4章:仮死451(第1話)
仮説。あなたには、当該のスキルが影響を及ぼしているのではないだろうか
「は、は、はい。いま、い、今ご報告したメンバーが、ス、スキ、スキル発現が確認されたメンバーです。い、い、いえ。たい、対象外のスキルです。はい。しょ、しょ、処分対象としてしまって、も、も、問題ありません。はい。そ、そうですね…。なつ、な、夏休みに入ってからの方が…。え、ええ…。あつ、あつめ、集められると思います。は、はい? さ、さきょ、左京山さんですか? いえ…ど、どう、どうやら、まだスキル発現して、い、い、いないようです。…つ、つじ、つじつまを…ですか…。なる、な、なるほど…。わ、わか、わかりました。とう、当面、さ、左京山さんを、か、かん、監視します」
「そうか…。神宮前が…」
「神宮前は確定だ。俺は今のところ発現なし。堀田もなしだろう。ガキどももなしとみてよかろう。あとゴブリンもな。桜と…お前は分からん」
「ん? どういう理屈でそうなるんだ?」
「アンケートの並びだ。神宮前、俺、鳴海、桜、有松、呼続、上小田井、堀田、ゴブリンの順番で9問並べた」
「それで?」
「解らんか。神宮前は『はい』、俺は『いいえ』。これに続くお前と桜は『未回答』だ。そして、有松が『いいえ』、呼続も『いいえ』。上小田井以降は全員『未回答』」
「僕と桜は回答を飛ばされた、って訳か…」
「間違いなく、何らかの意図があってお前と桜を飛ばしている、つまり回答に躊躇している。『まだスキル発現していないが、間もなく発現する』可能性を否定できまい」
「なるほど…。一応、僕と桜は気をつけた方がいいって事か…」
「桜に忠告しておいた方がよかろう」
「でも、上小田井くん以降は、本星崎がアンケートの仕組みに気付いて読むのをやめた可能性もあるんじゃないか? だとすると、僕と桜よりは可能性が低いとしても、スキル発現が完全に否定された訳じゃない。それに、現時点で発現していない事がわかったメンバーだって、今後発現しない保証はない」
「そうだな…。少なくとも上小田井以降も注視は必要だろう」
「ちなみに、設問における9人のメンバーの並び順の根拠はなんだったんだ? 法則性がないように見えるけれど」
「神宮前、俺、お前、桜は本星崎の眼の前にいた。つまり、最も直感的に回答しやすいメンバーだ。だから最初に持ってきた。ガキどもを挟んで最後に堀田とゴブリンを置いたのは、本星崎に全員の設問を読ませる確率を上げるためだ。高校生メンバが先に来ているにも関わらず、堀田とゴブリンの設問がないことに気づけば、最後まで設問を追う確率が上がるからな」
「なるほどね…。存外に合理的だ。豊橋らしい。スキル発現以外の設問の回答状況は?」
「崩壊フェイズのパスの方法を知っているか、については『はい』。スキル発現の条件を知っているか、については『いいえ』だな。本星崎が防衛省によって崩壊フェイズのパスを経験している事は、疑いようがなくなった。そして、防衛省側にいながらスキル発現の条件を知らないという事は、そもそも防衛省もそれを把握していないからか、あるいは本星崎に共有できないほどの機密なのか、どちらかだろう」
「当面は、神宮前の注視と、本星崎から崩壊フェイズをパスする方法の情報を取得する事が課題か…。神宮前にどんなスキルが発現したのかはわからないけれど、とこちゃんのおかげで今後の道筋はついたな…」
「本星崎の動きは、引き続き監視が必要だろう。やつが防衛省側の人間である限り、間違いなく定期的に報告を入れている」
「神宮前、僕、桜の3人は特に注意が必要か…」
「ふむ。今のところの動きを見る限り、監視対象者のスキル発現を待っているようにも見える。どのみち、本星崎が誘導的に俺たちを、周囲に善意の第三者が少ない一箇所に集めるような動きを見せたら要注意だな…」
「敵か味方かまだわからないけれど、左京山がスキルを使って本星崎に情報提供をしているとしたら、僕たちの意図で一箇所に集まるのも危険だ」
「…へえ、本星崎は、私服はそういう趣味なのね。可愛いのね」
「あ、あり、ありがとうございます。ふ、ふふ…。さ、さきょ、左京山さんは、い、いめ、イメージ通りですね。か、か、カッコイイです」
「…そう? ありがと」
「す、す、すみません。きゅ、休日に、つき、つ、つきあわせてしまって」
「…ふふ…いいのよ。同じ趣味の仲間ができるのは、悪い気がしないもの」
「こ、この、この街には、はじ、初めてきました…。で、でん、電気街なんですか?」
「…そうだったわね。本星崎はお嬢様学校からの転校生だものね」
「す、すみ、すみません…」
「…ふふ…気にしないで。色々案内してあげるから。まず、今日は何を買うかを決めないとね」
「は、は、はい。え、ええっと…スマ、スマホにメモを…」
「…見せてもらってもいい?」
「あ、は、はい。ど、どうぞ」
「…なるほどね。ノートPC、DAWソフト、ボーカル音源、ヘッドフォン、MIDIキーボード…か。…予算はどのくらいなのかしら?」(DAWソフト:Digital Audio Workstation。広義の作曲ソフト)
「に、にじゅ、20万円くらいです」
「…なかなかの予算じゃない。さすがお嬢様学校ね」
「た、たり、足りるでしょうか?」
「…ま、やりたい事によるけれど…学生版で節約したり、贅沢なものを選ばなければ、なんとかなるでしょ」
「あ、あ、ありがとうございました。おか、おか、おかげで、き、き、機材を選ぶ事ができました」
「…よかったわね。まだ全部じゃないけどね。MIDIキーボードやDAWは、楽器屋で選んだほうがいいから」
「は、は、はい。こ、この、この後も、よ、よろ、よろしくお願いします」
「…それにしても、お腹が減ったわね…。何か食べない?」
「こ、こ、この街で、お、おす、おすすめはありますか?」
「…ないわね。このあたりは、一時期は唐揚げとタピオカミルクティーの店ばかりだったけれど。最近はどうなのかしらね。私のお気に入りのジンジャーエール専門店があったけれど、いつの間にか潰れちゃったわね。あ、クレープなんかどう? ありきたりだけど」
「ク、ク、クレープ。は、は、初めて食べます」
「…お嬢様学校に通う人たちって、誰もがあなたみたいな感じなのかしら…」
「た、た、食べてみたいです」
「…いいわよ。赤門通の方にクレープ屋があったと思うから、行きましょう」
「お、おお~! ど、どれ、どれも美味しそう…」
「…好きなの選んでいいわよ。奢ってあげるから」
「そ、そ、そんな、わ、わる、悪いですよ…。だ、だって、わ、わ、私が付き合ってもらっているのに…」
「…いいのよ。バイト代が入ったばかりだから、それなりに潤ってるわ」
「ど、ど、どうしようかな…。チョ、チョコ、チョコバナナも美味しそうだけど…い、いち、イチゴも捨てがたい…」
「…ふふ…。迷うの、楽しいわよね。私は、焼きリンゴミルフィーユにしようかな」
「や、やき、焼きリンゴ…。そ、そ、そういうのもあるのか…。じょ、じょう、上級者ですね…」
「…とりあえず、何でも入っているやつなら、満足できるわよ、きっと」
「は、は、はい…。そ、そうだな…。き、きめ、決めました。い、い、イチゴティラミスカスタードに、ラムネトッピングで…」
「…変化球ね…」
「お、お、おい、美味しい…」
「…よかったわね…。ふふ…ほら、唇にクリームついてるわよ」
「あ…。だ、大丈夫です。あ、あり、ありがとうございます」
「…本星崎は、どうしてDTMをやろうと思ったの?」
「ちゅ、ちゅ、中学生まで、ピ、ピアノを習っていて…。こ、こう、高校に入ってからやめたんですが、な、なに、何か音楽はやりたいと、お、おも、思ったんです」
「…ピアノかあ…。じゃあ、本星崎は楽器ができるんだね」
「は、は、はい。す、すこ、少しだけですけれど。さ、さきょ、左京山さんは、な、なに、何か楽器ができるんですか?」
「…私? 私はねえ…何もできないわ。ピアノやギターを練習しようと思った事もあったけれど、どれも挫折した」
「ざ、ざせ、挫折…。そ、そ、そうでしたか…」
「…バンドでもやる仲間がいればよかったかしらね。でも、私、こんな喋り方だから、友達が少ないのよね…。まあ友達がいないのは、性格の方の問題かもしれないけど。ふふ…」
「で、でも、す、すご、凄いです。が、が、楽器ができなくても、さ、作曲ができるなんて」
「…ありがと。今はソフトが発達しているから、誰でもやろうと思えば、そこそこの曲が作れるわよ。やろうと思えばね」
「や、や、やろうと思えば…。そ、そう、そうですよね。も、もし、い、い、嫌じゃなかったら、こ、こん、今度、さきょ、さ、左京山さんが作曲しているところ、み、み、見せてもらえませんか?」
「…作曲をしているところを? …いいわよ。参考になるか解らないけれど。…ふふ。こんな私でも、あなたとは仲良くなれそうね」
「わ、わた、私も、そ、そう、そう思います」
「…ふふ…。ありがと」
(さ、さきょ、左京山さん…ま、まだ、まだスキルは発現していない…。い、いけ、いけない。あ、あまり仲良くなってはだめだ。わ、わた、私が生き延びるためには、さ、さきょ、左京山さんの死を、な、なん、なんとも思わないくらいでなきゃ…)




