勇者争奪戦1
<デルフィーネの住居>
デルフィーネはダンジョンでの出来事を話し終えた。
「その後、私は自力でダンジョンを登り続けた。地上を目指して。チャウンと潜った時は2週間もかからなかったが、チャウンの助けがない状態では地上まで這い上がるのに1ヵ月以上もかかった。ようやく地上には這い出た時、目の前に現れたのが帝国軍ではなく異世界の軍隊だった。だがダンジョンでの出来事を思うと大した驚きには感じなかったがな」
デルフィーネがダンジョンでの出来事を話し終えるとルシルが悲しそうに質問する。
「そんな、チャウンさんは死んでしまっていたんですか?」
「...本当にすまない。どこで言い出せばいいかわからなかった。同じ給仕のお前には初めに話すべきだったな」
「...いえ、そんなことはありません。ダンジョンに潜ると決まった時から覚悟はしていましたから...。でもやっぱり同僚がいなくなるのは少し...」
ルシルが悲しそうにする中、デルフィーネはルシルに申し訳なさそうな視線を向けた。
そこで恵一も質問する。
「その、チャウンさんは本当に死んだのか?」
「わからない。ただあんなことが起きては無事済むとは思わないが...」
「そっか。話を聞く限りそうだよな。お悔やみ申し上げるよ」
―ダンジョンはただの猛獣モンスターだけじゃなくて怪異じみた怪物までいるのか。本当にヤバい場所なんだな。それにダンジョン最深部のよくわからない先進的な空間か。先進的...もしかして」
「悲しいところ申し訳ないんだけど、ダンジョン最深部ってキャンプ・新地の建物の内装に似ていたか?」
「ニホンの?...!確かに、ドアの作りや内装が似ていた。何かわかるのか?」
「いや確証はないけどたぶんものすごく進んだ時代の技術で作られた場所なのかもしれないなって思って。こっちの世界はこの世界より数百年以上文明が進んでいるんだよ。つまりそれに似てたってことは同様の文明がそこを作ったってことなんじゃないかなと」
「なるほど、そういった解釈ができるわけか。だとしたら...」
デルフィーネがそう言った時だった。
宇佐美が大きなうさ耳をピクピク動かしてドアの方を見た。
「どうした?」
「何か音がします」
「音?」
恵一はドアの方を見た。
他の者も釣られてドアを見た。
ドアの外には卯月上等兵と他2名の護衛兵が待機していた。
ドンドン!
その彼らがドアをノックし始めた。
乙十葉は急いでドアを開けた。
「どうしたの?」
「町で騒ぎが起きているようです。あれを見てください!」
卯月上等兵が麓の町を指さす。
時刻はすでに夕方に近づきほんのり暖色に照らされる町から煙がいくつか立ち上っていた。
微かだが人の声もする。
恵一達はぞろぞろと外に出て町を見るが、何が起きているのか釈然としない。
しかし耳のいい宇佐美はそれが何なのかだんだんわかってきた。
「悲鳴が聞こえます。虫のモンスターが襲ってきたと言っています!」
「虫のモンスター?!」
やがて発砲音も聞こえ始めた。
そして卯月上等兵の無線機から音声が流れだす。
『第2分隊応答せよ。送れ』
「こちら第2分隊です。送れ」
『そちらの現在地は安全か?』
「はい、今のところ何も起きていません。市街地から少し離れた山の斜面にいます」
『わかった。市内では大型鳥獣が発生していて大変危険だ。貴官らは鳥獣掃討が完了し指示があるまで現在地で待機せよ。』
「りょ、了解しました!」
卯月上等兵は無線をしまうと全員に注意喚起する。
「どうやら事態はかなり深刻なようです。外は大変危険ですので中で待ってください!」
「私は出るぞ!」
デルフィーネは外に出て斜面を下ろうとした。
「デルフィーネさん、危険よ」
「ああ、やめとけって」
恵一や乙十葉が止めに入る。
「私は心配いらない」
「でも」
「すぐ戻る」
そう言ってデルフィーネは斜面を下っていった。
「恵一さん、いいんですか?」
「あの様子じゃ言っても聞かないだろ。それに強力な魔法が使える腕が立つ奴みたいだし、大丈夫かもしれない。とにかく俺たちはここに留まろう」
「わかりました。じゃあ皆さんは中に戻ってください」
一同は不安そうに館の中に戻る。
卯月上等兵らは89式小銃を固定できる場所に設置するといつでも撃てるよう周囲を警戒する。
屋内で恵一たちがどうしたものかとソワソワする。
「宇佐美ちゃん、心配しないで。きっとなんとかなるから」
「う、うん。でもデルフィーネ姉ちゃんが心配」
「まあね。でもダンジョンから自力で生還するくらい強い人だから」
「そうだね」
「そうだ。アイツならたぶん大丈夫だろう。それにしても街中でモンスター出現なんてあるのか?」
「異世界でも町中にモンスターが現れるのはあまりないの、恵一君?」
「いや、街に侵入されることはある。ただ、野竜以外の陸上モンスターだと街の守衛に阻まれて入り込まれることはなかなかないぞ。特に外は日本軍が守りを固めてたんだからな」
「確かに」
「誰かが手引きしたんだ」
「誰って、誰が?」
「さあな。帝国軍辺りが妥当だな」
「なるほど」
読みは当たっていたが恵一たちが想像するような相手ではなかった。
町中で災いの種をまいたダークエルフはデルフィーネの館を視界に捉え、行動を開始しようとする。
北日本軍の工作員活躍させたいけど東京に来たところで区切ってアルカディアンズに着手します。
工作員はあの人。




