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間隙のヒポクライシス  作者: ぼを
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3章:幼年期で終り(第1話)

仮説:崩壊の延期には、崩壊の連鎖に関与する特定の代償が伴うのではないだろうか


「左京山さん、おはよう。ちょっとお話しても、いいかしら?」

「…なによ。あなたのクラスは、隣でしょ…」

「アナタに用があって来たのよ。話しても?」

「…いいけど。手短にしてよね…」

「わかった。ありがとう。ここ座っても?」

「…知らないわよ。まだ登校してきていないんだったら、いいんじゃないの」

「左京山さん、最近、変わらずに元気してる?」

「…なにがいいたいの?」

「だから、最近、左京山さんに変わったことがないかと思って、訊いてるのよ」

「…そんな事を訊くために、わざわざ私のところにやってきたの? …暇なのね…」

「アタシにとって重要な事だから、これを訊くためにアナタのところにきたの」

「…そうね…。特に、何もない、ってところかしら…」

「何か、特別な特技が最近身についたとか?」

「特技ですって…? そんな訳ないじゃない。突然何かが身につく程、人生は単純じゃないでしょ…」

「そう…。じゃあ質問を変えるわね。先日転校していった、1年生の国府さんってご存知かしら?」

「…知らない。それがなにか、私に関係があるの?」

「国府さんは、ある日突然、妙な特技が使える様になった」

「…ふん。それは、労せずして人生を好転させるような特技なのかしら…。そんなに甘いものじゃないでしょ」

「国府さんの特技は、他人のバストサイズを正確に測れる…事だったの」

「バストサイズを…? ふふ…。バカみたい。それが特技なの? それが何の役に立つというのよ…」

「とにかく、そんな感じに、最近になって突然できるようになった特技が、左京山さんの身にも起こっていないかしら?」

「…あなたたち、何か夢でも見てるんじゃないの?」

「それは、左京山さんの身に生じた変化はない、という回答と解釈していいのかしら?」

「…あるわけないじゃない。だいたい、なんで私にそれを訊くのかしら?」

「アナタだけじゃないわ。他の人にも確認をしているの」

「…ふうん。まあいいわ。あなたのその奇行について深掘りするのは面倒くさそうだし、私には関係のないことだから」

「そう…。でも、ありがとう。とりあえず、アナタにスキルが発現していない事は確認できたみたいだわ…。もうひとつ質問してもいいかしら?」

「…まだ用があるの? そろそろ本当にウザイんだけど」

「すぐに終わるから」

「…なによ」

「アナタのお友達に、伊奈さんという人はいる?」

「…知らないわよ。この高校の生徒なの?」

「いえ、違う学校の生徒。アタシたちより1コ下の、2年生の女の子」

「…興味ないわね…。だいたい私に、よその学校の、しかも年下の知り合いなんていない」

「そう。ありがとう。伊奈さんの事は、知らないのね…。ねえ、ところで、その首から下げてるヘッドフォン、普段、何を聴いているの?」

「…その質問は、今までの延長? それとも新しい質問?」

「新しい質問よ。単純な、アタシのアナタに対する興味」

「そう。…フフ…。このヘッドフォンね…。聴いているのは、ただのホワイトノイズよ…」

「ホワイトノイズを? 何のために」

「何のために…? 落ち着くからにきまってるじゃない」

「ホワイトノイズ…が、落ち着くの? 無音とか…ノイズキャンセリングとかじゃなくって?」

「無音の方が救われると思っているだなんて…。あなた、哀れね…」

「…質問を変えるわね。最後にもう一つだけ教えてくれるかしら。左京山さんに、ご兄弟や姉妹はいらっしゃるのかしら?」

「…もうあなたのクラスに帰って貰っていいかしら。…そんな事をあなたに話して、私になにかメリットがあるの?」

「メリットがあるかはアナタ次第だけど、アタシはその事に興味がある。教えてくれるかしら」

「…私はひとりっ子よ…。兄弟も姉妹も、いるわけないじゃない」

「そう…。わかったわ。どうもありがとう。また声をかけさせてもらうわね」

「…ふん。用がないなら、二度とこないで欲しいわね」


「という訳で、残念だけど、左京山さんから新しい情報を得ることはできなかったわ…」

「そうか。ならば、現段階で可能性は2つという訳だ。1つは、左京山が嘘をついている。そしてもう1つは、左京山違いだった」

「後者の方が、可能性としては高そうだよね。僕らの知らないどこかの左京山という人が、僕らの身に起こる事を予見して伊奈に伝えている…」

「ふん。気分の良いものではない。そもそもそんなスキルが発現しているのであれば、防衛省がなぜスキル者を殺害せねばならんのか、知っていておかしくあるまい」

「確かにな…。それをあえて伊奈に伝えていない、となると、豊橋の言う通り、左京山は既に奴らに利用されていると考えた方がいいかもしれない。伊奈を利用してスキル者の居場所を特定して、殺害をしていく計画でも立てているかもな…」

「ねえ、豊橋くん、鳴海くん。アタシ、ちょっとおかしいと思うのよね。なんで、彼らはスキルを持った人を殺す必要があるのかしら? もし、スキル自体が未知の事象なら、殺すよりも先に、なんらかの実験をして研究対象にするのが道理じゃない? 突然殺すだなんて…合理的ではないわよね…。それに、放っておいても、いずれ爆発で死ぬのに…。わざわざ殺さなくても…」

「豊橋、堀田さんの言う通りだよ。つまり、奴らはスキルについて、僕らが想定している以上に、何かを知っている。知っているから、何の分別もなく殺そうとしてきた。世界を破滅させるような超能力者の出現を恐れているのか?」

「本来的には、むしろ逆だ。そんなスキルを持った人間が発現したとしたら、兵器として確保すべきだろう。それをしない、という事は、スキル者が国に対して敵対する事を恐れているか、あるいはそれ以上のリスクが存在していると考えるのが自然だ」

「しかも、それを隠蔽しようとしている…という事か。でなければ、一般人を巻き添えにしてまで、問答無用でスキル者を殺すリスクを負う意味が解らないし、爆発したスキル者の残骸を、まるでなかったかのように除染清掃する理由も解らない」

「どのみち…だ。伊奈の事も、多少警戒しておいた方がよかろう。自衛隊の方から俺たちに接触をしてこない限り、今の俺たちにできることは何もない。あるいは、新たにスキルが発現した者を見つける事ができれば、スキル発現の要因を調査できるかもしれんがな」

「そうだな…」

「あっ、予鈴が鳴った。あたし、3年の教室に戻るわね」

「ああ。堀田、左京山の調査についてはよくやった。お前も、充分に気をつけてくれ」

「言われなくても解ってるわよ、豊橋くん」

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