八月 ②
大石、小峰、高乃は、交番勤務中に上治橋から人が飛び降りたとの一報を受けパトカーで現場にサイレンを響かせ向かっていた。
交番と現場は目と鼻の先ほどだ。
車内で大石は、「橋入口の土手で車を一端、止めるぞ。そこから高乃巡査は、橋下にいって飛び降りたと思われる人物がいるかどうか探してくれ。女性もいるとの事だから、小峰巡査長は、私と一緒に橋の上へ行く」と手早く指示していた。
橋梁の上治橋は荒川を渡る長い橋で片側二車線道路、その脇に歩道と自転車の専用道が設けられている。
周囲には、現場に向かってくるであろう、パトカーと救急車、消防車などのサイレンが けたたましく近づいてくるのであった。
「ここです」と通報したと思われるロードバイクの服装をした男が手を振っていた。
高乃を降ろした大石と小峰は、パトカーを停めて、ガードレールを跨ぎ歩道側に入った。
そこには、うずくまって泣きじゃくる女性と周囲を囲む人たちで橋の自転車道はごった返していた。
「はい、すみません。関係の無い方は離れていてください」大石の声に少しだけ下がる野次馬達
小峰は、「大丈夫ですか?ケガとかありますか?」と橘田に声をかけた。
暫くすると、橘田は少し落ち着いたのであろう。小峰に話しかけた。
「私が悪いのです。真辺君に別れ話をしたから…」
大石は、通報した男性に話を聞いていた。男は、「いや、飛び降りたところは、見てないですね。女の方が自転車脇で泣いていたから、ケガでもしたのかなぁって思ったのですが、彼氏が飛び降りたって言って、大変だとおもって110番しました」
橋上は一車線を規制して複数台のパトカーが、橋下の河川敷には、パトカー、救急車、消防車が複数台集まっていた。
橋の自動車道は上り、下りとも、夕方の帰宅ラッシュと重なり見物渋滞が発生していた。
その中に、中村と黒瀬のトラックの姿もあった。
「なんだよ事故か?」反対車線の回転灯を見た中村が不機嫌そうに言った。
「待ってくださいね。今、調べます」
慣れた手つきでスマホを片手でし始める黒瀬
「…飛び降りした人がいるみたいですね」
「マジで?すげーな、この高さからかよ」と嬉しそうな口調になった。
「この付近の住人で一人暮らしなら、また依頼があるかもしれないですね」
「ほんとだよ、最近忙しいもんな。そしたら、黒瀬君のチャンネルも潤うかな?」
「飛び降りじゃ無理ですね。事故物件じゃないので…でも、いいな。橋から飛び降りたらどうなるのか調べて配信してみるのも」」
「黒瀬くんのチャンネルかなり賑わってきたよね。夏々ちゃんのおかげでかな?付き合ってるの?」
「マジで勘弁して下さいよ。大変なんですよ。配信の手伝いをしてくれるのは正直助かってますが、付き合ってもいないのに彼女顔やプロデューサー気分ですよ。相澤さんの姪っ子だから我慢してますが」
「そうなんだ。いい子そうだけどね」
「僕は、お金と死人しか興味がないんです!」
上治橋の現場では、無線を使って上と下で連携をとっていた。
確かに、橋の上から飛び降りたであろうと思われる痕があったのだ。
高乃は、先に川辺に来ていたので、捜索を開始した誰よりも先に川下へ来ていた。
「無線によると、若い男性で、背中にバックを背負っていたと…すると、多分浮力があるから直ぐに浮いて来るんじゃないかなぁ」っと根拠も無いことを口にしながら川沿いを注意深く歩いていた。
橋より川下へ600ⅿ程行くと、電車の鉄橋がある そこで高乃は宅配サービスロゴが入ったバックらしきものが浮いているのを遠目に見つけた。
「やっぱり、思った通りだ」と高乃が走って浮いているのを確かめ行った。
見つけた高乃は、「ひぃ」と小さく悲鳴を上げたのだった。
小峰は、橘田のケアをしながらも高乃から無線が入ったのを注意深く聞いていた。
《こちら○○○ 飛び降りたと思われる男性らしき遺体を発見しました》
《こちら○○○ 了解しました。直ちに向かいます》
《特徴は連絡を受けたのと同じなのですが…》
《どうぞ》
《遺体が腐敗しブヨブヨに膨らんで、とても先ほど飛び降りたと思えないのですが》
《…現場の指示に従ってください。》
《…了解しました。》




