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第六話  接触2

 補足

 小屋付近の道は舗装されていない獣道です。

 フロンティア  小屋前



(何なんだこいつらは?動きが全く読めんぞ・・・)

 護衛達は困惑していた。

 やって来た集団は、全身を暗い白色の装備(?)で覆い尽くし、顔すら見えない。

 表面には群青色の細長い筋が何本も通っており、模様を形成している。

 継ぎ目は一切見当たらず、どうやって着るのか見当も付かない。

 見た目だけでも相当奇天烈だが、最も困惑させているのはその気配である。

 その動作から素人ではない事がはっきりと解るが、次にどう動くのか、何に意識を向けているのか、まるで読めないのである。

 熟練者であれば、相手の目線 呼吸 重心 構え 動作 表情 癖 等から行動予測が出来る。

 それは、相手が野生動物であっても例外ではない。

 しかし、この奇妙な集団は何も解らない。

 顔が隠されている為に目線や表情が判らないのはともかく、あらゆる生物が持つ筈の所作が見当たらないのである。

(生き物かどうかも疑いたくなるな・・・銅像を前にしている気分だ。)

 次にどう対応すべきか判断しかねていると、後方から前へ進み出る男がいた。

「ようこそ、とでも言えば良いのかな?この地にどんな御用で?」


 坂田が言うと、相手は非常に驚いていた。

(まさか、最初から言葉が通じるとは思わなかったんだろうな。翻訳機様様だ。)

 そんな事を思っていると、中央の男が歩み出る。

「いやはや、まさか同じ言語をお使いになる方々が未開の領域を隔てた先にいらっしゃるとは・・・私達を受け入れて下さり有難う御座います。私は、クルティリス教の司祭を務めております、コルタと申します。未開環境研究を行う学者です。この者達は、私の護衛です。」

 未開環境研究とは、名前の通り未開地の環境や新種の生物の観察、研究を行う部門である。

 その目的は、遠方への布教等で通る場所の安全確認、疫病等の脅威に対する準備である。

 そして、クルティリス教の階級は、上から 教皇 枢機卿 大司教 司教 司祭長 司祭 助祭 修道士・修道女 となっており、その下に一般の信徒が続く。

 司教以上は直接教会を受け持つ立場となる為、人数が少ない。

 その下の司祭は、中堅の役職となる。

(受け入れた覚えは無いんだがなぁ・・・)

 都合の良い発言に、坂田は先行き不安になる。

「何を根拠にあなた方を受け入れていると判断されたのか疑問ですが、それよりもこの地に足を踏み入れた目的を聞かせて頂けませんか?」

 そう言いつつ坂田の横に立ったのは、レジェンドアンドロイドの リーン である。

 彼女は、交渉事を主に請け負う立場にある。

(排他的とまでは行かんが、明らかに追い出したがっている。彼等は、私達と同じ文化習俗を持つのではないのか?)

 翻訳機の存在を知らない事で、言語の共通性から価値観も似通っていると考えて相互理解が比較的簡単に進むと考えていたコルタだが、その前提が崩れて困惑する。

(とにかく、何らかの取っ掛かりを掴まなければ)

 すぐに気を取り直して表情を正し、口を開く。

「そうですね、私達がこの地へ訪れたのは調査の為です。」

「一体何の調査なのでしょうか?」

「あの森、私達はケミの大森林と呼んでいますが、その近辺に住んでいる村人から異変を訴えられていたのです。曰く、毎日の様に空に彗星が見えると。」

「彗星と言うと、我々は時折空に見える光の筋と言う認識ですが、そちらも同様で?」

「その通りです。滅多に無い現象ですので、確認されると各国で記録に残ります。毎日の様にと言うのは最初に聞いた時には信じられませんでしたが、実際に確認してみれば本当でした。」

 リーンは頷きながら話を聞く。

 マイクロドローンによって訪れた目的は既に把握しているが、目の前にいるコルタ自身の心の内までは把握出来ておらず、確認は必須である。

「その彗星が何を意味しているのかは全く理解出来ませんでしたが、とにかくこれまでに無い何かが起こっているものと考え、森を抜けてこの地へ辿り着いたのです。」

「あの森を縦断するとなると相当な苦労があったと思いますが、何故この地を目指そうと思ったのでしょうか?」

「彗星は、森の向こう側から見た時、この地の方向へ落ちて行きました。ですので、森を抜けた先に何かあると考えたのです。」

「なるほど・・・」

 コルタの言う事に嘘は無い。

 これまでの情報に限らず、リアルタイムで脳波や声紋を測定しており、真実しか語っていない事が確認出来ていた。

(・・・ん?さっき、「落ちて」と)

「次は此方から質問しても宜しいでしょうか?」

 コルタの言葉に違和感を感じた坂田の思考を遮る様に、今度はリーンに問い掛けられる。

「何でしょうか?」

「私達は、つい先程も彗星が落ちるのを見ました。ところが、それは彗星ではなかったのです。」

 坂田からは嫌な汗が流れ、リーンは若干力む。

「突如としてその輝きを失ったかと思うと、同じ場所には何かがいたのです。」

「何かとは?」

「さて、私には見当も付きませんが、とにかくその何かは地平線の向こうへと降りたのです。」

(どれだけ目が良いんだよ・・・と言うか、凄い執念だな)

 最初から察しは付いてはいたが、此処まで言われて確信へと変わる。

 彼等の見た彗星とは、大気圏突入時の輸送機である。

 断熱圧縮によって火の玉と化した機体は、昼間であっても容易に観測出来る。

 ただし、火の玉から解放された直後の機体そのものを目視するのは極めて困難であり、坂田はコルタの観察力に舌を巻いた。

「それが使途なのか、はたまた神が直接降臨されたのかは、私如きには全く理解出来ません。しかし、何かが降りた事だけは確かなのです。あなた方は、その何かが降りた方角からやって来ました。どうか、その正体をお教え願いたい。」

 坂田とリーンは、少しだけ目を合わせた。

 そして、リーンが口を開く。

「確かに、つい先程も彗星が見えましたが、その後の何かと言うのは此方では一切確認出来ておりません。」

「そんな筈はありません!確かにこの目で確認しました!どうか、どうかお教え下さい!」

「ですから、その様な事を聞かれましても、確認していないので答えようがありません。御理解下さい。」

「でしたら、私が直接調査を行いましょう!勿論、その成果はあなた方と共有します!」

 興奮状態のコルタに驚くが、それよりも焦りが募る。

「この先は俺達の領域だ。はいそうですかと通す訳には行かない。」

 流石に看過出来ず、坂田が口を挟む。

 しかし、コルタはあくまで引き下がらない。

「でしたら、あなた方の王との謁見をお願いしたい。」

 護衛は思わずコルタの方を向く。

「王だって?」

「そうです。突然この様な事を言い出すのは無礼な事とは承知していますが、外部の者を受け入れるかどうかは長たる者が決定権を持つと思います。」

 リーンは、坂田を見る。

(随分とグイグイ来る。使途とか神とか言ってたけど、まさか凄い力が眠ってるとか思い込んでるのか?・・・いや、あの目は)

 坂田は、あまりの積極的な姿勢に警戒心を増してコルタをよく観察するも、その目には覚えがあった。

(ああ、絶対また来るな・・・)

 その目の正体は、好奇心であった。

 未知や危険に嬉々として挑み、新たな常識を創り出す。

 坂田は、一瞬だけ過去の自分とコルタを重ね合わせた。

 彼の国によって切り開かれた既知の知識や経験でさえ、幼い頃の彼にとっては好奇心を掻き立てられる未知の刺激であった。

 その刺激が多大なエネルギーを生み出し、神童と呼ばれる程の学習能力を発揮した。

 その後、正真正銘の未知を切り開く立場となり、その最前線で存分に腕を振るい続けて来た。

 コルタの目は、その頃の自身の目と同じであり、であるが故にその後の展開も容易に想像が出来た。

「結論を言うと許可出来ない。すぐに回れ右して貰う。」

「どうして貴方が結論を?」

「このフロンティアには王と呼ばれる階級は存在しないが、統率者はいる。」

 そう言いつつ自分を指差す。

「!!?」

 五人は、驚愕で目を見開く。

 何しろ、坂田の見た目は20前後である。

 単なる見回りの隊長程度にしか認識していなかった者が、まさかの要求に合致する人物であるなど想像も出来なかった。

「し、失礼致しました!」

 護衛が慌てて跪く。

「やめてくれ、そう言うのは好きじゃない。」

「し、しかし・・・いえ、失礼しました。」

 躊躇いつつも立ち上がる。

「それにしても驚きました。何故その様な立場の方が?」

 唯一跪かなかったコルタは、若干の動揺をしつつも話を続ける。

「まぁ、そうなるだろうな。気分転換で外に出てただけだ。特に深い意味は無い。」

(流石は宗教家だな。お偉いさんに会う機会も多いんだろうな。まぁ、流石にこんなパターンは経験が無かったみたいだが。)

 そう思うと同時に、この星の宗教の厄介さを認識した。

 カノッサの屈辱に代表される様に、政教一致した世界では国家よりも宗教の権威が圧倒的に強い。

 跪かないコルタの態度は、正に宗教が上だと言う認識を体現していた。

「ところで、王ではないと仰いましたが、それではどの様にお呼びすれば宜しいでしょうか?」

「ああ、そう言えば自己紹介をしてなかったな。俺の名前は坂田、こっちはリーンだ。」

 リーンは軽く会釈をする。

「それでは坂田様、先程から気になっていたのですが、リーン殿以外の貴方の周りの方々なのですが・・・」

 聞きたくても聞けなかった事をコルタが代弁してくれた事に、護衛達は内心で感謝した。

「ん?ああ、ウチの兵士だ。」

「失礼ながら何とも見慣れない軍装なのですが、この地ではこれが普通なのでしょうか?」

「まぁ、そうだな。兵科によっていくらか差異はあるが、基本は同じだ。」

 アンドロイドの見た目から気になるのは仕方無いとは言え、そのまま軍事関連の話に入った事に警戒する。

「ほう、中々興味深いですな。装備の詳細もお聞きしてみたいものですが、一体どれ程の兵力をお持ちなので?」

「それは言えないな。」

「それは何故でしょう?」

(最初からまともな返答を期待してなかったな。)

 坂田の即答に、コルタは全く動じる様子を見せなかった。

「この地を調査させないのと同じ理由だ。」

 今度は少し首を傾げたが、すぐに結論に辿り着く。

「余所者に見せる物は無いと言う事でしょうか?」

「正確には、信用出来ない者に見せる物は無いだな。」

「そうですか・・・」

 心底残念そうに反応する。

 落胆から立ち直ると、すぐに考えをまとめて決断した。

「それでは、これ以上の長居はいけませんな。突然ですが、私達はこれで失礼致します。あなた方とまたお会い出来る事をお祈りします。」

「そうか。まぁ、無事に帰れる事を願っておこうか。」

 コルタ達は一礼し、来た道を戻って行った。

「こうもあっさり引き下がるとは思わなかったな。」

 彼等の姿が見えなくなると、坂田が口を開く。

「確かに、あの様子だとかなりゴネると思いましたが、不気味な程に聞き分けが良いです。」

 リーンが応じる。

「ただ、諦めた訳じゃないだろうな。ああ言うタイプは、好奇心を満たすまで絶対に諦めないぞ。」

「と言う事は、また来ますか・・・」

 輸送機の事を誤魔化した時のコルタの興奮状態を思い出し、この先に待ち受けているであろう面倒事を思うと憂鬱になる。


 荷物番の元へと戻った一行は、遅い昼食を摂りながら今後の事を話し合う。

「コルタ様、あんなにあっさりと引き下がって宜しかったのでしょうか?」

 リーダーが問う。

「確かに残念でなりませんが、異教民族研究を専門としている者によれば、出会った事のない民との初接触は大体あの様なモノなのだそうです。外部からの人間を過剰に警戒し、追い返そうとするのが当たり前なのですよ。その点、初対面でもある程度話の出来た彼等はかなり良い方と言えるでしょうね。」

 異教民族研究とは、未知の領域に存在する民族や種族と接触し、彼等の文化習俗を研究する部門であり、未開環境研究部門と行動を共にする事も多い。

 その目的は、敵を知るである。

 最初から歓迎してくれる例もあるがそれは稀であり、武装して警戒心を剝き出しにされる事の方が多い。

 その為、最初の対応を誤ると泥沼に陥って双方に多大な犠牲を強要する事態となる。

 コルタは、その点を心掛けて丁寧な対応に終始し、決して自身の意見のみを押し通す事のない様にしていた。

 尤も、そう意識しても好奇心を刺激されるとかなり強く押してしまうのが彼の欠点だが、本人にその自覚は無い。

「それよりも、この件を上にどう報告すれば良いかが問題です。」

「確かに、森の先にある地の話はともかく、あの彗星らしき天体の話も、あの奇天烈な格好の連中の話も、容易に信じて貰えるとは思えません。」

「人が住んでいる程度なら信じるかも知れませんが、教会は布教先が増えた程度にしか思わないでしょうし、国は征服に動く可能性すらあります。」

 見た限りでは、彼等の格好以外は非常に慎ましやかな暮らしをしている印象であった。

 坂田の王に当たる階級は存在しないと言う証言も、彼等の共同体としての規模が国とは呼べない程度でしかないとも受け取れる。

 とは言え、王と呼ばれる階級の存在を知っている辺り、国の概念が全く無い訳でもなさそうでもあると見ているが、それはそれでかつては国であったフロンティアが今では大きく衰退してしまったと解釈する展開へと繋がる事が容易に想像出来た。

「どう報告しても、恣意的に都合の良い解釈をして動き出す未来しか見えませんね・・・どうしたものかぁ!」

 コルタは、天を仰いで声を張り上げる。

「あの、どうしてそこまで悩まれるのでしょうか?」

 他人事の様に護衛の一人が言うと、鋭い目付きでその護衛を見る。

「それは勿論、あの先に向かう為ですよ!」

 勢いよくフロンティアの方向を指差す。

「あの場は引き下がりましたが、諦めた訳ではありませんからねぇ・・・何としても目的を果たす為に、彼等と敵対関係になどなりたくないのですよ!」

 好奇心の強さを証明するかの様に、目をギラギラさせながら言う。

「そ、そうですか・・・そうなれば良いですね。」

 引き気味に相槌を打つと、コルタの目が怪しく光る。

「貴方にも一緒に打開策を考えて貰いましょうかねぇ?」

「エ?いや、あのぉ、そのぉ・・・ワタクシ如きにその様な大それた真似はとてもとても・・・」

「遠慮する必要など無いのですよ?さぁ、一緒に考えましょう。」

(藪蛇)

(御愁傷様)

 他の護衛達は、全力で顔を逸らして巻き添えを避けた。


 結局、まともな打開策は見付からないまま、森を抜けて一旦帰国の途に就いた。

 コルタの報告は国と教会双方に上げられ、更に諜報員等を通して他国へも徐々に広がりを見せ始めた。

 また、同行していた護衛の口からも噂が広がり、まだ見ぬ未開の地への探求心を刺激される者が多数現れる事となった。

 立場を問わず、多くの者がケミの大森林の先の地へと向かう。

 彼等の通る場所は、後にフロンティアへと通じる一本道を形成する事となる。



 忘れていましたが、メリークリスマス!

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