※3つの物語をこの世界に再現させた神達の話(後編)
金の神は、お姫様の魂を父神の世界に送ってから、僕イベの物語の主人公となってくれる”英雄”を探すためにもう一度、僕イベのファン情報サイトにアクセスしました。するとそこには、逆ハーレムエンド攻略のネタバレが記載されていました。
逆ハーレムエンドを無事に迎えるための条件は①悪役令嬢の誤解を半年過ぎる前に解くこと、②勉強、淑女教育レベルMAXであること、③攻略対象者6人全員に好感度MAXの言葉をもらうこと(ミグシリアスの言葉は何でも良い)……の3つの条件の他にもう一つ、大事な条件があったのです。
それは告白イベントで、王子に妻となるよう望まれたときに、『王子様のことは愛していますが男爵である私に、王妃の座は分不相応で勤まるとは思えません。国のためにも民のためにも私では力不足なので、その申し出を辞退させてください』と言って、ヒロインが王子の申し出を辞退することが必要だったのです。
これを見た金の神は、この最後の条件は盲点だった……と思いました。確かに攻略対象者に告白されるイベントで、”はい”・”いいえ”を選べるようにはなっていたのですが、誰が乙女ゲームで告白を断るでしょうか?
金の神は物語の”英雄”を探すのを、ひとまず置いておいて、早速喜んでネタバレ通りにプレイしてみました。すると僕イベの逆ハーレムエンドはクリア出来たのですが……でも、逆ハーレムエンドのエンディング曲が以前、お姫様が情報サイトに投稿したものとは違っていたのです。
お姫様が情報提供した曲はイヴリンとミグシリアスによる、初恋を実らせた恋人達の永遠の幸福を願うデュエット曲だったのに、金の神がクリアした画面からは登場人物達全員による、恋や友情を尊ぶ青春賛歌のような合唱曲が流れていました。
……これは一体何なのでしょう?曲が違うとは、どういうことなのでしょう?金の神の疑問の答えも、ちゃんと情報サイトに載っていました。ファンの繋がりって、ホントにありがたいと思いました。過去の情報を遡って見たところ、ゲーム製作に関わった4人の男が、僕イベの製作秘話を暴露していたのです。
僕イベは元々乙女ゲームではなく……復讐ゲームだったこと。完成間近だった復讐ゲームをある事情により乙女ゲームに変えてしまったこと。……そして僕イベを製作していたときに耳にした、ある可愛らしい小学生カップルの初恋話に心が萌えたスタッフ達が、可愛らしい小さな恋人達の幸せな未来を願って、僕イベの中に、二人への応援メッセージを隠したことを……。
”僕のイベリスをもう一度”に隠した応援メッセージは、たった5分間の”隠された物語”でした。物語の内容は、自分自身を好きではなかった少年と、ある病を抱えながらも前向きに生きる少女が出会って、初恋をし、二人でゆっくりと愛を育てながら、最後には幸せな結婚をするという、穏やかな恋人達のお話でした。僕イベのファン達は、僕イベに隠されている5分間の”隠された物語”のことを、僕イベの11個目のハッピーエンドだと言って、”イベリスエンド”と呼んで、愛でていました。
そうです。お姫様が情報サイトに投稿したのは、逆ハーレムエンドではなく、イベリスエンドのエンディング曲だったのです。お姫様は、どうしてこんな間違いをしたのでしょう?金の神はお姫様の前世を詳しく調べてみることにしました。……調べてみた結果、あまりにも非道いお姫様の魂の性質に、金の神はドン引きしてしまいました。これではまるで、乙女ゲームの悪役令嬢のようです。
お姫様の嘘を信じて”神が選んだ英雄”などと賞賛してしまった金の神は、悪役令嬢の罠に嵌まって落ち込んでいるヒロインのようにすっかり落ち込んでしまいました。落ち込んで元気を無くしてしまった金の神は心を癒やそうと、ファン達に愛でられているという、”隠された物語”を見てみることにしました。
イベリスエンドを出す条件は、10コのハッピーエンドを見るまで、攻略対象者一人だけとのスチル保存しかしないこと……でした。何故なら、”初恋は誰でも一度しか経験出来ない、たった一つの恋だから……”が理由だそうです。
たった5分間の”隠された物語”を見た金の神は、僕イベの中にある10通りあるハッピーエンドの物語よりも、イベリスエンドと呼ばれる”隠された物語”を父神の現実の世界で見たくなってしまいました。どうせ、この”隠された物語”は、”僕のイベリスをもう一度”の中にあるのです。金の神は、すでに父神の創造した世界に、僕イベを再現させてしまっていましたが、見たいハッピーエンドを変更しても問題はないはず……そう考えた金の神は”隠された物語”を最初に見つけた魂に”英雄”になってもらおうと考えて、その魂を探すことにしました。
……すると、どうでしょう?……その魂はすでに父神の創造した世界に転生していました。しかも何故か、その魂は黒の神から、”英雄のご褒美”の称号を与えられていました。そして何故か銀の神から、”英雄のご褒美”の称号を与えられている魂と結ばれて、同じく銀の神から、”英雄のご褒美”の称号を与えられている魂を子にしていました。
こんなに”英雄のご褒美”ばかりが集まっているなんて前代未聞の出来事です。金の神が見たい物語にどう影響が出てくるのか心配です。不安になった金の神は、その魂を”英雄”にするのは諦めて、僕イベの”隠された物語”の元となった、実在のモデルである恋人達の魂に”英雄”になってもらおうと考えたのですが、……こんなことがあっていいのでしょうか?
”隠された物語”の恋人達の魂はすでに、この世界に転生していたのです。物語通りの体質と性質を身に宿して……。金の神が転生した恋人達を見つけた時、二人が出会うのは運命であるかのように、二人は雷鳴が鳴る夜に抱きしめ合っていたのです。
金の神はこれこそ、運命の恋人達よ!……と感動し、その時に二人を”英雄”にしてしまいました。恋人達の少女の方はすでに、”英雄のご褒美”でしたが、”英雄”の称号も重ねがけしました。少年の方は彼女の魂の永遠の番でしたので、迷わずに”英雄”の称号を重ねがけしました。
これにより、少女は魂に3つも称号を持つ者になってしまいましたが、彼女の体質を考えたら……これくらいの加護がないと、父神の創造した世界では生きていけないので、ちょうどいいでしょう。だって、この世界では彼女の持病は、病気とは認められていませんでしたから……。
金の神が見たい物語は、あの雷鳴の夜から始まっていましたが、ここで困ったことが起きました。金の神が見たい物語の少年が、9年近くも消息不明なのです。少女に少年からの手紙は届くのに、少年の気配が、この世界から消えているのです。彼が生きているのはわかるのに、気配がなく姿が見えないのです。
”隠された物語”の主人公は二人なのですから、彼がいなくては、見たい物語のハッピーエンドは見ることが出来ません。金の神は必死になって9年間探したのですが、見つかりませんでした。金の神は、この間、何度も少女に少年の行方を聞きに会いに行こうと思っていたのですが、何故か少女の回りには、神に対する怒りを抱え、殺気を飛ばし続ける、銀の神の”英雄”や”英雄のご褒美”達がいたので、金の神はその殺気が怖くて、会いに行けませんでした。
焦った金の神は物語が始まる3ヶ月前に、ようやく”英雄”の少女が一人になったので、少年の行方を直接尋ねようと思いました。彼女を気に入っていた銀の神が直に彼女を見てみたいと言っていたので、一緒に会いに行き……、金の神達は、まんまと彼女の保護者達に捕まってしまいました。少女が一人になったのは、彼らの罠だったのです。
《神の領域》に逃げることも、言い訳も弁解する間もなく、まるで格闘ゲームを現実に体験しているかのように、銀の神の”英雄”から必殺技を食らい、黒の神の”英雄のご褒美”からも必殺技を食らい、僕イベに出てくる”影の一族”の総攻撃をまともに浴びた後、銀の神によく似た姿をしている、銀の神の”英雄のご褒美”が優しげに微笑んで、金の神達のこれまでの事情を尋ねてきたのです。
彼は本当に優しく、とても聞き上手だったので、金銀の神達はついつい、これまでの全てのことを彼に話してしまいました。全てを聞き終えた彼は、妻の頼みを一つ聞いてくれたら、少女をそのまま”隠された物語”に送り込み、隠していた少年も”隠された物語”に登場させると約束してくれました。
彼の妻の頼みは二つだけ。入学式一週間前に、金の神がこの世界のどこかに転生させたという”お姫様”に前世の記憶を思い出させること。そして、もう一つは直径30センチのショコラケーキをお姫様の魂を持つ人物に渡すことでした。金の神はそれくらいならと了承し、頼みを果たすために、この世界のどこかに転生しているはずのお姫様を探しました。
するとお姫様は”僕のイベリスをもう一度”の乙女ゲームのヒロインとなるはずの男爵令嬢に転生していました。金の神は、何という運命の皮肉だろう……と、そのことを苦々しく思いながらも、すでに僕イベよりも”隠された物語”の方に重きを置いていたので、深く考えずに彼の頼み事を彼の頼んだ期日に果たすことを約束しました。
金の神の約束を見届けるために、彼は”影の一族の長”から、”銀色の妖精の守り手の長”になった男を金の神に同行させることを望み、金の神はそれを了承しました。男はそれら二つの頼みが無事に果たされたことを確認後、お姫様の魂を宿している男爵令嬢の日記帳を土産に帰ってきました。日記帳を読んだ彼の妻は彼に中身を通訳しました。すると彼は、金の神にこう言ってくれました。
『あることを一つ認めてくれるのなら、あなたの”英雄”は二つの物語のハッピーエンドを、あなたに同時に見せてくれると約束できますよ……』
その申し出はとても魅力的でしたので、金の神は喜んで、彼の提示したことを認めました。そしてやっと物語が無事に始まることに安堵した金の神は、ふとショコラケーキのことが気になりました。だから、そのケーキを送る意図を彼の妻に尋ねました。すると彼の妻は顔を憎々しげにしかめ、
『あの女は俺がユイちゃんと結婚が決まったときにあのケーキを送りつけてきたことがあるんだよ!片頭痛の者にチョコレートだよ!信じられないでしょ!?あの女、チョコレートはユイちゃんの頭痛を誘引するって知って、”地獄に落ちろ!”ってカードをつけて、送りつけてきやがったんだ!!……だから、あのケーキは、そういう意味なんだよ!!』
と、怒鳴って泣き始めたので、彼は妻を優しく慰めだしました。金の神は二人の魂も永遠の魂の番同士だったので、目を丸くして驚きました。
……今日は、ついに入学式です。以前、金の神が心配していた影響が、この世界に出ていることが判明しました。金の神の見たい物語は一つなのに、何故か僕イベに入っていた3つの物語が、この世界に同時に存在していたのです。
まるで父神の創造した、この世界みたいに、僕イベという世界の中に3つの物語がそれぞれ現実を生きていました。神の加護持ちが多く集まっていたからか、彼らのそばにいた者達が、それぞれに、この世界を生きる主人公の心を持ってしまいました。
”僕のイベリスをもう一度”と”隠された物語”は混ざり合って、ゲームをスタートさせようとしていました。ゲームスタートは、入学式に出席することです。未完成だった”復讐ゲーム”は独立し、ゲームの最終章をスタートさせようとしていました。ゲームスタートは、入学式を欠席することです。
金の神は物語に出てくる全ての者に”参加”・”不参加”を聞きませんでした。だってここは、どれだけ神様の見たい物語を再現させたとは言っても……現実の世界でしたから。金の神は《神の領域》から、自分の見たい”隠された物語”だけを見ることにしました。
次回からイヴのお話を書きます。”隠された物語”のことをイースターエッグと書こうか悩みました。そのゲームやプログラムに、関係のないメッセージや簡単なゲームを隠して入れることを、イースターエッグというそうなんですが、一般的に広まっているのかどうかがわからなかったので……。




