三月 ③
「叔父さん居る?」
と声をだしたのは、相澤夏々(あいざわなな)である。
夏々は、隣市に家族と住んでいるが、来月、美容師専門学校を卒業し就職を期に一人暮らしを始める。叔父の相澤春樹が管理する相澤不動産のアパートに移るのだ。
「おー、夏々ちゃん、いらっしゃい」
と笑みがこぼれる相澤に対して、軽く目線だけ夏々に向ける黒瀬
「こんにちは」と叔父ではなく、そこに座っている黒瀬に挨拶をした夏々
その場で、頭を下げる黒瀬
黒瀬が頭を上げた瞬間に、夏々の顔が歓喜に包まれる。
「嘘でしょ!クロスさんですよね!」
「そ、そうですが」突然のネームに驚く
「マジで、ヤバい、何で叔父さんのところにいるの?マジで嬉しいだけど、私、めちゃくちゃファンなんです。ヤバい、ヤバい、ヤバい、」
「わははは。夏々ちゃん、落ち着きなさい、お客さんの前だよ」
「あ、す、すみません」叔父ではなく、黒瀬に頭を下げた。
「いやー、今日姪っ子の夏々が物件見に来るって言ってたが、もう約束の時間か?」
「早く、部屋が見たくて、早く来たけど、まさか、クロスさんが居るなんて…ハッ!もしかして、春叔父さん、クロスさんが居るってことは、一昨日のライブ配信、叔父さんの処の事故物件?」
「まったく、もう事故物件じゃない」眉間にしわを寄せる。
黒瀬は、相澤の方に顔を向けて、了解をもらった後で
「そうです。一昨日の配信は、相澤社長のアパートです」
「やった~!春叔父さん、私、クロスさんの部屋にする!」両手をあげて大喜びする夏々
相澤は、椅子から立ち上がり必死に止めようとする
「いや、待て待て、夏々ちゃんには、ワンルームだが新築のいいところでセキュリティもバッチリな処 探してあるよ。それに、お父さんの秋彦に何て言う」
「お父さんは大丈夫!絶対にクロスさんの部屋がいい!、配信で部屋も見てるし、大丈夫!家賃は自分で払うのだから文句は言わせない。ね、ね、いいですよね。クロスさん」
「相澤社長、早速、部屋の契約が決まって良かったじゃないですか」
「まったく…分かった。はぁ、部屋の事は叔父さんが何とかする。かわいい姪っ子の為だ。これも何かの縁だ、黒瀬くん、バイト代出すから、引っ越しの手伝いよろしくね」
「え!あ、はい」と返事をするしかない黒瀬だった。




