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『蛹』~さなぎ~  作者: 木尾方
15/27

六月 ②

六月二十日


≪部屋変わりましたね。≫と無機質な機械ボイスが流れた。

EJ3のダブルRのライブ配信をしながら


「気付いたかね」とコントローラを動かし口にお菓子を頬張りながらモゴモゴと答える船津


先日、HAMAZOONで購入したマネキンに藤崎が制作したコスプレ衣装を着せて新しくカメラ位置などを配置換えした部屋になっていた。


ゲーム画面の下側に視聴者のコメント欄があり、視聴者がコメントを入れると自動的に機械ボイスで数秒遅れてコメントの言葉が流れるのだった。


≪ダブルRのコスだ≫とコメントが入った。船津はゲームの視線をコメント欄に向け、機械ボイスが≪だぶるあーるのこすだ≫とながれる


「レアなコスですよ。EJ3の住人のはわかるんじゃないですかな。」


≪わからないよ≫

≪教えて≫

≪くれ≫

≪誰か着てたのか?≫


「先月の…」


≪わかった≫

≪わかった≫

≪なに?教えて≫

≪おせえて≫

≪お菓子を食べてた子だ≫


ニヤリと船津は微笑み とコントローラを置いて、新しいお菓子を取り口に頬張りながら正解と言おうとしたところヘンな声を出してしまった。


「へいかい」


≪へいかいわら≫

≪わらわらわらわら≫

≪正解≫


不機嫌になった船津は、コントローラを持とうと思ったがお菓子を持った右手がおかしいのに気がついた。

自分の意思とは違って勝手にお菓子を口に運んでくる。

どんどん、どんどん。


「や、やめろ」


≪どした?≫

≪お菓子食べ過ぎ≫

≪とりあえず、袋からだせ わら≫


すると、体が右の方に傾いて自由が効きづらくなっていた。

船津の右側が硬直を始めたのだ。


≪?≫

≪体突った?≫

≪お≫

≪て≫

≪つ≫

≪何かへん≫

≪だ≫

≪大丈夫≫


「う、ううう、ぐ、く、苦、痛い」


≪食べ過ぎ≫

≪はよ、トイレいけ≫

≪わら≫

≪い≫


船津が配信している部屋にはデイトレ用のモニターやゲーム用のモニターが複数台あり

そのどれもが、車の中からカメラで正面を映しているドライブレコーダーの映像に変わった。


≪なんだ?≫

≪画面変わった≫

≪ゲームはよ。≫

≪ドライブ配信わら≫


などと、無機質な言葉が船津の部屋に響いた。

船津は、体の異常に絶えられなく携帯を取ろうにも右腕の自由が効かずに、椅子から床に倒れ込んでしまったよ。


≪なんか、ガタガタ音がする。≫

≪通報するか?≫


視聴者には相変わらず、車席からの映像が流れていて、音声は船津の部屋の音声が流れているうようだ。


「た、助けて…」


≪お≫

≪マジ≫

≪て≫

≪声した≫

≪つ≫


船津が床に伏せていると、目の前に足があった、女性の足だ。

船津は、動く左手を伸ばし、必死に、その足にしがみつこうとした。


「お願いです…きゅ、救急車を呼んで下さい。」


≪どうやって?≫

≪だい≫

≪マジやば?≫


船津は、ゴロンっと仰向けになり部屋に居るはずのない女性の方に顔を上げた。

女性は目を見開き、口を開け、船津を見下ろしていた。

船津は、悲鳴を上げて、玄関の方へ体を引きずり逃げ出したのだ。


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ。ごめんなさい、ごめんなさい!」


≪どうした≫

≪おわった?≫

≪芝居か?≫


床に伏せている船津が助けを求めたのは、死んだはずの藤崎あいりだった。

必死に玄関に逃げる船津を振り向きながら見つめる藤崎

藤崎は、船津を指さして言った。 「お前も、お前も…」

船津は、必死に立ち上がり慣れない左手で玄関を開け、外へ出たのだった。


≪女≫

≪誰かいた?≫

≪女だわら≫

≪ドアのような音した≫

≪画像はよ≫

≪それな≫


外へ逃げ出した船津は、どんどん自分の体が右へ傾いて行く異常を感じながらも駅の方へ向かって逃げた。


≪音しなくなった。≫

≪画像は動いている≫

≪ここどこ?≫


すると、画面にいきなり船津が現れて、自動車と接触した映像が流れた。


≪うわ≫

≪マジ≫

≪事故≫

≪なんで≫

≪ヤバい≫


「あぁはははははははははははははははは…」


≪誰≫

≪こわ≫


部屋の画面には、船津と接触して円形にわれたフロントガラと運転手と思われる人が車から降りてきた映像が流れて、音声は女性の笑い声が流れていた。


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