神様、降臨?
?????
―ん?ここはどこ?さっきまで山火事ファイヤーしてなかったっけ?
恵一はそう呟く。
気が付くと周りには何もない空っぽの空間が広がっていたからだ。
「おーい、誰かいませんかー?」
返事がない。
―ただの謎空間のようだ。というかふわふわした気分だし、これエンタメ作品あるあるのアレだろ。寝オチのアレ的なやつでしょ。
恵一は勝手に解釈して納得してしまうのだった。
―ともあれ危険はなさそうだし、成り行きに任せてもいいのかな。
気分がふわふわしているせいか先ほどの逃走劇から打って変わったようにいつもらしい楽天的な思考だった。
「それにしてもデジャブなのかここ前にも来たことある気がするんだが...」
「デジャブはよくわかりませんが気のせいではありませんよ?」
「やっぱり?」
恵一はのんきに返事してしまうがハッとして声がする方を向くと、そこには少し幼めの女性がいた。
「お久しぶりです」
「...誰?」
「そういえば覚えているはずありませんよね。では改めて初めまして、勇者様」
「あ、どうも。それでどちら様なんですか?」
「そうですね。神なんていかがですか?」
「いいかがですかって、冒険の書の名前選びですか?名乗りたくないの?それとも神って名前なの?」
「そんなつもりじゃないんですけど皆さんがいつもそう呼ばれるので便宜的に名乗っていました。では勇者様がお気に召す名で呼んでもらって結構ですよ」
「いや名前あるだろ、それでいいじゃん」
「じゃあ神様で決定ですね」
「違う、そうじゃない!」
「ではお気に召す名前にしてください」
「ループしてんじゃねーか、NPCかお前!...はぁ。じゃあそんなに匿名希望なら名無しさんで...」
「ありがとうございます、勇者様」
「で、話を聞く限り名無しさんは異世界の神なんですか?」
「そんなところです」
「そうか、あんたか。俺を異世界に召喚して極貧生活させたのは。しかも勇者なんて役職押し付けやがって。じゃあお聞きするんですけど、元の地球に返してもらいたいんですけど、いいっすか?あ、できれば宇佐美も一緒に」
「残念ながら現時点ではそれはできません」
「ですよね、言うと思った。何が目的なんすか?」
恵一は不貞腐れるようにため口を聞く。
「この世界を救ってほしいんです」
「やっぱり勇者の使命ってやつか、俺じゃなくてもっと適任いたでしょ。実は山本乙十葉って人がいるんですが、めっちゃ勇者に向いるんでそっちにしません?チェンジで」
「それもいいアイデアですが私はあなたを推させていただきたいと思います」
「マジか...。名無しさん、そんなに通行人Dくらい一般人の俺がいいんすか?」
「ええ。そういえば前にお会いした時も全く同じことを言っていらっしゃいましたね、ふふ」
「前って、俺覚えてないんすけど」
「はい、あの時も眠っているあなたの夢の中でしたから」
「眠っている?」
「ええ、実は今あなたは死にかけているんですよ」
「マジかよ...」
―山火事の怪我のせいか。だとしても随分嬉しそうに話すなコイツ。イラッ。
「ん、待てよ。ということはもしかしてライフの残機貰えるってことですか?」
「いえ、たぶん助かりそうなので大丈夫ですよ。それに死んでも復活はさせられません。自力で何とかしてください」
「はー?ケチすぎだろお前?!じゃあ何しに来たの、君?」
「とても深い眠りについていらっしゃるのでいい機会だと思って伺いました」
「...」
恵一はリアクションを取るのも面倒になるがしかたなく話を最後まで聞くことにした。
「...それでご用は?世界を救ってほしいってだけじゃないですよね?」
「ええ、いくつかお伝えすることがあります。これからあなたの前には新たな勇者たちが現れることになります。おそらく、それがこの世界に混沌とした大きなうねりをもたらし新たな争いの火種になってしまうかもしれません。だからあなたにはこの世界を導いて欲しいのです。我がまま承知の上ですが、この世界を見捨てず支えてほしいのです。あなたが頼りです。どうかこの世界を、人々を導いてください、勇者様」(迫真)
「...ん、んー。整理すると勇者のせいで世界が混とんとしてしまうってこと?」
「そうです」
「ならやらなきゃいいじゃん」
「そうはいきません。この世界は死にかけている。転換点を迎えているのです」
「今度は....死にかけている?」
「はい、それを防ぐために因果を成立させ召喚陣をすべて起動して異世界に繋げます」
「召喚陣をすべて繋げる、異世界に?地球にってこと?」
「いえ、それぞれの異なる世界にです。日本がこの世界にやって来たようにそれぞれの世界から様々な人々が訪れることになるでしょう。恐ろしい軍勢を連れてやって来る者もいるはずです。勇者たちも同様です」
「なんだよそれ、絶対戦争になるじゃん。今回開いたのが民主国家日本だったから良かったけど、別の召喚陣から出てきたのが銃持ったチンピラ国家やモヒカンだったらどうするんだよ?しかも勇者も?!」
「それでもやらなければならない運命にあるんです」
「運命ってなんだよ、なんでこの世界死にかけているの?」
「残念ですが私からお話しできるのはここまでです」
「ここまでなの?秘密主義過ぎない、名無しさん?」
「申し訳ありません」
名無しの女神が少ししゅんとする。
「...はー、全く。地球に戻るにしても役目を果たさなきゃとかいけないとか拒否権ないじゃないですか、やだー。わかりました。その役目が終わったら帰りのチケットなり特典なりくれるって約束してくれるんですね?」
名無しの女神の表情が和らぐ。
「もちろんです。すべてが終わった時、あなたを重責から解放すること、できる限りの希望をかなえることをお約束します」
「よし、じゃあ契約成立だ」
「ありがとうございます、勇者様」
「あと報連相としてたまに俺の前に顔を出せよ?」
「わかりました。その時が来たらまたお会いしましょう。....やっぱりあの時あなたを選んだのは間違いではありませんでした。あなたこそが本当の...」
名無しの女神はそう言ってその場からスーッと消えた。
「待て待て待て、消えるの早いって!最後に俺の勇者としての能力教えて行けって!」
「...直にわかりますよ...」
どこからか女神の声がかすかに聞こえた。
そして恵一は目を覚ました。
キャンプ・新地 病院棟の一角
恵一は目を覚ますと最初に白い天井が目に入るのだった。
「...」
特に何も言わずに目線を下に向けると椅子に座って本を読む宇佐美の姿があった。
また周りの景色と自分を繋いでいる機器を見てここが病室であることを恵一は理解した。
「よ、宇佐美」
「あ、恵一様!起きたんですね!」
「まあな」
「やったあ!」
宇佐美はたまらず恵一に飛び掛かるように抱き着いた。
「痛い痛い痛い!」
「あ、ごめんなさい」
「うー、ま、まあ、気にすんな。それより体中がひりひりする様に痛いな」
「お医者様が火傷しているって言っていましたよ」
「ああ、そういうことか。包帯ぐるぐるだもんな。でも腫れているだけみたいだから大丈夫そうだ。ところで宇佐美、あれからどれくらいたった?」
「1週間だよ」
「1週間?長いな。俺そんなに寝てたんだ。その間に何かあったか?」
「ニホン軍がぐんじさくせんっていうのを始めたよ」
「軍事作戦、ああ例の隣国を迎撃する話か。それでどうなったんだ?」
「詳しいことはよくわからない。乙十葉お姉ちゃんが牢屋に入れられちゃって聞けてないんだ...」
「乙十葉が牢屋?拘留されてんのか?またなんで?」
「恵一様を助けるためにほうりつを破ったって」
「なるほどな。後で詳しく聞いたほうがよさそうだな。それと宇佐美、また恵一様って呼んでるぞ」
「だってこっちの方が呼びやすいんだもん」
「でもなあ、わかった俺以外の人がいないときはそう呼んでいい。わかった?」
「わかった」
「よし。ん?」
「どうしたの?」
「何か忘れているような」
「何を?」
「んー、あ。そう言えば夢の中で名無しだかNPCだか神だかに会ったような気がする。そうだ、そんなのだな。なんかかなり忘れてるな。全部忘れる前にメモっとこ」
恵一は近くにあったボールペンを取るとその隣りにあった紙に覚えていることをメモ書きした。
「恵一様」
「何?」
「NPCって何ですか?」
「NPCってのはな...」
宇佐美はキャンプ新地に来てから質問攻めの帝王となっていたので恵一はまたかとしぶしぶ教えるのだった。
そんな時だった。
「失礼します」
卯月上等兵が病室に入ってきた。
「あ、どうも」
「鵜川さん、意識が戻っていたんですね」
「ああ、おかげさまで。全快には程遠いけど」
「いえ、一時は危うかったそうですのでここまで回復したのは何よりです。すぐに医者をお呼びします。それと、ちょうどこちらの方々が鵜川さんの様子を見たいということで連れてきています」
卯月上等兵がそう言うと病室に3人の女性が入ってきた。
デルフィーネ、迷彩服を着たラビアンの戦士ディーズ、トゥナス侯爵家当主代行アスリー・トゥナスの3人だった。
「ようやく意識を取り戻したか」
デルフィーネはそう言ってほんの少し安堵してる様子だった。
「おかげさまで。それはそうとディーズさんとトゥナスさんはどうしてここに?」
「忘れましたか?日本と付き合ううえで恵一さんが勉強を施すということでお招きしていたと思いますが」
「ああ、そう言えば。ディーズさんもそうだったね。でもなんで迷彩服なんか着てるんですか?」
「...」
ディーズはうさ耳を少し動かすがそっぽを向いたまま返事しない。
「ディーズさんの衣服は露出度が高すぎたためこちらに着替えてもらっているんです」
卯月上等兵が代わりに答えた。
「ああ、そうなんだ。...もしかして怒ってます?」
「.......いや。ただ少し感慨深いだけだ」
「そ、そうですか」
「では私はこれで失礼します。医者を呼んできます」
「あ、お疲れさん」
ここで卯月上等兵は病室を退出する。
恵一達の話は続くのだった。
一方、廊下を歩く卯月上等兵の手にはあるものが握ってあった。
それは先ほどまで恵一が使っていたボールペンだった。
実はこのボールペンは卯月がレムルスで恵一に貸したものである。
今まで恵一の手元に残っていたままだったのだ。
廊下を歩きながら卯月はボールペンの部品を外して中から細長いチップのようなものを取り出して懐にしまう。
その時の彼女の目つきはかなり鋭かった。