調査と進捗とその後
タイトル変更しました。
旧作のタイトルを変更しました。
「初まり」の自己紹介
「新橋事件2」の終りの方
に主人公の特殊能力を示唆描写を加えました。
登場予定人物の登場が遅れまくっていることを念頭に前作のディメンジョンズ・スクエアの冒頭のエルフ、デルフィーネを直ちに移植登場させます。
<ラビアンの難民キャンプ>
場面は変わってラビアンの難民キャンプへと変わった。
ディーズの話を聞いた恵一と宇佐美は申し訳ない気持ちになり居心地悪い顔をしてしまうのだった。
―お、思った以上に壮絶だな。銃火砲相手に剣や槍で戦えば当たり前だが、これじゃあ友好関係を結ぶのは骨が折れるぞ。というか、こいつ...
恵一はディーズに質問する。
「なあ、一つ聞いていいか?あんたは日本を恨んでいるのか?」
「...」
「...ごめん」
「私は恨んでいない、だが少し怖い」
「...そっか」
だが冷静に考えられる今、日本は悪意を持って攻め込んできたわけではなさそうだと思える。
戦場では情けで見逃してもらい、恵一たちが使者として友好関係を持ち掛けてきている。
だから単純に決められないことがすごくもどかしかった。
ディーズはどうしようか悩んでしまうがここで突然恵一の懐から声が発せられる。
『恵一君、聞こえる?応答しなさい!』
一同が驚いて恵一の懐のトランシーバーを見た。
「あー、もしもし、何かあったんですか?」
『盗賊の大群が難民キャンプに向かってきているわ!』
「盗賊?!」
そう言った矢先銃声が鳴り響いた。
<盗賊団>
「野郎ども。ラビアンはできるだけ生け捕りにするんだ。他の難民は皆殺しにしてしまえ!」
「おおう!」
数百人を超える異世界遠征軍敗残兵くずれの盗賊部隊だった。
狙いは当然略奪だ。
だがその進行方向の真正面から突然銃声が聞こえ始めた。
「まさか!」
<狙撃分隊>
恵一達のサポートに回っていた狙撃分隊は64式狙撃銃や89式小銃で応戦していた。
無勢に多勢なので本来なら隠れたままじっといていればよいのだが、盗賊団の侵攻ルート上に布陣してて逃げられない上に難民キャンプを背にしていた。
応戦するしかなかったのだ。
「距離400」
観測手が測的して距離を伝えるとスコープを持たない兵士はタンジェントサイトの目盛りを400にセットした。
この距離で当てるのは大変だが狙いは牽制でもあるのでかまわない。
「恵一君、私達が足止めするから逃げて。南側へ向かえば直ぐに護衛の小隊が拾ってくれるから!」
『お前らはどうするんだよ?!』
「もう逃げられない。ここで踏ん張るだけよ!」
『ふ、踏ん張るって?』
乙十葉はトランシーバーを切る。
「山本さんも早く逃げて下さい!」
「いえ、私も残る。今から走ってももう逃げ切れない。ここであなた達を手伝うわ!」
「ちょっと何考えてるんですか、あんた?!」
「そうですよ、山本さん!早く!」
狙撃分隊に加わっていた卯月上等兵も逃げるよう即すが乙十葉は残ると言って譲らない。
「ナイフをちょうだい!お願い!」
そうこうしているうちに盗賊団にどんどん距離を詰められていく。
兵士たちは乙十葉に声をかける余裕もなくなった。
やむを得ず兵士の一人が89式多用途銃剣を渡した。
すると乙十葉は近くの枯れ木から杖にするのにちょうどいい長さの棒をへし折り、邪魔な部分をナイフで鮮やかにカットする。
いや、鮮やかに切るには邪魔な部分はあまりにも大きかった。
乙十葉は凄まじい腕力を持ってナイフで切り落としたのだ。
そして自分のリュックからダクトテープのようなものを出してナイフを手際よく棒にしっかり固定する。
敵は間近まで迫っていた。
<ラビアンのキャンプ>
銃声が聞こえたことで日本軍がすぐそこにいることに気づいたラビアンの部族は攻撃しようと戦士が集まる。
そこへディーズが恵一と宇佐美を連れてやってくる。
「ゆくぞ、ディーズ。異世界の軍勢が攻めてきたぞ!」
ディーズはすぐに返事せずに間を開けてから答える。
「...聞いてくれ!実は...」
ディーズは恵一と共にラビアンの仲間たちにある提案を行った。
<狙撃分隊>
盗賊団の突撃が遂に狙撃分隊に取り付き襲いかかり始めた。
「うおおお!」
盗賊兵が男性兵士に切りかかろうとするが、兵士は64式狙撃銃を向けて発砲し、盗賊はこけて倒れ込む。
そこへ横から別の盗賊兵も突進してきて錠を向けようとするが間に合わない。
「死ねええ!」
盗賊はそう言って剣を突き刺そうとするが兵士の後ろから乙十葉が現れた。
「はああああ!」
乙十葉はお手製の槍で剣を反らさせるとそのまま槍の先端に取り付けた89式多用途銃剣を盗賊兵ののどに突き刺して倒してしまう。
兵士はその姿を見て呆気に取られてしまうが乙十葉はそれを見て怒鳴る。
「よそ見しない!」
「は、はい!」
兵士は直ぐに64式狙撃銃を構えなおしセミオートで一人一人撃ち倒していく。
乙十葉は銃を持っていないが撃ち漏らした敵兵が近づけないようお手製の槍で次々倒していた。
まるで武道の達人のように鮮やかに敵の剣を弾いては槍を突き刺し、時には蹴ったり槍で殴って敵を弾き飛ばす。
そこへ弓矢が飛んできた。
兵士の一人が足に矢が突き刺さって倒れ込んでしまう。
「ぐあああ!」
乙十葉は負傷した兵士の背中をとっさに捕まえて数メートル後ろへ引きずる。
案の定、兵士が負傷してがら空きになったところから3人の盗賊兵が突撃してきた。
誰も対応できないと悟った乙十葉は兵士を掴んだまま懐のホルスターに収められたP220 9mm拳銃を勝手に引き抜くと片手で構えて発砲する。
乙十葉の射撃は正確で敵3人を知れぞれ一発で仕留めた。
そして倒した敵のさらに後ろから迫ってきた敵も拳銃で仕留めてしまう。
「89式借りるけどいい?」
「...お、お願いします。山本さん!」
乙十葉は負傷した兵士の了承を得て89式小銃を手に持つと直ぐに構えてセミオートで射撃する。
その様子を見ていた兵士たちは乙十葉の戦いぶりに度肝を抜かれ続けていた。
まるで訓練された兵士。
いや、それを通り越して特殊部隊の精鋭顔負けの卓越した戦闘技能を持っているというべきだった。
乙十葉は小銃を構えたまま卯月上等兵の隣につく。
「山本さん。どういうことですか?あなたは軍歴が無かったんじゃないんですか?」
「...ええ、軍には入ったことはない」
「なら...」
「これも血塗られた軍人一家の性なのかもね」
「性?」
<盗賊団>
「だ、団長!ダメだ、全然歯が立たねえ!」
「異世界人は化け物だ!」
盗賊団は突撃して一気にけりを付けようとしたが、乙十葉の活躍もあって押しつぶせないまま無駄に兵を失うだけになってしまった。
その数、実に百数十人にも上る。
「くそ....」
―異世界人の武器を手に入れられるチャンスと見たが、読みが甘かった。たかが数人でもこれほどのだとは想像もしていなかった。....ん?!
盗賊団が攻めあぐねたところ、異世界人たちの後ろの茂みからラビアンの戦士たちが出てきたのだ。
彼女たちは特有の走り方で盗賊団に高速で突っ込んでいった。
「やっ!」
「がは!」
ラビアンの戦士が応戦しようとした盗賊兵の攻撃を難なく避けると一瞬にして盗賊の頭を切り飛ばしてしまう。
彼女たちは近接戦においてはヒトより戦闘力が極めて高く多勢で襲ったり奇襲しなければ大損害を被る。
盗賊団は既に異世界人との戦闘で多数の兵を失い奇襲効果もなくなっていた。
ならば異世界人の武器をと少数の日本軍兵士を叩いたが全く歯が立っていない。
もはや逃げるしか手はなかった。
「野郎ども、引けええええ!」
盗賊たちは退散し始める。
田が走り負出してすぐ前に装甲車の車列が立ちふさがった。
恵一達を護衛する小隊の本隊だった。
盗賊たちの表情は絶望に変わり走るのを止めて立ち止まる。
武器は捨ててなかったが表情は完全に降参していた。
その後、恵一の呼びかけで盗賊たちは武器を捨てた。
「山本、大丈夫か?」
「乙十葉おねえちゃん、大丈夫?」
恵一と宇佐美が乙十葉のもとに走ってきて声をかける。
それを乙十葉は鋭い目つきで返す。
恵一と宇佐美は少しビビッて固まった。
その様子を見た乙十葉は我に返ったような表情に戻ると直ぐ泣きそうな表情になり89式小銃を地面に落としてしまった。
<ブッシュマスター装甲車内>
夕方になり調査隊はキャンプ・新地へ向けて帰路についていた。
負傷した兵士は先にヘリで搬送されたが幸い日本側に犠牲者は出ない。
恵一は宇佐美と乙十葉に正対する様に椅子に座っていた。
「今日はいろいろあったな。どこから話せばいいかな?」
「...」
恵一は気を取り直させるように明るく話し始めたが乙十葉の表情は落ち込んだような表情を続けていた。
時折自身の服や手を見る。
乙十葉は返り血をかなり浴びてしまったせいで服の至る所が赤く染まってしまい鉄臭ささえしていた。
宇佐美はそんな乙十葉が心配で寄り添っていた。
「乙十葉おねえちゃん...」
宇佐美はたまらなくなり乙十葉に声をかけた。
「...ご、ごめんね、宇佐美ちゃん。心配かけちゃって」
乙十葉はちょっと笑顔で答えるがかなり悲しそうだった。
乙十葉の様子を見て恵一は話を切りだす。
「あの後、いろいろ話が一気に纏まっちゃってさ。あそこのラビアン達は日本と友好関係を結ぶってさ」
「...へえ。一気に進展したのね」
乙十葉は恵一の話に乗り始めた。
「ああ、俺の言葉はあんまり響かなかったけどディーズって言うラビアンの戦士と宇佐美が熱弁してくれたんだよ。なあ、宇佐美」
「そうなの、宇佐美ちゃん?」
乙十葉が宇佐美にちょっとやつれた顔で微笑みかける。
「うん、私の日本の印象をありのまま伝えたの。とってもいい人たちなんだって。みんなのためを思ってきたんだって」
「それにディーズも仲間を諭すように宇佐美を後押ししてくれた。いろいろあったけど、まずは聞き入れようってね。そしたら彼女たちの元リーダーやディーズを慕ってる仲間が呼応してくれたんだ。全員が日本に納得したわけじゃないけど、戦い終わった後は概ね信用してやるって感じ」
「そっか。じゃあ、今回は宇佐美ちゃんの大手柄ね」
「へへ」
乙十葉が宇佐美の髪を撫でる。
直近では宇佐美にとって乙十葉は良き姉貴分という感じになっていた。
なので宇佐美は元気を出しつつある乙十葉に褒められたことが嬉しかった。
ついついウサギの大きな耳をピクピク動かす。
「はー、宇佐美ちゃんのおかげで元気出ちゃった。肉球触らせてくれたらもっと元気出ちゃうかも」
乙十葉はニカっと笑顔を見せる。
「本当に?じゃあ触って触って!」
宇佐美は掌を出して乙十葉に見せる。
亜人の特徴は千差万別だがラビアンほどヒトに近い姿だと動物的特徴も若干薄れる。
肉球もどちらかというとピンク色に膨らんでぷにぷにしている皮膚という感じだ。
だが乙十葉は宇佐美の手を取り気持ちよさそうにもみもみし始めた。
「とっても柔らかくて暖かいわ」
「そうでしょ!」
宇佐美は嬉しそうにする。
その様子を恵一が羨ましそうに見ていた。
他の陸軍兵士も同様のまなざしで見る。
「ねえ、恵一君。そろそろあなた達に私のことを話した方がいいのかなって思うんだけど、聞く気はある?」
―乙十葉の素性か。何度か聞こうとしたがはぐらかしたり「女の子に直に聞くとかありえない!」とかいって突き放されたりして聞けてなかったな。やたら軍事に詳しいし、軍内だと結構知名度があったりするし、不思議な奴というのは知っていたが...。
「ああ、話を聞かせてもらっていいか?」
「じゃあ、まず私の家族から話すわね」
乙十葉は自身のことについて話し始める。
その頃、キャンプ・新地内の一角にある部屋では女性が椅子に座わり机と向き合っていた。
金髪で長く尖った耳を持つ、誰もが知るエルフの女性だった。




