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間隙のヒポクライシス  作者: ぼを
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8章:時計じかけのレモネード(第3話)

「ねえ、鳴海くん。鳴海くんが、自分を犠牲にして誰かを助けようとするところ、あたし、とっても好きだよ。でも、勝手に自分の命を粗末にしないで。さっき…あたしの気持ちも考えずに判断しようとしたのは…とっても悲しかったんだよ?」

「桜…」

「ゴブさんには生き残る権利があるし、ゴブさんが生き残るのが、きっとみんな納得できるっていうのは、あたしも理解してる。…でも、鳴海くんが死んじゃったら、あたしは本当に悲しいし、どうしていいかわかんない…きっと」

「そう言ってくれるのはありがたいけれど…どうしようもないよ、こればっかりは」

「違うよ…。どうしようもあっちゃうから、困ってるんだよ…。あたし、鳴海くんの命を護るために、悪魔にならない自信…ない。でも、それは堀田さんもきっと一緒…。あたしたち、ここまでみんなで力を合わせてやってきたのに、最後の最後で、お互いに命のやりとりをしなきゃならないなんて…耐えられないな…」

「……桜…。ごめん。桜がそんなに心配してくれているとは思わなかった。軽率だったかもしれない…僕」

「鳴海くん…」

「でもさ、これだけは理解してほしいんだ。僕は、自分の命に投げやりのつもりはないし…周りの人を悲しませるつもりもないんだ。ただ、スキルの存在が明らかになった時から…あの、国府が桜のバストサイズを数値化してはしゃいで、神宮前の残りの寿命が400日しかないと騒いで不安になった時から、一貫して、みんなの命を護る事を最大の目的として行動してきたつもりなんだ…。でも、正直…護れた命はなかった。僕には、それがずっと心苦しかったし…つらかったのも事実なんだ」

「でも…だからって…。これは、みんなの問題なんだよ…? 鳴海くんがひとりで抱えなくてもいいんだよ…? 言ったでしょ。命に関わる場合は、あたしと鳴海くん、一緒に行動するって…」

「はは…。今回ばかりは、命に関わるとは言え、桜と一緒には行動できないよ」

「…そっかな~…?」

「え?」

「ううん。なんでもない。それよりも、鳴海くん、スマホ鳴ってない?」

「スマホ? …ん? 豊橋から着信だ。さっき駅のところで別れたばかりなのに…なんの用だ?」


  ―― 鳴海よ。確認したい事がある


「…確認? いいけど、何?」


  ―― 俺たちは、ついさっきまで、同じ場所にいた。間違いないか?


「は? 何を言ってるのか意味がわからない」


  ―― そうか。意味がわからないか…。構わん。言え。俺たちは、一緒にいたか


「一緒にいたさ。だって、治験に、寿命を間に合わせるのを誰にすべきか、で話し合いをしただろ? 結論は出なかったけど」


  ―― そうだ。話し合いをした。だが、なぜだ? なぜ、俺たちはそんな事で話し合いをした?


「なぜって…。言っている事がよくわかんないな…。だって、僕たち全員の寿命を確認して、1人しか生き残れない事がわかっただろ?」


  ―― ……それは、確かか。誰に生き残る可能性がある? それは、なぜだ。何人中の1人が生き残れる


「イマイチ要領を得ない質問だな…。さすがに、イラッとしてくるよ。生き残れる可能性があるのは、僕、豊橋、本星崎の3人で、最終的に生き残れるのは、この3人の中の1人だ」


  ―― なるほど。それで、その3人の寿命は、それぞれ残り何日だ


「さっき話したばかりだろ…。僕が13日、豊橋が48日、本星崎が15日だ」


  ―― では、尋ねよう。その3人のうち、誰が60日以上の寿命を持っている


「誰って……あれ…。あれ…? どういう事だ…。わけが解らない…。でも、確かに僕たちは生き残る話をして…1人は生き残れるって事で別れたはずだ…」


  ―― 俺もその認識だった。だが、よくよく考えてみると、どうもおかしい。もう一度、お前に尋ねる。俺たちはさっきまで一緒にいた。それはどこの場所だ?


「自衛隊病院の、病室だよ」


  ―― そうか。では、なぜ病院だった? なぜ病院の病室に、俺たちは集まった


「なぜって………。なぜだ…? なんで僕たちは、病院なんかにいったんだっけ…」


  ―― …わかった。鳴海も同じ状況という訳だ。この確認だけだ。悪かったな


「いや、まて豊橋。これってつまり、もともと誰ひとりとして創薬の治験には間に合わないのに、僕たちは勘違いして議論をしていた、ってことか?」


  ―― 事実関係だけを論理的に振り返れば、そうなる。全くの無駄足だったがな


「…そっか…。そうだったっけか…」


  ―― 1人として生き残る事ができないのは残念だ。だが、もともとそのつもりだったはずだ。諦めろ


「そ…そうだな…。うん。わかった。悪かったよ、変に期待させちゃったかもしれない」


  ―― 構わん。せいぜい、残りの人生の日数を大切に生きることだ


「……どうしたの? 鳴海くん。豊橋さん…何て言っていたの?」

「いや…。桜にも確認したい。僕たちは、さっきまで、何のために病院に集まってたんだっけ?」

「何のためって…病院だもの。お見舞いに…」

「そうだよな。普通に考えれば、お見舞いだ…。でも、一体誰のお見舞いに行ったんだ? 生き残っているメンバーには病人はいない」

「あ……そう言われると…。あたしたち、誰のお見舞いに行ったんだっけ…」

「僕たち、なにか壮大な勘違いをしていたんじゃないだろうか。そもそも、今残っているスキル発現メンバーには、2ヶ月以上の寿命がある人はいないんだ。だから、誰も生き残れない」

「…うそ…。そんな…そんな…そうなっちゃうの?」

「そうなっちゃう」

「だ…だったら、どうしてあたしは、鳴海くんの事を責めたりなんかしたんだろう…」

「うん。僕も、どうして責められたのかがわからない」

「…そっか…。うん。そっか…。わかった…。ごめんね、鳴海くん…」

「いや、いいよ。ただ、創薬を眼の前にして、誰も生き残れないのは…やっぱりちょっと残念かな」

「鳴海くん…やっぱり、死んじゃうんだ…。あたしより先に、死んじゃうんだ…。ふえぇぇええええぇぇぇえん…」

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