召喚陣攻防戦4
<陣周辺の砂浜>
日米軍の上陸艦隊が陣から続々と出現している頃、ボート3隻が沿岸の砂浜への上陸を敢行していた。
「行け行け行け!」
ボートから兵士たちが続々と降りてくる。
兵士たちはしっかりとした装備を身に纏いM4カービンを構えて辺りを入念に警戒しながらも、とても素早く迅速に行動してビーチの確保を行う。
「クリア」
「クリア」
「敵は一切見当たりません。無人のビーチです」
「わかった、本隊の誘導を開始する。第2、第3分隊は内陸へ前進開始!」
彼らはアメリカ海兵隊武装偵察部隊、通称フォースリーコンと呼ばれる世界屈指の特殊部隊だった。
そして警戒のため内陸へ進むとついに敵と接触した。
遠くの茂みから騎馬が4頭出現して内陸方面へと全力で走り去っていこうとする。
「監視だ!」
フォースリーコンの兵士たちがM4カービンやミニミ機関銃で銃撃する。
一般の兵士より射撃能力が高い彼らは瞬く間に2頭を仕留めた。
更にMk11狙撃銃を構える狙撃手が正確に1頭を撃ち仕留める。
だが最後の1頭は稜線の向こうへ消えて追撃できなくなった。
<日米軍艦隊>
「フォースリーコン各隊が上陸可能地点のビーチをすべて確保しました」
「航空偵察隊からの報告。敵は陣周辺以外に部隊をほとんど展開させていないことを確認」
「司令官、すべての準備が整いました」
「よし。予定通り作戦を開始する!」
陣から召喚を終えた揚陸艦隊は航行を開始し上陸可能地点のビーチへの接近を始めた。
揚陸艦隊には強襲揚陸艦やドック型揚陸艦の姿の他にも戦車揚陸艦と呼ばれる種類の艦艇も含まれていた。
この戦車揚陸艦は砂浜に直に乗り入れて装備と人員を直接上陸させる特徴がある。
そしてこれらの戦車揚陸艦がもっと数が多くすべて日本海軍所属だった。
通常型の小型艦もいればニューポート級のような大型艦もいた。
「まもなく上陸するぞ!」
「ここから先は敵地だ。気を引き締めろ!」
「おおう!」
揚陸艦内にぎゅうぎゅうに積載された90式戦車やAAV7水陸両用車、高機動車の空いたハッチやドア、銃架から身を乗り出す日本海軍海兵部隊兵士たちが指揮官の鼓舞に呼応した。
ほどなくして戦車揚陸艦はビーチングを行って接岸した。
接岸したらすぐに艦首のハッチが開き、道板が下ろされて上陸するための道ができた。
そこから上陸部隊の車両が続々と下船してビーチを一列に走り上っていく。
一方、アメリカ海軍の強襲揚陸艦やドック型揚陸艦からはエア・クッション型揚陸艇やAAV7水陸両用車がドックから出てきて海を走りながら直接ビーチへ乗り入れた。
またヘリ甲板からは絶えずヘリによる空中輸送がひっきりなしに行われる。
こうして十個中隊以上の部隊が異世界への上陸を果たした。
<帝国軍>
「どうなっている!伝令はまだ来ないのか?」
「確かに。飛竜であればもう伝令が来ていてもおかしく無い頃合いですが...」
そこへ兵士が駆けてやって来た。
「報告します!海の陣から侵入した敵が海岸に上陸した模様です!」
「何ィ!飛竜部隊はどうしたのだ?」
「わかりません」
「敵は今も海岸にいるのか?」
「それもわかりません。なにぶん命からがら逃げ果せたもので...。ですが本陣までの道中、空を敵の飛竜と思われる異形の竜が音を立てて舞っておりました。おそらく飛竜部隊が全滅していることも十分あり得ます」
「...」
「将軍、何をしている?海から来た蛮族どもに対応せぬのか?」
「はっ、ゲオルス卿!」
「将軍、やらぬのか?」
「しかし、卿。兵たちの士気は低く今から陣形を変えるのは大変時間がかかりましてございます。しかも陸の陣から敵が出てこない保証もないのです。最悪、移動中に挟み撃たれることにもなりかねません!」
「それがどうした?海から来た敵を一気に叩き潰し、のこのこ陸の陣から出てきた敵も打ち取ればよかろう?」
「しかし、敵の力は...」
「くどいぞ。余に逆らうのか?」
「いえ、滅相もありません!」
―何も知らない大貴族の若造が!
帝国軍と亜人・傭兵の混成部隊は陣形を崩して海からやって来た日米軍上陸部隊に向かって移動を開始した。
<ラビアンの部族>
ディーズ達が話し合う。
「移動命令が出たよ、どうする?」
「命令には従おう。だが本隊から少し距離を置いて動く」
「撤退したほうがいいんじゃないか?」
「いや、今やれば帝国に目の敵にされる。もう少し様子を見る」
<日米軍>
『こちらダックス2-1、目標が移動を開始した」
アメリカ海軍の強襲揚陸艦から偵察に出たF-35B戦闘機は搭載されたAN/AAQ-40 赤外線捜索追尾システムで軍団の移動を確認した。
その頃地上では日米軍上陸部隊の砲兵隊が陣地を構築し砲撃準備を完了させようとしていた。
アメリカ海兵隊のM777榴弾砲を配置。
日本海軍海兵隊はFH70榴弾砲を配置し、砲手がハンドルを回して榴弾砲の主砲を20km先の帝国軍へと向ける。
<帝国軍>
移動中の軍団の隊列は乱れに乱れていた。
亜人部隊はいよいよ帝国軍の指示を真面目に聞かなくなっていた。
だが勝手なマネをするわけにもいかず指示をそれらしく聞いて行動はしていた。
「将軍、敵までの距離はあとどれくらいだ?」
「わかりませぬ、卿。放った偵察兵がどれも戻りませんゆえ、見え次第すぐに陣形を組みます」
「そうか。ところで...」
形上の総司令官であるゲオルス卿がそう言おうとした瞬間だった。
突然軍団の足元の地面が爆発した。
ズドオオオン!
「な、何だ、どうしたのだ?!」
爆発は一回ではなく何回も何十回も強烈な爆音を轟かせながら襲い掛かる。
<日米軍>
「撃ち方始め!」
「撃て!」
「コメンスファイア!」
「ファイア!」
アメリカ軍と日本軍の砲兵隊の155mm榴弾砲が一斉に爆音とともに火を噴く。
巨大な砲弾は音速の2倍以上の速度で撃ちだされ、20km先の軍団めがけて何十秒も滑空しながら飛んでいった。
そして着弾すると一発で何十人もの兵士を吹き飛ばして死傷させた。
砲兵隊は砲撃すると閉鎖機を開け、給弾手が2人がかりで155mm砲弾を主砲の尾栓へ持っていく。
砲弾をセットすると装填手が長い棒で砲弾を砲身へ押し込み閉鎖機を閉め砲撃体制を整えた。
砲手はそれを確認し撃発レバーを引いて砲弾を撃ちだす。
その動作を十数秒に一回のペースで行って砲撃を続ける。
着弾した砲弾は瞬く間に100発を軽く超えた。
<帝国軍>
「一体...爆裂魔法なのかこれは?」
「古から伝わる噴火というものは?」
「何とかしろ!このままでは兵をすり潰されるぞ!」
「散れー、散るんだ!」
既に帝国軍の隊列はバラバラになり皆恐怖で逃げ惑っていた。
そんな中で更に悪い知らせが入る。
「報告します!アクバー遺跡の陣が起動し異世界の軍勢が侵入!守備隊1000人は一瞬で蹴散らされました!」
「何いいい!」
<アクバー遺跡の召喚陣>
「おい、召喚陣が光ったぞ!」
「敵だあああ!」
強烈な光と共に現れたのは増加装甲を身に纏う近代改修が施された90式改戦車の2個戦車中隊であった。
90式改戦車の1500馬力ディーゼルエンジンは力いっぱい排ガスを吹かせて車体を加速させた。
「各車、目標を任意で攻撃せよ!」
「撃てえ!」
90式改戦車の44口径120mm滑腔砲が爆音とともに火を噴き、周囲に布陣していたオークやバリスタを一瞬で粉砕していく。
更に同軸機銃のFN MAG 7.62mm機関銃を連射してゴブリンや帝国軍兵士を怒涛の勢いでなぎ倒していった。
帝国兵は盾を構えるが並みの鉄鋼板を簡単に貫く大口径銃弾には完全に無力であった。
「うあああああ!」
ドタドタと兵士が倒れ塊で逃げる者は120mm砲で吹き飛ばされる。
更に更に陣が光り追加の2個戦車中隊も加わえ、合計1個戦車大隊の猛攻は続いた。
帝国軍は全滅し戦いはものの数分でけりが付いてしまった。
<帝国軍>
「将軍どうするのだ?!」
―命令を出したのはお前だろ!いや、あそこに留まっていてもどのみち敵に背後を襲われたか...」
「...ここは、撤退するのが最善です!」
「逃げるだと!断じて許さんぞ!」
「ですがもはや手の打ちようがない!」
「貴様!まともな指揮もできんくせに敗北者の戯言を申すとは!」
ゲオルス卿は剣を抜くと軍団の指揮官である将軍を切りかかろうとする。
将軍は観念した様子で動かなかったが切られることはなかった。
155mm砲弾の至近弾で二人とも吹き飛ばされたからだった。
<ラビアンの部族>
彼女達は本隊の外縁にいたためアメリカ軍と日本軍の砲撃範囲から奇しくも外れていた。
少しだけ高いところから帝国軍と随伴の混成部隊が爆発から必死に逃げ惑う様子を眺めることとなった。
「ないだいアレ?!」
「信じられない大魔法だ。あんなの相手じゃ手も足も出ないよ!」
「流石にこれは引かなければまずい!」
「敵の本隊が見えたよ!」
ディーズ達は丘から上陸部隊を視認した。
降車した歩兵部隊を装甲車中隊と戦車小隊が援護する諸兵科連合部隊だった。
戦闘は90式戦車とM1A1エイブラムス戦車の砲撃で幕を開けた。
既に魔獣使いの統率を外れ味方に危害を加えそうだったオークや大型生物が砲撃の餌食になった。
帝国軍兵士や傭兵、亜人部隊はもはや人知を超えた存在だと考え逃げに徹するが逃げる速度より日米軍の侵攻速度の方が断然速かった。
戦場に無数の小銃発砲音が響き渡る。
AAV7水陸両用車の40mmグレネード弾やLAV-25歩兵戦闘車の25mm機関砲も猛威を振るい、辺りの敵を薙ぎ払った。
歩兵部隊は装甲車の後ろを付いていくが敵に積極的攻撃を行う時は前に出て機動したりもする。
敵兵部隊も一矢報いようと突撃をかまそうとするが小銃から繰り出される5.56mm弾の弾幕によって一瞬のうちに溶けるように撃破される。
一方のラビアンの部族は戦闘から離れたところにいたので大半が逃げ果せそうだった。
「他の部隊には申し訳ないが今のうちに戦域を離脱しよう。他の氏族はどう?
「どうやら引き始めているみたいだ」
「なら私たちも引こう。あんたたちは先に行って」
「お前はどうするんだ?」
「少し留まる。追撃があればここで阻止する」
「ならあたしらも!」
「いや、あたし一人でいい」
「一人はいくら何でも...」
「頼む」
「あたしも残る。二人で何とかするよ」
ディーズに付いて行くと言い出したのは彼女と仲のいいラヴィンだった。
「嫌とは言わせないよ」
「...他は異存ないか?」
「...ああ、わかった」
仲間たちはそう言ってを撤退を始めた。
そして二人は草むらに隠れる。
「いいのか?」
「もちろん」
「そうか...噂をすればやって来たようだ」
現れたのはアメリカ海兵隊のハンヴィーの車列だった。
「あの怪物にこれが効くかしら?」
ラヴィンは手持ちの弓矢を構えるとアメリカ軍のハンヴィーに狙いを定めた。
移動速度を考慮してハンヴィーから大きく手前の位置に狙いを定めると矢を放った。
弓は放物線を描きながら飛翔し100m以上先のハンヴィーの窓に命中し、刺さらずにフロントガラスに大きなヒビを作った。
「アンブッシュ注意!」
アメリカ海兵隊兵士が仲間に呼びかける。
すると時間を置かずに先頭のハンヴィーにディーズとラヴィンが飛び乗ってきた。
「な、何?」
銃架にいたアメリカ兵は思わずそう口走る。
ラヴィンは窓に刃物を突き立てるが音を立てるだけでビクともしない。
「ディーズ!この怪物に剣は通用しない!」
「それなら!」
ディーズは銃架の射手を狙おうとする。
「こいつ!」
射手は銃架に備え付けられたM240機関銃では狙えないと悟り懐からベレッタM9拳銃を取り出そうとする。
しかしディーズの短刀のほうが速かった。
「ぐあああ!」
ディーズはアメリカ兵の肩に剣を突き刺さした。
アメリカ兵は刺されてのけぞり車内に倒れ込んだ。
ディーズはそのまま車内へ乗り込もうとするがそうもいかなかった。
タアン!タアン!
車内にいた他の仲間がM9拳銃で応戦してきた。
ディーズはこの攻撃を食らえば一撃で倒されることを先ほどの戦いを見て知っていた。
なので車内へ乗り込もうものならあっと今に撃たれてやられると気づき躊躇する。
「この野郎!」
ハンヴィーの運転手は大きくハンドルを切ると車体が大きく揺さぶられる。
「うわ!」
ラヴィンは車から振り落とされ草むらへと消えた。
ディーズはまだ車体にしがみついているが振り落とされそうになる。
「まだ引っ付いてやがる!」
運転手は再度ハンドルを切るがここで大きな凸凹の地面も踏んで車体が大きく傾いてしまった。
「しまった!」
ハンヴィーはそのまま横転してしまった。
「ぐっ!」
ディーズもこの時振り落とされてしまった。
一方、仲間のハンヴィーはどうすることもできなかったし横転したハンヴィーで行く手を遮られた。
「や、やったのか?」」
ディーズは四つん這いのまま銃架からハンヴィー内を覗く。
するとM9拳銃を握った手が出てきた。
「やってくれたな!」
アメリカ兵は再度銃撃してきた。
ディーズはそれをかわすとラビアン特有の走り方で草むらへと飛び込んでいく。
「う、撃て撃て!」
仲間のハンヴィーもディーズを攻撃しようとM240機関銃やM2ブローニング重機関銃で草むらを掃射するが手ごたえはなかった。
「こちらチャーリー。敵のアンブッシュを受けた。現在地で待機する、オーバー」
海兵隊はその周辺の敵の追撃を断念する。
その後、ディーズとラヴィンは合流を果たし戦域を離脱する。
<夜になった戦場周辺>
夜になりあたりが暗くなる中、ヘリの音が不気味に響き渡る。
『こちらスターク3、北1.5km先の茂みに隠れている敵の敗残兵をさらに4人確認した。送れ』
日本陸軍のOH-1そっくりの観測ヘリが赤外線カメラで熱源を発見しては本部へ報告していく。
ディーズとラヴィンは仲間に合流できずに疲れ切って草むらに隠れていた。
大抵の亜人は瞬発力はヒトと比べ物にならないくらい優れているが持久力は大きく劣っていたので、先の戦闘で疲労したディーズは体力をほとんど使い果たしてしまっていた。
「ラヴィン、...先に行って。私はもう動けない」
「置いていくなんてできないよ」
「このままじゃ、お前も巻き添えを食う。心配するな、何とか隠れ切って見せるさ。頼むから行ってくれ」
「...わかった」
そう言ってラヴィンはディーズを置いて先を急いだ。
残されたディーズは草むらへ隠れるとじっとする。
しばらくするとそこへ何かがやって来るのを大きなウサギの耳で聞き取る。
―正確に近づいてきている。バレたな。
音がどんどん近づいてくるのを聞き取り、ディーズはとぼとぼ歩いて離れようとする。
しかし遂に気力だけでは足が動かなくなる。
そして観念してうずくまった。
―来るなら来い。覚悟はできているぞ。
そして懐中電灯の明かりで照らされる。
現れたのは89式小銃を構えた日本陸軍の兵士達だった。
「お、女だ。女だぞ」
「信じらんね。ウサギの耳だぜ」
兵士たちは驚いている様子だった。
まさかこんな敵がいるとは考えていなかったのだ。
―何故攻撃しない...。
ディーズは兵士たちが戸惑っていることに自信も戸惑う。
「どうする?」
「どうするって...、抵抗する場合は射殺だが...」
「...」
「...すごい美人だ」
「おい、何言い出すんだよ!」
「見ろ、ナイフを構えて離さない。絶対抵抗する気だ!」
「だが...」
「それに憔悴しきってる様子だ。こんな状態の女なんて俺には撃てねえ」
困った様子の隊員たちは分隊長に目線を移す。
「隊長」
「...」
「隊長」
分隊長も他の隊員たちと同様だったようだ。
「...見逃そう」
「...了解」
「了解」
「こちら第3分隊、目標を掃討した。送れ」
「こちら本部、了解」
分隊長の男性は持っていた水筒を少し飲んで見せるとキャップを閉めてディーズの前に置いた。
そして日本軍の分隊は去っていった。
ディーズは日本軍が見えなくなるまで睨み続けた。
姿も足音もなくなったところで目線を水筒に移す。
―何のつもりなんだ。
ディーズは体を引きずりながら水筒に近づいて取る。
分隊長がやって見せたのを思い出しながらキャップを開けて中を嗅いでみた。
亜人である彼女の嗅覚はヒトより断然優れているので大抵のものは嗅ぎ分けられるがこれには匂いらしい匂いが無い。
ただの水だった。
―情けか...。敵である私に...。
ディーズは水筒に口を付けずにじっとそれを見つめ続けた。
翌日の朝、ディーズを見逃した兵士たちが同じ場所へ来たがそこには空の水筒だけが落ちていた。
アルカディアンズと交互更新しようかなと思います。




