なの?」
「え~、だって、桜チャンが鳴海先輩とデートしていい、って言ったんじゃん。小説は明日から頑張るからさ」
「そ、そうなのか…桜。神宮前に、そんな事を言ったのか…」
「だ、だったら、あたしまでついてくる必要なかったんじゃないかなっ」
「ダメダメ。だって、ボクと鳴海先輩だけだと間が持たないもん」
「だったら僕とデートしなくてもよかったじゃないか…」
「それに、もう新幹線のチケットだって3人分の指定席をとっちゃったんだから」
「そ、そう…。ありがとうね、神宮ちゃん…」
「という訳で、レッツゴー」
「レッツゴーはいいけどさ、今日の行程はどうしようか。あ…あれ? なんかこのやりとりも、デジャヴ感が…」
「ふっふっふ。ちゃんと計画してあります。まず、新幹線で新大阪まで行きます。そこから電車を乗り継いで、京橋駅に行こうと思います」
「京橋駅? なんで?」
「ボクが小学校6年生の頃に、少しだけ住んでた場所だからです」
「あれ? 神宮前って関西出身だったのか。だからお好み焼きが好きなのか」
「や、親の転勤の関係で、1年ちょっと住んでただけです。その時によく行ってたお好み焼き屋に行こうかと思って」
「へえ、それはいいね。それから?」
「また新幹線を乗り継いで、広島駅までですね。多分時間があんまりないので、駅ナカのナっちゃんか、駅から少し離れたところにあるビルの、駅前ひろばで広島風お好み焼きを食べられたらな、って」
「かなりハードスケジュールだな…」
「鳴海くん、日帰りツアーなんだから、仕方がないよ。そりゃ、あたしも、ちょっとは観光地を回れたら、って思うけどね~」
「ツアーってなんだよ。それに、今回は神宮前のやりたい事を叶えるのが一番の目的なんだから」
「そうだよ桜チャン。観光なら、ボクがいなくなってから、鳴海先輩と2人で行けばいいじゃん」
「うわ、なんだこのアイス…。硬った!」
「うりゃ! とりゃ! あっ! スプーンが折れちゃった!」
「何やってんだよ…神宮前は」
「神宮ちゃん、鳴海くんの体温で溶かして、柔らかくして貰えば?」
「あ、それがいいスね。鳴海先輩、お願いします」
「お願いします…って言われてもな」
「ほら、早く。両手で握ってればいいですから。新大阪は近いから、時間がないっスよ」
「わ、解ったよ。ほら、貸してごらん」
「あ、ちょっと、ボクの手を握らないでくださいよ」
「握ってないよ…。大体、デートじゃなかったのかよ…」
「ちょ、ちょっとドキドキしちゃうじゃないスか…」
「ん? なんだって?」
「い、いえ、なんでもないです…」
「桜は食べないの?」
「う~ん。チョコミントがないし、ソフトクリームでもないしな~。コーンを食べてくれる人はいるのに…」
「桜チャン、ダイエット?」
「じ、神宮ちゃん! ま、まあ、そうだけど…」
「ほら、神宮前。ちょっと柔らかくなったと思うよ」
「あ、ありがとう。でも、スプーンがないんスよね…折っちゃったから。あはは」
「仕方ないな…。新しいのを貰おう」
「鳴海先輩、ワゴンさっき行ったばかりだから、しばらくはこないスよ」
「そうか…。じゃあ、僕が神宮前の折れたスプーンで食べるよ」
「え? いいんスか?」
「大丈夫だよ。先端がこれだけ残っていればなんとか…。ほら貸して。よっと…。ほら、ちゃんとすくえただろ? うん…うん。硬いけど、美味しいよ」
「鳴海先輩…いいんスか、ってきいたのは、折れている事に対してじゃなくって、ボクと間接キスしちゃってもいいんスか、って意味だったんスけど…」
「…は? 神宮前、クチつけたの?」
「あはは。ガッツリつけました」
「そ、そうなんだ…」
「ちなみに、このスプーンも、さっきアイスのフタを開ける時に鳴海先輩が咥えていたの、知ってるんスからね」
「え? そうだっけ…。無意識に咥えていたのか」
「もう遅いっス。いただきま~す!」
「あ…」
「うん。おいしいっス。アイスも、鳴海先輩の唾液も」
「お、おい。変な言い方するなよな…」
「へへへ。ごめんなさい」
「ちょっと! もうっ! 2人とも、一応あたしもいるんだからね!」
「わ、わかってるよ桜。ごめんごめん。そんなつもりじゃなかったんだから」
「え~! そんなつもりじゃなかったなんて、ボク、ショックだな…」
「い、一体、僕はどうすれば…」
「桜…。寝たのか。あと10分もすれば到着なのに、器用なヤツだな。…神宮前は、さっきから深刻そうな顔で、何を見てるんだ?」
「あ、スマホっスか? 国府チャンの動画っス」
「国府の動画って…」
「あの時、豊橋先輩がボクに撮影しろ、って言ったんで」
「そうか…。そうだったな」
「ボク、豊橋先輩のこと嫌いですけど、今になって、国府チャンの事、撮影しておいてよかったな、って思うんスよね。こうして見ることができるんスからね」
「もしかして、定期的に見返してるのか?」
「まさか。見るようになったのは、本当にここ最近ですよ。…それまでは、スマホの写真アプリを開くのも怖かったんスから…」
「そうだよな…。わかるよ。でも、なんで急に見ようと思ったんだ?」
「そりゃあ、ボクも国府チャンと同じ運命をたどるからですよ。…国府チャン、えらいですよね。こんなに苦しみながら…手が崩壊して落ちるまで、ボクや鳴海先輩にメッセージを送ろうとしたんスから…」
「そうだな…」
「ボク、自分のスキルが何なのかわかってないですし、本当に、いつこうなるかわからないんスよね…。もしかすると、今日なるのかもしれない。そう考えると、ボクは国府チャンが経験したこの苦しみの中、最後に何を思うんだろう、残せるんだろう、って、考えちゃうんスよね…」
「不安な気持ちはよくわかるよ。ただ、左京山のメッセージを信じるなら、神宮前は少なくとも夏休みに入るまでは大丈夫だよ」
「あは。ボクも、そう前向きに考えて、残りの毎日を大切に生きようと思います」
「そうか…。せめて、神宮前のスキルが何なのかがわかっていればな…。やっぱり、本星崎に強くあたった方がいいだろうか…」
「鳴海先輩、ボク、大丈夫です。自分のスキルに、そこまで執着しないですもん。そりゃあ、何か世の中の役に立つスキルだったらいいな、とは思いますけどね…」
「人の役に立つスキルか…。人はやっぱり、死に直面すると、誰かのために残りの命を使いたくなるものなんだろうか…。そう言えば、僕と桜もスキル発現してる可能性があるんだよな…」
「鳴海先輩にスキルがあるとしたら、どんなスキルがいいですか?」
「僕? そうだな…。どうだろう。人と違う能力を持つ、というのは、それなりに苦労が伴いそうだからな…。阻害されたり、妬まれたりとかね。だから、できればスキルなんて発現してほしくないし、もし発現しても、使わないかな。あるいは、凄く地味なスキルがいい」
「地味なスキルっスか? たとえば、どんな?」
「桜が何を考えているのかが、わかるスキル」
「あはは! それいいですね。あ…そういえば、桜チャン、ちょっと気になる事を言ってたんスよね。鳴海先輩にこれを伝えるかはちょっと迷うところなんですけど…」
「気になる事? どんな事を言ってたの?」
「えっとですねえ…。今回、鳴海先輩をデートに誘う前に、ボク、桜チャンに、鳴海先輩の事をどう思ってるか、確認したんスよね」
「そ、そ、そうなんだ…。続きを聞きたいような、聞きたくないような…」
「続きはぜひ、桜チャンから直接きいて欲しいんスけど…。ただ、桜チャン。これだけは、はっきりと言ったんです。『自分は、鳴海先輩と付き合うことはできない』って…」
「そうなのか…。それって、どういう意味なんだろう。このまま、ずっと友達の関係の方が、桜にとってはいい、という事なのかな。お互いの関係を崩すのが怖いって…」
「う~ん、どうなんでしょう。でも、それだったら、そう言いますよね。ボクには隠す必要ないですもん。桜チャン、付き合えない理由は教えてくれなかったんスよ」
「なるほど…。う~ん。やっぱり、桜が何を考えているのかがわかるスキルが欲しい…」
「ホントっスね。とは言え、鳴海先輩、何か思い当たりはないんですか?」
(思い当たりか…。そう言えば、桜の精密検査の結果ってちゃんと聞いていなかったぞ…。まさか、スキル発現に関らず、死期が近い大病を患っているとか…。にしては、ここ最近はずっと元気だしな…。わからない…)
「思い当たりは…ないな…」
「そうですか…。まあ、鳴海先輩が桜チャンに直接きいてみてあげてください」
「そんな気軽にきいてしまっていいものなのだろうか…」
「桜チャンは、きいてほしいと思っているかもしれないスよ」
「う~ん…」
「あ、そうだ、鳴海先輩。話変わりますけど、ヒマワリの種、食べます?」
「ヒマワリの種だって? なんでそんなの持ってるんだよ…」
「国府チャンに、前に貰ったヤツですよ。どうせだから、食べてるんです。それに、良くないですか? ボクがヒマワリの種をポッケに入れた状態で、ボクが爆発したら、ボクの体を養分にヒマワリが生えてくるかもしれないんスよ? ボク、夏が大好きだから、ヒマワリになれたら幸せかもな~」
(…国府は、実際にヒマワリになったんだよな…)
「で、食べます?」
「あ…うん。1つ貰おうかな」
「あはは。じゃあ、むいてあげますね…。はい、どうぞ」
「うん。ポリポリ…」
「どうスか? おいしいですか?」
「…ハムスターになった気分…」




