6章:失われた夏への扉を求めて(第21話)
「鳴海くん! だめ! もう間に合わない! 走ったところで、無理! 霧の方が早すぎるもん!」
「このまま、ここで全員死ねるかよ! くそ…。こんな時に、伊奈がいてくれたら…。エネルギー変換で、あらゆる対策がとれたのに…」
「ふ…ふ、ふ、ふふふ…。ふふふふふ…。ど、ど、どう、どうやら、わ、私たち…こ、こ、ここまでのようね…。み、み、みんなのお陰で、楽しかったわ…。ぼ、ぼう、防衛省から離れてからは、ほ、ほ、ほぼ、ほぼ余生だったもの…。お、お、おれ、お礼を言うわ…。あ、あ、あり、ありがとう…」
「本星崎、あきらめるな! まだ、あきらめるなよ! 考えろ…考えるんだ…」
「ああぁああああああん! 鳴海お兄ちゃあぁあああああん! 本星崎お姉ちゃあぁあああああん! うわぁああああああん」
「呼続ちゃん…。あたしが、抱きしめていてあげるからね…。大丈夫だよ。みんな…一緒だからね…。ほら…ぎゅぅぅううううううう」
「桜お姉ちゃん…。温かくて…いい気持ち…。くすん、くすん」
「ああ…飲み込まれる…。くそ…。ここまでか…。みんな…ごめん。僕では、助ける事ができなかった…。結局…僕は、誰も助ける事ができなかった…」
「だ、だ、だい、大丈夫よ…。み、み、みん、みんな、あなたに感謝してる…。あ、あ、あな、あなたは、頑張った…」
「う…うぅ…」
「ほ、ほ、ほら…。み、みん、みん、みんな…手を取り合いましょう…。ひ、ひ、ひと、ひと、ひとりじゃないから…」
「鳴海くん…。あたしの手をとって…。あたしは呼続ちゃんと手をつなぐから」
「じゃ、じゃ、じゃあ、私は、呼続ちゃんと、ゴ、ゴ、ゴブリンさん…」
「そしてオレは、ザキモトさんとナルルンだ。みんな、手をつないだかい? 円陣になったね?」
「あ、ああ…つないだよ、ゴブリン」
「わ、わ、わた、私も大丈夫…」
「いいね。じゃあ、みんな、今日は、暑いかい?」
「暑い…って…。どうしたんだよゴブリン? 気は確かか…?」
「…も、も、もし、もしかして…ゴ、ゴ、ゴブ、ゴブリンんさん…。そ、そ、そう、そうだ…よ、よび、呼続ちゃん、ス、ス、スキ、スキルは使える?」
「つ、使えるよ。でも、以前のわたしのスキルじゃなくて、本星崎お姉ちゃんの、お姉さんのスキルだと思う…」
「じゅ、じゅ、じゅう、充分よ…。じゃ、じゃ、じゃあ、呼続ちゃんのスキルで、ゴ、ゴ、ゴブ、ゴブリンさんのスキルを、な、なる、なる、鳴海くんに見せてあげてくれる? て、て、て、手を繋いでいるから、で、で、でき、できるでしょ…?」
「ゴブリンの…スキルだって?」
「鳴海お兄ちゃん…。いくよ? えいっ!」
「あ…。これは…」
「ナルルン、オレのスキルがわかったかい?」
「これは…マクスウェルの悪魔…」
「正解だ! いくよ! みんな、一瞬だけ急激に寒くなるけど、勘弁な!」
ドンッ!
「きゃっ! な、何が起こったの? ゴブさん…」
「穴だ…。円陣の真中に、大きな穴ができた」
「そうだよっと! ほら、みんな早く入って! 早く! 早く!」
「ゴ、ゴブリン、蹴り落とすなよ」
「ちょ、ちょっと鳴海くん、あたしが下敷きになってる…」
「よ、よ、よび、呼続ちゃん、一緒に飛び込むわよ…。せ、せ~の!」
「ゴブリン、全員入ったぞ! ゴブリンも早く飛び込むんだ!」
「オレ? このサイズの穴じゃ、オレは無理だよ。全員死ぬところが、穴の中のメンバーだけでも生き残れたら上出来だろ?」
「バカ! 恰好つけてる場合じゃないんだよ! 早くこい!」
「うわ! ひ、引っ張るなよ」
「鳴海くん! 霧が通過するよ!」
「ぐわあぁああああああああ!」
「ゴブリン? ゴブリン! どうした! 大丈夫か?」
「だ…だい…大丈夫だから…。霧が通過するまで…大人しくしてろよな…。くっ!」
「豊橋くん! 建物なんてどこにもないわよ!」
「やむを得ん。このまま船着き場まで行くしかあるまい」
「船着き場…って…。とても走って、霧から逃げ切れる距離じゃないわよ…。それに、ボートがすぐに出発できる保証はないわ…」
「やれやれだ。島にまで俺のマグナ(原付)を持ってくる事はできなかったのが悔やまれるな…」
「…ふふ…あれがスキルなの? 恐ろしいスキルがあったものよね…。ほら…防砂林も蒸発してるわよ。あれじゃ、鉄筋コンクリートの建物の中でも、命の保証は危ういわね」
「なんて…威力なの…。鳴海くんたち、無事かしら…」
「残念だが、人の心配をしている余裕はない。霧がここに迫ってくるまでの数十秒以内に、生き延びる手段を見つける必要がある」
「ねえ、地下は? 地面の下なら、大丈夫なんじゃないかしら?」
「なるほどな…。だが、都合の良い地下がどこにある」
「…道路沿いは? 道路の下を通る隧道が、何箇所かあった気がする」
「いい考えね! 道路沿いなら現実的な距離よ」
「ふん。うまく見つかる可能性に賭けるしかない、という訳か」
「そういう事。さ、行きましょう!」