最初の異世界交流?4
4000文字分改稿しました。
本当にスイマセン。
アルデンセ城、
トゥナス侯爵家の居城であるこの城の広間に人が集められる。
広間には大きな机が置かれそこにアスリー・トゥナスが椅子に座りたたずんでした。
「改めて自己紹介させてもらうが私の名はアスリー・トゥナス。トゥナス侯爵家当主代行だ。先ほどの貴殿らの活躍、心から感謝の意を表したい。おかげで危機を脱することができた。ありがとう」
「いえ、その、大したことじゃ、ないかもなんで...」
恵一はアスリーに面と目かってそう言った。
―実際、なんとかしたの俺じゃないんですけどね。まあ、言葉が通じるの俺だけだから代表的な感じで代弁はするけどさ...
まるで自分の手柄のような状態に釈然としない顔をする恵一に乙十葉が肘で脇をつつく。
「ちょっと、この人なんて言ってるの?ちゃんと翻訳してよ」
「がみがみ言うなよ、わかってるって」
乙十葉は挨拶はできたが会話できるほど異世界語はマスターできてないのでもどかしさで恵一になぜかつんつんあたりしらすのだった。
それを横目にアスリーは話を再開する。
「ところでここへは何の目的で?」
「目的?えっと...」
「当然、領地の明け渡しについて、ですか?」
「領地の明け渡しって...」
―ど、どういうこと?あ、そうか、この日本は異世界と戦争してたんだった。そうだよ、ここに来たのも接触できるかだったもんな。追い払われるならそれまでということだったけど...。
恵一は軍人たちや乙十葉とまた話し始めた。
アスリーはまたかと言わんばかりの顔をして待つと恵一は答える。
「えーとですね、こちらの要望はこの地域の住民との交流と意思疎通で、それ以外は求めていないそうです」
「...」
アスリーはそれを聞いてけげんな顔をした後恵一をじっと少しだけ鋭い目で見つつ返事する。
「それだけ、ですか?」
「え、あ、はい」
「ちなみにそれを断った場合はどうなるんですか?」
「え?」
「それを口実に私たちを皆殺しにする、そういうことですか?」
「...」
―あー、これ完全に俺たちのこと冷徹無慈悲な征服者の類だって見てるよ。まあ、状況を考えれば征服しに来たようにしか見えないもんな。というかこの日本ってどういうスタンスで異世界来てんの?知らないんですけど。
恵一はまたもや軍人たちや乙十葉と話し始めた。
「ちょっと、これもう信用とかそういう次元じゃないですよ。向こう、完全に中世人の物指でこっちを推し量ってますよ?どうするんですか?」
「私たちを征服軍の使者かなにかと勘違いしているのね。今回は占領政策とかとは全く関係ない活動なんだけど、確かにこれじゃあどこへ行っても同じような目で見られる可能性があるわね」
「ちょっと軍人さん、富野大尉でしたっけ?この日本って異世界を併合する気なんですか?」
「いや、そんな野蛮なことしてるわけじゃないからね、君?陣の確保して防衛線を張るまでが自衛権の行使だ。それ以上のことはしていない。今国会で審議が続けられているが今後の具体策の結論は出ていないと聞く。我が軍は今、現状待機の傍ら、敵の武力行動には厳正に対処しているだけだ。ただ米政府は大きなプレゼンスを企画しているようだが」
―そうなんだ。やっぱり侵略していたわけじゃないんだ。でもやっぱりこっちの日本とは違うな。こっちだったら軍事アレルギーでそういうの絶対しないもんな。
「じゃあ、とりあえずありのまま全てを話しますか?守秘義務ってあるんですか?」
「大尉、どうなんですか?」
「とりあえずそれは問題ない。話してもらって結構だ」
「はい」
恵一はこちらの現状をありのまま話し始める。
「ではそちらに今征服の意思がないと?」
「はい、今後のはまだ決まってないらしいので何とも言えないみたいですが少なくとも野蛮な方法はとらないんじゃないんですかねぇ?」
「...」
「あ、あの、何か?」
「...詭弁ですね」
「え?!」
恵一は語気を強めたアスリーに驚く。
「あれだけの戦争してこちらの世界まで攻め込んできておいて、侵略の意思がないなんて。私には信じられません」
「え、え?」
「私の父、先代の当主と兄上たちは異世界で戦死しました。...あなた達の手によって。そして帝国軍の何十万という兵士も死んだのです。我が軍も2000もの兵を拠出しましたが帰ってこれたのはわずか10人でした。あなた達はさぞお強いのでしょう。そんな力を持っている輩が一気呵成にこちらの世界を征服しに来ないと考えるほうが無理があるというものです。力を持つものが高慢になるのは世の常なのですから」
―あ、これはダメみたいですね!話を聞けば確かに悲惨極まりないし、心の底から憎悪を抱くのも無理ないな。ただ...。
またまた恵一は軍人たちや乙十葉と話し始めた。
「ちょっとなにそれ、自己中過ぎない?」
―え?それお前が言っちゃうの?
話を聞いた乙十葉がなぜかヒートアップして自分の主張を恵一に直訳させて話しはじめた。
アスリーはそれを少し驚いた表情で聞く。
「えー、戦争を始めたのはそっちですよ?襲っておいて反撃されたら侵略者だと断定するのは筋が通らない。こちらも市民が大勢犠牲になった。我々は自分たちの身を守っただけです。陣を奪ったのもあなた達の攻撃から国を守るためで侵略する意図はなかった。侵略するつもりならとうの昔に実行していたと言ってます」
「...あなた、彼らの仲間じゃないの?」
「え、俺はどっちかというと第3国出身なんで関係ないないというか...」
ここで恵一は日和ってまず俺は悪くねーとばかりに自分の逃げ場を作ってしまうのだった。
「そう....」
アスリーは少し深呼吸してそこそこ長い間をあけ、その場が静まり返った後、一言だけ発する。
何か考え抜いている様子だった。
「とにかく私はあなた達を信用することがやはりできません」
―まあ、そうなるな。
「でも、...それでも...」
アスリーはここまで下向いた表情を続けていたがそれを恵一に向けた。
「申し訳ないのですが少し時間をいただいてもいいですか?できればあなたと少しだけ話がしたい...」
「お、俺?」
「ええ、よかったらラビアンのその子も一緒に」
「...はあ、まあ」
乙十葉たちと話し合った結果、まずは相手の望みを受け入れようという話になった。
流石にここで後ろからズブリなんてことはないだろうと思われたからだ。
3人は別室に移る。
「ここは?」
「私の父の書斎です」
「...」
「異世界に出征する時、父と兄上たちは手柄をあげ武人として誉をこの手に掴んでくると私に言っていました。見送る私はそんな父と兄上たちを心の底から応援していました。けど言い知れぬ不安もありました。武人としての誉れが戦に不慣れな私にはよくわからなかったんです。戦えば百戦百勝などありえないのは自明の理、まして素性も知れぬ相手です。勝利の女神がどちらに微笑んでもおかしくなかった。でも大事な家族だから、その意思を私は尊重した。ですが不安は現実のものになってしまいました」
「...なんで俺と宇佐美に?」
「...たぶんあの場で言うのが恥ずかしかったからだと思います」
「恥ずかしい?」
「まず私の内面の問題を片付けたかったから。こんな心情であなた達とどう折り合いをつけていいか心の整理ができなかった。こんな込み入った話をあそこで続けたら詮索されるでしょ?できれば黙っていて欲しかいの。その子にも」
アスリーと宇佐美に目が合う。
「整理って?」
「復讐心や憎悪、のようなものかな?理屈ではわかってる。こんな結果になったのにも理由があるって。それでも父や兄達を思い出すとどうしてもね。しかし現実は違う。生きるために付き合っていく必要のある相手もいる。だから知りたいの相手のこと。あなたは自分を彼らとは違うといったよね、口ぶりや雰囲気を見て確かに違うんだなって思った。だから、嘘偽りなくあなたから聞きたいの。本当にいい人ならありのままを受け入れようって」
「...なんでそこまで俺を信用するように打ち明けるんですか?嘘とか告げ口だってあり得るよ?」
「そうね、でもなぜかわからないけどあなたなら少し無理強いすればいやでも守ってくれる、そんな気がした。不思議とね」
「はぁ?」
恵一はムスッとするがなぜか宇佐美は少し嬉しそうになるほどな顔をする。
「ごめんなさい。でも私の我がままをどうか許してほしい、この通りです。話を聞いてほしかった。そして前に進みたいの」
恵一は大きなため息をついた後口を開く。
「...それで?」
「ありがとう、続けるわ」
宇佐美が恵一に小声で一声かける。
「私、恵一様のそういうところ、とっても好きですよ!」
恵一は宇佐美の嬉しそうな表情をただただ見るしかな
「私は彼らについて詳しくは知らない。いいえ、何一つ知らないの。いい人なのか、残忍な人なのかもね。でね、どういう国なのかをあなたの客観的な意見を聞かせて」
「...そうだな。俺の故郷だったら胸を張って平和な国だ言えたと思う。でもあの国は俺の知っている故郷よりほんの少し好戦的に見える。ただこの世界の国々に比べるなら遥かに理性的で秩序と平和を重んじることだけは確かだ。いわゆるミンシュシュギっていう、人民の人民による人民のための政治の自制心ってやつだな」
「ミ、ミンシュシュギ?」
「君主のいない統治機構だよ。人民だけで国を回すんだ」
「そんなことが可能なの?古代文明に類した国が存在したと聞くけど行き詰まって滅ぶような軟い仕組みだと...でもそれがどう関係あるの?」
「君主は基本的に自分勝手だ。聡明な人間なんてそうはいないからな。戦争や暴力も君主の思うがままだ。そうさせない為の仕組みがミンシュシュギだ。そんな統治機構で好き好んで戦争するやつはそうはいない。反撃は別にして犠牲を払ってまで略奪しようなんて割に合わないからな。大抵は反対意見で話がおじゃんになる」
「不思議な政治ね。でも理屈は通る。そのミンシュシュギが信用に値する証だとあなたは言いたいのね?」
「まあ、かいつまんで言っただけで話せば長くなる」
「いいわ。聞かせて陣の向こうのこと」
「例えば...」
恵一は現代社会についてアスリーに説明していく。
詳しい政治の仕組み、、歴史、科学力、豊かさ、学力、道徳観念、手短にかいつまむ形だが知っておいて事を一通り教えていく。
「...という感じで...」
「ちょっと止めてもらっていい?」
「あ、ごめん。話過ぎた」
「いいえ、そんなことないわ」
アスリーは疲れた表情で彼女の父の机に座ったまま目を瞑り手を頭に当てていた。
少しして彼女は一息つき体を伸ばすと恵一に顔を向けて話す。
「とっても参考になったわ。でも色々教えてもらってなんだけど、何から何まで私たちの常識とはかけ離れすぎていて、全く実感がわいてこない。それでも野蛮な人たちじゃないって言うことだけはなんとなくわかったわ。これはもっと知る必要があるって実感させられた。話を聞いているうちに前向きにもなれた。待たせている彼らにいい返事ができそうだわ、本当にありがとう」
「別にそんなことじゃないし」
「いいえ、そんなことよ」
アスリーは恵一に表情を見て少し笑みを浮かべた後、視線が宇佐美に移す。
「ところでなんだけど、その子はあなたの連れなの?」
「そうだけど?」
「そう...。ねえ、あなたは彼のこと、好き?」
それを聞いた恵一は少しだけ仰天した表情で焦る。
聞かれた宇佐美は考えるように下を向く。
「...」
下向く宇佐美は何も答えなかったが恥ずかしいような嬉しいようななんとも言えない顔をする。
「...」
その様子をアスリーは楽しそうに見ていた。
「...ふふ、それじゃあ、広間に戻りましょう。これ以上待たせるのはよくないわ」
三人は部屋を出て広間に戻ってくる。
恵一たちに最初に声をかけたのは乙十葉だった。
「何かされてない?」
「ああ、何もないよ。込み入った話をしただけだよ」
「内容は?」
「こっちの世界について詳しく説明しただけだよ」
「本当にそれだけ?」
「それだけだよ」
「ふーん、そうなんだ」
「なんだよ」
「別に」
乙十葉は釈然としない表情でなぜか宇佐美に寄り添うのだった。
一方、アスリーは椅子に着くと淡々と話し始める。
「彼から話を聞かせていただきましたが、私が見る限りあなた達が他の侵略者は一線を画しているのも認めざる負えないようです。なので先ほどの私の無礼な態度をお詫びしたい。また先の戦争の件についてはまず置いておいたほうがよさそうですので、この場では取り扱わないことに致します。そこでお互いに折り合いをつけたところで、あなた達の申し出を受け入れることを表明させていただきます。まず情報交換、次いで要望や取引を持ち掛けてもよろしいでしょうか?対価として信頼と協力、出せるもの提供したいと思います」
恵一は翻訳して伝えていく。
それを聞いた乙十葉はアスリーへの表情が多少だが和らぎ、護衛の富野大尉は無線で司令部に事情を説明した。
そしてレスポンスが悪いと聞いていた上から気前のいい返事がやってきた。
「今、お上からの返事が返ってきたみたいなんですが、そちらの要求を全面的に受け入れるそうです。困っていること、要望があれば何でも言ってください。できるか限りこたえたいとのことです」
「そうですか...。では取引成立ですね」
アスリーはそう言って恵一に手を差し伸べる。
恵一もそれに合わせ握手する。
「そういえばあなたの名を聞いていませんでしたね。名を何というのですか?」
「自分は、ケイイチ・ウカワです」
「そう、ケイイチ。これからよろしくお願いします」
こうして異世界との本格的な交流が始まった。




