帝国
リモワルド帝国皇宮
恵一たちが主に居住していた国、リモワルド帝国の指導者たちは深刻な事態に頭を悩ませていた。
「敵はアグルスを占領したか...」
「はい、ザムル将軍はアグルスの街の大半の焼き払いましたが、襲撃部隊も敵の攻撃で半数を損失しました。将軍と残りの部隊は帰還しましたが、今も敵に監視されていてこちらから仕掛ければ必ず反撃を受ける状況に追い込まれているとのことです」
「やはり打つ手なしか....帝国議会はどうなんだ?」
「案の定といいますか、諸侯共が好き勝手な言い分をのたまう始末で....」
「だろうな。諸侯共の主張はまとめると何なのだ?」
「はい。此度の敗戦の責任は皇帝にあるとして引責すべしこと。焦土戦を止めること。そして敗戦の責任として皇帝軍の解散と課税権の放棄することの3点でございます」
「ふん。帝国の解体を望むか、諸侯共め。侵略を受けているというのに己の私腹を肥やすことしか頭にないとはな。敵が領地簒奪に動くとは考えんのか?」
「そう言われましても...で、皇帝陛下、いかがいたしますか?」
「そんなもの、決まっておらんわ。だが先に帝国解体などという事態は避けたい。同時に敵の進軍も止めたいがどうするかのう」
そこへ兵が入ってくる。
「陛下、密偵からの報告です。ルスフ王国が我が国への侵攻を準備中との報告です」
「それは真か?陛下、このままでは...」
「...いや、使えるな」
「......と言いますと?」
「我が軍の密偵の手数どれくらいなんだ?ルスフと異界の軍勢が支配する領地に放ちたい」
「は、奴隷部隊も含めれば十分な数にはなるかと」
「そうか、ではこうしよう。異界の軍勢を探り、ルスフがそちらを攻撃するつもりだと偽の情報を掴むよう仕向けよ。同時に敵の弱み強み何でも構わん、素性を図るのだ。ルスフには工作を行い異界の軍勢に対し攻撃するような態度を取らせるのだ」
「なるほど」
そこへザムル将軍がドアを開けて入ってくる。
「ただいま戻りました。皇帝陛下、宰相と共に真剣なお話をしておられるようなので宰相から既にことの詳細は聞いておいでで?」
「そうだ」
「ではルスフを利用する手立てをお考えになっておりますか?」
「ふむ」
「でしたら再度私めにお任せください。保証はできかねますが何らかの成果は出せるよう尽力させていただきたく存じます」
「ほう、これが平時であれば失敗したお前を処分するところだが、あいにく敵は我々の人知を超えた存在。まともにやりあって勝てぬことはよくわかった。しかも生き残った武将で使えそうなのはお前しか残っておらん。よって異界の軍勢への対抗措置の指揮は貴様に任せる。成果を出せぬならお前も余も次はない。良いな?」
「有難く受けたまらせていただきます」
ザムル将軍は部屋に入って早々、扉を開けて出て行った。
「よろしいので?」
「なに、兵をあげて単独行動するわけではあるまい。後方で指揮を執るならできる奴にやらせればいいのだ」
「はぁ」
「ところで異界から来た軍勢は何という国から来たのだ?」
「は、兵たちの集めた断片的な情報を分析するに、ニホンという国ではないかと」
「ニホンか、奴らの思い通りにはさせぬぞ」
皇帝は不機嫌そうに窓の外を見る。
一方、皇帝のいる部屋を出たざるザルム将軍は通路を歩いていた。
「....」
将軍は新橋事件のことを思い出す。
千代田区 霞が関
多数の鎧を着た兵士たちが血を流し路上に倒れていた。
オーガやゴブリンのようなモンスターも多数の銃弾を浴びてハチの巣になって転がっている。
「第2軍が壊滅しただと?敵の主力とぶつかって2時間もたっていないぞ?」
「しかし、敵の攻撃は尋常ではありません。まるで魔導士の様に奇怪な力でわが軍の兵を意図容易くなぎ倒すのです!」
「これ以上は持ちこたえられん!第1軍と第4軍の生き残りに退却を命じよ。侵攻は中止だ。退却する」
「怪物が来たぞ!」
ザルム将軍は空を見上げる。
UH-1Jヘリの編隊がビルの合間から姿を現す。
UH-1Jの機体にはM2ブローニングがマウントされ、射撃手が地上の目標に狙いを定めると機銃掃射を始める。
M2ブーニングから大きな発砲音と共に12.7mmの大口径弾を撃ち出され敵へ飛んでいく。
大口径弾ゆえに当たれば高確率で即死か致命傷になるほどの威力だ。
巨大なオーガでさえ、あたりどころが悪ければ1発で死亡するほどである。
僅か十数秒の掃射で100人以上の兵が死傷した。
「な、なんなんだあれは?!で、でたらめ過ぎる!」
将軍は自軍の兵が一瞬にしてなぎ倒されるのを見て圧倒的な力を思い知る。
「くそ、ワイバーンさえいれば...」
「ワイバーンはこのような狭いところでは飛び立てませぬ」
「そんなことはわかっている!」
「も、申し訳ありません!」
「くそ、?...怪物が戻ってくるぞ!?」
UH-1Jの編隊がターンして再度攻撃の態勢に入る。
今度は将軍のいるところにも掃射してくる。
「うわっ!」
将軍が乗っていた馬は銃弾が命中し倒れる。
そして将軍が起き上がると先ほど将軍と話していた将兵の下が転がっていた。
将軍は悟ったような顔をすると門のほうへと走り出す。
―前線の兵たちはどのみち退却できない。捨て駒にするしかない!
後方で大きな爆発音がする。しかし状況を見ているような余裕はなかった。
―見ておれ怪物どもめ、必ず一矢報いてやるからな!
ザルム将軍は新橋事件の敗戦を思い返しながら、今後のことを考えていると暗がりから声がする。
「ザルム様、私共に御用がるのではないでしょうか?」
それは女性の声だった。
「ほう、察しがいいな。後で声をかけようと思ったが手間が省けた。今回は諜報と工作が仕事だ。貴様はレムルスへ向かえ。そこで敵の内情を探るのだ」
「かしこまりまして」
そういうと気配は廊下から消えた。
「さて、どう転ぶかな」
将軍はそういうとまた歩き出した。