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間隙のヒポクライシス  作者: ぼを
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3章:幼年期で終り(第12話)

「文藝部の会議? うん。いいよ。ちょうど、夏休みの活動の話をしたいところだったから」

「そうか、ありがとう。ちなみに、夏休みの活動って?」

「同人誌を作ってイベントに出展する計画だよ」

「同人イベントか~。青春って感じで、悪くないな…」

「もちろん、鳴海くんにも作品を出してもらいます」

「うっそ。僕、小説なんて書けないぜ?」

「だって、文藝部の在籍者が、鳴海くんを入れても3人しかいないんだもん」

「3人だって? それってもしかして」

「そうだよ。鳴海くんと、あたしと、本星崎さん」

「し、知らなかった…。3人じゃ、部として認められないだろ?」

「国府ちゃんが兼部だったのと、神宮ちゃんが名前だけ貸してくれていたから、一応、部として成立してました~。だから、今は同好会降格の危機に瀕しております!」

「そうだったのか…。神宮前のやつ、生徒会のメンバーのくせして…」

「だから、今年の夏休みはちゃんと同人イベントで実績を作って、メンバーの勧誘につなげたいんだよね」

「なるほど…。まあ、ちゃんとした議題がある事を喜ぶべきか…。ところで、肝心なとこちゃんの様子だけれど…」

「そっだね~…。今日は学校お休みするって言ってたもんね…」

「本星崎の監視対象外になったから、僕たちが送り迎えをする必要がなくなったとも言えるんだけれど、当面はとこちゃんの様子を伺うためにも、続けたいんだよね」

「あたしね、とこちゃんのおばあちゃんから、少しだけ様子を聞いたよ?」

「おばあさんから…? なんて言ってた? 病院で見てもらったんだよね?」

「うん。ええっとねえ…改めて大きな病院で精密検査をしないと、脳に異常があるのかはわからないって言ってた」

「そうなんだ…。スキルによる記憶障害だとしたら、医療でなんとかなるのかすら不明だもんな…」

「でもね…とこちゃん、凄い勢いで悪くなっているみたいなの…。新しく覚える事もできるみたいなんだけれど、それ自体もすぐに忘れちゃうんだって…」

「そんなに悪いのか…」

「おばあちゃんの顔さえ忘れちゃったみたいで…。一日に何回も、覚え直さなきゃいけないって言ってた。だから、あたしや鳴海くんの事も、多分忘れちゃってると思うんだ…ぐすっ…ぐすっ…」


「あたし、やっぱりとこちゃんに会うの、怖い…」

「そうも言っていられないよ。まずは、とこちゃんの様子を確認しないと。それ次第で、明日の文藝部会議での立ち回りが変わってくるんだから。それに、一番恐怖感を抱いているのは、なによりもとこちゃん本人だよ」

「そ、そうだよね…。あたしたち、しっかりしなきゃ…」

「インターフォンを押すよ?」

「う、うん…」

「にいちゃん、ねえちゃん、なにをぶつくさいっとりゃーすかね…」

「きゃっ! と、とこちゃん。お、お庭にいたの? びっくりしたあ…。よく、あたしたちが来たことに気がついたね」

「とおくにいても、うちにはきこえてまうでよ…」

「そ、そっか…」

「なあ、うちがまえにかいたメモをみとったんだけど、なにについてかいたかおもいだせんでかんわ…。すうじがようけならんどるけど…」

「とこちゃん…それ、上小田井くんがメモしてくれた、円周率の羅列だよ」

「えんしゅうりつ…かね。いかんわ…おもいだせんて…。うちにとって、たいせつなことだったかしゃん…。さっきまで、これをおぼえようとしとったきがするがね…」

「ねえ、とこちゃん。あたしたちのこと、わかる?」

「なるみにいちゃんとさくらねえちゃん、ということはわからすけど…うち、ただふたりのこころのなかをよんどるだけだでよ…。うちをしんぱいしてきてくれたことはわかるがね…。でもすぐにわすれてまうわ…」

「そうか…。ありがとう、とこちゃん。今日、おばあさんは?」

「ばあちゃんは…ええっと…どこにいったかしゃん。いえのなかにはおらせんで…どこかにでかけたのはまちがいにゃーけど…」

「ねえとこちゃん、もう1枚持ってるメモには、何が書いてあるの? それ、おばあちゃんが書いてくれたメモじゃない?」

「これかね? ええっとお…。ねえちゃん、うち、これよめんで、かわりによんでくれん?」

「…うん。『スーパーに買い物に行ってきます。1時間で戻ります』。そっか。おばあちゃんはお買い物に行ってるんだね」

「桜、とこちゃんひとりなのは心配だけれど、出直したほうがよさそうだ」

「でも…このまま放っておけないよ?」

「ねえちゃん、うち、だいじょうぶだでよ。ひとりでそとをであるかんほうがいいことくらい、わかっとるで」

「とこちゃん…」

「あと、さっきからなるみにいちゃんがあたまのなかでかんがえとること…うち、よーわからせんけど…。こまっとることがあったら、なんでもきょうりょくしたるでな? うち…ぜんぶわすれてまったら、なんのためにいきとるんかわからせんようになってまうから…」


「とこちゃんは、ああ言ってくれたけれど、恐らくもう、自分が協力すると言った事を忘れているだろうな…。やっぱりとこちゃんのスキルに頼るのは、少なくとも精密検査の後のほうがいいかもしれない…。ただ、本星崎は、いずれスキル自体の記憶も消失する、と言っていた。そうなってしまっては、何もかもが手遅れになる…」

「自分で記憶がなくなっちゃってる事に気付いてるのが、本当に可哀想…。そのうち、忘れている事も、忘れちゃうのかな?」

「記憶は恐ろしい速度で失われているけど、判断力はしっかりしている感じだった。だから、自我が失われる、とかはないんじゃないかと思う。スキルが消失してしまえば、記憶が消えるのも止まる筈だから、そこからまた記憶を積み上げていけば、元の生活に戻る事もできるかもしれない…時間はかかるだろうけれど」

「あたしたち、初めてとこちゃんと出会ったところからやり直しになる、ってことだよね」

「とこちゃんにとって、全てがそうなるだろうね…。問題は、スキル消失までに、一体どれだけの記憶が消えてしまうのか。そもそもの言語能力まで消えてしまうと、かなり厄介だ。この調子でスキルを発動し続けたら、スキル消失を待たずに、本当にすべての記憶を失ってしまうかもしれない…。選ばなければならない。とこちゃんの人生か、僕たちの人生か」

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