召喚陣攻防戦1
―あれはリモワルド帝国がレムルスの近くに存在するアクーバダンジョンを制圧し、異世界に陣を繋いでからのことだった。
「聞け!皇帝の名のもとに遠征軍が編成されることとなった。兵力を要することから幅広く兵を招集する。集った者たちにはそれなりの地位と富を約束しよう。なお、これを承ざるは部族の存続に関わることになろうぞ。しかるべき返答を期待する!」
―帝国軍は異世界遠征のために異様なほど手勢を欲していた。
本来なら手柄を独り占めするはずだと誰もが考えた。
不可解な要請ではあったけれども断るわけにもいかなかった。
断れば遠征軍は寄り道がてら我らを懲罰と称して奴隷狩りすることは容易に想像できたからだ。
古より我らはことあるごとにヒト族の国や貴族に狩られそこかしこで奴隷として売られてきた。
だからこそ回避できるならばこの話は乗るしかなかった。
―その後、各地の族長たちが集まりラビアンの総意として帝国遠征軍への参加が取り決められた。
だが、その決定は異世界の軍勢の恐ろしい軍事力を前に裏目に出てしまった。
アクーバダンジョンとその近くにあるアクバー遺跡の周辺
遺跡自体が転移召喚陣となっているアクバー遺跡の周りを帝国軍の軍団が取り囲んでいた。
「異世界の軍勢を一匹たりともここから通してはならんぞ!」
「警戒を怠るな!陣が起動する兆候をつかみ次第陣形を組むのだ!」
帝国軍は敗残兵と予備選力をすべて使って陣を完全包囲していた。
その包囲陣の最前列に帝国軍以外の傭兵部隊や部族群が陣取る。
とある傭兵部隊
「どうなっている?第一陣は異世界に侵攻したんじゃなかったのか?」
「わからない。だが帝国軍の様子を見れば敗退したのだろう。先行していたオルドの部隊の一人が陣から負傷者だらけの帝国軍が出てくるを見たという話もある」
「なんだと?!」
とある亜人の部族軍
「なぜ帝国軍は事情を説明しない!陣の向こうに先発した第一陣はどうなったのだ?誰一人帰ってこないぞ!」
「おそらく全滅したんじゃないか?帝国軍の奴らの声を聴く限り人の向こうは敵らしい」
「では先だって陣を越えた一千の部隊は全滅したというのか?!」
別の亜人部隊
「やっていられるか!もはや大義などどこにもない!付き合って得られるものが何一つないぞ!」
「だがどうするというんだ?後ろは帝国軍の重装歩兵だ、下がりようがない」
「くぅ。これでは完全に騙し討ちだ!」
帝国軍とその他の混成部隊の士気は大きく低下し帝国軍の脅迫まがいの圧迫で傭兵や部族軍、志願兵は逃げることができずにいた。
帝国軍以外の部隊はもはや使い捨ての駒だった。
陣の向こうに先発した第一陣約10万人程度のうち亜人、傭兵部隊はほぼ全滅、帝国軍は2万人が帰還した。
帝国軍は負傷者を後送し、予備兵力と敗残兵をまとめて4万の軍団を作り、3万の傭兵、亜人の混成部隊を統率しているのが現状だった。
もちろん混成部隊側に戦局や情勢は一切教えずに逃亡は許さないの一点張りだ。
ラビアンの部族部隊
チリジリの分布している彼女らの部族は他の種族よりかなり遅れて参集し、他の遅れた種族や傭兵集団と共にバラバラに周囲に野営し始める。
「おい!貴様らは最前列だといったであろう。命令に背けばどうなるかわかっているのか?!」
「ふん、ならやってみな!あたいらに手を出せば他の奴らも黙ってはいないよ。異世界に行く前に共倒れするつもりかい?ごちゃごちゃ抜かすなら掛かってきな!」
「くそ!覚えておれ!」
ラビアンの戦士と言い争った帝国兵が馬を走らせ去っていく。
戦士のラヴィンはその様子を見ながらつぶやく。
「あまりにも様子がおかしい...」
仲間のラヴィンのつぶやきにディーズにも続く。
「ああ、ここまで指揮が乱れているのは異常だ。こんな状態を長く維持はできないはず。近いうちに陣をはらうことになるだろうな」
「それまでに何もなければよいいが...」
「...いや、そうもいくまいだろう。帝国軍は何かを焦っている。時期何かが始まるはずだ」
「何を?」
「さあな。おそらく異世界で何かあったのだろう。もしかすると向こうから侵攻してくるのかもしれぬな」
「まさか...」
「おい!帝国軍の飛竜部隊が飛び立ったぞ!」
ディーズが帝国軍の野営を見るとそこから数十騎の飛竜が飛び立ち数百m上空へ飛びあがり、海へ向かって飛んで行った。
「何かが始まった」
―それは海からやって来た。
 




