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第四話  選択

 タイトルはこのままで良いのかに悩む

 坂田が地上に降り立ってから半年以上が経った

「そう言えば、此処の名前を決めてなかったな・・・」

 唐突に坂田が口にする。

「此処とは?」

「今いるこの場所の地名だよ。」

 これまでは、「この場所」や「この辺」と言った曖昧な表現しか使っておらず、若干の不便さがあった。

 レジェンドアンドロイドからすれば大した問題ではなく、ノアは疑問に思う。

「しかし、何故突然?」

「以前の六人組だけどさ?」

「はい」

「今後、この場所に来る連中と直接会った時に「此処は何処ですか?」って聞かれたら困ると思うんだ。」

「まぁ、確かに」

 定住しているにも関わらず、余所者から現在地に関する情報を聞かれて地名を言えないなど、相当恥ずかしい事である。

「それに、余計な問題を引き起こしかねない。」

「問題ですか?」

 まともな統治能力を持った勢力であれば、支配領域の地名が無いなど有り得ない。

 となれば、地名の存在しないこの場所は無主の地と解釈され、一方的な領有宣言をされる可能性がある。

 無主の地と言う事は、そもそも外交交渉を行う対象がいないと言う事となり、話をする余地すら無くなる可能性がある。

「まぁ、征服欲の強い国が相手だったら同じ事だけど、少なくとも此処が独立した勢力圏だと認識させる必要はあるだろうね。」

 そう締め括り、ノアを見る。

「では、どの様な名前にされますか?」

「問題はそれなんだよな・・・」

 地名を考えるなど、坂田は考えた事がない。

 それどころか、命名全般を苦手としている。

 その為、これまで造って来た装備にもまともな名前が殆ど無い。

「代わりに何か考えてくれない?」

「わ、私がですか?」

「そう、頼んだわ。」

「え、えーと・・・」

 突然の指名に困惑し、いつもの冷静な態度が崩れるノア。

「・・・フロンティアで宜しいでしょうか?」

 時間が止まる。

「地名・・・?」

「穴があったら入りたいと思うのは初めてです。」

「い、いや、悪い、それで良いと思う。新天地だし、確かにフロンティアは丁度良い名前だな。」

「・・・・・・」

 恨めしい視線が坂田を刺し貫く。

 こうして、この地は<フロンティア>が正式名称となった。


 フロンティアの開発は順調そのものである。

 南部には坂田の家と中規模の農場が整備され、現在はプラント艦から家畜を移送して牧場の整備を進めている。

 農場にはプラント艦で育成されていた作物が全種類持ち込まれ、環境の変化による影響を日々観察している。

 中部では、地下格納式の発着場が完成した。

 旗艦の収容が可能な程の規模を誇り、それに併設される形でドックと倉庫が整備されている。

 北部には鉱物資源の埋蔵が確認されたが、採掘は行われていない。

 北西部では、防衛線の建設が進んでいる。

 そこから西に広がる広大な平原では、約1000km先に遊牧民の存在が確認されており、フロンティアは十分活動圏内に入ると推定されており、防衛基地と共に塹壕や壁を構築中である。

 東部には現在は何も無いが、海に面している事から港の建設計画が持ち上がっている。

 現状では必要性が無い為に机上の話でしかないが、候補地選びと設計だけは行っている。

 そして、これ等は全て地上を走る道で繋がれている。

 彼の国で開発された舗装材を使用しており、戦車が通っても跡が付かない程の耐久性を誇る。

 単に生活するだけであれば十二分な環境が整っているが、それだけでは留まらない。

 坂田を筆頭とする彼等の本拠地は、現在は月面にある。

 仮設ドックの建て直しは完全に終わり、今度はアンドロイドやワーカー、マイクロドローンの生産工場が建設されている。

 更に、月面各地で発見された資源の採掘も進み、その貯蔵庫が次々と建設されている。

 そして、それ等資源の精製施設も順次稼働を開始しており、本格生産も間も無くとなる。

 また、居住施設の建設も開始され、坂田が月面で長期滞在を望んでも問題無い体制が整えられている。

 これ等に加え、地球、月面双方で入念に準備が進められているのが、防衛体制の構築である。

 まず、各拠点に直接配置される戦力や装備は既に搬入が完了しており、各所にアンドロイドや戦闘車両の待機場所が整備され、場所によってはレールガンタレットやミサイルタレットが設置されている。

 加えて、ワーカーや航空機を常駐させる空中基地が建設されており、完成次第拠点上空の成層圏へ配備される。

 その更に上空の衛星軌道上では、艦隊の整備駐留が可能な大規模ステーションの建設計画が進んでいる。

 これ等の基地の目的は、月面からの移動によるタイムロスを防ぐ中間拠点である。

 今後の活動範囲次第では、順次増設が行われる事となる。


「それで、また来てるのか?」

「はい」

 フロンティアの開拓とは関係無く、例の六人組は南部の森へ何度も訪れていた。

 彼等の会話を傍受した結果、最終的には森を越えてフロンティアへ侵入する事は確実と予想されている。

「彼等の言う真昼に見える彗星とは、状況からして我々の機体で間違い無いかと。」

 大気圏突入の様子は、その場にいれば観測は容易である。

 それが連日行われれば、現地にいれば嫌でも目に付く。

「だからと言ってやめる気は無いぞ。」

「無論です。しかし、彼等が此処まで辿り着いたらどの様に対応しますか?森の探索も手馴れて来ていますし、抜けるのも時間の問題でしょう。」

「確かにそうだが、どうしても接触しなきゃいけない理由も無いからな・・・現地文明に興味を引く物も無いし、唯一気になる事も独自に動いて調べた方が良さそうだしな。」

 坂田が気になっている事とは、この星の魔力に根源的な理由がある。


 魔力とは、魔法を行使する為に必要なエネルギー源である。

 宇宙を構成するエネルギーの内の一つであり、エネルギー保存の法則によって科学的エネルギーと連動する関係にある。

 星も、魔力が一部を構成している。

 魔力は目に見えないエネルギーであるが、高濃度で圧縮されると魔石と呼ばれる個体となる。

 この魔石は、外から魔力や何らかのエネルギーを流すと反応し、熱や光を発しながら魔力を放出し、最終的に消滅する。

 地球型惑星に限定して見ると、気圧の流れの様な一定の法則性が存在する。

 惑星の外側を構成しているプレート内には大量の魔石が埋蔵されており、プレートの移動によってマントルに沈み込むと、その膨大な熱量によって魔石から魔力となる。

 その後、海嶺や地上の火山等から魔石から解放された魔力が空気中に拡散し、生物に取り込まれたりそのまま地上に定着する。

 その後、長い時間を掛けて生物の死骸や地上に定着した魔力が溜まり続け、動物の移動や災害等のあらゆる圧力によって圧縮され、魔石を形成する。

 これが、地球型惑星に於ける魔力の一連の流れである。

 これ以外に、大気圏外から隕石として大量の魔石が降り注いでいるが、大半は人類の生存圏外へ落ちている為、確認される事は少ない。


 単純な魔力の流れだけであれば軌道上から観測を続けるだけで事足りるが、そこには例外の存在が考慮されておらず、その例外がこの星では更に例外的な要素となっているのである。

「それで、ダンジョンの数はどれぐらいだ?」

「現在までに、4000を超える数が確認されています。」

「分布は?」

「此方に」

 火山地帯や極地、巨大な渓谷等、大多数の生物の生息に適さない危険地帯は、魔力が噴き出すエリアである事が多い。

 そうしたエリアは魔力の濃度が極めて高い状態にあるが、その高い濃度が従来とは異なる現象を引き起こす。

 それが<ダンジョン>である。

 ダンジョンとは、その名の通りの迷宮であるが、それが自然発生するのである。

 これは、高濃度の魔力の奔流が一部凝固結晶化して出来上がる<ダンジョンコア>によるものである。

 魔石の形成には物理的な圧力が必要であるが、ダンジョンコアは濃密な魔力の流れが空気中で塊を生み出す事で形成される。

 見た目は占いで使いそうな水晶であり、自身の魔力を流すとコアに凝縮された膨大な魔力を自分の物に出来る。

 何故、ダンジョンコアがダンジョンを創るかと言えば、生存本能である。

 自我を持たず、蜂に似た機械的な動作しかしない事が判明しているが、彼の国では生物に分類されている。

 ダンジョンコアは、その成立条件が原因で人里離れた場所で活動する事が殆どであり、日常生活に影響を与える事はまず無い。

 しかし、地球では状況がまるで異なる。

 その辺の平地や森、山の麓と言った人間が当たり前の様に住んでいる場所で頻繁に出現するのである。

「他だとまず見ない現象だな・・・」

 ワーカーの投影するダンジョンの分布図を見ながら呟く。

「ダンジョンが町の中心になっている事例も散見されます。」

「いやまぁ、やりたい事は解るけど・・・」

 ダンジョンコアは、身を守る為に豊富な魔力を利用して番人を配置している。

 それ等は何の意思も持たないコアの操り人形であり、生物には分類されない。

 そして、そうした番人は周囲の鉱物を含む物質によって構成される他、質の高い武器を持っている事も多く、倒せば貴重な資源となる。

 また、ダンジョンに挑戦する事で実戦経験を積めば、軍事力の向上にもなる。

 尚、彼の国では一部のダンジョンは観光地化されているが、それ以外は見向きもされていない。

 ごく稀に人里に近い場所に出現する事例があり、その場合は積極排除に動くが、それはあくまで例外である。

 ダンジョンの資源としての価値は第六階層までがせいぜいであり、それ以上は向上した技術による高品質低価格大量生産による各種資材に対抗出来なくなる。

 坂田の関心も、本来であれば有り得ない場所での大量発生の真相にあり、資源としての価値は見出していない。

「ダンジョンについて、現地の声を直接聞いてみますか?」

「マイクロドローンで十分だろ。」

 現時点で稼働しているマイクロドローンは10億機を超えており、現代水準で見ればザル同然の警備状況である事から、回収も積極的に行われている。

 此処で話は元に戻る。

「誰も近付けない様にしては?」

「追い返す真似をしたら余計な敵を作りかねない。」

 入るなと言われれば、入りたくなるのが人の性である。

 また、排他的な態度を取れば、それだけで野心的な人種の標的とされかねない。

「いっその事、排除しますか?」

「・・・どっちの方が影響が大きいと思う?」

 坂田が最も恐れているのは、バタフライ効果である。

 北京で蝶が羽ばたけば、その気流が一ヶ月後にニューヨークで嵐を引き起こす事も有り得る。

 ほんの僅かな変化が、場合によっては恐るべき規模の変化を齎す事もあると言う例えである。

 彼等がやって来た事で変化は免れないが、穏やかに接触するか乱暴に排除するか、どちらの方が影響を抑え込めるか判断しかねているのである。

「予測は極めて困難ですが、穏やかに接触すべきかと。」

「理由は?」

「排除した場合、生きて帰れない森があると言う噂が出回る可能性があります。」

「ありそうだな・・・そして、好奇心の強い連中が次々と押し寄せて来ると。」

 神の眠る神聖な地となっている 強力な番人が守る財宝がある 世界を支配出来る兵器がある

 ざっと考えただけでも、大勢が寄り付きそうな噂が出回る展開が頭に浮かんだ。

 そして、尾ヒレ背ビレの付いた噂は原形を留めず、やがてはただの願望となり果てる。

 そうでなくとも、生きて帰れないと言うだけで恐い物見たさの人間や、未知が大好物の冒険家がやって来るのは想像に難くない。

(いくら簡単に排除出来るとは言え、そんな事になったら煩わしい事この上無い・・・それに、時間が経てば経つ程、数は増える一方だろうな)

 坂田は、排除の方針はひとまず諦めた。

「接触した場合の展開は?」

「まず、彼等は国か宗教の上層部に報告するでしょう。その報告が無視されれば話は変わりますが、受け入れれば大規模に動くでしょう。」

「余計に面倒じゃないか?」

「一度の規模は大きくとも、そのお陰でやって来る頻度は大幅に下がると思われます。それが友好的な物か敵対的な物かの違いはあるでしょうが、国家規模の組織が絡めば民間レベルでの接触には厳しい規制が掛かる筈です。」

 何に価値を見出すかによるが、自由貿易を推進している勢力でもない限り、得られる権益を組織単独で独占しようと必死になる。

 そうなれば他の有力な勢力ならともかく、一般人にはどうにもならずに諦めるしかない。

 そして、巨大な勢力はその組織が巨大なせいで動きが鈍くならざるを得ず、動いた場合には相応の規模となる為に余計に動きが遅くなる。

「仮に敵対的な対応で排除に動くとしても、一度に多くの戦力を削る形となるので、長期的な安定を得られます。」

「ふーむ・・・」

 坂田は長考に入り、入念に方針を考える。

 やがて顔を上げ、結論を出した。

「よし、森を抜けてウチを見付けたら接触しよう。ただし、接触するだけだ。一切言質は取らせない。その後の対応は相手次第だが、積極的な交流はしない。その後はどんなルートを通っても強硬策に収束するだろうけど、そこで採るべき対応は二つ。正当防衛と報復だ。攻撃に対しては反撃し、その後は必ず報復に出る。これを繰り返してフロンティアを手を出してはいけない領域として認識させる。」

「理解しない者も出ると思いますが?」

 いつの時代にも度を超える者はおり、その様な人種が力を持っているとすれば、盛大な規模でやらかす事となる。

「滅多に無いだろうから、偶のイベントとでも見とこう。とは言え、そんな連中を相手に直接動くのは面倒だな・・・」

「でしたら、森で押し留める様にするのが宜しいかと。」

「まぁ、まずは大いに恐怖して貰う所からだな。どうせ何年も掛かるだろうから、その間に考えよう。」

 方針は決まった。

 後は、その時を待つだけである。



 報復は大事

 リアルでもやられた分はやり返さないと舐められるよ。

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