天国に一番近い場所
意味がわかると怖い話として作成しましたが、そこまでゾクッとはしないかもしれません...
今日もいつもと変わらない朝だと思っていたんだ―…
いつも通りの時間に目が覚めて
いつも通りに自分で朝食の準備をして
いつも通りの道を学校まで歩いてゆく。
なんら変わりのない一日の始まりだと思っていたんだけど、そうじゃなかったみたいだ―…
教室に入ると、僕の机の上には綺麗な花が飾られていた。
「どうして僕の机の上に花が飾られているの…?」
僕は確かに口に出して問い掛けたはずだった。
なのに、誰一人として僕の問いには答えてくれない。
しかたがないので、そのまま席に着いてクラスのみんなを見渡した。
…なんだか様子が変だ。
みんな、いつもより静かでなんとなく暗い表情をしている…―数人を除いて―…。
窓際でいつものように大声で話しているのは、僕をいじめている奴らだ。
…あれ?でも、今日は朝一のパシリに呼ばれてないな。いつも教室に入るなり、僕のこと呼び出すのに…。
チャイムが鳴り、担任の先生が教室に入ってくるとクラスのみんなを見渡し、
「今日も欠席の者はいないな」
と言って出席簿をつけながら、朝の連絡をした。
僕はなんだか違和感を感じて、授業が始まっても教科書も出さず、机の上には花だけを置いたままで、授業を聞いた。
だけど、先生は何も言わなかった。
…何かが変だ。
僕はずっとそう感じながらその日最後の授業が終わると、そのまま帰宅した。
「ただいま…」
返事はない。
居間には母さんがいるはずなのに。
玄関の靴をみると、男物の靴が一足。
…そうか、"彼氏"が来ているのか…
会いたくはないが、一応挨拶はしとかなきゃ…そうしないとまた殴られる…
「ただいま、母さん。…いらっしゃい、おじさん…」
母さん達は僕には全く気付く様子もなく、話を続けている。
…そうか。やっとこの違和感の正体が分かったぞ。
僕はみんなから見えていないんだ。
そして声も聞こえていない。
…―そのことに気付いた僕は、家を飛び出した。
僕は考えながら走った。
…なら、花が置かれていたのは、僕が死んだから…?
…僕、いつ死んだんだろう…?
殺された?自殺した?
…ダメだ、全く覚えてないや。
僕はもう一度学校へ行くと、屋上へ向かった。
死んだのにまだこの世にいるのは、何か未練があるからなのかな…?
町の高台の上にあるこの学校の屋上なら、天国に近いと思って来てみたけど、やっぱり何も変わらないかぁ…
「…ねぇ」
ふと、後ろから声が聞こえた。
声の聞こえた方を見てみると、色白の僕と同い年位の女の子が立っていた。
「…君、僕のことが見えるの?」
「うん」
よく見ると、女の子は裸足だった。
もしかして、この娘も幽霊なのかもしれない…
「ここで何をしていたの…?」
「今から天国へ行こうと思って…。ここって、この町で一番高い所でしょ?だから、いき易いかなって思ったの」
僕と一緒だ!
やっぱりこの娘も幽霊なんだ!
「どうやって天国まで行くの?」
「簡単だよ。ここから飛ぶだけだもん」
そう言うとその女の子は、僕の目の前から消えた。
なんだ! 簡単じゃないか!
これで僕も天国へ行けるんだ―…
【解説】
"僕"はちゃんと生きていました。
では何故クラスのみんなや母達は"僕"に気付かなかったのか…
真相は、"気付かなかった"のではなく"気付かないようにしていた"のです。
つまり、"僕"はみんなから"無視"されていたということ―…
"僕"をイジメていた"奴ら"が新しいイジメ方として無視することを始めました。クラスのみんなは、"奴ら"の新たな"ターゲット"になることを恐れて言いなりになって"僕"を無視していました。暗い表情をしていたのはそのためです。机の上に花が置かれていたのも、イジメの一つです。 "奴ら"から"僕"へ宛てられた"死ね"のメッセージ―…
では、何故先生も何も言わなかったのか…
先生は"僕"がイジメられていることに気付いていましたが、先生は"気付かないフリ"をしたのです。自分のクラスでイジメが起きたなんて、知られたくなかったから―…
つまり、自分の体裁を守るためです。
次に、母達が"僕"を無視していた理由についてです。母は"僕"の存在が邪魔でした。常に思っていたのは、"この子さえいなければ…"。だから、彼氏が自分の息子に暴力を振るっていても"見ないフリ"―…
でも、さすがに"跡"が目立つと、児童相談所や周りの目が気になるので、彼氏にも「いないものと思って気にしないで」と言いました。
度重なる"無視"から、"僕"は自分が死んだのだと勘違いしました。そこに現れたのが、自殺しようとしていた"女の子"です。裸足だったのは、自殺するために履物を脱いでいたからです。そして、天国へ行くために"僕"の目の前で学校の屋上から飛び降りました。このあと"僕"も女の子に続いて、天国を目指して飛び立つでしょうね。 天国へ行けるかどうかは分かりませんが…