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勇者争奪戦3


「だ、ダークエルフ?!」


恵一がそう言うと襲撃者は少しニッコリして恵一を見た。


「ええ、そうね」


―だ、ダークエルフだと!よりによって悪い噂しか聞かない連中がなんで。いや、だから襲ってきたと考えるべきか。でもなんで...。


「帝国軍か?」


「お答えしかねます、勇者殿」


「何が目的だ?」


「愚問ね。この中で重要なのが何かはあなたが一番わかっているはずでは?」


―狙いは俺か。


「どうするつもりだ、ここで殺すのか?」


「んー、それも考えたけどさすがに芸がなさ過ぎるからその案は止めました。だから一緒に来てもらいましょうか。利用価値はあとで考えて見出せばいい。それができるくらい勇者殿は弱っちいようなので」


「くっ!」


「させない!」


「宇佐美!」


宇佐美は恵一の前に出て両手を広げる。


「ふーん」


ダークエルフは面白そうに宇佐美を見た。


「ラビアンの愛玩奴隷か、にしてはずいぶん献身的ね。何か事情あるみたいだけどそこをどかないなら...」


ダークエルフは腰に下げた刃物に手をかけた。

恵一は最悪の事態を瞬時に連想し、自分がどう立ち回るべきか直ぐに理解して止めに入る。


「やめてくれ、頼む!この子を見逃すなら何でもする」


「恵一様、だめです!」


恵一は直ぐに宇佐美を両手で掴むと語りかけた。


「宇佐美、考えてみろ。俺たちにはアイツに歯向かう力はない。ここは言うことを聞くんだ」


「嫌です!恵一様、殺されちゃいますよ?!」


「今抵抗すればどっちも殺される。安心しろ、俺は大丈夫だ。二人でいつもがむしゃらに立ち回って来ただろ?あんな感じで何とかする」


「でも...」


宇佐美はべそをかき始める。


「すまない、だがこうするしかないんだ。心配ない、必ず戻ってくる」


「うぅ...」


宇佐美は泣き崩れてしまうが恵一の意思を汲んで止めようとはしなくなった。

ダークエルフはその様子をじっと見ている。

恵一は立ち上がりダークエルフの女性に近づく。


「グズグズすれば始末するんだろう?」


「もちろん。ハイエルフが戻ってくる前にここを出るわ」


目をウルウルさせてたたずむ宇佐美と物陰に隠れているルシルが見つめる中、二人は館を出た。

外に出たダークエルフは指笛を吹く。

するとどこからともなく恐竜っぽい二足歩行の猛獣が現れ走ってきた。

その猛獣は二人の前で止まりじっとする。


「乗って、勇者殿が先。私はその後ろに乗る」


「ああ、わかったよ」


恵一はそう言ってダークエルフを睨みつけると足掛けを踏んで猛獣に騎乗した。

次いでダークエルフが恵一の後ろに騎乗する。


するとダークエルフの胸が恵一の背中に当たる。

ダークエルフのプロポーションはすごく、胸に関しては巨乳も同然だった。

普段の恵一ならば興奮したかもしれなかったが、全然うれしくないとばかりに無表情だった。


「いつもはこうすると男どもがテンパるんだがな」


「だから何なんだよ」


「いや、別に何もないが」


ダークエルフは恵一を観察する様に反応を見ている様子だった。


「行くぞ」


ダークエルフはそう言って手綱を振ると猛獣が一定のペースで走り出した。



<レムスル市内>


「これで最後か...」


デルフィーネはそう言って死体となった節足類系のモンスターを見た。


―こいつはそこら辺にいるような普通のモンスターじゃない。特定の環境なら際限なく増殖できるような危険なモンスターだ。初めに家畜を襲って一気に増殖、大型化したのか。間違いなく誰かが放ったはず。魔物使いの線が濃厚だがいったい誰がなぜ...。


デルフィーネは付近を89式小銃やミニミ機関銃を構えて警戒する日本陸軍の歩兵部隊を見た。


―あの帝国軍を赤子の手をひねる様に蹴散らしたと聞くが、まさにその通りだった。正直、彼らがいなかったら直ぐに鎮圧できずに被害は途方もない物になっていた。感謝しなければならないけど、あの絶対的な軍事力を見た後では手放しでは喜ぶのは考え物ね。


そこへアノス学院の学士が駆け寄ってきた。


「デルフィーネ様、学院の者も孤児も皆無事です」


「そうか、よかった」


「ですがデルフィーネ様の館の方から煙が見えますが先ほど一度戻られたのではなかったのですか?」


「私の?」


デルフィーネは直ぐに山の方を見た。

そこには微かに白煙が漂っているのが見える。


「...しまった、そういうことか!」


デルフィーネは走り出すと急いで館へ戻っていく。

だが途中でデルフィーネはある者に出くわす。



<館の中>


「....う、んー」


突っ伏していた乙十葉が意識が戻り起き上がろうとする。


「お姉ちゃん、大丈夫?!」


「...ええ、...は!」


ようやく意識がはっきりしてきた乙十葉は周りに物が散乱している状況を見てさっきまでのことを思い出す。

まず乙十葉は宇佐美を見た。

宇佐美は泣き崩れていたのか顔を真っ赤に目はウルウルと涙を貯めていた。


「恵一君は?」


「ぅ..、連れていかれちゃった...」


「そう、狙いは恵一君だったのね...」


乙十葉は宇佐美を見た後、周りを見渡しドアのあった枠に目線を移す。

少し考えるように見た後立ち上がった。

乙十葉の表情は覚悟を決めた人の様に整然としていた。


「宇佐美ちゃんはここにいて。私は恵一君を連れ戻してくるわ」


「...!」


宇佐美は危ないとか危険だよと声をかけようとするが躊躇する仕草を取った後、乙十葉に真剣な眼差しで言った。


「私も行く!」


「だめよ、危ないわ...」


「嫌!」


「...」


宇佐美の表情は真剣そのもので言っても聞かなそうだった。


「わかった。置いて行かないからちょっとここで待ってて」


乙十葉はそう言って外に出ると玄関前で倒れる卯月たちを起こそうとする。


「大丈夫?しっかりして」


「うぅ...」


大事には至ってないようだが動くの無理な様子だった。


「...乙十葉さん、無事だったんですね」


卯月が意識を戻して壁にもたれながら語りかけてきた。


「よかった。私は大丈夫。でも恵一君が攫われた」


「...わかりました。すぐに応援を呼びます」


「今から集めても時間がない。それよりヘリに言って恵一君たちを追いかけてほしい」


乙十葉はそう言って空を指さす。

レムルスの騒動を受けて出動した偵察ヘリやCAS仕様のUH-1イロコイが遠くで音を立てながら旋回していた。


卯月はヘリを見ながら何も言わずに無線機を出して周波数を切り替えて通信する。


「レムルス上空を飛行中の偵察ヘリへ、こちら第2混成旅団、第35偵察中隊所属の卯月上等兵です。応答願います」


『こちら第108航空大隊所属機、どうぞ』


「了解。こちらはレムルスでの研究員護衛の任務についていましたが、何者かに襲われ研究員一名が拉致されました。犯人はすでに立ち去っており、これから追跡を始めます。上空を警戒中の航空機に追跡の支援を要請します」


『了解。索敵を開始する』


卯月は無線を切った。


「これで街道や耕地には出られない。遠くへは逃げられませんよ」


「助かったわ。後、悪いんだけど装備借りてもいいかしら?」


「そ、装備をですか?ダメですよ、山本さん!」


「じゃあ、こっちでのびてる人のを借りていくわね」


「ちょっと、追いかけるんですか?」


「もちろん。説得しても無駄よ」


「いやでも...わかりました。言い訳には協力してくださいよ」


「もちろんそうさせてもらうわ。だからその無線機も借りたいの。お願い!」


「...はい、どうなっても知らないですからね?」


「大丈夫、なるようになるわ」


乙十葉は防弾チョッキ3型や89式小銃、新野外無線機を私服の上に身に着けた。

かなり重量があるがそこら辺の一般兵よりよほどタフで技能がある乙十葉には問題とならない。


そこへ泣くのを止めた宇佐美が館を出てやって来た。

しかし乙十葉たちには目もくれず何かを探すように辺りを見回した。


「どうしたの、宇佐美ちゃん?」


「...匂いがする」


「匂い?」


「お姉ちゃんが市場で買った香料の香りが外から漂ってるの」


「あれのこと?」


乙十葉は今さっき外した自分のポーチを手に取った。

よく見るとチャックが開けられ中の香料が抜き取られていた。


「やってくれたわね、恵一君」


乙十葉はそう言って少しだけ表情を和らげた。


「宇佐美ちゃん、匂いを追えるかしら?私じゃ嗅ぎ取れないの」


「任せて!」


宇佐美の表情は自信に満ちていた。


そこへダチョウに少し似た動物に跨ったデルフィーネが予備の一頭も連れて街から戻ってきた。

背中には弓矢を背負っている。


「ダークエルフはどちらに向かった?」


「ダークエルフ?!」


正体を聞いてなかった乙十葉はデルフィーネの質問に驚いたがすぐに返事する。


「どうしてダークエルフだってわかったの?」


「私がデルフィーネ様に伝えました!」


デルフィーネの後ろから妖精のルシルが現れた。

彼女は直ぐに館を出てデルフィーネに陳末を話していて、そこで追跡のために騎乗動物に乗ってきたのだ。


「えっと、私たちはどこへ向かったか見てはいない。でも手掛かりならある。私たちも後を追うわ」


「いや相手はプロで危険だ。異世界の兵隊では太刀打ちできなかったんだろう?私だけで後を追う」


「そうと決まったわけじゃない。敵はかなり手の込んだ奇襲で私たちの武器を避けてた。ガチンコなら十二分に通用すると思う。私はこれでも訓練を積んでる兵士みたいなものよ。足手まといにはならない。それに追跡できるのは宇佐美ちゃんだけよ。この子の嗅覚で犯人を追える」


「...わかった。では共に行こう。乗れ。...乗り方はわかるのか?」


「あ、私は...」


「私はできるよ!」


「宇佐美ちゃん、できるの?」


「もちろんです!一時期、恵一様がやってみた運送業は私が手綱を握ってたんだもん!」


「そうなんだ。恵一君は乗らなかったの?」


「恵一様はいつも振り落とされてから私が頑張ったんだよ」


「そうなんだ。ダメな人ね」


「談笑は後。急ぎましょ」


「そうね、デルフィーネさん。宇佐美ちゃん、お願い」


「うん!」


宇佐美と乙十葉はダチョウのような騎乗動物に跨った。

乙十葉は89式小銃を背負い、片手にP220 9mm拳銃を持つ。


「山本さん、幸運を!」


館の外壁にもたれる卯月はそう言って追跡班を見送る。


「任せて!」


乙十葉がそう言った後、デルフィーネは声をかけた。


「出発!」


二頭の動物に跨る一同は襲撃者と恵一の後を追った。

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