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『蛹』~さなぎ~  作者: 木尾方
9/27

四月 ②



田中芳子たなかよしこは、高校生の時に妊娠した。どうしても生んで育てると言いはり、男と家を飛び出してしまうが、半年も立たずに別れてしまったのであった。

 何とか娘のりんを出産した芳子だが、1人で育てるのは無理と思い実家へ戻りたいと連絡をかけたところ、兄弟から芳子が出ていってから直ぐに母親が倒れて亡り、父親もうつになってしまったと知らされる。今さら戻って来られても困る。二度と顔を見せないでほしいと縁を切られたのだった。

 昼夜の仕事をしながら、凜を小学校に入れ、ここまで1人で育てたのだが、凜が8才を過ぎた頃、夜の仕事場のスナックである男と出会ってしまう。男は言葉巧みに芳子に言い寄り、2人が住むアパートに転がり込んできたのだった。

 最初は三人での生活は良かった。だが、数ヶ月も経つと家庭は一変していた。男は、二人に暴力を振るい始めたのだ。それでも芳子は男と別れることはせずに、ますます男の言いなりになっていった。しかし、男は突然出ていくと言い始めたのだった。芳子は引き止めようと懇願こんがんし金などを工面したのだったが、男は他の女の所に行ってしまったのだ。

凜を育てる為だけに仕事をしてきた芳子、その渦中で知り合った男にどれだけ、心救われたであろうか、女として生き返ったのだった。


そして、そんな芳子が凜を邪魔者に思い始めたのである。


9才になる頃のリンの日常は地獄のようであった。


最愛の母親から、毎日の暴力、ご飯も作ってもらえず、安息できるのは、学校と母親が夜の仕事に行っている時だけだった。芳子は仕事が終わると深夜にもかかわらずに凛を叩き、疲れると寝る。凜が学校から帰ると、罵声を浴びせ、暴力をふるい仕事へ行くのを繰り返す日常であった。

しかし、凜にとっては、母親が全てであった。

学校とアパートしか知らない凜にとっては、助けを呼ぶ術を知らない。ましてや、他の大人など解らない。学校の先生など、他の子供にしか興味がない。


凜の世界は母親なのだ。


小学校が夏休みになる頃、近隣の通報により やっと児童相談所が訪問に来るようになるが、芳子は、頑なに必要ないと追い返すのであった。


相談所職員が来ると母親は普段より機嫌が悪くなる。そんな母親に対して、凜は知らない人が来ると母親が怒る。人なんか来ない方がいい、お母さんは悪くないと思うのだった。


夏休みに入ると、凜の生活は今まで以上に酷くなる。学校がないので、昼間 家では母親が寝てるので物音がたてられない。外に出ようものなら、折檻される。もちろん食事はなく 給食がないので母親 芳子が仕事帰りに持って帰ってくるスナックでの余り物の湿気たポップコーンや母親の食べ残しなどが唯一の食事だった。


夏休みが終わり、学校が始まっても凜は登校してこなかった。


そして、九月二十三日 遺体として発見された。



9才になったばかりだった。


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