※3つの物語をこの世界に再現させた神達の話(前編)
昔々、ある神様が3人の息子達に、それぞれ物語を一つ選んで、父神の創造した世界に物語を再現することを許しました。3人の息子達は沢山ある世界の中で、”日本”という小さな島国の物語やゲームが大好きでしたので、そこで見つけた物語を再現させることにしました。
最初に物語を再現させたのは、一番上の兄でした。一番上の兄は黒髪だったので、皆に”黒の神”と呼ばれていました。黒の神が再現させたのは、彼が日本で好んで読んでいた、あるネット小説の一つでした。内容は貧乏な男爵令嬢が前世の知識を駆使して貧困に苦しむ国を救い、女王になるというお話でした。
黒の神は、この物語を父神の創造した世界に再現させましたが、一つ困ったことが起きました。それは黒の神の選んだ物語の主人公は、”前世で貧困に苦しむ国を救うことが出来る知識を記憶している者”でなければならないのに、父神の世界には前世のある人間が一人もいなかったのです。そこで黒の神は、黒の神の選んだ物語をきちんとハッピーエンドで終わらせてくれる主人公となる”英雄”を探すことにしました。
黒の神が選んだ”英雄”は、黄泉の世界で眠っていた魂でした。その魂は前世で実業家として成功していた、ある日本人男性の魂です。黒の神はその魂を”英雄”として父神の世界に召還し、貧乏な男爵家の令嬢となるように転生させて、黒の神の見たい物語を見せてもらうことにしました。
黒の神が見たい物語は主人公となった”英雄”のおかげで、黒の神が見たいハッピーエンドで、無事に終わりました。物語を再現させた現実の世界で、貧困に苦しむ国を物語通りに救った”英雄”に黒の神は”英雄へのご褒美”を一つ与えることにしました。
”英雄”が望んだ褒美は、”英雄”が前世で男性だったときに知り合った男との決闘でした。
その男は、”英雄”が前世で片想いしていた女性の恋人でした。前世の”英雄”は、美しくて優しい彼女の恋人がチャラいイケメンであることが気に食わず、彼に決闘を申し込み、彼のチャラチャラしたところを正そうとしたのですが、”英雄”は、チャらいだけだと思っていた、その男に完膚なきまでに完敗させられてしまったのです。”英雄”は前世では剣道と空手を嗜んでいたのですが、その男は片想いしていた女性の兄に教わった格闘技を体得していました。
恋にも破れ、決闘にも敗れた前世の”英雄”はそれが悔しくて、そいつを見返してやろうと高校卒業後に留学して、一代で財をなし、実業家として帰国したら、片想いしていた女性は随分昔に亡くなっていて、女性と結婚していたチャらいイケメンだった男は何かしでかしたのか、自分の娘の前に堂々と姿を見せずに影からコソコソと娘を守る、ヘタレな父親になっていたのです(どうやら娘は、それに気づいていて、父親のヘタレ具合に呆れかえって、苦笑しながら、それを黙認していたらしい)
『俺の片想いしていた女性と結婚しておきながら、彼女が遺した娘を父親として堂々と守れない、とんだ腑抜けとなったあいつに、どうしても一発、活を入れてやらないと気が済まなかったのに、それが出来なかったのが心残りだったんだ』
と”英雄”は言いました。何故なら、そのヘタレな父親となった男と”英雄”が再会したとき、男はすでに病に冒されていたからです。
黒の神は父神との約束で物語の主人公となって、物語を終わらせてくれた”英雄”には必ず”英雄のご褒美”を一つ与えることになっていたので、”英雄”の願いを聞き入れて、そのヘタレな男を前世の記憶をもったまま転生させると約束しました。
ただ……今から、その男の魂を探し、この世界に召還し、転生させるのには時間がかかるため、その男がいつどこに生まれるのかは黒の神でもわかりませんでした。そこで黒の神は、”英雄”が必ず生きている間に、その男に会えるようにと、”英雄”と男の魂に、”魂の好敵手”という絆を繋ぐことを約束しました。
黒の神は黄泉の世界へ再び赴き、”英雄"の求めるヘタレな男の魂を見つけました。そして、その男の魂に”英雄のご褒美”という称号をつけ、無事に魂の召還転生をさせることが出来ました。”英雄のご褒美”として、黒の神の都合で、無理矢理転生させることになったヘタレな男には、きっと何か良いことが起きるはずです。
二番目に物語を再現させたのは、次男でした。次男は銀髪だったので、皆に”銀の神”と呼ばれていました。銀の神が選んだのは、日本のコミケで見つけた、ある同人誌でした。その同人誌は、元々ゲーム製作をしていた4人の男達がゲーム会社を退職後に趣味で作ったゲームを小説化したものでした。
幸い黒の神の再現させた物語と銀の神が選んだ物語の世界観が似ていたので、そこに銀の神が選んだ物語を重ねがけて再現させるのは、難しいことではありませんでした。物語の内容は流浪の武道家が姫を助けて、悪者から国を救い、姫と結ばれて、その国の王になるというお話でした。
銀の神は、この物語を父神の創造した世界に再現させましたが、一つ困ったことが起きました。それは銀の神の選んだ物語の主人公は、”忍者のような動きをする武道家”でなければならないのに、父神の世界には、忍者のような動きをする武道自体が存在していなかったのです。そこで銀の神は、銀の神の選んだ物語をきちんとハッピーエンドで終わらせてくれる主人公となる”英雄”を探すことにしました。
銀の神が選んだ”英雄”は、黄泉の世界で眠っていた魂でした。その魂は前世で忍者のような動きをする格闘家として成功していた、ある日本人男性の魂です。銀の神はその魂を”英雄”として父神の世界に召還し、流浪の武道家となるように転生させて、銀の神の見たい物語を見せてもらうことにしました。
……ところが、そう上手くはいきませんでした。銀の神の選んだ物語の主人公は、流浪の武道家でなければならないのに、主人公となった”英雄”は物静かで大人しく、武道なんて少しも身に付けていない、繊細な少年に成長していたからです。銀の神は前世で格闘技を好んでいた”英雄”の性質が、物語の主人公に必要だろうと考えて、前世の彼の魂の性質をそのまま今世の彼にも、そっくりそのまま引き継がせたのですが、何故か今世の彼は武道をするどころか外出さえも厭う者となっていました。それでも銀の神の力により、彼は自国を追われ、流浪の身となりましたし、彼は物語通りに悪者に追われる姫とも出会ってしまいました。
銀の神の選んだ物語は始まっているのに、”英雄”が武道家ではない少年のままでは、物語はきちんとハッピーエンドで終わることが出来ません。そこで仕方なく銀の神は、彼を《神の領域》に召喚し、彼が物語に出てきた武道を行えるようにするために、無理矢理”英雄”の前世の記憶をたたき起こしました。
”英雄”は前世の記憶が戻ると同時に銀の神に必殺技を繰り出すほど、銀の神の所業に激怒しました。どうやら銀の神は前世の彼の性質だけではなく、前世の彼の体質まで引き継がせて転生させてしまっていたらしく、頭をゆさぶって叩き起こされる行為により、彼の頭に激痛が走ったことが許せなかったようでした。
前世の記憶を取り戻した”英雄”は銀の神の願いを聞くのを渋りましたが、前世の彼は義理堅く、人情に厚い人物だったので、助けを求める姫や自分の世話を焼く侍従を助けるために渋々、銀の神が見たい物語を見せてくれました。こうして、銀の神が見たい物語は銀の神が見たいハッピーエンドで、無事に終わりました。物語を再現させた現実の世界で、悪者から国を物語通りに救った”英雄”に銀の神は”英雄へのご褒美”を一つ与えることにしました。
銀の神は父神との約束で物語の主人公となって、物語を終わらせてくれた”英雄”には必ず”英雄のご褒美”を一つ与えることになっていたので、”英雄”の願いを聞き入れようとしたのですが、銀の神は”英雄”が一番に望んだ願いを、ある事情により、叶えて上げることが出来ませんでした。その代わりに銀の神は、彼が王となった国に、ある祝福を与え、彼が二番目に望んだ願いである、前世の彼の妹と、その妹が生んだ娘を転生させて彼に会わせると約束しました。
ただ……今から、その妹と、妹の子の魂を探し、この世界に召還し、転生させるのには時間がかかるため、二人がいつどこに生まれるのかは銀の神でもわかりませんでした。そこで銀の神は、”英雄”が必ず生きている間に、二人に会えるようにと、”英雄”と二人の魂に、”魂の血縁者”という絆を繋ぐことを約束しました。
銀の神は黄泉の世界へ再び赴き、”英雄"の求める二人の魂を見つけました。そして、二人の魂に”英雄のご褒美”という称号をつけ、この世界に魂を召還させ、一番の望みを叶えられなかった詫びに、”英雄”が銀の神が用意した”英雄のご褒美”だと直ぐにわかるようにしてあげようと思い、二人を自分の容姿そっくりに転生させることにしました。”英雄のご褒美”として、銀の神の都合で、無理矢理転生させることになった二人には、きっと何か良いことがが起きるはずです。
最後に物語を再現させたのは、一番下の弟でした。彼は金髪だったので、皆に”金の神”と呼ばれていました。金の神が日本で好んでいたのは、乙女ゲームでした。物語のハッピーエンドが複数あるのが面白いと、自身も乙女の姿になるほど、乙女ゲームが大好きでした。
沢山ある乙女ゲームの中から、金の神が選んだのは、”僕のイベリスをもう一度”という乙女ゲームでした。彼は僕イベというゲームで唯一見ることが出来なかった10番目のハッピーエンドを見せてもらおうと、その10番目の逆ハーレムエンドを最初にクリアした者に、この世界に来て”英雄”となって物語を見せてほしいと頼むため、僕イベのファン情報サイトにアクセスしました。
そこに10番目のハッピーエンドをクリアしたと一番最初に報告してきたのは、”お姫様”と名乗る者でした。ハンドルネームで”お姫様”と名乗った者は、サイトに証拠としてエンディング曲の録画画像を添付してきました。その曲は確かに9つのエンドで流れるものではなかったため、お姫様は”英雄”と祭り上げられていました。
皆に、どうやって攻略したのか?秘密のヒントは何だったのか?ゲームの逆ハーレムのスチル画像はないのか?……と矢継ぎ早に質問を受けてもお姫様は、それを教えてはくれず、『私、セーブや保存をしないでクリアするタイプだから』と返答していました。
金の神は、その者を”神が選んだ英雄”と呼び、自分は10コ目の逆ハーレムエンドにたどり着けないので、ぜひ自分のところで、ゲームをプレイして、私の見たい物語を見せてほしいと何度も勧誘しました。するとお姫様は、『私はお姫様よ!英雄なんて辞退させていただくわ!どうしても私にゲームをして欲しいというなら、来世でね!』と言ってくれました。
お姫様は”英雄”となるのは辞退するが、来世でならゲームに参加してもよいと言っていたので、金の神は、お姫様を”英雄”にすることは諦めましたが、お姫様はゲームでセーブや保存をしないゲーマーだから、きっと金の神が見たい物語を面白くしてくれると思ったので、この世界の神様に断りを入れずに、その場でお姫様の人生を強制終了させて、父神の世界にお姫様の魂を召還し、転生させることにしました。




