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『蛹』~さなぎ~  作者: 木尾方
11/27

五月 ①

五月十日 ゴールデンウイークも開け、まだ、世間は休み気分のころ


藤崎あいり は専門学校に向かう為、扇駅の上り線二番ホームの最後尾あたりに立っていた。


「アイツも見てる。アイツも、アイツも・・・・きっと、学校の皆も・・・親も・・・知っている・・・」と、ぶつぶつ と 呟きながら・・・・・










藤崎が住む最寄駅の扇駅から二駅で大きな繁華街があるみや駅がある。専門学校帰りにバイトするにも、休みの時もバイトに行くのに楽な位置にある。週五日ほど 宮駅のガールズバーのバイトをしている。 学費と家賃、は親が負担してくれるので、そこまでバイトをしなくても大丈夫なはずだったが、趣味であるコスプレとアニメ代が大変であった。


新学期になったばかりの頃、ガールズバーに いかにも金を持っていそうな二十代後半の男が現れ藤崎が対応する運びになった。


 「いらっしゃいませ。初めてですよね」


 「そう、よくわかったね。一人で、このような店にくるの初めてだから、普通な感じ?」


 一通りのお店の説明をし、ドリンクを提供しながら、藤崎はお決まりな言葉を聞いた。


「おいくつなんですか?」


「でた!」 男は苦笑しながら言った。


「いや、ごめんね。上司によくキャバクラ連れて行かれるのだけど、だいたい そこから入るよね。面接じゃないんだから」


「そうですよね」と納得してかしないか、藤崎は質問を変えた。


「それじゃ、お仕事は何されているの?」と先ほどの質問とさほど変わらなかった。


「あははは、君、天然?あー、おもしろ」と他の客が振り向くほどだった。


「いや~、南ちゃん 気に入った 俺通うよ」と胸の名札を見ながら言った。


「ありがとうございます」と意味がわからないまま答えた。





その言葉のとおり、男は頻繁に藤崎のバイト先に通うのである。


「そう、あいりちゃん コスプレが趣味なんだよね」通いつめてる男は藤崎の本名などを聞きだしていたのである。


「そうですけど、どうしてですか?」少し恥ずかしそうな藤崎に対して


「いや、俺、グラビア系も扱ってる、映像の製作会社で働いていてさ、どう、あいりちゃんコスプレ撮影してみない?」


「え、無理ですよ。私なんか」


「きっと声優の練習にもなるし、少し考えみてよ」と強引なことはぜず、名刺と、お店に持ち込みOKなオツマミ お菓子のビスケットにチョコレートが乗っかっているのを渡した。男は、藤崎が甘い物に目がないのをわかっていたのである。


「あ、チョコレートだ~うれしい~」






後日、藤崎と男は、都内のファミリーレストランにいた。

藤崎は、アイスの乗ったパンケーキにチョコレートパフェ、オレンジジュースにガムシロップを入れて、ブラックコーヒーを飲む男の前にいた。


「ここに、サインすればいいのですか?」フォークにパンケーキを刺しながら聞いた。


「そう、後々、お互いトラブルの無いようにね」と簡素な契約書を見せていた。


「本当に、あいりちゃんは、甘い物が好きだね」


「そうなんですよ。ん~、三月の終わりぐらいからですかね。甘い物しか目に入らなくなって、最近は、アニメ関係より甘い物の方が多いくらいですよ」あっけらかんと笑う


「明日、撮影だから、あまり食べない方がいいかも・・・」


「嫌です!」睨み付けて、きっぱり言うのであった。


「OK,OK。俺、契約書を上司に持って行くから、先に行くね。それじゃ、明日、甘いお菓子も たくさん用意しておくからね」と言うと、男はテーブルに置かれた伝票を持ってレジに向かうのであった。





翌日ゴールデンウイークの半ば五月一日、藤崎は、LAINで教えてもらったマンションの一室で撮影を開始していた。


男と男の上司は、撮影の邪魔にならないように、ベランダに出てタバコを吸っていた。


「よく、あんな子を探してきたね。何も知らないと言うか、バカ?俺らが言うのも変だけど世間知らずを通り過ぎてるぞ」

 

「そうなんですよ。甘い物を与えれば、何でも言う事を聞くから、笑っちゃいますよ。ごねたら、契約書を見せて、違約金をせしめようと思いましたが、それどころか、出演料が、普段の1/10ですよ。落とすのにかかった金もキャバクラとか、ホスト落ちの女と違って安いですし、それと甘味代だけですよ。本当にバカですよね」


二人は大笑いした。


タバコを吸い終わった上司は、 「二本撮影終わって 休憩したら、コスプレして EJ3(動画配信サイト)の有料ライブ配信もするぞ。あいりちゃんに甘いの沢山用意しておけよ」 と部屋に戻って行った。


男は「了解です」とスマホで、近所の甘い物を検索始めるのであった。




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