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間隙のヒポクライシス  作者: ぼを
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3章:幼年期で終り(第14話)

「は~い、あと30秒ですよ~」

「って、桜はアンケートやらないのかよ」

「はいそこの鳴海せんぱい! 黙って下さいね~」

「急に先輩扱いかよ…」

「あ、あ、あれ…? こ、こ、このアンケート…お、おか、おかしい…」

「ん? どうしたんスか? 本星崎先輩」

「ちょ、ちょっと、さく、さ、桜さん。ふ、ふ、ふざけないでくれる!?」

「本星崎よ。黙って最後まで回答しろ。文藝部の活動に必要な内容だ」

「ば、ば、バカじゃないの? わた、わ、私が、こ、こんな子供だましに、ひ、ひっかかるわけ…」

「子供だましか。どこが子供だましなのか、教えてもらおう」

「な、なに、なにを言ってるの? この、こ、このアンケート、と、と、途中から、ぶん、文藝部の活動に、か、か、関係ないじゃない」

「ほう。お前は、関係がないと思うのか。では、問おう。具体的に、どの設問だ」

「た、たと、たとえば…こ、ここ、ここからの9問…。ス、スキルが、はつ、発現しているのは、じ、じん、神宮前である、と、と、とか…。あ、あな、あなたたち9人の名前が、じゅ、順番に並んでいるじゃない…」

「9人だと? どの9人だ。順番に読み上げてみろ」

「い、い、いやよ…」

「気になる設問はそれだけか。なら、安心して続きを回答しろ。あと…10秒くらいで桜が終了の合図をするぞ」

「な、なに、なにを言っているの? こ、この次の設問だって…」

「次の設問だと?」

「も、も、もう…い、いら、いらいらさせるわね…。ほ、ほ、崩壊フェイズを、パ、パスする方法を、し、知っているか…って」

「ほう。本星崎よ、お前はそれを、知っているのか」

「し、しら、知らないわよ! し、知るわけないでしょ!」

「であるなら、安心して『いいえ』に○をつければよかろう。他にも気になる設問があったか?」

「こ、これは…。スキ、ス、スキル発現の条件を、し、し、知っているか…」

「本星崎さん…もうそろそろアンケート終了にしたいんですけど…」

「さ、さく、桜さんは、ちょ、ちょっと黙っててくれる?」

「本星崎よ。設問をもう一度よく確認しろ。お前はスキル発現の条件を知っているのか?」

「……し、しら、知らない…」

「ふん。ならよかろう。何ひとつとして、お前に都合の悪い設問などなかったではないか」

「…ど、ど、どう、どういうつもり…? あ、あ、あなたたちにとって、こ、このアンケートを、わ、わ、私に、か、回答させる意味が、あ、あったの?」

「どうせ、全部『いいえ』と回答するのにもかかわらず、か」

「そ、そ、そのとおりよ…。い、いみ、意味がないじゃない…。あっ…! も、も、もしかして…」

「…気付いたか。残念だったな。俺たちの目的は元々、お前にアンケートを回答させる事ではなかった。お前に設問を読ませて、頭の中で2択のどちらを選んだかを常滑に読み取らせる事にあった。ひとつでも『はい』があれば、それは事実として確定する」

「そ、そ、そんな…。わ、わた、私のスキルで、こ、この、この教室の周辺には、と、と、常滑ちゃんがいないことは、か、かく、確認したのに…。だ、だいたい、あの、あ、あの娘、も、もうスキルが消失していても、い、いい頃なのに…」

「本星崎よ。お前は、常滑のスキルの及ぶ範囲が、お前のスキル鑑定の範囲と同等に狭いと見積もっていたようだ」

「…な、なに、何が、い、言いたいの?」

「説明が必要か。簡単な話だ。お前が正確にスキル鑑定できる範囲が、せいぜい半径10mくらいなのに対し、常滑は半径50m以上の心の声を読み取る事ができる。お前は常滑の存在を察知できなかった」

(し、しま、しまった…。は、はん、反対の校舎にいるスキル発現者は、ひ、ひと、ひとりだけだと思ったのに…。ま、まさか、と、と、常滑ちゃんまでいたなんて…。わた、私のスキルでは、と、とお、遠くにいるスキル者は、そ、そ、その内容も含めて、せい、せ、正確に把握できない…)

「豊橋、これ以上を平場で言うのは危険だ。本星崎が防衛省に常時監視されているとしたら、彼女の身が危険だ。本星崎から僕たちに情報が漏れている事が知れたら…。僕たちで本星崎を守れる保証はないんだぞ」

「鳴海よ。本星崎の命以上に、俺たちの命の方が危険にさらされている事を忘れるな。そもそも、俺たちには防衛省が本星崎に与える以上のメリットを与える手段がない。つまり、本星崎にリスクを負わせる方法しか情報を得る手段はなかった」

「…ふ、ふん…」


「堀田さん! とこちゃん! ありがとう。本当に助かったよ。とこちゃんの様子は?」

「鳴海くん…豊橋くん…。常滑ちゃん、とっても頑張ったのよ。ほら…」

「鳴海よ。常滑が本星崎の心の声を読んで写したアンケート用紙だ。全ての回答が埋まってはいないが、俺たちが取得したかった設問のいくつかは埋まっている。結果は上々と言うべきだろう」

「とこちゃん、本当にありがとうね…。ありがとう…。抱きしめてあげるね…。ほら、ぎゅうううう」

「お、おねえちゃん、い、いたいよ…」

「あ、ごめんね。つい力が入っちゃった。えへへ…」

「ねえ、おねえちゃん。こ、ここはどこなの? とこちゃん、どこにいるの? とこちゃん、おとなのひとばかりでこわいよ…。おそと、もうくらいもん。おうちかえりたいよ」

「とこちゃん…。言葉…どうしちゃったの…? いつもの名古屋弁は、どうしちゃったの…? あたし、とこちゃんが遠くにいっちゃったら、いやだよ…」

「桜ちゃん…。残念だけど、常滑ちゃんの記憶は…その…幼稚園児くらいまで、全部消えちゃったみたいなの…」

「幼稚園児…。そんな…そんな、かわいそう…あ、あたし…た、耐えられないかも…しれ…ない…」

「チクショウ…」

「鳴海くん…自分を責めてはだめよ。アタシたちみんなの責任なんだから…」

「チクショウ…チクショウ! 畜生! 畜生っ! 僕はっ! 結局、また、守れなかったんだ! とこちゃんを、守れなかった!」

「落ち着け、鳴海よ。俺もお前も、こうなる覚悟の上だった筈だ。そしてこの結果は想定内だ」

「ああそうだよ! 豊橋と僕がとこちゃんを犠牲にする決断をしたよ! どうやって償うんだよ! 僕たちがいくら覚悟をしたって、責任を取るって言ってみせたって、そんなの言葉だけで、結局できることなんて何もないんだよ! 違うか豊橋!」

「違う。今の俺たちにとっての贖罪、引責とは、常滑の記憶を戻す方法を探る事ではない。常滑の犠牲によって救われるであろう命を、これ以上危険にさらさないことだ」

「そんなの解ってるんだよ! わかってるんだよ…! わかってるけど、とこちゃんを犠牲にしてしまった事が、こんなに苦しいとは思わなかったんだよ…」

「鳴海くん…あたしも悲しくて仕方ないけど…鳴海くんのそんなに苦しむ姿もみたくないよぉ…」

「…鳴海。覚悟をしておけ。今後、更に苦しい判断をする局面が、きっとあるだろう。お前も…俺もだ」

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