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間隙のヒポクライシス  作者: ぼを
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0章:衛星からの物体X(第2話)

「はあ、はあ…。危なかった…。思ったより遠くの海に落ちたみたいだ…」

「び、びっくりしたね…。直撃しなくてよかったあ…」

「もうすぐ、落下の衝撃音と衝撃波がくると思うよ。直撃を喰らわないように、防砂林の向こう側に急ごう」


 ドオォォォォン!!!


「きゃ!」

「うおっと…もう来たか…」

「も~、もっと早く教えてよね」

「ごめんごめん。でも、まあ、それほど強い衝撃波じゃなくてよかったよ。とりあえず、街の方がここよりは海抜が高いはずだから、街の方に戻ろうか」

「う、うん。そうしよっか。津波が来たら大変だもんね」

「だけど、隕石の落下をこんなに間近で見る機会に恵まれるとは思わなかったな。運が良ければ、何日か後には、破片くらいは浜辺に打ち上げられるかもね」

「そっか、鳴海くんは物理とか化学とか得意なんだっけ?」

「得意…ではないけど、物理は嫌いじゃないかな。化学は苦手。特に、有機式が」

「ふ~ん…」

「な、なんだよ?」

「あたしは怖かったよ? 隕石の落下を目の前にしてさ」

「まるで僕が、恐怖知らずのサイエンス馬鹿みたいな言い方をするよなあ」

「鳴海くんは怖くなかったの?」

「うむ。怖くなかった。と、言えば嘘になるね」

「えへへ、な~んだ。じゃあ一緒だね」

「桜と一緒にされるのもなんだかなあ…」

「え~、なによそれ。ん? あ! あれ、もしかして、豊橋さんと堀田さんじゃない?」

「なに? どこ?」

「ほら、道路。あっちからやってくるの…」

「ああ…そうだね。豊橋と堀田さんだ。豊橋のやつ、いつの間にバイクなんて買ったんだ? それに、2人乗りは、免許取得から2年間は禁止じゃなかったか? それ以前に、あれは原付…」

「あ。あたしたちに気づいたみたいだよ。停まってくれるみたい。おお~い!」

「叫ばなくても、停まってくれるよ…」

「よかった、鳴海くんも桜ちゃんも、無事だったのね…」

「堀田さん、びっくりしましたよね~…。まさか、隕石が落ちてくるなんて…」

「豊橋、いつの間に免許なんて取ったんだ? アメリカンなのがお前らしいけどさ…」

「鳴海、桜。悪いが、無駄口を叩いている時間が一切ない」

「ん? どういうこと?」

「お前たちが少しでも自分の命というものに未練があるのなら、今すぐ後ろを振り返って現状を把握する事を勧める」

「なんだって?」

「ああっ!! な、鳴海くん…!! あれ…」

「ん? あ…まさか…」

「ど…どうすればいいのかな…」

「…そうか。もう来てしまったのか…」

「10mは超えてるだろう。鳴海が、隕石落下と津波の到達速度を見誤ったのは残念としか言いようがないな」

「ねえ、鳴海くん、あの高さの津波だと…」

「ここにいたら、確実に飲まれる。飲まれたら、確実に死ぬ…」

「あと、どのくらいでここまでくるのかなあ…」

「隕石の落下速度が音速の10倍程度だとして、津波の速度を自動車程度とすると…いや、すぐに正確に計算はできないけど、目算で100秒ってところだろうな」

「という訳だ。俺と堀田が偶然通りかかった事に少しでも感謝の気持ちがあるのなら、さっさと黙って早く乗れ」

「乗れって…このバイク、本来は1人乗りだろ? 堀田さんで既に定員オーバーだ」

「それがどうした。堀田の後ろに桜、それから前輪の上にお前が跨がれば、なんとかなる。もう時間がない。お前と陳腐なトロッコ問題について議論をするのは、全員生き残ってからにしたいところだ。解ったら、早く乗れ! このままだと全員死ぬ!」

「いや、そうじゃなくって、このバイク、原付だろ? 4人乗って走れる訳がないよ。馬力が全く足りないし、タイヤが4人を支えられるとは思えない」

「なるほど…。4人乗れば、全員が死ぬ、という事か」

「鳴海くん、桜ちゃん、急いで! もう、波がすぐそこまで来てる!」

「豊橋…。桜だけ…桜だけ、連れて行ってくれないか?」

「桜だけだと? …そうか。お前らしい、賢明な判断だろう。解った」

「え? なに? どうして? 鳴海くん、それはイヤ…! できないよ…」

「桜ちゃん、早く! アタシの後ろに乗って!」

「桜、お願いだ! 行ってくれ! 僕のために、行ってくれ!」

「そんなの…やだ…やだぁ…」

「あと10秒以内に判断しろ! それを過ぎたら問答無用で出発する!」

「桜、行くんだ。桜が生きていない世界ならば、僕は生きていたって仕方がないんだ。お願いだ。言う事を聞いてくれ」

「桜ちゃん、ほら、アタシの手を握って。鳴海くん、ごめん! なんとか、自力で生き残って!」

「鳴海くん…それは…あたしだって同じなんだよ…」

「ん?」

「ねえ、鳴海くん。…解った。あたし、堀田さんの後ろに乗る」

「…そうか、良かった」

「でもね、ほら、バイクのシートが高くって、あたし、足が届かないの。先に鳴海くんが跨って体重をかけて、下げてくれる?」

「シートを? あ、ああ。…ほら、下げたよ。早く跨って、堀田さんの腰に手を回して。振り落とされないように頑張れよ…」

「鳴海くん…。ねえ、抱きしめてもいい? ぎゅうぅぅぅぅ」

「桜…? なんだよ急に…」

「満足した。ありがとう」

「ど…どうしたんだよ、桜。そんな目をして…」

「えへへへ…。あたしたち、キスもまだだったね…」

「お…おい、桜…何を…言ってるんだ…? はやく、乗ってくれよ…」

「あ~あ…結局、あたし、処女のままだったな」

「桜? おい! 桜! 早くしてくれ! 早く乗ってくれよ! もうそこまで、波が来てるんだよ!!」

「鳴海くん、おかげで、なかなか愉快だったよ。豊橋さん、堀田さん、お願いしますね」

「桜! 桜! 乗れ! 乗るんだ!」

「じゃあね! ばいばい」

「さくら、どこに行くんだ! ここに乗れよ! ここなんだよ! さくら!」 

「桜ちゃん…そんな…波に向かって…走っていくなんて…」

「フルスロットルで波から逃げる。2人とも、振り落とされるなよ!」

「さくらあぁぁぁぁああ!!!!」


「すごい…津波…。これが津波なんだ…。ゆっくり時間をかけて、水かさが上がるものだと思ったけれど…近くに落ちたからかな…水の壁…。まるで映画みたい。こんなに現実感がないものに、これから飲み込まれて、死ぬのね…あたし…。鳴海くん…」

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