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『蛹』~さなぎ~  作者: 木尾方
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エピローグ

10月某日 



小峰由香子こみねゆかこ は、あの日依頼 男勝りの言葉使いがめっきり減った。あの出来事にかなり参ってしまったのだ。


大石が殉職した。高乃が退職した。もう、以前の日々には戻れない。

駅前の派出所には居たくなかった。

小峰は、11月の署の調査書類に生活安全課に異動を希望するつもりだ。

田中芳子たなかよしこの裁判も始まっており小峰の中の刑事になる理由がなくなったのだ。



「すみません。突然、おじゃましまして」


「いえ、全然構いませんよ。来ていただいて嬉しく思います」


小峰は、児童養護施設に来ていた。

一週間前に病院を退院した早坂日葵はやさかひまりが暮らしているのだ。

入院中 何度か面会に行ったが日葵は、ほぼ喋らなくなっていた。

無理も無かった。

日葵は入院中、か弱い笑顔を小峰に見せていた。

そして、退院する時に小峰に言った言葉が頭から離れなかった。


「お巡りさん。私、お巡りさんのおかげで出て来れました。ありがとうございます。」と






施設にある食堂の椅子に腰掛け、お茶をいただきながら、施設院長と話をしていた。


「生活安全課の同期から聞いた話ですと日葵ちゃん、こちらに来てからすごく元気に生活してると聞きました。病院ではショックが大きかったせいか全く喋らなかったので…すごく有り難いなと思ってます。ありがとうございます」


「いえいえ、私どももびっくりしてます。そうなんんですよ。事件の話を伺っていたので心配をしておりましたが杞憂に終わりそうです。初日は緊張してましたが、すぐに他の児童とも打ち解けて元気に暮らしてます…ただ」


「ただ?」


すると、食堂の入口から少女が顔を出した。

「お巡りさん。こんにちは」

笑顔で挨拶をしたのは日葵だった。小峰が施設院長と話している間に、他の施設員が日葵を連れて来てくれたのだ。

「日葵ちゃん、こんにちは、退院依頼だね。ここでの生活楽しんでいるみたいで、お巡りさん安心した」

顔色が良く、元気そうな日葵を見て小峰は安堵した。

日葵は、少しきょとんとした表情をして小峰を見た。

「うん。すごく楽しいよ。でね、お巡りさん聞いて!ここ、すごいの!朝でしょ、昼でしょ、夜でしょ。3回もご飯が食べれるんだよ。それにね、おやつの時間もあるの すごいよね。初めてだよ。こんなに お腹いっぱい ご飯が食べれるの それにね」

小峰は日葵が急に何を言い出したのか理解するのに少し時間がかかった。何故なら逮捕された中村健二なかむらけんじの話によると、日葵の母親 早坂恵美はやさかめぐみは『貧しくとも日葵にはお腹いっぱい食べさせたい』と嬉しそうに話したと言う。そして、三人での食事は幸せそのもので、中村はそんな恵美に心轢かれ本気で一緒になろうと思っていたらしいが、八月終り頃からどういう訳か中村のDVが始まった。実は中村は前の妻と子供に暴力を振るい裁判所から配偶者暴力防止法に基づく接近禁止命令が出されていたのだ。そんな状態で、また暴力を振るえば今度は逮捕されるのは分かっていたはずだ。そして中村は、どうして恵美に日葵に暴力を振るったのか自分では分からないと言う。

中村の事を庇うわけではないが、小峰が日葵を見る限り母親の虐待は感じられなかった。

そんな、過保護な母親に育てられた日葵がそんなことをどうして言うのか、小峰は背筋に寒気を感じた。


「だからね。ここに来てすごく嬉しいの」


「よかったね。日葵ちゃん」作り笑顔をした。


また、きょとんとする日葵、すると施設の台所から先ほどの施設員の声がした。


「リンちゃん、お手伝い頼んでいい?お巡りさんに お菓子持っていってくれるかな?お願い」


「わぁ~私も食べてもいい?」そう言って台所に駆けて行った。


「あ、あの…リンって?」小峰は恐る恐る施設院長に聞いた。


「そうなんです。ただ一点、いくら私どもが『日葵ちゃん』と声をかけても返事をしなかったのです。そこで『お名前は?』って聞いたところ『私、リンだよ。ひまりじゃないよ』と言うのです。先日、カウンセラーの先生に相談したところ、『もしかしたら脳に酸素が不足しての影響か、事故を思い出したく無いので無意識に自分を閉じ込めて違う人格が出てきたのかもしれません』とのことで、長い目でみましょうと…そこで、私どもは、日葵ちゃんではなく リンちゃんと呼ぶことにしました」


「…そうですか」



「はい、お巡りさん。お菓子 どうぞ」リンと呼ばれる少女がお菓子を持ってきた。


「ありがとう」小峰は少女の顔を深く見てわかった。『この少女は、日葵ちゃんじゃないんだ。あぁ、蝶なんだ』と、あの言葉は日葵ではなく、この少女だったのだ。


そして、この一連の不可解な事件も…


大人じゃなく子供 全く何も知らない子供 自分の目に見えるだけの行動範囲 誰かに注目されたい お手伝いをして喜ばれたい 大人に見てもらいたい 子供のわがまま 純粋な子供 





「ねぇ、お巡りさん。私も一緒に お菓子を食べてもいい?」



「うん。一緒に食べよ。りんちゃん」 




『蛹』  ~終~









トゥルルル、 トゥルルル、ガチャ


「はい、お電話ありがとうございます。あなたの街のアドバイザー ハウスショップ扇西店の矢那瀬やなせが承ります」


「アパートを借りたい」


「はい、ありがとうございます。お客様は、どのような物件をお探しですか?」


「〇〇〇〇に住みたい」


「お、お客様。あの物件は…ご理解の上でしょうか?」


「…」


「あ、あの、お調べいたしますので、お客様のお名前を頂戴してもよろしいでしょうか」


高乃慶介たかのけいすけ


読んで頂、ありがとうございます。


小出しの投稿で申し訳ありません。

そうでもしないと、物語のラストの10月に合わせて投稿できないと思ったのでw


この作品は、ジャパニーズホラーを考えてましたが、邪悪な怨霊にはあえてしませんでした。社会情勢を入れたく格差社会や虐待を問題にしたかったからです。

幽霊が喋ったり行動したように見えたりと無理やり感は、正直ありました。

でも、このような設定もありだなって決まったら、一気に物語の想像が膨らみました。


いずれ、編集して一気読みバージョンを投稿したいと思ってます。


なぜなら、たて読みで完成させたいからw


読みづらいく、イメージしづらい作品ですが、精一杯書かせてもらいました。


これでも、5万字に届かないのですね(汗)


よろしければ、感想など頂けたら嬉しいです。


少しでも、楽しんで読んで頂けたら幸いです。


また、別の作品でお会い致しましょう。


ありがとうございました。


2021/10/23   木尾方きおかた



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