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間隙のヒポクライシス  作者: ぼを
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3章:幼年期で終り(第11話)

「わ、わた、私を、じ、尋問しようとしても、む、無駄よ。す、スキ、スキルの事について、あ、あなたたちに話す事は、なに、何もないから」

「さすがに、本星崎が何か機密を話す事で、その命に及ぶ危険性もわからない状態で、僕たちが尋問なんてする事はないよ。よほどの信頼がない限り、なんらかの監視、管理はされているだろうしね」

「そ、そう…。な、なら、わ、私に関わらないでくれる?」

「本星崎よ。お前に、俺たちの仮説だけ伝えておく。いいか。俺たちはこれを前提に行動する。間違っていようと、いまいとだ」

「い、いや、いやよ。そ、そんなものをきいて、わ、私にはデメリットしか、な、ないもの」

「そうかな。少なくとも、俺たちの行動原理がわかっていれば、お前は立ち回りがしやすくなるはずだ」

「……はな、は、話してみたら?」

「いいだろう。俺たちは、お前が転校してまで果たそうとしている任務を、次のように認識している。この高校には、中長期的にスキル発現の監視を必要とする生徒が複数名在籍している。俺たちが把握しているのは、俺、堀田、神宮前、鳴海、桜、栄生。そしてこのメンバーに付随する人間として、上小田井、有松、呼続、常滑。以上10名だ。他にも、俺たちの知らないスキル監視対象者がいるかもしれんが、俺たちが確保すべき人間は今挙げたメンバーだけだ。それ以外に対してお前が何をしようと、俺たちは基本的に関与しない。が、このメンバーへの危害については全力で止めにかかる。次に、お前が俺たちのスキル発現を監視する理由についての俺たちの認識だが、発現を察知次第、殺害対象として報告するためだろう。もしかすると、奴らにとって有意なスキルであれば、召し抱えられるパターンもあるのかもしれんがな。本星崎、お前がそうであるようにな」

「…そ、そう…。わ、わざ、わざわざ、おし、教えてくれて、あり、ありがとう…」

「ふん…。どういたしまして、と返すのが礼儀というものか」

「い、いち、一応言っておくけど。と、常滑ちゃんに、わた、私の考えを読ませようとしても、む、無駄だから。あ、あの、あの娘のスキルは、も、もう限界だから」

「スキルが限界…だと? 本星崎、キミは、とこちゃんの崩壊フェイズが近い、と言いたいのか?」

「そ、それ、それは自分で確かめたら? わ、私たちは、も、もうあの娘には用がないから。ほ、崩壊フェイズに到るまでもなく、す、すき、スキルは消失するだろうし」

「スキルが…消失するだって? そんなパターンもあり得るのか…」

「ふ、ふん…。わ、わた、私は他の用があるから、こ、これで、しつ、失礼するわ。わ、私に、つ、つきまとっても無駄よ。じゃ、じゃあね」

「あ…本星崎、これだけは覚えておいて欲しい。もし、本星崎が自分の意志に反して防衛省の言いなりになっているのであれば、僕たちはいつでも力になれる」

「…ふん…」


「豊橋、本星崎にわざわざ僕たちの仮説を伝える必要があったのか? 手の内を見せたも同然だ」

「無論だ。これで今後、本星崎は、俺たちの行動や自分自身の行動について、常に仮説と比較しながら判断していく事になる。最大の目的は、その心の動きを常滑に把握させる事で本星崎から情報を収集する事にあったが…常滑のスキル消失という話は気になる。もっとも、だ。常滑が心を読まずとも、本星崎の行動は、これで今後、心理的に縛られる事になる」

「スキルが消失して、とこちゃんが殺害対象から外れるなら、それ以上の安心はないんだけど…」

「どちらにせよ、常滑本人の様子を確認する必要があるな。今日、お前と桜は常滑と会うのか?」

「登下校は見守りをするからね。会う予定だよ」

「ふむ。状況がわかったら、すぐに共有してくれ」


「…なによ。私に何か用? というか、あなた誰?」

「あ、あな、あなたが左京山さんだと、おも、思ったけど…。スキ、スキル発現していないのね…。ひと、人違いだったかしら…。か、顔は知らないから…」

「…あなた、随分と失礼ね。独り言を言いに来たなら、さっさと回れ右して貰えるかしら?」

「ご、ごめ、ごめんなさい。わ、わた、私は、きょ、今日転校してきた、も、本星崎です」

「…転校生? この時期に? どこのクラス? なんで私に用があるの?」

「ふ、ふふ…。さ、さきょ、左京山さんが、ディ、DTMに詳しいと、き、きいたものですから…」(DTM:PCなどを使ったデジタル音楽製作のこと)

「…DTM、興味あるの?」

「は、はい。きょ、興味はある、あるんですが、き、機材とか、よ、よくわからなくって…」

「…ふうん。そこの席に座りなさいよ。今日、早退したみたいだから、戻ってこないわ」


「なんだって? 本星崎が…そこまで入り込んできているのか…」

「ね? あたし、本当にびっくりしちゃった。あたしと普通に話ができる事にもびっくりしちゃったけど」

「桜…なに要人ぶってるんだよ…。でもさ、文藝部に入っても調査できる対象は桜だけだよね?」

「ちょっとお、鳴海くんだって文藝部でしょ」

「そ、そうだった…。兼部だけどね」

「もう。夏休みになったら、活動量も増やすつもりなんだからね」

「で、でもさ。入部はいいけれど、本星崎は文藝に興味なんかあるのかな?」

「一応きいてみたんだけれど、前の学校では図書委員だったみたいだよ。あと、ホラーゲームが好きだから、心霊小説を書いてみたい、って言ってた」

「あ~…確かに、そんな雰囲気だな。まあ、スキル監視のために、わざわざ文藝部に入ってきた、という事は、僕と桜は『すごいスキル』の発現者ではないってことだね」

「そうなりますか~」

「そうなりますな」

「あ、鳴海くん、ほら、とこちゃんたち。もう校門で待ってるよ。お~い、とこちゃ~ん、きましたよ~!」

「ほら、常滑さん。迎えに来てくれたよ。わかる? 誰と誰が来てくれた?」

「ええっとお…ええっとお…。だめだでよ…。わかりゃーせん…。う、うち、もういやだ…。たいせつなひとのなまえもおもいだせんようなってまったがや…」


「まさか、そんな事になっていたなんて…」

「とこちゃん、大丈夫だよ。あたしたちが一緒に解決できるようにがんばるからね。ほら、抱きしめてあげる。ぎゅううううう」

「ねえちゃん…うぇええええええぇん」

「トコちゃん…かわいそうに…。くすんっ」

「鳴海さん、常滑さんを病院に連れて行った方がいいでしょうか?」

「連れて行った方がいいな。脳神経内科とかだろうか…。桜、とこちゃんの両親に連絡できるかな?」

「鳴海くん…とこちゃん、両親はいらっしゃらないのよ」

「両親はいない…?」

「小さい頃に両親が離婚されてね、だから、おばあちゃんっ子なんだよ」

「そうなんだ…知らなかった」

「鳴海さん、監護権はおばあ様がお持ちですが、親権はお父様にあるそうです。お父様は離れて暮らしているそうなんですけれど、月に何回かは様子を見に来ているみたいですよ」

「上小田井くんは難しい事を知ってるんだね…。でも、そうすると、おばあさんに連絡をとる感じか…」

「鳴海くん、このままとこちゃんを、分団集合場所じゃなくって、お家まで送ってあげようよ。おばあちゃんがいると思うから…」

「そうだな…。そうしよう。とこちゃん、もうスキルを使うのはやめたほうがいい。スキルを使わなければ、治るかもしれない」

「そ…そんなこといわれてもよ…。うちがおもわんでも、かってにひとのこころがみえてまうもん…。うち、このちからでほんとうにみたいものがあったのによ…。それまでに、ぜんぶわすれてまうかもしれん…」


「なるほど。本星崎が言っていたのはその事だったとみえる。常滑のスキルは、使えば使うほど記憶を消費していく。崩壊フェイズに入るまでに、スキルの記憶自体が消失する、という理屈か」

「見ていて、痛ましかったよ…。可逆的な現象だといいんだけど…」

「本星崎が無視して問題ないと判断した。ここからの推論として、不可逆的だと考えるべきだろう。常滑の記憶は戻らん。残念だがな」

「…僕もそうだろうと思うけど…。なんとか治す方法を見つけたいよ…」

「こっちからも情報共有だ。堀田からの情報によると、本星崎は左京山に接触したようだ」

「左京山に? という事は、やはり僕にメッセージを送ってきたのは、あの左京山なのか?」

「さあな。DTMを教えて欲しいと言って近づいたらしい」

「文藝部にDTMか…。思いの外クリエイティブなんだな、本星崎は」

「行動が、俺たちにとって解り易すぎるな」

「存外に、僕たちに不自然に見せないようにするためにやってるのかもしれないよ。豊橋が仮説を話したからな」

「ふん。さすがにそこまで愚かではなかろう。逆に、俺たちも本星崎の行動に惑わされないようにする必要がある」

「そうか…。確かに。文藝部にしろDTMにしろ、僕たちを欺くため行動である可能性もあるのか…」

「とは言え、だ。組織に組み込まれれば組み込まれる程、行動は制限されていく事になる。文藝部を使うか…。だが、常滑のスキルがまだ使える事が前提だ」

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