最終章:さよなら、僕の桜(第1話)
仮説:ここから先の物語は、アナタが声に出して呼びかけてくれた内容の影響が反映されているわ。現実を、受け止めてくれるわよね…?
「鳴海先輩、鳴海先輩!」
「だ、誰だよ、大きな声で僕を呼ぶのは…」
「ボクですよ。声でわかんないんスか?」
「声でって…そこまで毎日、神宮前の声を聞いてる訳じゃないからな」
「それって、毎日聞けばちゃんと覚えるって事ですか? じゃあ、毎日声をかけにきますね」
「そ…それはそれで困るけど…。で、僕に何か用?」
「何言っんスか! ボク、来年2年生ですよ?」
「そんなの、知ってるよ。だからなに?」
「相変わらず鳴海先輩は鈍いなあ…ボク、生徒会長に立候補するんスよ。だから、投票のお願いに来たんスよ」
「生徒会長だって? 神宮前が?」
「ほらほら、みてください。このポスター、堀田先輩がデザインしてくれたんスよ? カッコイイでしょ」
「確かにポスターは良く出来てるけれど…。ち…因みにきくけれど、推薦演説は誰がやるんだ…?」
「ふっふっふ…それは、この私です!」
「こ…国府なのか…。国府で大丈夫か?」
「あ~、鳴海せんぱい、今、私の事、バカにしましたよね? 私じゃ無理だって思ってますよね!? ひっど~い」
「いや、まだそこまでは言ってないけどさ…」
「うふ! 見ててくださいよ~! 私と神宮ちんで、生徒会長の座を勝ち取りますからね! そして私は、生徒会を裏から牛耳る」
「お…恐ろしい陰謀を…」
「鳴海先輩は、どこに行く予定だったんスか?」
「どこに行く…っていうか、桜を探してるんだけど」
「桜チャンなら、さっき図書館にいたと思いますよ。文藝部の活動じゃないスか?」
「あ、そうか。なるほどね。行ってみるよ。ありがとう」
「鳴海せんぱい、さっちんをよろしくお願いしますね!」
「国府…桜の前に、神宮前をよろしくお願いします、だろ…」
「あら? 鳴海くんじゃない。桜ちゃんと一緒じゃなかったのかしら?」
「堀田さんに左京山さん…。僕、その桜を探して、ここに来たんですけれど…」
「…鳴海、私たち、放課後からずっとここにいるけれど、桜の姿は見なかった」
「あれ、そうですか。神宮前から、図書館にいるんじゃないか、って聞いてきたんですけれど…」
「文藝部の活動なら、1年生の桜ちゃんの教室じゃないかしら? 文藝部に部室なんてないから、桜ちゃんがいる場所が活動場所でしょ?」
「ま…まあ、そうでしょうけれど…。あ、そう言えば堀田さん、神宮前のポスター、見ましたよ。神宮前にはもったいないくらい、素敵でした」
「ふふ。ホント? やだ、恥ずかしいじゃない」
「…神宮前が生徒会長になったら、この学校も終わりね…。偏差値が下がらないといいけど」
「左京山さん…だからアタシたちが、こうやって受験勉強を頑張ってるんでしょ…」
「あ…そうか。共通テスト、来月ですっけ?」
「ちょうど1ヶ月後くらいね。まさに、追い込み時期って感じかな」
「…鳴海、あんたはいいわよね。勉強得意で」
「左京山さん、僕、勉強得意ってわけじゃないですよ。古典なんて、いつも壊滅的ですから…あと漢文」
「ふふ。その2つは、アタシの方が得意かもね」
「頑張ってください。応援してます」
「…軽く言うわよね。来年は、鳴海、あんたが受験生なんだからね」
「それは…わかってます」
「鳴海くん、応援ありがとうね。桜ちゃんによろしくね」
「…鳴海、もし本星崎を見かけたら、私が探してたって伝えてくれる? 同じクラスでしょ? 私たち、まだしばらく、ここにいるから」
「本星崎ですか? 何の用件で、って伝えておけばいいですか?」
「…年末のイベントで出すCDの相談」
「あー…DTMですか」
「…そう。なによ、その目。受験生が年末イベントに出ちゃいけないって言いたいの?」
「い…いえ、決してそんなつもりでは…」
「ふふ、鳴海くん。左京山さんに嫌われる前に、桜ちゃんのところに行った方がいいわよ」
「そ…そうします。それじゃあ」
「あれ? 本星崎とゴブリンか。桜を見なかった?」
「さ、さ、さ、さく、桜さんなら、さ、さ、さっきまで一緒にいた…」
「オレたち、文藝部の冬の冊子の作品を頼まれちゃったんだぜ…。ま、オレはまたエッセイ書くからいいんだけどね」
「結局、ゴブリンたちも、まだ文藝部員扱いなのか…かわいそうに」
「なに言ってんだよ。さっちゃん、ナルルンのこと探してたぜ? 作品頼みたいからって」
「夏のイベントで原稿を落としたヤツが、何を言ってるんだ…。う~む、このまま桜に会うと、原稿を頼まれるのか…」
「ふ、ふ、ふふ…。今回は、神宮前さんと国府さんが、せ、せ、せい、生徒会の選挙活動で、い、い、いそ、忙しいから…」
「なるほどな…人員が足りてないって事か」
「そ、そ、そう、そうみたいね…」
「あ…そういえば本星崎、左京山さんが探してたぜ。図書館にいるから、行ってあげなよ」
「さ、さ、さきょ、左京山さんが…?」
「年末イベントのCDの打ち合わせがしたいって言ってた。左京山さんはともかく、本星崎はちゃんとDTM続けてて偉いよな…」
「す、す、すき、好きな事だから…。ぶ、ぶ、ぶん、文藝部もね…」
「家庭科室と方向が同じだから、途中まで一緒に行くよ。オレも、この後は調理部の活動が…」
「あ、あ、あり、あり、ありがとう…」
「あ、ナルルン、さっちゃんなら、多分、体育館倉庫だと思うよ」
「体育館倉庫? なんでそんなところに」
「文藝部の過去の部誌がしまってあるからだよ。整理するとか言ってたから」
「なるほど…。部室のない部活動はつらいな…。とは言え、文藝部に部室が必要とも思わないけれど」
「あ、豊橋。まだ帰ってなかったのか?」
「鳴海か。俺は、堀田を待っている」
「堀田さんなら、さっき図書室にいたよ。左京山さんと勉強してた」
「知っている。あと1時間はかかるだろう。この時期、陽が落ちるのが早いからな…」
「あー…豊橋、そういうところ、割と気がきくよな」
「それは、お前自身が鈍感である事の自供か?」
「はは…そうかもしれない」
「あら、鳴海クンじゃないの。お久しぶり」
「え? なんで伊奈がうちの学校にいるんだ? しかも、そんな寒そうな恰好で」
「なんで…って。あたくし、部活動の交流練習でこちらにお伺いしていましてよ」
「鳴海よ。伊奈は陸上部だそうだ」
「へえ…知らなかったな。お嬢様だと思っていたけれど、意外とアクティブなんだ」
「それで、鳴海はこんなところで何をしている」
「僕? 僕は、桜を探して学校中をさまよっているところさ。ゴブリンから、体育館倉庫にいるんじゃないか、って聞いたからさ」
「ふむ。それは妙だな」
「妙…って、なんだよ」
「桜なら、さっき体育館から出て、校舎に戻るのを見た」
「校舎に戻っただって…? 伊奈、キミも桜を見たのか?」
「…えっと…。桜…サン? どなたでしたかしら?」
「…あれ? 伊奈は、桜と会ったことなかったっけ?」
「ごめんなさいね。あたくし、恐らく存じ上げません」
「そ…そっか。まあ、そうだよね。学校が違うもんな…」
「鳴海よ。桜に電話なりメッセージなり送ったらどうだ」
「それが、桜のやつ、いっつも圏外か電源が入ってないんだよな…。なんの為のスマホか、って言う…」
「ふん。そうか。ならば、お前が思いつく、桜が行きそうな場所を訪れればよかろう。ないのか?」
「ないのか…って…。そうだな…。まあ、ないこともないかな」
「ならば、そこへ行けばよかろう」