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調査と進捗1

キャンプ・新地周辺の難民キャンプ


「それじゃあ、力抜いて。そうそう、そんなに痛くないから。でしょ?」


恵一は防護服に身を纏った調査員が亜人の難民に献血を行うの現地語で通訳しながら手伝っていた。


「今更防護服って。もう延べ何万人も異世界とそっちの世界でヒトの行き来が行われてるんだろ?」


「そうだけどこういうのは形式としてね。それに未知の感染症がないとは限らない。特にこんな衛生管理からほど遠い難民キャンプじゃチフスやペストみたいな疫病なんて日常的なものよ。だから難民キャンプではあえてこうするのは大事ってわけ」


「まあ、そういうなら」


乙十葉と恵一は難民キャンプであらゆる活動始めていた。


まず恵一は通訳や翻訳で難民と日米駐留軍との円滑な意思疎通を可能にした。

それによって様々な不満や要望が判明するが日本政府から具体策がまだ示されていないので一定枠での支援継続と指導しか行えなかった。


一方、乙十葉を含めた学術団は惑星物理、生物相、人種・民族などを始動させ始め、難民キャンプではまず種族・文化の調査、防疫の観点で活動を行っている。


「怪物だー!」


亜人とヒトの子供が防護服のを見てそういうが怖がっている様子は皆無でむしろおもちゃのようにいじり倒そうとしていた。


「お兄さんは怪物じゃねえぞ?変な服着てるだけ...」


「オラ!」


亜人の少年に小さな枝で後ろももをブ叩かれる。


「痛ってぇぇぇえl!このクソガキが!」


「来るぞ!」


「逃げろおお!」


「わあああ!」


少年たちが楽しそうに逃げていく。

その先には乙十葉と宇佐美が立っていて子供たちは二人をすり抜けるように走り去っていく。

最初に声をかけたのは宇佐美だった。


「恵一様、大丈夫ですか?」


「はー、ヘーキヘーキ。ちょっと大げさだった」


「鵜川君。ここ難民キャンプは日本の管理指導に従うことを受け入れたみたいだし、調査サンプルも採集を完了だから次へ行くわよ」


「次っすか?次はどこの種族を診療しに行くんですか?」


「ラビアンの部族が取り仕切るキャンプらしいわ。宇佐美ちゃんと同じ種族よ」


「宇佐美と同種族、か...」


―ラビアン、か。亜人って人と違う文化や特性があるから変に思えるところが多いがラビアンって種族も記憶通りなら例に漏れない風変わりなところが多いんだよな。というかなんかこう、R-○○なところに注目してしまうというか...。


恵一は無意識に宇佐美をボケーっと見ていた。


「?」


「ちょっと鵜川君。宇佐美ちゃんをじろじろ見てどうしたの?」


「へ?いや、考え事してただけで...」


「いきなりこんなところで考え事って...。そういえば聞こうと思ってたんだけど宇佐美ちゃん、あなたの名前を呼ぶとき必ず尊敬語になっているのはどうしてなの?」


「それは...」


―あ、しまった!宇佐美は奴隷として買われた時からずっと俺をそう呼んでいたが今の今まで訂正とかしてなかった。しかも宇佐美自身は今でも自分を奴隷の範疇だと考えている節もある。この世界では自然な関係かもしれないが現代人から見れば不健全極まりない関係だ。そんな風に扱ったことは一切なかったが日本側にいる限り世間体はきっちしりしなければ社会的に死んでしまう!


「宇佐美、ちょっと来てくれ!」


「え、はい!」


「あなた、何する気?!」


「何もしねーよ、見えるところでこそこそ話すだけだ!大事な話だからお前くんなよな?」


「何よそれ?!」


数m離れた乙十葉の視界内でところ二人がでコソコソ話し始める。


「宇佐美、今度から俺のことは恵一か恵一君、お兄ちゃん、兄さんって呼んでもらっていいか?」


「いきなりどうしたんですか、恵一様?」


「あー、いや、その、なんだ...。今までの呼び方とか身内関係だといささか問題がありましてですね...」


話し方がなぜか物凄く畏まっていた。


「で、かくかくしかじかでして宇佐美には俺のことを様付けで呼ぶのを止めてもらって主従関係もないということで手打ちしてほしいのですよ、はい」


「そんな...恵一様、約束したじゃないですか。縁を切らないって...」


「もちろん縁は切らない!だけどね、こっちの世界だと今の状態は非常にまずいんのも事実だよ。だからね、いい関係に昇華しようって、そういう話なんだよ。つまり主従関係を超えてもっと親密な関係ってことだよ?良くない?」


「もっとですか?」


「そそ!」


「どれくらいですか?」


「え?.....きょ、義兄弟、とか?」


「じゃあ、これからは恵一様とは兄弟ってことですか?!」


「いや、え、なんか、え...」


―あーやっちまった。犯罪的な匂いがする。違う、違う、そうじゃないって言いたいけど否定すると宇佐美が...。あーどうするればいいんだ...。


悲壮な表情から一転して嬉しそうな表情になった宇佐美に対し、真剣な表情から頭を掻きむしりたい表情になる恵一を遠目で見ていた乙十葉は「?」としか言いようがない顔をする。


数分後


「オトハお姉ちゃん、お待たせ。次、行こう、キャンプ」


「ええ、いいけど、何かされなかった?」


「ううん、なに、でも、ない」


乙十葉の質問に宇佐美は嬉しそうに片言で答える。

一方、恵一は全く冴えていない様子だ。

最終的に恵一は宇佐美の好きなように解釈していい条件で出会った経緯や関係性、呼び方の口裏を合わせることに落ち着いた。


だがまだまだ問題がありそうで心配は止まなかった。



キャンプ・新地


その頃、キャンプ新地では陸軍部隊が慌ただしく軍部隊の出入りが続く。

この基地の中心部にある陣は幅や面積の関係上、建物で覆えるようなものではないので野ざらしだが線引きやコンクリート舗装で整備されている。

そこから一定時間ごとに一個中隊規模の歩兵部隊、装甲部隊、兵員輸送ヘリが転移を続けて異世界へやって来る。

中には戦闘機を丸ごと73式特大型セミトレーラに乗せてやって来る車両もある。


キャンプ新地司令で第7軍団副司令である太田少将と第7軍団司令の奥柳中将、新設の第9空軍司令官の難波中将が続々やって来る指揮官たちに挨拶して回る。


「第6軽装甲師団所属第3旅団、第2歩兵師団所属第2旅団、第2空挺旅団、第1装甲騎兵連隊および第208戦闘飛行隊、第287戦闘飛行隊、第406空輸飛行隊、第501空中給油飛行隊の各指揮官が揃いました」


「うむ。ようこそ、キャンプ新地へ。皆さんを心から歓迎します」


「こちらこそ」


「ありがとうございます」


各部隊の司令官がここに挨拶する。


「どうです、異世界へ来た感想は?」


「初めて来た感想は気温が高いことですかな。まるで南半球に来たようです」


「連絡要員がいつも服装で愚痴ってますよ」


「ははは」


「そういえばこちらの世界は新地という呼称が決まったと思うのですが...」


「おっと、失礼。どうも若い将兵は新地より異世界という言葉をえらく気に入っているようで私共も釣られて日常的に異世界と呼んでしまっているんですよ」


「なるほど、そうなんですね」


年配の男性指揮官たちが談笑する中、非常に若い女性指揮官が奥柳司令官に質問する。


「ところで奥柳指令。敵の動きは変化はありませんか?」


「ありません。真っ直ぐこちらに軍を進めている様子でざっと10万といったところです」


「では予定通り作戦は決行されますね、腕が鳴ります」


「君は第1装甲騎兵連隊の山本中佐だね。お噂は常々聞いているよ。健闘を期待しているよ」


「ありがとうございます」


中将は内心思った。


―想像以上に血気盛んな女性だな。まるでカフジの戦いの時の彼を見ているようだ。


「では各司令官の皆さん、こちらへ」


指揮官たちは指揮所へ入っていく。



東京 首相官邸


山本安全保障主席補佐官がスマホで電話をかけていた。


「七十七、作戦は首尾よく進んでいるか?」


「ええ、もちろんよお父さん。咲十子と真十花も新地入りしたらしいわ」


「ほお。ということはそろそろだな」


「まあね。ところでなんだけど乙十葉のこと、いいかしら?」


「...ああ。母さんには内緒だぞ」


「もちろんよ。あの子、今新地入りしているのは聞いてる?」


「いや、聞いてはいなかった。乙十葉に関しては母さんのガードが堅かったからな。今向こうにいるのか?」


「ええ、あの子からの電話で初めて知ったの」


「お前にかけてくるとは珍しいな」


「うん、なんでも軍に過剰な協力と迷惑かけたから口添えしてほしいって内容だったんだけど、頼られて少し嬉しかった。どうやら学術団体に所属して向こうの調査に行っていたらしいの。さっき名簿を見て確認したわ」


「...そうか」


「...お父さん、やっぱり乙十葉に軍に入って欲しかった?」


「...ああ。ま、本人が嫌がってるんだ、どうしようもない。けれども血は争えんな。あの才能は新地で役に立つだろう。じいさんが太鼓判を押すくらいなんだからな」


「そうよね。あ、それと乙十葉の件で気になって学術団体について調べたんだけどいろいろと今後に利用できそうだから手を回してみようと思うんだけど、どうかな?」


「いい案だ。だが乙十葉はあまり巻き込むなよ。母さんにこっぴどく言われたらかなわん。あの子が頼って来るなら別だが」


「わかった。それともう一つ。あの子、風変わりな現地アドバイザーも雇ってるとか」


「アドバイザー?」


「ええ、軍の調査だと一年前に異世界に飛ばされた日本人を自称する青年だとか」


「...なんだそれは?」


「私も詳しくわからないんだけど異世界語調査や交流、学術調査はほとんどその人の協力で成り立っているらしいの。軍にも通訳がいない状況だけに気になったから伝えておくわね。名前は鵜川恵一よ」


「鵜川恵一か」


夜の電話は続く。


宇佐美を喋らせるのが難しい。

たぶん現地交流とかイベントとかダンジョン攻略とか日常系?が本格化したら軌道に乗せられそうな気がする。

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