3章:幼年期で終り(第6話)
「それだけではない…って?」
「検証の目的は、常滑のスキル発現の確定と、対策だけではなかろう、と言っている」
「…いや、それだけだ」
「常滑のスキルが本物であれば、既にお前が何を隠そうが無駄だ。さっきも言ったがな」
「鳴海にいちゃん、何を考えとりゃーすか? うちの能力を使って、スキルの秘密を探るって、どういうことかしゃん」
「…という事だ」
「わかった…。そうだな。とこちゃんにも理解しておいて貰ったほうがいいかもしれないな」
「うち、にいちゃんたちの役に立てる事なら、なんでも協力したるでよ」
「うん、ありがとう」
「何をしたればいいかしゃん」
「そうだね…。とこちゃんの超能力はすごいんだけれど…危険でもあるんだ。でも、どんな危険があるのかは、まだ僕たちにも本当のところはよくわかっていない。知っているのは、防衛省…おそらく一部の自衛隊員とか…だけなんだ。もし、彼らの心の中を覗くことができれば、その秘密を知ることができるんじゃないかと思って」
「うちの超能力…。もしかして、国府ねえちゃんが転校していった理由も、その超能力が関係しとるのかね?」
「え? どうしてそう思ったの?」
「鳴海にいちゃん、超能力の話をするたびに、国府ねえちゃんの事を考えとらっせるようだでよ」
「国府の事を…。そうか。そうかもしれない…」
「国府ねえちゃんにも、超能力があるんかね?」
「多分…あった。ただ、僕たちにも確証がないんだよね」
「そうかね…。それはうちと同じ超能力かね?」
「とこちゃんとは違う超能力だった…。もしかすると、国府やとこちゃん以外の他の人にも、今後そういった超能力ができるようになるかもしれないんだ」
「…超能力が使える事に、危険がともなう事と、他にもそういう人がいりゃーすかもしれんことは、理解したでよ…。じゃあ、うちが協力すれば、他にも助かる人がでてくるかもしれん。うちは何をすればいいかしゃん」
「ありがとう…とこちゃん。まずは、とこちゃんのスキルを具体的に把握するために、これから行う実験に付き合ってほしい。もし、実験の結果、とこちゃんのスキルを使って秘密を探れそうだったら、その協力をお願いしたいんだ」
「わかったでよ。で、どんな実験をするつもりでらっせるのかね」
「実験には、観覧車を使う。まず、君たち小学生4人組は一緒に同じゴンドラに乗ってもらう。で、僕と桜、豊橋と堀田さんが、それぞれ別々のゴンドラに乗る。都合、別々のメンバーが乗り込んだ3つのゴンドラが同時に動くことになる」
「ふむふむ」
「次に、それぞれのゴンドラから順番にとこちゃんに電話をかける。まず、とこちゃんのゴンドラから一番離れたゴンドラに乗っている豊橋が、とこちゃんに電話をかける。この時、豊橋と一緒にいる堀田さんが頭に思い浮かべた物を、とこちゃんに回答してもらう。次に、とこちゃんの隣のゴンドラに乗り込んだ僕がとこちゃんに電話をかける。この時、僕と一緒にいる桜が頭の中に思い浮かべた物を、とこちゃんに当ててほしいんだ」
「なんだ、そんなことかね。わかったでよ。上小田井くんも有松くんも呼続ちゃんも問題ないかね?」
「うん、常滑さん。ぼくたち、みんな大丈夫だよ」
「ねえ鳴海くん、アタシと桜ちゃんは、それぞれ何を思い浮かべればいいのかしら?」
「思い浮かべる物については、予め僕がメモに書いて、この封筒に入れてありますよ、堀田さん。どんな物が書いてあるかは、僕以外の人間は現時点では誰も知らない」
「なるほど。この封筒は、電話をかける直前までは開いてはいけない、という訳だ。先に思い浮かべる物を知ってしまうと、常滑のスキルを正確に測れないからな」
「その通りだよ。封筒は2枚ある。好きな方を、豊橋と堀田さんに選んでほしいんだ。更に言うと、それぞれの封筒には異なる3種類のお題が封入してある。電話をかける直前に、3つのうちから1つを選んでほしい」
「念には念を入れて…か。では、俺も鳴海に倣って、こっちを貰うふりをして、こっちを貰うことにしよう」
「よし、それじゃあみんな、観覧車に向かおう」
「ところで…だ。鳴海よ、これでよかったのか」
「言いたい事はわかってるよ。国府の時と同じだ。僕はまた、スキル発現者に対し、命に関わるリスクを負わせている。しかも、あんな小学生の女の子を、だ…」
「自覚があるならいい。俺は、それを残酷とは思わん」
「知りたいのは、スキル発現の条件、崩壊フェイズのパスの仕方、そして、なぜスキル発現者を自衛隊は殺害しようとしているのか。この3つがわかれば、とこちゃんを救う事ができるかもしれない。もし今後、僕たちの誰かにスキルが発現したとしても、対策ができる。とこちゃんに協力してもらうのが、この一連の問題を解決する最短ルートのはず…だ…」
「…了解した。では、俺と堀田は、お前たちのゴンドラから半周待ってから、乗り込む事にしよう」
「ト、トコちゃん、実験って、なんだかドキドキするね」
「そうかしゃん? うちは全然動揺しとらんでよ」
「あ、ほら、隣のゴンドラの桜さんがこっちに向かって手を振ってるよ」
「ホントだ! おれ、手を振り返そう。あ、笑った!」
「なんだね、有松くんは、桜ねえちゃんみたいな人がタイプかね」
「そ、そんなんじゃねえよ。ただ、桜さんと鳴海さんの関係が気になっただけだ」
「桜さんが鳴海さんを好きなのは間違いないと思うんだけどね。ぼくは、鳴海さんが桜さんをどう思ってるのか、気になるな」
「うちは2人の心の中がわかるから、なんとなく結論はでとるでよ」
「え~? トコちゃんの結論って? 教えてよ~」
「ふっふっふ。それは秘密だでかんわ。あっ! 豊橋にいちゃんから電話がかかってきたがね」
「常滑か。よし…このまま、待機しろ。堀田よ、封筒を開けるんだ」
「えっと…。絵が描かれたカードが3枚…ね。どれでもいいのかしら?」
「なるほど、図面か。どれでもいい。できるだけ考えずに、直感で選ぶ方が検証としては有意だ」
「じゃあ~…これ。豊橋くん、選んだよ」
「よし。じゃあ、その図面を口には出さずに、頭に思い浮かべるんだ」
「…OKよ」
「では、スマホをスピーカーモードにする。おい、常滑。準備が完了した。堀田が今、頭に思い浮かべている物がわかるか?」
「よ~く見えとるでよ」
「そうか。見えてる、のか。では、内容を説明してみせろ」
「ええっとお…堀田ねえちゃんが思い浮かべているのは、絵だがね。これは…ライオンかね? でも、腕が8本、足が6本で、角が2本生えとりゃーすわ。ゲームかなにかのキャラクタかね?」
「どうだ堀田」
「…正解だわ」
「常滑、正解だ」
「どえりゃー簡単だでかんわ。だけども堀田ねえちゃん、ライオンだけじゃあらせんことにゃーきゃ?」
「え、ええ…。他にも描かれている物があるわ…。わかるかしら?」
「わかるでよ。まず、ライオンの絵の下に、キングライオン、と文字がかかれとるがね。それから、ライオンの左隣に…木が何本か描かれとる。右隣には窓のある家。それから上には雲と太陽かね」
「す、すごいわ…。そんなに詳細にわかるのね…」
「なるほど。この調子だと50mをはるかに超えてスキルを適用できると見て間違いあるまい。そして、常滑と目標物の間に、ある程度の遮蔽物が存在しても問題がないようだ。どういう理屈かは解らんがな」
「それよりも豊橋にいちゃん、うち、さっきからちょっと気になる事があるんだわ」
「気になる事だと? 話してみろ」




