そらのそこのくにせかいのおわり(改変版)3.3 < chapter.3 >
一方、ネーディルランドに戻った隊員たちには想定外の異変が起きていた。
「なんだ……? めまいが……?」
「気持ち悪い……」
「熱があるような気が……」
「腹が、なんか……」
「く……まさかとは思うが……全員、食ったものを吐き出せ! 今すぐ! 全部だ!」
ベイカーは自分の口に指を突っ込み、つまみ食いした菓子を吐き出した。
そう、確かに菓子を吐いたはずなのだ。
けれどもベイカーの口から出てきたモノは、腐敗した何かの肉片だった。
それを見て次々に嘔吐する隊員たち。
無事なのは何も口にしなかったゴヤと、水道水を飲んだトニーである。
「……やっぱりあの場所、ゴミ置き場だったんだ……。トニーは大丈夫なの?」
「舌先で軽く舐めただけだし、お前が後ろを向いている間に吐き出していたが?」
「あ、そう。意外と冷静だよね、トニーって」
普段はドタバタハプニングを担当する二人が無傷で残る異例の事態である。その他の隊員たちには明らかな食中毒症状があり、医務室に運ぶ必要があった。介抱しながら事情を聴き出していくシアンとナイルも、残ったメンバーでどんな作戦が組めるか、頭をフル回転させるのだが――。
「あー……無理じゃない? ラピとター子さん呼ぼう? さっき資料室でエロ本読んでたよね?」
「殲滅戦ならあの二人でいいが、人質を取られている。大火力でぶちかませばいいというものでもないし……」
「でも、お菓子の国で巨大女ゾンビと戦わなくちゃいけないんだよ? 超常現象レベルの奴らにやらせたほうが良くない?」
「う~ん……」
考え込むシアン。
女ゾンビと戦う役をラピスラズリとターコイズに割り振ったとして、他のメンバーで何ができるか。敵の大きさを考えれば、ナイルによるナビゲーション無しで戦うのはほぼ不可能だろう。ナイルはそちらのグループに振り分けられる。
戦闘担当が女ゾンビを引き付けているうちに、残りのメンバーでマルコを救出。足の遅いジョリーを担いでゲートまで突っ走る。
それだけなら可能だろうが、問題は町の住人たちだ。握りつぶされたカップルとそれを見た住人たちの反応を聞く限り、彼らは全員『脱出したい』と考えているはずだ。
町の住人に気付かれずに、こっそり脱出できるとは思えない。皆、我先に出口に殺到するだろう。それではゲートの場所を知られてしまう。女ゾンビを完全に倒せればいいが、そうでなかった場合、ラピスラズリとターコイズの退路が断たれる。『頃合いを見て撤退する』という選択肢が消えてしまうのだ。
頭を振って考えをリセットする。
もっといい手があるはずだ。最初から、それこそ前提条件の部分から見落としている何かがあるに違いない。
と、その瞬間思い出した。
マルコは本当に『一人で』捕まったのだろうか。
シアンは通信機を取り出し、コード・ブルーオフィスにかける。
「……シアンだ。こちらの状況はモニターできているか? ……ああ、ありがとうピーコック。医務長とタトラ老師が来てくれるなら、こいつらは放置しても大丈夫だな? ……了解。なあ、今、特務部隊オフィスはどうなっている? あの亀はいるか? ……いない? どこにも? ……そうか、分かった。ところで、ラピとターコイズは今どこに……」
シアンのセリフは最後まで言わせてもらえなかった。
「イイイィィィーヤッホオオオォォォーウッ! 巨大ゾンビと戦っていいんだって!? 最高だなおい! 終わったらみんなで焼肉パーティーしようぜ!?」
「巨女の服装はもちろんスカートだったよな!? 巨女の生パンツ、下から見えるんだよな!?」
何故かいつも真上から現れ、着地と同時にド派手な砂埃を巻き上げるラピスラズリとターコイズ。二人の巻き起こした暴風に揉まれ、シアンは運動場の砂利と石灰粉末にまみれる。
「……最悪だ……」
運動場に寝かされていた隊員たちも同じく風に揉まれているが、こちらはもっと酷いことになっていた。先ほどの吐瀉物が砂と一緒に巻き上げられ、見事に直撃を食らっている。
誰かやつらの顔にモザイクを入れてやれ。
そう思うシアンだったが、後輩たちの心配をしている余裕はなかった。好戦的なフェンリル狼と特殊性癖をこじらせた戦闘用キメラに両腕を掴まれ、勢いだけで扉の中へ。
大慌てで後を追うナイル、ゴヤ、トニー。
たった六人で巨大女ゾンビと戦い、仲間を救出できるのだろうか。ラピスラズリとターコイズ以外の胸には、不安以外の要素は何一つ存在しなかった。




