3章：幼年期で終り（第3話）
「おい常滑、お前、あんまり調子に乗るなよ。今度は何をおれたちに見せよう、っていうんだよ」
「有松くん、うちに怖気づいたかね？ とれーこといっとったらかんわ」（とろい：名古屋弁。遅い、鈍い、愚鈍な）
「ト、トコちゃん、もうやめようよ。トコちゃんが凄いのはよくわかったし、みんな怖がっちゃってるよ」
「怖いことあらすか。うちの新しい特技だでよ」
「呼続さん、有松くん、とりあえず、常滑さんの特技について、見てみようよ。怖がるのは常滑さんに失礼だよ」
「さっすが上小田井くん、よーわかってりゃーすが。じゃあ、見せたるでよ」
「常滑さん、今度は、どんな事ができるの？」
「みんなが、頭の中に思い浮かべた物を、全部あてたるがね」
「頭の中で思い浮かべた物だって？ 常滑、それって、食べ物とか、ゲームのキャラクターとか？」
「ふっふっふ。なんでもあてたるわ」
「よーし、じゃあ、今、俺が食べたいと思っている食べ物は何だ？」
「そんなの、でら簡単だが。えーっと、カレーライス。なんだね、有松くんは、しゃびしゃびのカレーライスが好きなんかね」（しゃびしゃび：名古屋弁。水っぽい）
「おお…正解だ」
「有松くん、カレーライスは食べ物の選択肢として普通すぎるから、偶然かもしれないよ。じゃあ、常滑さん、ぼくが食べたいと思っているものは？」
「えーっと…上小田井くん、その飲み物の名前うちは知らんから、言葉で思い浮かべてちょーよ」
「え…？ ああ、そうなんだ。じゃあ、言葉で思い浮かべるね。食べ物、とひっかけたつもりなのに…飲み物という事は、解ってるんだ…」
「うーんと…バニラソイアドショットシナモンハニーメープルチョコレートソースオールホイップブラウンモカチップクリームフラペチーノグランデ…なんだねこりゃ。舌を噛みそうだがね」
「じゃあじゃあ、トコちゃん、わたしの思い浮かべているものは？」
「呼続ちゃんのは…。おおー、おいしそうだがね。絵本に出てきそうなパンケーキ」
「す、すごーい。わかっちゃうんだ。これ、いつか行ってみたいカフェのパンケーキなんだよね」
「でも、これで常滑さんの超能力について、ちょっとわかってきたよ。つまり、誰かが頭に思い浮かべている物を、どういう理由か知らないけれど、見ることができるんだよね？ だから、円周率も…。ぼくが目で追っている数値を読み上げていたんだ」
「まー、そうだがね」
「おい、上小田井、ヤベーよこいつ。だって、俺がエッチな事を考えたら、それが解るってことだろ？ そんなヤツの近くにいたくねーよ」
「有松くんは、そんなに毎日エッチな事ばかり考えとったらまーかんがね」
「そ、そんなんじゃねーよ…」
「常滑さん、その超能力って、どんな人に対しても使えるの？ 知らない人にも使えるのかな？」
「知らない人かね。じゃー、あそこを歩いとる女子高生のお姉さんが何考えてるか、あてたるわ」
「どうだ？ あの女子高生、彼氏の事とか考えて歩いてるのか？」
「ええっとお…なんだねこりゃ？ よーわからん。す、スキルがどうのとか…見つけたら報告しなきゃ、とか…。何を考えとりゃーすかね？」
「スキル？ スキルってなんだろうね。歴史に出てくる偉い人の名前なのかな？ テストが近いのかもね、トコちゃん」
「きっとそうだぎゃ。大人の思っている事をのぞいても、面白くあるみゃー」
（ん？ あ、あ、あれ？ い、い、いま、今の子…。へ、へえ…。お、おも、面白いスキルが、は、はつ、発現しているのね…。も、も、もしかすると、わた、わた、わたしの思考も、よ、よま、よまれちゃったかな。で、で、でも、ま、まあいいか。とり、とり、とりあえず放っておいても。あ、あ、あんな、こど、子供だし。それに、あ、あの、あの手のスキルは、つ、つか、使えば使うほど、じゅ、寿命以外にも、た、たい、大切なものを失ってしまうスキルみたいだから…。か、かん、監視だけして、ほ、ほう、崩壊フェイズに入る前に回収すれば、も、もん、問題なさそう。でき、で、できるだけ、さ、騒ぎは起こすなと、い、言われてるしね…。あ、電話…）
「も、も、もしもし。は、はい、わた、わたしです。だ、だい、大丈夫です。わ、わたしだけです。はい。は、はい。え？ あ、あの、こ、高校生たちですか？ そ、そう、そうですか…。わか、わか、わかりました。わた、わた、わたしの、こん、今回の、お、おし、お仕事は、なん、なんですか？ はい。は、はい。と、とう、当日に…。りょ、りょう、了解しました。は、はい。け、けし、消しておきます。はい。し、しつ、失礼します」
（そ、そう、そうか…。あ、あの、あのワンピースの女の子以外のスキルは、ま、まだ鑑定していなかったから…）
