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間隙のヒポクライシス  作者: ぼを
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3章:幼年期で終り(第13話)

「さて…豊橋。今日の文藝部の会議を使って、本星崎から情報を取得する作戦のセッティングはいいとして、どうやって本星崎から聞き出すか、だよ。とこちゃんは、自分の人生をかけてでも協力してくれるみたいなことを言ってくれたけれど…正直、僕は前向きじゃないし、そもそも今のとこちゃんに、本星崎の心の声を理解するだけの記憶は残っていない…。協力するって言ったことすら、忘れてしまっているかもしれない…」

「なるほど。この作戦に常滑を投入することについての、お前の罪悪感から解いていく必要がありそうだ」

「罪悪感…ね…。そりゃあ、罪悪感はあるよ。あれだけ国府に期待させておいて、結局、僕は国府を助けられなかった…。その事でさえ、まだ気持ちの整理が全然できていないんだ」

「お前はそうか。だが、俺はシンプルな功利主義者ではない。常に俺の中の回答は明確だ。つまり、作戦には常滑を投入するのが妥当だ。常滑がスキルを使ったところで、常滑が死ぬ訳では無い。記憶への影響についても、ここでスキルを使おうが使うまいが、いずれ同じ結果になる事は自明だ。だが、常滑がスキルを使わなかった場合、現時点で情報を得ることで救える筈の命を救えなくなる可能性がある。それは堀田かもしれないし、桜かもしれん」

「豊橋お得意の、トロッコ問題かよ…。言いたい事はわかるけど…」

「恣意的な行動に対する罪悪感よりも、行動をしなかった事に対する罪悪感の方が俺にとっては重要だ。ここで常滑を犠牲にしなかった事によって、その後、さらに大きな犠牲を生じさせた場合、なるほど、惰性で恣意的でなければ、誰も悪くなかった、仕方のない帰結だったと自分を納得させられるだろう。だが、その結果に満足をするのは愚か者のする事だ」

「そうか…。わかったよ。僕も、自分の判断の罪を負う覚悟をするよ」

「…いいだろう」

「でも、問題は本星崎だ。彼女に適切な質問をして、とこちゃんが理解できるレベルで回答をさせないと、とこちゃんの犠牲は無駄になる。これは至難の業だよ」

「そうだな…。常滑の問題は、クローズド・クエスチョンで解決する」

「クローズド…? ああ、相手にイエスかノーかで答えさせる質問の仕方か…」

「そのとおりだ。『はい』か『いいえ』の2択なら、常滑の負担は減るだろう」

「なるほどね…。だけれど、それでも本星崎に、僕たちの知りたい質問をぶつけて、2択で回答させるのは難しくないか?」

「ほう。そう思うか?」


「う、うそ、うそでしょ…? な、なる、鳴海くんも、ぶ、ぶん、文藝部だったの?」

「うそだろ? 本星崎は、それを知らずに文藝部に入ったのか? てっきり、桜と僕を監視するためかと…」

「…ぶ、文藝部に、はい、は、入ったのは、た、たん、単純に、わた、私が小説好きだったから…」

「鳴海よ。本星崎の言う事を鵜呑みにするな」

「それ、それ、それで、なん、なんで、と、とよ、豊橋くんまで、ぶん、文藝部の会議に、い、いるのよ…」

「悪いか。俺は潰れかけの文藝部の数あわせ要員だ」

「ほ、ほん、ほんとかしら…。ちょ、調子狂うわね…」

「安心しろ。ここにいれば、神宮前を含めた4人を同時に監視できるぞ」

「…ふ、ふん…」

「ね、ねえ桜チャン、ボクも小説を書かなきゃだめなのかな? 全然書く自信がないんだよね…」

「大丈夫だよ、神宮ちゃんは歴史小説が好きでしょ?」

「ま、まあそうだけど…。特に世界史がね」

「だったら、世界史の登場人物でBLものなんかでもいいよ! カノッサの恋死とかね」

「憤死じゃなくて恋死…しかもBL限定…」

「じゃあ、とりあえずアンケート用紙を用意したから、みんな書いてくれる? これをもとに、これからの活動方針を決定したいから。あ、そうそう、この教室、あと30分しか使えないから、とにかく早く回答してね! 制限時間は60秒!」

「う、うそだろ桜チャン。これ、30問くらいあるよ? 1問2秒…」

「神宮前よ、うろたえるな。全て『はい』か『いいえ』の2択だ。1問あたり2秒あれば充分だろう。直感で回答しろ」


「常滑ちゃん…無理をさせちゃって…本当に、ゴメンね…。アタシたち、償いはするわ…」

「うち…やるでよ。うちみたいな、くるしいおもいをするひとがいなくなるなら、うち、やるでよ…」

「常滑ちゃん…ありがとう…。あ…豊橋くんから、準備の合図のワン切りだ…。常滑ちゃん、用意はいい?」

「ええっと…も、もういちどせつめいしてちょー」

「大丈夫よ。図で説明するから、落ち着いて聞いてね。えっと…もうすぐ、向かいの校舎の、この教室の中で、一斉にアンケートが行われるわ。常滑ちゃんに渡したアンケート用紙と全く一緒よ。で、教室にいるのは5人ね。この図の、この席に座っているお姉さんの回答を読み取って、丸写しして欲しいの」

「う、うち…このかみに、なにがかいてあるのか、まったくわからせん…」

「大丈夫よ、常滑ちゃん。書いてある事はわからなくても大丈夫。ほら、それぞれの設問の頭に、記号が書いてあるでしょ? この記号を見て、こっちの『はい』『いいえ』のどっちに○がつけられたかを、丸写しすればいいの。できそう?」

「う…うん。うち、がんばるでよ…」

「開始の合図のワン切り…。始まったわ。常滑ちゃん、お願いね!」

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