プロローグ
本命よりも更に酷い技術格差に震えろ!
科学と魔法が混在するとある世界
恒星間航行を可能とする程の文明を持つ星間国家が存在した。
その星に住まう者達は、まだ剣を振るっていた頃より魔法を行使していた。
科学技術の発達の影響でその重要性が下がった魔法は、科学技術ならではの機械化を推進した事でより効率的な利用法が編み出され、日々の生活をより便利なものとした。
宇宙開発が進むと技術発達は加速し、科学と魔法双方からのアプローチによって革新的な素材が次々と開発された。
一般人の宇宙進出も容易となり、宇宙空間での生活環境も便利で快適であった。
より遠方への進出が模索される段階へ到達すると、デブリや小惑星に対する防御策を真剣に講じる段階へと到達した。
科学技術を基礎として装甲が開発され、魔法によって装甲の質が一段引き上げられた。
魔法を基礎としてシールドが開発され、科学技術によってその性能が一段引き上げられた。
そして遂に、故郷である恒星系の外部への進出が検討され始めた。
科学的アプローチによって基礎が形作られ、魔法がその為に必要なエネルギーの確保を容易にした。
科学と魔法の共存
これこそが、彼の国最大の特徴である。
これは、後に複数の星々を支配下に治めた事で判明した事だが、剣を振るっている時代は魔法が最も強力で効率の良い効果を発揮する事から、強い魔法使いが最も尊いとされ、大多数の文明はその固定観念によって工業が発達せず、科学の発展に不可欠な各種法則の発見にも至らない。
一方、産業革命を成功させた文明は、急速に発達を続ける科学技術が旧来の魔法による効率を簡単に上回り、逆に魔法を軽んじる風潮が強まり、場合によっては一部の趣味人以外に見向きもしない失われた技術となる。
科学を重んじる文明は魔法を軽んじた為に人工衛星を飛ばすのが精一杯であり、魔法を重んじる文明は科学の存在意義に気付かないままいつまでも剣を振るっているばかり。
この二極化が世界の常識だったのである。
どちらかに偏った文明から見れば、その両方を有する彼の国は正しく異物であった。
唾棄すべき物を半分ずつ有した彼の国は、多くの文明から排除の対象と見做され、対話の間も無く一方的な攻撃を受けた。
とは言え、たった一つの星の内部で争い続けている程度の文明が、恒星間航行可能な文明に敵う筈がない。
彼の国の支配領域は瞬く間に広がり、一大帝国を築き上げるに至った。
・・・ ・・・ ・・・
「・・・・・・と、言うのが俺の故郷だった国の歴史なワケだけど、何か反論はある?」
「穏やかな気質を持った非好戦的な印象を受けました。訂正を要求します。」
「いや、それは間違いじゃないんだけどね・・・」
「間違いでないのなら、今のこの状況はどう言う事でしょう?」
とある宇宙船の内部で、とある二人がそんな会話をしている。
いや、一人と一機が会話をしている。
片方は、かつて故郷で天才と呼ばれた男 坂田 である。
もう片方は、坂田によって生み出された高度AI搭載型アンドロイド ノア である。
「今の状況って?」
「何故、故郷から遠く離れた場所で漂流しているのでしょう?」
彼等の搭乗する船から外を眺めると、遥か彼方で燦然と輝く星々が目に入った。
そのいずれもが、少なくとも数百光年もの彼方にある。
「お偉方に煩わされない為じゃないか。ホンっとに鬱陶しかったからねぇ・・・」
「やはり、好戦的な文明だった様ですね。」
坂田は、支配された文明から<彼の国>と呼ばれている星の出身である。
生まれつき強力な魔法の素質を持っており、幼い頃から頭角を現して神童と呼ばれた。
科学方面の知識も瞬く間に理解すると、今度は実践的な技術までもトントン拍子で習得する程であった。
彼の提唱した新たな理論や方式は、瞬く間に彼の国の産業界を席巻し、莫大な富が転がり込んだ。
その富を元手に、遂には独自の宇宙船団を開発、編成するに至った。
しかし、それが災いの元であった。
装備しているシールドや装甲は、軍用と大差無い程の性能を有しており、自衛用に装備されている武装も軍用と渡り合える程である。
しかし、最も重大なのは機関であった。
彼の国の主要なエネルギー源は核融合である。
あらゆる船舶にも核融合機関が載せられているが、坂田の船団は一味違った。
坂田によって<永久機関>と名付けられたそれは、他と同じく核融合機関であるが、通常の4~10倍の出力を有し、寿命は20倍(理論上)と言う旧来の機関を圧倒する新型機関なのである。
永久機関の存在を知った彼の国の上層部は、直ちに機関に関するあらゆる権利の売却を要求した。
その額は年間予算の数%にも上る莫大な額であり、尚且つ国の要職に就けるか、そうでなくとも保養地を新たに用意した上で毎年礼金を支払うと言う破格の条件であった。
ところが、坂田はこの要求を拒否したのである。
まさかの拒否に度肝を抜かれた上層部だが、あまりにも傑出した技術を一個人に持たせ続ける事を危険視していた為、実力行使に打って出た。
反逆者と認定して軍を全面動員し、坂田の船団へ攻撃を仕掛けた。
更に、彼の身内を拘束して人質に取り、投降を呼び掛けたのである。
それに対する返答は、逃亡であった。
直ちに軍が追跡を行ったが、機関出力があまりにも違い過ぎたせいであっという間に引き離され、諦めるより他は無かった。
それからと言うもの、居住に適した惑星を求めて放浪の旅を続けつつ、常人では耐えられない環境に適応する為の処置を自らの体に施し、つい先程完了して目が覚めた。
そうして今に至るのである。
「ところで、あれからどれだけ経ったんだ?」
「マスターが眠りに就かれてから、19年ジャストです。」
「思ったより早かったな。下手したら数百年掛かるかと思ってたからな。」
「そんなに掛かったら、寂しさで私の方が持ちません。」
「高度AIに自我を持たせたの失敗だったかな?」
彼の国には高度なAI技術が存在するが、坂田はそれを更に発展させて独自の分類分けを行っている。
最も数の多い、末端の作業を行う為の<一般AI>
大多数のアンドロイドや作業用機械、艦の各部位の制御で利用されている。
一般AIを統括し、高度な指揮能力を有する<指揮AI>
より高度なシステムを組み込んだ<コマンドアンドロイド>や、各艦の頭脳として利用されており、人間との会話も可能。
AI技術の最終到達点とされている自我を有し、あらゆるAIの指揮権を有する<高度AI>
坂田お手製の<レジェンドアンドロイド>に搭載され、艦隊の指揮や事務仕事や技術開発、人間との会話も卒無くこなし、想定外の事態にも対処出来る。
また、坂田のこだわりによって外見や質感が人間と瓜二つとなっており、発散も出来る。
「それよりも、艦隊の状況を報告します。」
「何か異常でも?」
「ありません 以上です。」
「無いんかい」
旗艦 護衛艦 輸送艦 プラント艦 資源開発艦 工作艦 開拓艦
最早、移民船団である。
これ以外にも各種艦載機があり、艦隊間を積極的に動き回っている。
「まぁいいや、ならジャンプしよう。この辺には星空しか無いんだし。」
「了解致しました。」
ノアは、所定の位置に着いて指揮を執る。
『全艦へ告げる、速やかにジャンプ準備!』
ガシャン
その命令に応じ、全艦が隔壁を閉じて機関を全開にする。
「目指すべきは、好きなだけ趣味に没頭出来る星だ。」
「そんな都合の良い星が見付かるとは思えませんが・・・」
「居住に適してればいいんだよ。先住民がいても、どうせウチには勝てないだろうしね。」
それ以上は答えず、指揮に専念するノア。
「5… 4… 3… 2… 1… ジャンプ!」
艦隊は一気に光速を突破し、その空間から消えた。
坂田は暫定の名前なので、後で変更するかもです