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第五話  接触

 命名が毎回大変過ぎる・・・

 ケミの大森林



(あれから随分経ちましたが、相変わらず彗星は頻繁に姿を見せる・・・そして、上は一向に関心を見せない・・・)

 コルタは、内心嘆息する。

 最寄りの村で初めて彗星を目撃した日、彼は連れて来た直属の部下へ命じて国と教会へこの現象の報告に走らせた。

 無論、単に確認したと言う報告だけでは何にもならない為、継続的に観測結果を上げ続け、本格的な調査の必要性を訴えた。

 しかし、半年以上経った今でも無しの礫である。

(何としてもこの先に辿り着き、異変の正体を解明せねば・・・!)

 観測を続けた彗星の軌道は、いつからか彼の目には森の先を目指している様に見えていた。

 しかし、原生林は想像以上に困難な場所であり、どれだけ入念な準備をしても遅々として進まず、何度もリトライを繰り返していた。

 護衛はその覇気に付いて行けずに何度も入れ替わったが、不屈の闘志でどうにかルートを啓開し、着実に歩を進めていた。

 上ではむしろケミの大森林の探索の方を評価しており、そろそろ帰還して森の調査結果を発表してはとまで言われている。

 しかし、彼はその様な声を無視してひたすらに森の向こう側を目指し続けていた。

「コルタ様、明日には引き返さないと食料が持ちません。」

 朝食を摂り終え、軽い食休みをしていると護衛のリーダーがそう言った。

「・・・解りました。今回の探索は今日一杯で終了としましょう。」

 同じやり取りをこれまで何度繰り返して来たのか、数えるのも馬鹿らしくなっていたが、途上で引き返さざるを得ない悔しさは相変わらずであった。

「では、本日最後の探索と行きましょう。」

「行くぞ」

 リーダーが声を上げ、お付きが動き出す。

「それにしてもコルタ様、半年前からこの森にいると聞いていますが、そんなに長い間留守にしていて大丈夫なのですか?」

 護衛の一人がコルタに話し掛ける。

「ああ、それなら大丈夫ですよ。私は教会では変人扱いされていましてね、大抵の人は私と仕事するのを嫌がるんですよ。まぁ、私一人がいなくなった所で困る程忙しい訳でもありませんし。」

「そ、そうなんですか・・・」

 想像以上の内容に気まずくなる。

「学者様が実地調査すると変人扱いされるのでしょうか?」

 リーダーが尋ねる

「うーん、学者が現場に出る事は良い事とされていますねぇ。その点では私も評価されています。ただ、教会に関しては学者であっても熱心に祈りを捧げる者が尊いとされていますから、現地に向かう暇があれば祈るべしみたいな風潮がありますね。国の学者は年寄りが多いですから、体力的な問題でしょうかね。」

「なるほど、そう言えばコルタ様は教会所属でしたね。」

「そこは忘れないで下さい。」

「し、失礼しました。」

 コルタの視線が鋭くなり、リーダーは慌てて謝罪する。

「変人扱いされる理由は、例えばこの服装ですよ。」

 自身の緑色の服を指す。

「どう言う事でしょうか?」

「教会では、青と白が相応しい色とされています。まぁ、クルティリス教の象徴的なカラーですから当然ですがね。学者も神父も例外無く青と白の服を着ます。それを真正面から否定している訳ですから、変人扱いも妥当でしょう。」

 そう言って笑う。

(いや、それって結構シャレにならないんじゃぁ・・・)

 護衛達は、揃って不安になる。

「あの、その色に拘っている理由でもあるのでしょうか?」

「汚れても良い様にですよ。」

「・・・え、それだけですか?」

「ええ。聖職者として整えられた服装を、汚れる事が判り切っている場所で着るなど、それこそ冒涜ですよ。何の為にあの正装が存在するのか、それを考えれば巡礼が目的でもない外出で着るなど有り得ません。こんな場所であれば尚更です。」

 護衛達は呆気に取られた。

 彼等にとって、聖職者が身近にいるのは当たり前であるが、その印象はお人好しか胡散臭いかのどちらかであった。

 そのどちらにも属さないコルタは、彼等から見ても変人であった。

「さて、周りの様子は?」

「あ・・・ええ、特に問題は・・・ん?」

 リーダーは、前方の景色に違和感を感じる。

「どうしました?」

 そのまま歩調を速めて前へ進むと、唐突に視界が開けた。

「コルタ様、抜けました!森の向こう側です!」

「本当ですか!?」

 全員が駆け出す。



 ガサガサ



 目の前の枝や草をかき分け、その先へ進むと広大な草原が広がっていた。

「おお、遂に・・・遂に・・・!」

 とうとうやり遂げた達成感で感極まり、コルタは涙を流す。

「ああ、神よ・・・」

 思わず祈りの姿勢をとる。

「こ、コルタ様、時間もありませんし、先へ進んでみませんか?」

 遠慮がちにリーダーが話し掛ける。

「え?ああ、そうでしたね。」

 物資の関係で一日も時間が無い事を思い出し、すぐに立ち上がる。

「ふむ、寒々しい印象はありますが良い所ですね。」

 何処までも続く広大な草原は壮観だが、人っ子一人いない光景は物悲しさを感じさせた。

 その脇では、護衛達が目印となる跡を各所に付けながら周囲を警戒する。

 空を見ると、太陽は真上を過ぎた所であった。

「コルタ様、いい時間になりましたし、昼食にしませんか?」

「ふむ、そうですね。そうしましょう。」

 延々と薄暗い森の中にいた彼等は、開放的な草原での食事に胸を躍らせる。

 護衛が準備をしている中、コルタは周囲の観察を続けていた。

「それなりに肥沃な土地ですが、開発された跡が見受けられませんね。人は住んでいないのでしょうか・・・それとも、狩猟民族が?」

 次いで、手近な昆虫を捕まえる。

「ふむ、地元と変わりませんね。新種の生物はいないのでしょうか。」

 一方の護衛は、間も無く準備を終わらせる所であった。

 とは言え、肝心の食事内容はジャーキーを挟んだだけのサンドイッチである。

 後の準備と言えば、座る場所の確保程度であった。

「学者様のやる事はよく分からんな。」

「変人扱いされる理由はよく分かるけど。」

「言えてるな」

「やめんか、全く・・・コルタ様、準備出来ました。」

 そう言った瞬間、コルタは目の色を変えて空を凝視した。

「コルタ様?・・・ッ!」

 つられて上を見ると、複数の彗星が見えた。

 しかも、これまで見た物よりも明らかに高度が低い。

 そのまま見つめていると彗星は消えたが、直後から同じ位置に高速で飛行する何かが出現した。

「あれは!?」

 驚いて硬直していると、その何かは急速に降下を始め、草原の遥か先へと姿を消した。

 暫く呆然としていた一同だが、何とか再起動したリーダーが口を開く。

「コルタ様、あれは一体・・・ヒッ!」

 リーダーに呼ばれたコルタは、恐ろしい形相で勢いよく振り返る。

「何をぼやぼやしているのですか!?すぐに追いますよ!」

「え、しかし食事は」


 「食っとる場合かアァァァァーーーーー!!」


 興奮状態に水を差した一言は、水蒸気爆発を引き起こした。

「ああ、お待ちを!コルタ様お待ちを!」

 そのまま駆け出したコルタを止めるが、あっという間に引き離された。

「まずい!お前はこの場で荷物の番をしろ!お前達は最低限の装備を持って付いて来い!」

 リーダーはそう言うと、武器と小物だけを持ってコルタを追い掛け始めた。




 ・・・ ・・・ ・・・




 フロンティア  坂田の家



 ピピー ピピー ピピー



「あん?」

 優雅にランチタイムを楽しんでいた坂田は、唐突に鳴り出した警報に顔を顰める。

 すぐに投影用ワーカーが目の前に現れた。

『マスター、お食事中に失礼致します』

 ワーカーを通してノアが報告する。

「急にどうした?」

『それが、遂に抜けて来ました』

「?」

 意味が解らない坂田だが、映像が出されると目を見開く。

「・・・来たのか!?」

 その映像は、南部の森の境界であった。

 そこにいるのは、例の六人組である。

『既に警戒態勢を敷いていますが、指示をお願いします』

 指示を出そうとした矢先、五人が上を見ながら唐突に駆け出した。

「何が起きた?」

『恐らく、定期便の大気圏突入を目撃したのでしょう 発着場まで辿り着けるとは思えませんが、その前にそちらが発見されます』

「事前の方針通りにやるぞ。すぐに帰るなら放っとくが、このまま奥地に来るならこっちから接触する。小屋の準備を頼む。」

 小屋とは、現地民と接触した時に備えて設置した、応接間として利用する小さな一軒家である。

 森から大して離れていない位置に設置されており、それよりも奥にある重要拠点から目を逸らす目的もある。

 尚、坂田の家も同様の目的で森から大して離れていない位置(小屋より遠い)にある。

 急いで支度を済ますと、坂田は護衛のアンドロイドを従えて家を出た。




 ・・・ ・・・ ・・・




 勢いよく駆け出したコルタであったが、現地へよく出るとは言っても所詮は学者に過ぎず、すぐに体力を使い果たして立ち止まった。

「フゥ・・・ハァ・・・」

「コルタ様、あまり無茶は止めて下さい。」

 追い付いたリーダーは、平然とした様子で水筒を差し出す。

「ングッ・・・ハァーーー・・・いや失礼しました。ついつい興奮を抑え切れずに突っ走ってしまいました。慣れない事はするものではありませんね・・・」

 水を飲み、息を整えて堂々と言う。

 その様子を見て、一同は若干の疲れを覚える。

「取り敢えず、戻って食事にしましょう。空腹な上に激しく動いたのですから、長くは持ちませんよ?」

「そうですね、そうし・・・?」

 同意して歩き出そうとしたコルタは、足元の感触に違和感を抱く。

「こ、これは!?」

 下を見ると、剝き出しになった地面が彼方まで一直線に続いている。

 明らかに道であった。

「コルタ様!」

 これには護衛も驚愕する。

「あ、あれを!」

 護衛の一人が道の先を指差す。

「何と!」

 そこにあるのは、小さいながらも明らかに人工物。

 何らかの小屋であった。

「あの未開の大森林の先に人が住んでいようとは!これは何としてでも先へ進まなければ!」

「コルタ様!」

 リーダーが声を張り上げ、コルタがの動きが止まる。

「この先は、我々よりも前に出る事のない様に願います!」

「ど、どうしてですか?」

「この地の住民がどの様な性格をしているのか、何も判っていません。もし攻撃的なら、問答無用で襲い掛かる事も考えられます。」

 考え無しに前へ出れば、碌な対抗手段を持たないコルタは真っ先に餌食となる。

「わ、解りました、落ち着いて行動しましょう。」

 想像して顔色を悪くし、リーダーの指示に従う。

 コルタを中心に、四方を四人の護衛が囲む陣形を採り、歩いて進む。

 最初の目標は、目の前の小屋である。

「・・・貯蔵庫か何かか?」

 近付いて輪郭がはっきりすると、人が生活するにはあまりにも小さ過ぎる事が判った。

「恐らく、此処の住人はケミの大森林で狩りをしてこの小屋に保存しているのでしょう。だとすると、狩猟民族かも知れませんねぇ。」

 アラスカのエスキモー等、狩った獲物を直接持ち帰らずに付近の小屋に貯蔵する習慣は各地にある。

(狩猟民族だとすると、普段から武器を携帯していそうだな・・・攻撃的な所も多いと聞くし、尚更気が抜けないな。)

「ッ!・・・前方から何か来ます!」

 警戒レベルが跳ね上がり、前傾姿勢になる。

「・・・猛獣ではなさそうだな。」

「何の慰めにもなってませんよ。二足歩行はしてますが、人かどうかも怪しいですね。」

 それは、人の形はしているものの、何もかもが異質な何かであった。



 こんな学者ってリアルでいると思う

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