勇者争奪戦7
上司にパワハラされておかしくなりそうなのでどんどん更新が不安定になると思います。
また再就活で勉強しようと思うので来年半ばまでさらに更新が少なくなると思います。
申し訳ないです。
アルカディアンズですが、混乱の始まり編を中断してミャウシア内戦を再開してそのまま終りまで進みたいと思います。
割けるリソースに限りがあるのを痛感してしまいました。
混乱の始まり編もいつか完成させたいです
「我、炎の加護を受けたまわん。デフィス・フレイム!」
ダークエルフがそう唱えるとアルラウネが攻撃に繰り出したツタや木の根の燃え盛り始め、何もできずに燃え尽きてしまった。
「アルラウネか。小賢しい奴だとは思っていたがさまかこんな短時間で魔物を手勢にするとはな。魔獣使いの私でも関心ものだ。どうもお前には悪知恵の才があると見える。けれども抵抗は止めておいた方が身のためだ。私には火炎魔法の心得もある。ここでお前たちを消し炭にしてやっても構わんのだぞ?これは最後の忠告だ、異世界人」
―ま、マジか。ダークエルフもハイエルフみたいに強力な精霊魔法を使えるのか?どうする?いや、待て。噂だと森エルフもダークエルフもハイエルフには及ばないと聞いたことはある。同じではないはずだ。おそらくあれは強がり。だったらこっちのアドバンテージは...
「アルラウネ氏、とにかくツタでも根っこでも何でもいい、絶え間なく物量攻撃してアイツの魔力を枯渇させてくれ!たぶんあれはコケ脅しだ!」
アルラウネはそれを聞いてピンときたのか、連続的に攻撃を繰り出し始めた。
ここでダークエルフは焦りの表情を見せ、軽い身のこなしで攻撃を避けたり手持ちの短刀でそれを切り裂いたりする。
その表情には余裕が無かった。
「どうやら図星だったようだな、へへ...」
恵一は余裕のなさそうなダークエルフを見て、ようやく優位に立てたと実感し安堵する。
―あのクソ男め!もう構うものか!
「そんなに死にたいのなら望み通りにしてやる!」
ダークエルフはある持ち物を腰の小袋から出すとそれを戦いの合間を縫ってそこら中の木々にばらまいた。
それは竹のような筒で中から液が垂れ、そこら中に飛び散っていた。
「メニスト・フレイム!」
ダークエルフがそう唱えると先ほどばらまいた筒から垂れた液が一気に発火し始め、あっという間に周囲の木々を火の海にしてしまった。
アルラウネの操るツタや根もその周辺で勢いを失う。
「空よ、風を起こし給え。ウィンディア!」
続けてダークエルフが唱えた呪文によって周囲に風が吹き始めた。
人を飛ばしたり行動を抑圧できるような大した風ではなかったが、新鮮な空気を送り込み火災を促進させ周りの森を一気に燃え広げるのには最適なそよ風だった。
「初めからこうしておけばよかった。無駄な時間を使った」
そう言うとダークエルフは火炎の中に消えていった。
一方の恵一とアルラウネは迫りくる炎に慌てふためく。
「あわ、熱っちいぃ!」
恵一は負傷した足を引きずるようにけんけん脚で下がる。
だがアルラウネのところで足を止めた。
「おい、もしかしてお前逃げられないとか言わないよな?」
「逃げられるが、自力では難しい...」
「わかった。なんでもいいから早くしろ!」
するとアルラウネの腰辺りに繋がっていた管のようなツタが一気に枯れる。
アルラウネはそれに合わせて巨大なつぼみから身を乗り出すと枯れたツタが簡単に千切れた。
だが彼女はつぼみから身を乗り出すと姿勢を崩して地面へ転がり落ちてしまった。
「おい、大丈夫か?」
「平気だ。お前たちに人間と違って運動が極端に苦手でここ30年は運動してなかっただけだ」
この時のアルラウネは肌色以外ほぼ人間と言っても差し支えない状態の素っ裸のきれいな女性だった。
「とにかく逃げよう。俺が支える」
恵一はけんけん脚で移動するのを止めてアルラウネの腕を肩に回してお互いに支え合いながら火の海を歩き始めた。
アルラウネは後ろを見て自分の根城が引火していく様を見る。
「アレなしじゃ生きられない系なのか?」
「いや、この姿でも生きられるがこのざまだ。身を守るすべがない」
「なるほどな。でも今は逃げの一手だ!それにあんなのもういらないだろ?」
「確かに」
二人は歩き続けるが火の粉がかかったりしてとにかく外気が熱く、あっという間に汗まみれになった。
「ああ、やべえ。やべえぞ、これ。体中痛えぇ。あっという間に熱中症になりそうだ」
というのも火の粉や熱波で至る所で軽い火傷を患い苦痛に蝕まれていた。
しかも暑さで熱中症になりそうだった。
ここでアルラウネがコケてしまい、恵一も釣られてコケてしまう。
「うわ!」
恵一は急いで起き上がろうとするがちょっとして目の前の木々が焼け倒れて行き場を塞いだ。
「う、運がいいのか悪いのかどっちなんだろうな...。これで逃げ道ゼロか...」
「なら、私を置いていけ。お前の足ならまだ逃げ切れるかもしれない」
「それな。ぶっちゃけ後悔してるんだよなぁ」
「では」
「でももう動ける気がしないんだよなぁ。頭がくらくらして寝落ちしそう。走馬灯のようなフラッシュバックも見え始めたわ。でもろくな回想が一つもなくて笑える、へへ。あとさ。なんかおたくを俺の逃走劇に付き合わせちゃって悪いねとは言っておく」
「...まったくだ。その点は腑に落ちない」
「...だよなぁ」
恵一はそう言うと目を細した後、気を失うのであった。
アルラウネは無言でそれを見た後、自分も死を悟る。
だがここで周りにとても冷たい冷気が地面を伝うように流れ込んできた。
アルラウネが冷たい空気が流れてくる方向を見ると、炎の中から3人の女性が姿を現した。
乙十葉、宇佐美、デルフィーネの三人だった。
3人は走って恵一達に駆け寄り、乙十葉がアルラウネに質問する。
「彼は大丈夫なの?」
「今さっきまで意識があった。まだ助けられるはずだ」
「わかったわ。あなたは立てる?」
「もちろんだ」
「よし、宇佐美ちゃんこの人をお願い」
「うん!」
そう言うと乙十葉は恵一をファイヤーマンズキャリーと呼ばれる方法で抱え上げるとアルラウネを補助する宇佐美を先導するように速足で移動を始めた。
一方のデルフィーネは常に氷冷系の魔法を行使して血路を作り続けており乙十葉達のサポートに徹している様子だった。
5人は火の海を進み続けてようやくその外に出ることができた。
そして延焼の恐れがない場所まで来ると乙十葉は恵一を下ろして様態を見た。
「脈、呼吸は安定。軽度の火傷に熱中症ね。早く搬送しないと」
乙十葉はそう言った後、無線機を取り出す。
「誰か聞こえますか?応答を願います」
『こちら航空大隊、聞こえます』
「拉致被害者を確保しました。ポイント○○×××○○○○○○○○。火災現場から200メートル南側です」
『了解。本部へ連絡する』
乙十葉は無線を切ろうとするが別の無線が入る。
『本部から通達。民間人が装備一式を強奪して山中に潜伏した模様。無線傍受および応答の恐れあり、注意せよ』
『...先ほど拉致被害者に関する情報の一報を送った...』
乙十葉はここで無線を切った。
「ついにバレたわね。処分は覚悟しないと。...ん?」
乙十葉は地面に足跡があることに気づいた。
それは一足分しかなかったので乙十葉は直ぐに誰の足跡か気づいた。
「...宇佐美ちゃん、デルフィーネさん。ここで待ってて。助けはすぐ来るから移動しないでね」
「お姉ちゃんは?」
「私はちょっと向こうを見てくる。心配しないで」
「一人で大丈夫か?」
デルフィーネは直ぐに感づいた様子で一言だけ乙十葉に確認を取る。
「大丈夫」
「わかった」
「ありがとう」
そう言うと乙十葉はその場を離れ森に消えていった。
その頃、ダークエルフは別に用意していた猛獣を呼び寄せ現場から離れようとしていた。
「欲を出し過ぎたわ、全く」
彼女はそう言って猛獣の手綱を掴んで跨ろうとしたが背後から独り言への返答が返ってきた。
「それは私たちを襲ったことに対して?」
ダークエルフは表情を変えて持っていたクロスボウを向けようとする。
だが相手を捉える前に銃声が鳴り響き、クロスボウが破損して弾き飛ばされた。
ダークエルフの目の前には89式小銃を構えた乙十葉の姿があった。
「両手を頭の後ろで組みなさい。早く!」
「...あの時玄関でのびていた女か」
この時乙十葉は少しほっとしていた。
―魔獣と取っ組み合いして89式がガタついていないか心配だったけど大丈夫そうね。
「さあ、早くしなさい」
「チッ」
ダークエルフはしぶしぶ両手を頭の後ろに組んだ。
「そのままの格好でゆっくり前を向かって歩きなさい」
ダークエルフは言われた通り歩き続け、その後ろに乙十葉がついていく。
だがダークエルフは口笛を吹いた。
「口笛?」
乙十葉そう言った時だった。
ダークエルフが呼び寄せていた猛獣が乙十葉めがけて襲ってきたのだ。
「しまった!」
乙十葉は直ぐに猛獣に89式小銃を向けて発砲した。
猛獣は直ぐに倒れ込んで無力化されたがダークエルフに対して隙ができてしまう。
乙十葉は直ぐに振り向くが短剣を構えたダークエルフが目前に迫っていた。
小銃を向ける前に刺されると確信した乙十葉は89式を持ち直し、銃床でダークエルフの短剣を弾き返した。
しかし、ダークエルフは再度短剣で攻撃を繰り出してくる。
これも89式で防ぐがダークエルフの短剣攻撃は続き、金属音が響き続ける。
だが乙十葉は一瞬の隙を見てダークエルフの短剣を89式で弾き飛ばした。
けれども負けじとダークエルフも渾身の一撃で乙十葉を蹴り飛ばした。
乙十葉は草むらに倒れ込みそれをダークエルフが追撃しようとするがすぐに動きを止めた。
乙十葉が瞬時に9mm拳銃を手に取ってダークエルフの眉間に狙いを定めることに成功したからだった。
「はぁ、はぁ...」
暗闇に呼吸音が響く。
お互いじっと睨み合い続けたがこそヘ第三者が現れた。
「全員武器を地面に置け!」
突然の日本語の呼びかけに乙十葉とダークエルフが同時に振り向いた。
そこには小銃を構える日本軍の兵士たちの姿があった。
彼らは日本陸軍第12空挺師団に所属する特殊偵察連隊の分遣隊であり、空挺レンジャー型の特殊部隊だった。
彼らを見た乙十葉は拳銃を地面に置いて異世界語でダークエルフに言った。
「彼らは全員猛者よ。悪いことは言わない。降参して、お願い」
ダークエルフは彼らを睨みつけたが完全にあきらめたらしく、しぶしぶ先ほど乙十葉に言われたように両手を頭の後ろに組んでもう知らないと言いたげな表情をした。
そして乙十葉とダークエルフは逮捕されるように拘束された。
恵一は直ぐにヘリでキャンプ・新地の病院棟へ搬送され、乙十葉達も取り調べのため続いて移送された。
二日後のキャンプ・新地
駐屯地では多数の部隊が出動準備を完了させて待機していた。
十列以上の車列に何十両も車両が並んでいて合計すると数百両にもなる車両集団がいくつかあり、それ一つ々がおおよそ1個旅団であり戦闘団でもあった。
集まっている部隊はリモワルド帝国の隣国、ルスフ王国や周辺の国から遠征しに来た軍勢の撃退とそれらの国の占領が主任務だ。
陣容としては敵軍対応部隊は1個機甲連隊、1個機甲旅団、1個歩兵旅団、敵地攻略部隊は2個歩兵旅団、1個軽装甲旅団、1個空挺旅団からなる。
これらの部隊は再編成で工兵大隊や支援大隊が追加されていたが、かなりの長距離遠征でなおかつ侵攻ルートはほぼ未舗装なのでさらに追加の兵站部隊がいくつも投入されていて総兵力は3万以上になる大部隊だった。
キャンプ・新地の一角では奥柳中将などが話をしていた。
「結局、通訳は確保できずか」
「はい、例の調査団を当てにしていたので一人は重傷、もう一人は逮捕拘束ですのでプラン通り事前に空から紙をばらまくくらいしか」
「そうだな。まあ司令部は確保できようができまいがそこまで問題にしていないようだが」
「政府が交渉役を確保できないなら最悪実力行使も辞さない姿勢みたいですからね。だからなんでしょう」
「ああ、我々は任務を果たすまでだがね。...そろそろ時間のようだ」
キャンプ・新地周辺の更地
「...よし、作戦開始!」
「了解」
各部隊が作戦開始時刻を回ると同時に出撃を始め、軍用車の長蛇の列が地平線の先まで伸びていく。
キャンプ・新地の滑走路
F-5E改戦闘機が滑走路に侵入し、離陸の許可を取っていた。
この戦闘機はグラスコックピット化が施され視界外戦闘能力を持つ近代改修機である。
待機中の1機には乙十葉の姉・山本真十花の姿もあった。
「乙十葉達、大丈夫かな...」
「離陸を許可する」
「了解」
F-5E改戦闘機が滑走路を加速して離陸していった。




