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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

満員電車

作者: 初乃能斗

満員電車内で起こる日常と非日常を掛け合わせてみた短編物です。

曇った日の満員電車の中は様々人がひしめき合っていて好きではない、まるでこの世の終わりだ。

端の席を取り合うのも、乗客が無言の争いをするのも、肩がぶつかった人から冷たい視線を受けるのも、席の真ん中で足を組む輩がいるのも、スマホゲームに夢中になり全く動かないなどのマナーのない行為、棒付きキャンデーを咥えている危ない子供、どれも目についてヒリついた思考がやまない。

長期休暇で友人との旅行は楽しみであるが、この道中は何よりもストレスだ。

キャリーバッグは慣性で地面を滑るし、不可抗力でぶつけてしまった人からの視線は痛い。

また、立っている場所も悪く壁際ならまだいいものの人混みの中央にいることもまた運が悪い。

全てが相待った窮屈な空間が締め付ける空気がさらに喉に締めかかって息苦しい。


(次の駅では少しは空かないかな)


まもなく、とアナウンスが流れ、その期待値が駅に近づくのに比例して上がっていく。

期待は現実になっていくようで駅に近づくにつれ席が開く様子はないが、どうやら多少キャリーケースが動いてしまっても人にぶつかる心配はない程度には、空間が空きそうだった。


(よし、なんとかこれで壁際に行ければ)


ドアが開き、人の流れが扉に集中する。

電車から降りるとしか脳にない、他人への配慮もない無慈悲な強い流れにうまく乗って、壁際にキャリーケースを連れて行こうとするが予想していたよりも流れが強く、少しでも楽をしようとする人々のエゴで壁際あたりは次々に埋まっていく。


(だから満員電車は嫌いだ、少し、慈悲ってものはないのか…)


怒りと悲しみが混ざりそう泣き言を垂れた時、背中を誰かに叩かれた。文句でもあるのかと最初は思ったが、叩く強さからして悪意はなかった。


(なんだ…?)


振り返るとそこには、真剣にこちらを見つめる自分と同じ歳くらいの青年の姿があった。


「ここどうぞ」

そうささやいた少年は手招きをしたのち、自身の元いたであろう四隅の1隅をゆび指した。


「ありがとうございます」


小さく会釈と感謝を伝え、彼のさす隅へとキャリーケースを安心して運んだ。

通り道を作るように彼にエスコートされたことにも感謝したい。

隅に到着してから彼にもう一度会釈すると青年は晴れ渡ったような笑顔を返した。

新たな乗客を迎え入れたドアが閉まる。


(優しい人がいてよかった)


ほっと一息をついて、顔を上げると青年は体をこちらに向けていた。


「大変そうですね、どこか旅行ですか?」


小声で笑みを浮かべた青年はさっきまでの真剣な表情とは打って変わってどこか可愛らしかった。


「えっと友人と旅行へ、楽しみなんです。」


「そっか是非楽しんでね、この後の2駅後ぐらいにはあそこの席に座れると思うから、待機しておくのがいいよ」


「ありがとうございます。」


「とんでもない、大変そうだったからね」


青年は再び笑顔を浮かべた。


そこで青年との会話は途切れたが、僕には見えてしまった。

会話中にYシャツの袖を肘の前まで捲り7部袖になったギリギリのラインにリストカットをした跡があったことを。

今出会ったばかりの笑顔を浮かべて優しい印象の彼の腕になぜそのような跡があったのかはわからない。

この電車の中で唯一の思いやりの心を向けてくれた彼には一体どんな辛い思いがあってそれにいたったのだろう。

優しい人がバカを見る世界この電車の小さな車内ではまるでそれが具現化されているようだった。


「それじゃあね」


次の駅で彼は降りた。

その笑顔は先ほどと違いどこか悲しさが垣間見え、曇って見えた。


そのあと駅では彼のいう通りの席が空いて楽に目的地まで辿り着くことができたが、やはり様々な人の行き交う満員電車はあまり好きではないと再確認した。

今後シリーズ物やこういった短編物を投稿していく予定です。よろしくお願いいたします。

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