レムルス
書くの苦労してます。
仕事が込んでます。
一部設定が不満なので書き換えるかも。
ラビアンの酋長のくだり全カットしました。
「.........どこでもない世界から」
「どこでもない世界か。この世界とも繋がった異世界とも違う世界ということか?」
「...そうだ、俺は関係ない世界から転移させられたんだ。今考えてみるとその神様とやらが関係があるんじゃないかと思えてきた。いや、でなければ転移なんて超常現象が起きた理由がわからないな。なあ、教えてくれ。俺が異世界から連れて来られた理由を。そして勇者って何なんだ?」
「...長い話になる。詳しくはレムルスで話そう」
<レムルスの街>
アクバー遺跡、現在はキャンプ新地と呼ばれる日本国防軍の駐屯地からすぐの場所にレムルスの町はある。
街は山地に半包囲された非常になだらかな斜面にある。
「ここがレムルスか」
恵一達は翌日、高機動車に乗ってレムルスの街にやって来た。
街の外周に展開する日本軍の検問を抜けると市街の出入り口に着く。
市街地の道路は狭く無秩序で車両はとても入れないので以降は徒歩となる。
「思ってたよりずっと文化的な街だな」
恵一はそう思った。
多様な種族と民族が織りなす多文化な雰囲気がこの街にはあった。
市場もそれを体現した多様な物品が売られていた。
「何これ?」
乙十葉は見たことが無い生き物の食品に興味津々だった。
「また異世界の軍隊か。言葉も通じないし何も買わないくせに偉そうに覗きやがって」
店主は護衛の卯月上等兵も含めた日本軍の護衛を連れた恵一たちを見てそう愚痴る。
「ならこれとこれとこれ、ちょうだい!」
「え?」
乙十葉は少し下手な異世界語で店主にそう言うと異世界通貨用の財布から金貨を数枚出して見せる。
「これで足りるでしょ?」
店主は驚きのあまり口をパクパクさせる。
「乙十葉、さすがにスーパーでイワシを買うのに100万円ポン出しする奴はいないだろう。どうやって両替するんだよ?そのおっさんの年収より多いぞ、それ」
恵一はそんな突っ込みを入れる。
前の恵一なら金貨を見たら喉から手が出るほど欲しかったが、今ではあまり魅力を感じない。
なんせ経済力、物価が違い過ぎて円に直すと大した額ではなくなってしまうからだ。
ちなみに乙十葉のつてで就職した恵一の給与は公務員の初任給くらいだった。
ある程度の年収が貰える点で恵一は乙十葉に感謝していた。
なお使える場所は駐屯地内唯一の複合店か自販機しかなく、まだ日本への渡航許可も下りないので預金は溜まる一方だった。
「通貨の感覚がいまいちだわ。それに銀貨とか小銀貨は持ってないのよね。両替商に持っていくしかなさそうだわ」
乙十葉が持っている金貨は異世界と日本の間で行われた外貨取得を目的とした限定的な貿易で確保されたものだった。
ちなみにこの街の商人は破格の条件で貿易してくれる日本の物資をありったけ買おうとしたが日本側はある程度取引したらすぐに中断した。
十分な量を確保したとは言い難かったが、なにより現地の一般住民が困ると考えたからだ。
現時点で小切手や手形は使う段階にないので通貨だけで大量に貿易したら、現地の通貨が一気に減る。
現時点で日本が貨幣の取得できるのはこの街だけで保有通貨量も大した量はないと思われた。
経済はお金が淀みなく流れることで物が買えるのだから、こんな歪なお金の流れは金融体制の脆弱な現地の住民に直ぐしわ寄せがいく。
案の定、ちょっとした貿易だけでこの街では通貨が一部不足に陥っていた。
そうこうしていると周りに野次馬のような人だかりができ始める。
異世界人はたんまりと金を持っていると聞きつけた住民たちだ。
「ねえ、うちの品物も買ってよ。いいものあるわよ!」
「うちなんて中型龍のうろこもあるぞ!」
とにかく金貨を持っている乙十葉に集ってせびるように物を売ろうとした。
乙十葉が困っているのをよそに恵一はデルフィーネに質問する。
「デルフィーネさん、両替商ってどこにいるの?」
「あっちだ」
一同はデルフィーネに案内される形で両替商がいそうなところに行く。
それとなぜかわからないが本人の要望でデルフィーネはパーカーを着てフードを被っている。
「この人だ」
デルフィーネはぶっきらぼうに両替商を案内した。
「い、異世界人か?何の用かい?」
「ただの両替だよ、金貨を大銀貨と小銀貨に変えてほしい」
「ああ、そう言うことなら。近頃はあんたらが金貨をもってくもんだから足りなくてね。こっちとしては歓迎だよ」
両替商は金貨を銀貨に両替して乙十葉に渡した。
「ところでなんだが一つ聞いていいかい?」
「何?」
「デルフィーネというハイエルフの人を知らないかね?アクバー遺跡やアクバーダンジョンを封鎖しているあんた達ならあのお方がどこにいるのか知っているんじゃないかと思ってな」
「...」
一同がデルフィーネを見た。
「ん?」
両替商はなんだかよくわからないが恵一達に釣られてパーカー姿のデルフィーネを見た。
「...恵一、先を急ごう」
デルフィーネは直ぐにその場を後にしようとする。
恵一達も仕方なく後を付いて行く。
「なあ、あんたこの街だと有名人なのか?」
「多少はな」
「さっきの人いいの?無視して」
「いろいろ事情があるんだ。こんなところで集られたくない。それに街人には後でちゃんと声をかけるつもりだ」
「そうなんだ」
一行は歩き続けて目的地に到着した。
そこは町を囲っている山の外輪にある施設だった。
「ここは?」
「学び舎だ」
恵一は建物を見る。
そこはまさしく学校のような場所だった。
幅広い種族の人が出入りしていて、皆学者や学生のように見えるし、宗教家のようにも見える。
「学び舎なのか?」
「ああ。小さな孤児院も併設した学院といったところだ。皆はアノス学院と呼んでいる。学び舎としては文学、数術、錬金術、そして魔法が研究され、それを弟子に教える場でもある。修道院とは比べるべくもないしがない学び舎だ」
「営利系の修道院みたいなやつか。異世界に学校作ったらどうなるんだろう」
「ガッコウ?」
「こっちの世界の話」
「向こうか、異世界はもっと進んだ学問と教育があるんだろう。後で話を聞かせてもらおう」
「わかった」
「では行こう」
一行は中へと入っていく。
それを誰かが見ていた。
<学院>
「異世界人だ!」
学院内では恵一たちを見た者が大声で皆に呼び掛けた。
「あなた方は?」
「日本から来た者です。デルフィーネさんをお連れしました」
「デルフィーネ様を?」
ここでデルフィーネがフードを脱いだ。
「心配かけたな、今戻った」
「デルフィーネ様!」
「おーい、デルフィーネ様が戻られたぞ!」
「デルフィーネ様、こちらへどうぞ!学師様たちを直ぐに集めます」
「ああ、頼む」
学院内が慌ただしくなっていく。
そんな中、空飛ぶ小さい小人がやって来て声をかけた。
「デルフィーネ様、ご無事だったんですね!」
「ああ」
それを見た乙十葉と宇佐美、卯月上等兵が声を出してしまう。
「妖精だ!」
「凄い」
「ふぁ、ファンタジーだわ...」
妖精は乙十葉たちを見てデルフィーネに聞く。
「デルフィーネ様、この人たちは?」
「異世界から来た人たちだ。ルシル、私の館に案内してくれないか?」
「もちろんです」
「ありがとう。客人たちよ、この子が私の館まで案内してくれる。私は後から行くのでそこで待っていて欲しい」
「わかった」
恵一達はそう答えると妖精のルシルに連れられて歩き始めた。
「ねえ、ルシルさん。あなたも学徒なの?」
乙十葉はルシルに質問する。
「んーん、あたしは雑用係。でも見聞きしたことは覚えるようにしてるから多少の知識はありますよ」
「へえ。ちなみになんだけどデルフィーネさんってどんな人なの?」
「この学院の創設者で今は学院や町の有力者にたまに助言するだけだけど、皆は学院で一番偉い人だと思ってるよ」
「この学校、いつできたの?」
「100年位前かな?」
「100年...」
乙十葉はデルフィーネが正真正銘の不老不死なのだと理解した。
一同はすでに裏山に入り森の中の小さな小道を進む。
「彼女、ハイエルフだよね?普通、エルフって自分たちの領地からあまり 出てきたりしないって聞くし、ハイエルフなら尚更そうだと思うんだけど何かあるの?」
恵一も質問する。
「そこはデルフィーネ様もあまり語らないんですけど、学院を創設する前は勇者と一緒に冒険をしたらしいですよ。冒険を終えても故郷に帰らず勇者とこの学院を建てたって聞きます」
―勇者と旅をしていた?
「こちらがデルフィーネ様のお住まいです」
そこは森の中にぽつんと立つ趣のある館だった。
周りは自然豊かな草木に囲まれ、小川もすぐそこを流れているなどいかにもファンタジー感を醸し出していた。
ここで宇佐美がソワソワと周りを見渡した。
「どうした、宇佐美?」
「誰かが見ているような気がして」
「誰か?」
周りを見渡すが人気は一切なかった。
「今も感じるのか?」
「ううん、一瞬だけ。たぶん気のせいかもしれない」
―誰かが見ている?
宇佐美たちが周りを見渡す中、ルシルはドアノブ傾けると必死にそれを引っ張ってドアを開けた。
「ど、どうぞ!」
一同はそれを見てちょっとだけ申し訳なさそうな表情で中へと入っていく。
そこはまるでちょっとした図書館のようでいくつもの本棚がありそこかしこに本が置いてあった。
いうなれば全然整理できていないダメな本屋のようでもある。
「すご」
恵一は本を手に取ろうとするが乙十葉は制止する。
「勝手に触れたらだめでしょ!」
「あ、悪い」
「ここに置いてある本は客人の方も読んでいいものですよ?」
ルシルは自制していた恵一達にそういった。
「本当に?!いいの?」
「もちろんですよ」
「じゃあ遠慮なく読ませてもらうわ!」
乙十葉は先ほどまでの自制をかなぐり捨てるようにあっさりと本を集めて読み始めた。
恵一は乙十葉に言い返したい表情になる。
そんな彼は部屋の奥に飾られた大きな絵画があることに気づき近づいて見る。
「ルシルさん、これは?」
「この世界の創生にまつわる絵だそうですよ。私も詳しくはわかりません」
―この異世界の創生?
そうこうしているとルシルがお菓子を重たそうに空中輸送する。
「皆さんお菓子ですよ。デルフィーネ様がしばらくお留守だったので悪くなる前に皆で食べちゃいましょう。お茶もお持ちしますよ」
「ありがとう」
「ありがとうございます」
「あざっす」
乙十葉たちはルシルにお礼を言うとお菓子を食べ始めた。
「ふむふむ。なるほど、中世のクッキーってこういう感じなのね」
「んー、素朴と言えばいいのか、原始的と言えばいいのか」
宇佐美はおいしそうに食べるが乙十葉と恵一は微妙な表情だった。
砂糖やバター、卵が入っていないので固く、甘味料以外の部分は味がほとんどなかった。
現代のクッキーを食べ慣れていた二人には美味とは言い難かった。
その後、宇佐美とルシルが談笑を続け、乙十葉が書物を読みふけり、恵一はずっと考え事を続けた。
「じゃあ、お礼に異世界のお菓子をいっぱい持ってくるね。チョコレートはすごく美味しいよ」
「異世界のお菓子か。どんなのか楽しみですね」
宇佐美とルシルが談笑を続ける中、デルフィーネがドアを開けて入ってきた。
「遅れてすまなかったな。恵一、話の続きをしようか」
「疲れたでしょ、後でもいいっすよ」
「いや、私は大丈夫だ。お前次第だ」
「ならお願いします」
「わかった」
デルフィーネは話し始めた。
<レムルス市街>
町中の誰もいない路地にマントを羽織った人物がぽつんと立っていた。
「さあ、出ておいで」
マントフードを被った女性は手に持っていた瓶を開けて逆さまにすると、中から虫が落ちてきた。
「行ってらっしゃい、あなた達」
落ちた虫はかなりグロテスクな見た目をしており、地面をはって町中へ消えていく。
フードを被った女性は微笑むと顔を上げた。
その姿はエルフそのものだが肌は褐色でデルフィーネのようなエルフと対をなす姿をしていた。
いわゆるダークエルフだった。
「ふふふっ。さて、あの異世界人を生け捕りにしてまいりましょうかしら」
ダークエルフは路地を進んで消えていく。




