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間隙のヒポクライシス  作者: ぼを
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2章:時を賭ける少女(第10話)

「ねえ、鳴海くん。国府ちゃんが死んじゃってから、まだ1週間だけど…あたしたち、もう、あの公園に足を運んじゃって大丈夫なのかな?」

「大丈夫さ。奴らが、本気で短期間に僕たちを殺害したいのであれば、この1週間のあいだに、僕たちになんらかの接触をしていてもおかしくない。それがないってことは、奴らは別の手段を考えてるって事さ。それよりも、国府をあのまま放置してきてしまった事の方が気がかりだよ」

「うん…。そうだよね」


「う~。あっついね~! そっかあ。あの公園、バス停じゃないところだったから、ここから歩いていかなきゃいけないんだね」

「途中にコンビニがあったと思うよ。チョコミントアイスでも買う?」

「おっ、いいですねえ」


「ガーン…。また、チョコミントアイスがないなんて…。もうすぐ真夏なのにい…」

「ははは。運がなかったね。で、どうせ、またソフトクリームを食べるんだろ?」

「そのとおり! という訳で、鳴海くん、買ってきてくれる?」

「な、なんで僕が…」

「お願い! コーンはあげるからさ」

「コーンは…って。コーンだけは、だろ。ったく。仕方ないな、桜は…。解ったよ」


「あ~…やっと到着したね」

「思ったよりも遠かったな…。まあ、バスで何分か乗るくらいの距離だから」

「ちょっとドキドキしちゃうな…。まだ、あの時の印象が残っているんだよね…」

「それは僕も同じだな…。国府の最期の場所だから、悪い印象はできるだけ持ちたくないんだけれど…複雑な感情が入り乱れているよ」

「あ、広場。よかったあ…のかな。国府ちゃんはどこにも残っていないね…」

「さすがに、国府の残骸はキレイに片付けられているか…。除染車…って言ってたな、ゴブリンのやつ。やっぱり奴らは、崩壊の最後に爆発が起こる事を知っていたんだ…」

「国府ちゃん、結局転校した事にされちゃったもんね…。ホントの事を知っているのは、あたしたちだけか…」

「沢山の命を助けたのに、当の本人は讃えられもせず、いずれ人の記憶からも消えてしまうのかもしれないな…。こうして広場を見ていると、国府がここで死んだ事も、本当は夢だったんじゃないか…と思えてくるよ」

「鳴海くん、ダメだよ、そんなんじゃ! あたしたちが、しっかり覚えていればいいんでしょ?」

「そうだな…。僕たちだけは、国府の事を絶対に忘れちゃいけないんだ」

「えへへ。よかった。国府ちゃん…安心してね…。あたしたち、死ぬまで国府ちゃんの事を覚えているからね…」

「さて…と。これから、どうしようか」

「あ…あれ。ねえ鳴海くん、あそこ。見て」

「ん? ああ…。これは…双葉? こんな広場の真ん中に?」

「鳴海くん…これ、ひょっとして、ヒマワリの芽じゃない!?」

「ヒマワリ? なんでこんなところに…あっ!」

「ね!? そう思わない?」

「そんな事があるのかな…。でも、場所といい、発芽のタイミングといい、そうとしか思えないなあ…」

「ねえ、鳴海くん、このままじゃ、そのうち子どもたちに蹴られたり、誰かに踏まれちゃうよ。ええっと…ほら、あっちの花壇の方に、植え替えてあげようよ」


「これでよし…っと」

「ヒマワリって、どのくらいで花が咲くのかな?」

「さあなぁ…。僕も植物には詳しくないからな。でも、成長が早い植物だから、この夏中には花を咲かせるんじゃないかな」

「そっか…。じゃあ、また夏の終わり頃くらいに、この公園に様子を見に来ようよね」

「なるほど…なんで人が、事あるごとに記念樹を植えようとするのか、なんとなく理解できた気がするよ」

「えへへ…そうだね。じゃ、国府ちゃんにバイバイして、行こっか」

「うん。帰ろう。またあの道を戻るのかあ…」

「ちょっとお、帰ろう、じゃないでしょ? せっかくここまで来たんだよ?」

「え? ここから、どこに行こうって言うんだよ。まさか、あのラブホテル…じゃないよな」

「鳴海くんのバカ! じゃないでしょ。国府ちゃんが行きたがっていたところだよ」

「国府が? あ…あ~、あの絵本のパンケーキの…」

「そうそう。ね? 行こうよ。でも、さっきソフトクリーム食べちゃったから、1つのパンケーキをはんぶんこしよ!」

「わかったよ。行こう。結局、方向が違うだけで、同じくらいの距離を歩かなきゃいけないんだな…」


「いらっしゃいませ。1名様ですか?」

「え? いや、2名です」

「こちらのお席にどうぞ!」

「おお~、いい席ですな~。鳴海くん、大きな窓から、外の景色がよく見えるよ!」

「天気が良くて、よかったよなあ…。このカフェ、小高いところにあるんだね。そして、この内装…。まさに絵本の世界」

「ステキだよね~。ねっ、どうする? せっかくだし、ゾンビ映画の感想を言い合いますか?」

「そんな、夢の国のテーマパークのレストランで、スーツを着たオジサンたちがビジネスの商談をするような真似はできないよ」

「なにそれ。鳴海くんは例え話が下手ですなあ」

「うるさいなあ」


「パンケーキ、お待たせしました~!」

「こ、これは確かにすごい…」

「わあ~、本当に絵本の世界から出てきたみたいだね。あ、写真とっちゃお!」

「はちみつかけちゃっていい?」

「いいよ! 上手にかけてね」

「上手に…って…。あちち! スキレット触っちゃった…凄く熱い」

「そのままオーブンに入れて焼いてるからね~。気をつけて」


「うぅ…鳴海くん、いざ、食べようとしたら、胸焼けが…。さっきのソフトクリームが効いてるかも…」

「うそだろ? 胸焼けって歳じゃないじゃん。だいたい、桜がソフトクリーム1つで甘いものを断念するなんておかしいし、あのソフトクリームだってほとんど僕が食べたじゃん。もしや…」

「ちょ、ちょっとお。だ、ダイエットなんか…」

「してるんだろ。別に、桜は太ってなんかいないのに」

「あ~、これだから、乙女心が解らない男は。だって…今年の夏は、鳴海く…みんなと、海に遊びに行きたいんだもん」

「そっか、水着かあ…。おっぱいランキング1位の桜の水着姿…」

「ん? 何か変なこと言った?」

「い、いや、なんでもない。じゃあ、とりあえず、頂きます…。なんか、じっと見られてると食べづらいなあ…」

「いいじゃん。あたし、鳴海くんが食べてるところ見ていたいんだもん」

「うん…うん。おいしい。おいしいよ、これ」

「えへへ~。これが、鳴海くんとの最後の楽しい思い出にならなければいいなあ…」

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