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間隙のヒポクライシス  作者: ぼを
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8章:時計じかけのレモネード(第4話)

「あ、堀田さんが来た。これで全員か。なんだか、学校でみんなで集まるのも久しぶりな気がするな」

「文藝部の同人イベントの準備をしていた頃以来だよね~」

「そうそう。そして桜は、あれだけの準備をしたにもかかわらず、自分の作品の入稿を忘れた」

「な…鳴海くんのいじわる」

「ふ…ふふ。そ、そ、そ、そうだったわね…。そ、そう、そういえば、あの時の冊子、ど、ど、どこにいったかな…」

「ふむ。とりあえず、現時点で全員が平常心を保てている事は、悪い事ではない。特に、鳴海、本星崎、俺については、誰も生き残れない事が確定したにもかかわらず、だ」

「普通に登校している限りは、何の変哲もない日常だからな…。まあ、既にいなくなった仲間はいるけれど…僕たちも近いうちに後を追う感じだ」

「鳴海よ。今日の議題は、まさにそこだ。俺たちは今、妙な違和感を抱いている。それも、全員が、だ。この違和感の要因を探る事から始めたい」

「そうよね…。アタシたちが、どうしてあの日、病院に集合していたのか」

「豊橋さんからの電話の後、あたしと鳴海くんもお互いに確認したけれど、わからなかったんだよね…」

「そもそも僕たちは、本当に病院に行ったのか…」

「ね、ね、ね、ねえ…。ゴ、ゴ、ゴダイヴァの、りょ、りょ、領収書が残ってる…」

「あ、そうだったわね…。本星崎さんに建て替えてもらったままだった。ワリカンしないとね」

「そ、そ、そう、そうじゃなくて…。か、か、買った個数…」

「そうか…。人数分で買っていた筈だから、僕たちの頭数よりも数が多ければ、違和感の正体がわかるかもしれない」

「やはり、まずは俺たちの認識を合わせる必要がある。スキル発現からの、当初のメンバーが誰だったか。そのうち、既に死んだメンバーは誰か。そして、ゴダイヴァの数だ」

「ここにいる僕たちは、存在が確定しているメンバーだ。僕、桜、豊橋、本星崎、堀田さんの5人」

「ふむ。では、死んだメンバーを挙げていこう。死んだ順に…国府、常滑、伊奈、神宮前、左京山、上小田井、呼続。このくらいか」

「とこちゃんは死んでないぞ…。厳密には、神宮前も、上小田井くんも、呼続ちゃんもだ」

「鳴海よ。今は、死についての定義を議論する場ではない」

「いや、わかってるよ…。まあ、あとは、有松くんを入れるかどうか、くらいか」

「有松は除いてよかろう。すると、だ。残ったメンバー、死んだメンバーを合わせると、12人か」

「それじゃあ、この中で、先日、病院に足を運んだのは…」

「アタシの記憶では、アタシ、豊橋くん、鳴海くん、桜ちゃん、本星崎さんの5人。つまり、ここにいる5人」

「俺も同じ認識だ」

「あたしも同じ…」

「僕もだ…。本星崎、レシートのゴダイヴァの数はいくつだ?」

「ろ…ろ、ろ、ろ、6個…。わ、わ、わた、私も、5人だと思う。で、で、でも、でも、6個買ってる…」

「やっぱり…何かがおかしい。いくら桜が食いしん坊でも、1人で2個は食べないだろ」

「ちょっ! 鳴海くん! あたし…2個くらい、ペロリと食べられちゃうよ…」

「え? まて、このタイミングで撹乱しないで…」

「じょ…冗談だよ。お話を続けてくれる?」

「調子狂うなあ…。えっと…つまり、僕たちが認識している人数より1つ多く買っている、という事は、僕たちは、やっぱり、誰かをお見舞いに行った筈なんだ。でなければ、理屈が合わない」

「ふむ。問題は、では、俺たちは誰の元を訪れたのか、という事か」

「そんな…アタシたち全員が忘れてしまう事なんて、あるのかしら?」

「とりあえず、もう少し情報が欲しい。みんなでお見舞いに行った、という事が事実なら、僕たち全員の共通の知り合いという事だ。であれば、まず間違いなく、この学校の生徒か、関係者だ。そこから洗っていこう」

「わかったわ…。アタシ、先生にお願いして、全校生徒の名簿を見させてもらうわ。…こういう時、生徒会役員の神宮前さんがいたら…って思ってしまうわね」

「そういえば、神宮前のヤツ、あんな性格で生徒会役員だったんだっけ…」

「鳴海よ。しんみりしている時間はない。俺たちは、それぞれ、自分のスマホ内の連絡先やSNSの繋がり、メッセンジャーなどを確認していくのがよかろう」

「ああ…そうしよう。各々で情報を洗って、何かわかったら、お互いに連絡をとり合おう。もし、僕たちに生き残れる方法があるとしたら、この違和感の1人にかかっている気がするんだ」


「鳴海くん、スマホの中身、どうだった?」

「ダメだ…。SNSの繋がりとか、メッセージとかも色々確認したけれど、手がかりになるような情報はなかった。桜は?」

「あたしも全然」

「桜のスマホは、肝心な時に電源が切れていたりするもんな。ははは」

「ははは、じゃないでしょ。まあ…確かにそうだけどさ~。ねえ鳴海くん、写真とかは? みんなで一緒に写ってる写真があれば、何か思い出せるかもよ?」

「写真も色々と見返して見たんだけどね…。というか、僕はあまり写真を撮る主義じゃないから、見返す写真も多くはないんだけれど」

「あらら。例えば、この前、みんなで海に行った時の写真は?」

「何枚かあるよ。ほら、カキ氷食べてるところとか。あれ? 桜がチョコミントアイス食べてる所、撮っておかなかったっけなあ…」

「探している写真は、あたしが写ってる写真じゃないでしょ」

「う~ん、ないなあ…」

「ねえ、あの時、あたしと鳴海くん、一緒にいたでしょ? ほら、あの、霧の攻撃を受けた時」

「ああ…そうだね。一緒にいた」

「あの時、穴に隠れて助かったのは、あたしと鳴海くんと、呼続ちゃんと本星崎さんの4人だよね?」

「そうだよ。その認識だけど」

「ねえ…あの時、そんなに都合よく、地面に穴があいていたんだっけ…?」

「どういう事?」

「ううん。ちょっと不思議だな~って思ったんだ。霧があたしたちを襲って、逃げて…偶然、地面にあいていた大きな穴に逃げたんだっけ?」

「…そう言われると…。あの穴は、一体なんだったんだ…?」

「ねえ、鳴海くん…。あたしたち、もしかして…今…スキル攻撃を受けているんじゃない…かな…?」

「…今? …攻撃だって? 誰から? 何のために?」

「そんなのわかんないよ…。でも…あたし、怖い…」

「桜は、そのスキル攻撃は、どんなスキルだと思うんだ?」

「あってるかわからないけれど…。『知らない間に、あたしたちの記憶をあやつるスキル』…だったりして…。えへへ」

「僕たちの…記憶をあやつるスキル…だって…?」

「だって…そう考えないと、おかしくない? あたしたちの記憶…なんか凸凹していて、違和感があるもん」

「桜の言いたいことはよく分かる…。人の記憶にまつわるスキルか…。とこちゃんは人の心が読めたし、豊橋は記憶を入れ替える事ができる…。記憶をあやつるスキルの存在ついても、完全に否定はできないな…。でも、記憶を操作されていたとして、証明ができない」

「大切な人の記憶を消されちゃったり…本当はこの世に存在すらしていないのに、まるで大切な人だったかのように記憶を書き加えられたり…」

「お…おい…怖いことを言うなよ…」

「ご、ごめんごめん。ちょっと、妄想しちゃっただけ」

「とにかく、みんなの調査結果を待とう。情報が集まってからだよ。仮説を立てて検証していくのは」

「あれ? ねえ、鳴海くん。スマホ鳴ってない?」

「僕の? …あ、本当だ。桜は、いつも、よくわかるよな。マナーモードでポケットに入ってたのに」

「電話?」

「いや、メッセージだよ。またザンギエフからの電話かと思って、ちょっと焦ったよ…。豊橋からかな。何かわかったんだろうか」

「豊橋さん? なにか、わかったって?」

「…いや…。これは、左京山さんからだ…。しかも…2通」

「え…? 左京山さんから…? 左京山さん、死んじゃったのに、未来からのメッセージが届くの?」

「そうじゃない。これは、過去から未来に送られたメッセージだよ」

「過去から未来…?」

「どうやら、左京山さんのスキルでは、過去だけじゃなくって、未来にもメッセージを送れるみたいなんだ」

「そうだったんだ…。知らなかったな。それで? なんて書いてあるの?」

「ええっと…。1通目は…。短いな。ああ……そうか…。そうか…。くそっ…」

「……なに? 悲しいことが書いてあるの?」

「そうじゃない。僕を気遣って書かれたメッセージだ。…死ぬ間際に…僕の事なんか、気にする必要ないのにな…」

「教えて? なんて書いてあるの?」

「あ…ごめんごめん。いや…。ほら、あの花火大会の日、僕、本当は行くべきかどうか迷った、って話をしたろ?」

「あ~…。うん。あの、左京山さんからの、ちょっと不思議なメッセージの事だよね」

「そうそう。多分、左京山さん、悪意の第三者が左京山さんのスマホを使って、あれを送った、あるいは送ろうとした事を知っていたんだと思う」

「そうなんだ…」

「はは…。こう書いてあるよ『…桜との花火大会は楽しかった? あんたと桜が楽しくて、そして死ぬのが私1人だけなら、あんたは花火大会に来たことを後悔しないで』」

「左京山さん…。ふえぇぇ…」

「さ、桜、泣くのはまだ早い。もう1通あるんだから」

「そ…そっだね。もう1通には、なんて書いてあるの?」

「えっと……。なんだ…これは……?」

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